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53. 素材を集めよう2

 今日は美容品の材料を探すために、王都から南西の森に採集に来ている。

 ストレージで出したテーブルと椅子で食べるお昼は、森の中とはいえ優雅なものだった。

 私たちはお昼を食べて、食後の紅茶を飲む。紅茶はマリーさんに頼んだよ。


「この後はどうする?」

「そうねぇ。もうちょっと探索して帰りましょうか」

「分かった」

「あと足りないのは何かしら?」

「こないだと同じ材料だと、植物関係が多いかな。特に探したいのはアロエ」

「この森に無さそうなのよねぇ」

「確かに。でも王都の露店でアロエは売ってたし、北の森かな」

「明日確認しましょう。次は、狩りよぅ。マリーちゃん、リリムちゃん、魔力感知お願い」

「「分かりました」」


 マリーさんとリリムちゃんが魔力を広げ始めた途端、すぐに魔力感知を止めて顔が引き攣るのが分かった。


「どうしたの?」

「大きな魔力の塊がすぐ近くにあります!」

「お嬢様方、逃げましょう!」

「逃げなくていいよ」


 焦っているマリーさんとリリムさんに対して語りかけるように、聞き馴染んだ声が聞こえる。この声……タルトだ。

 私も魔力感知をして魔力を探る。二人が向いている方の上空から魔力を感じる。しかし抑えている普段とは比べるまでもなく大きい。


「タルト? 何で魔力広げてるの?」


 答える前に、マリーさんとリリムちゃんの前に降り立つタルト。


「ここの魔物が煩わしいんだよ。それに人もいたから警告にね」

「タルトさん! ごめんなさい、魔物と勘違いしました」

「申し訳ありません」

「気にしてないよ。恐怖を感じたなら成功だしね」

「タルト、それより人なんているの?」

「いる。四人かな。もう少し奥で狩りをしているよ」

「被らないようにもっと奥へ行こうかしら。この辺りに魔物はいないみたいだし」

「そうしよう」


 人がいる、という辺りから更に森の奥へと私たちはタルトを混じえて進む。

 しかしその途中、迂回したと思ったのに歓声が聞こえてきた。


「どうやら被っちゃったみたいねぇ」

「挨拶しておこうか」

「そうしましょう。また被ったらいけないわ」


 私たちは一度歩みを逸れて、歓声の方へ向かう。

 タルトの言った通り、進む先には四人分の魔力の塊があった。


「あら?」

「どうしたの?」

「この魔力、パパだわ」

「え? ……本当だ。お義父様だ」

「本日狩りに行くと伺っておりましたが……」

「同じ森だったんですね!」

「なんだ、ゲルハルトか」


 私たちは樹々と茂みを通り抜けて、四人の側の木の影へ行く。

 木に隠れて四人を見てみると、私たちの方へ向かって警戒していて、魔術で狙われていた……。さすがにこの距離だと反応されちゃうよね。しかし気にせず歩みを進めるタルト。意も解さずにお義父様たちの目の前に出て行ってしまった。


「ゲルハルト、魔力感知が甘い」

「タルトか?」

「そうだよ」


 タルトの姿を見て、構えを解くお義父様。それを見て、他の三人も構えを解く。


「ゲルハルト様、こちらは……?」

「……姪っ子です。タルトといいます」

「やあお嬢さん。こんな森でどうしたんだい?」

「いや、それよりお嬢さんが一人で危ないな」

「シズクとアオイはどうした?」

「いるよ。後ろに」


 バラされてしまったので、私たちは木の影から姿を現す。


「お義父様、ここで狩りをなさっていたんですね」

「お義父様、朝はこの森に行くなんて聞いてませんよ」


 私たちも話し掛ける。他の貴族男性がいるためか、お姉ちゃんがよそ行きモードである。

 すぐに合点がいったらしい、四人の中で一番長身痩躯な男性が話し始める。


「リインフォース家のご令嬢ですね? 先日はデビューおめでとうございます」

「「ありがとうございます」」

「近くで見ても麗しい。先日も、二人並んで登壇して目を引いていましたね」

「姉が綺麗なので」

「妹が可愛いからですわ」

「おや、仲も大変いいようだ」


 私たちは互いに挨拶をする。今回はお義父様と同じく下級貴族の狩りの集まりらしい。スピラ男爵、クラム男爵、アレド子爵、そして最後の一人は先日私がカステラのレシピを売ったコリーナ様の夫、キルシュ子爵だ。


「先日は妻がお世話になりました。頂いたカステラも燻製も、大変おいしく頂きました」

「それはよかったですわ」

「一体何の燻製なのですか?」

「ブラウンタイラントバッファローですわ」

「希少な魔物ですね。卸していただく事は……」

「申し訳ありませんが、販売は考えておりませんので」


 お姉ちゃんが受け答えしてくれる。このモードの時は、基本的に破茶滅茶しないので安心出来るね。


「それで、お前たちはどうしてここへ?」

「朝申しましたが、美容品の材料を採りにですわ」

「この森だったのか。邪魔したか?」

「いえ、概ね採り終わりましたので、狩りでもして帰ろうかと話しておりました」

「ゲルハルト様、ご令嬢は狩りもなさるのですか?」

「それより、我が妻もクラウディア様から頂いた美容品を褒めていましたが、ご令嬢がお作りに?」

「美容品は義娘が開発した物をみなさまにお配りしましたよ。狩りは、私としては危ない真似は控えてほしいが、この通り冒険者としても活動しているのでね」

「それは大変でしょう。冒険者は稼ぎにもならないですしね」


 最後に吐き出したのはクラム男爵だ。冒険者が稼ぎにならないって、単に実力不足なだけなんだけどな。実際は生活する分には全く問題がない。ただ怪我のリスクがあるから不安が大きいだけだ。

 しかし私たちはおくびにも出さず説明する。


「優秀な護衛が付いておりますので」

「なるほど」


 こう答えておけば、きっと護衛が稼がせてくれると思ってくれるはず。

 お義父様がさっき一瞬苦虫を噛み潰したような顔をしていたけど、こっちに笑顔を向けてくれたから、この回答で合ってるはず。


「お義父様たちがいらっしゃるのでしたら、邪魔にならないよう私どもは退散いたしますわ」

「「ごきげんよう」」


 タルトに目で合図して、五人で揃ってお義父様たちから離れる。




 離れて少し歩いて、お姉ちゃんが口を開く。


「パパも大変ねぇ。狩りなんてついでで、話をするのが目的でしょう?」

「だよね。この後美容品の事を追求されるのかな」

「でしょうね」

「そんなの、材料とスキルだけだろう。簡単じゃないか」

「そりゃ、タルトにとっては簡単だろうけど。ん? やった事ある?」


 その言葉を無視して、タルトは先に進む。


「優秀な護衛と言われてしまいました!」

「しかしリリム、私たちは護衛として役に立ってませんよ」

「はわっ。その通りです!」

「二人はとっても優秀よぅ」

「そうだね」

「お嬢様方、何を持ってその判断をなさったのですか?」

「私たちの手を煩わせないから」

「雫たちの足を引っ張らないから」

「世話してくれるから」

「二人がいないと、ダメねぇ」


 途中で雑談になりながら、私たちは王都へと帰る。

 時刻は森にいる時に四の鐘が小さく聞こえたから、そろそろ五の鐘って所かな。

 出る時と同じ門番さんに挨拶をして、結果は上々と伝える。そいつはよかったな! と言ってもらえたのが嬉しい。

 そのまま歩いてリインフォース邸へ戻る。

 帰宅したらマークさんに迎えてもらった。


「お嬢様方、お帰りなさいませ。お怪我は……」

「大丈夫よぅ。ありがとう、マークさん」

「失礼しました」

「お姉ちゃん、パーラーで採ってきた素材の確認をしよう。足りないものと、作れる量を確認しないと」

「そうね」

「お茶をお持ちいたします」

「お願いします。マークさん」

「マーク、僕はお菓子が食べたい」

「かしこまりました」


 マークさんが、タルトの要望に笑顔で答える。私たちはリリムちゃんの先導でパーラーに移動する。


『エリアヒール』

 

 部屋に入るや否や、お姉ちゃんの体が乳白色に光り、魔術を詠唱する。私たちの体も同じ色に光り、疲労が回復していく。


「わわっ、疲れがなくなりました」

「シズクお嬢様、ありがとうございます」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「やっぱり二人とも疲れてたのねぇ。使用人だからって我慢しちゃダメよ」

「「はい……」」


 すぐにマークさんがやってきて、お茶とお菓子を置いて行ってくれる。


「マリーとリリムがおりますので、私は別室に控えさせていただきます。何かあればお呼びください」

「はい、ありがとうございます」

「はぁい」


 私とお姉ちゃんは椅子に座って、テーブルに『ストレージ』から採った素材を出していく。

 まずはリリムちゃんが見つけた薬草、魔力草、命草……。

 それからマリーさんが見つけた水のハーブ……。


「蒼ちゃんの持ってる獣脂と合わせて、美容オイルは出来そうね。化粧水と乳液も出来るけど、アロエが足りないわねぇ」

「今回、両方にアロエ入れたんだっけ?」

「そうよ。リエラちゃんのレシピに追加してね」

「アロエ売ってるお店あったよね。近くで採れるのかな」

「北の森にあるといいわねぇ」

「アロエってどんなの? 見せて」


 タルトに言われて、お姉ちゃんは『ストレージ』からアロエを取り出してタルトに渡す。

 それを手にとってじっと見つめるタルト。


「魔力の特性は分かった。明日北の森に行って探してみるよ」

「雫たちも行くわ、お願いねぇ」

「お姉ちゃん、私明日は無理だ。お菓子を作らないと」

「分かったわ。じゃあリリムちゃんは蒼ちゃんのサポートね。マリーちゃん、タルトちゃん協力してね」

「「かしこまりました」」

「分かった」


 その後、机を片付けて五人で談笑していると、マークさんが夕飯が出来たと呼びにきた。

 私たちは食堂へ向かう。

 食堂に入ると、お義父様とお義母様が既に席についていた。


「お義父様、帰ってきてたんですね」

「狩りはどうだったの? パパ」

「疲れた……」


 どうやら大変な事があったみたい。お義父様と、お義母様も朝と変わらず疲れた顔をしている。

 精神的な疲れはヒールでも意味がないから、お姉ちゃんも手を出せないでいる。


「とにかく、しつこい」


 お義父様が、ジョセフさんに注いでもらったワインを飲みながら吐き出す。


「私は材料しか知らないと言うのに、材料だけでなく作り方までをも聞き出そうとしてくる。義娘が主体の事業だと説明しても一向に止まん」

「それは……」

「お疲れ様ねぇ……」

「しかしそれよりもだな、口ではさすがご令嬢、と褒めているように聞こえても二人に対する批判が見える。冒険者など野蛮だとか、貴族子女が料理や調合なんて、と言った感じだな」

「それは、リインフォース家だから?」

「あぁ。勿論、お前たちは何も悪くないぞ。単に彼らが妬んでいるだけだ」

「明後日のお茶会、不安になってきた……」

「今日の狩りの出来事を手紙に認めてメアリー様に連絡しておく。彼女ならそれで万事問題ないだろう」

「ありがとうございます」

「旦那様……」


 スッと、お義母様が畳まれた紙片をお義父様に渡す。開いて中身を確認するお義父様。その途端、ため息が漏れ出す。


「クラウディア、これは、あれか……?」

「えぇ、手紙でオモチと美容品の融通、製法の伝授、材料の公開を要求してきた方々の一覧です。私の知らない言葉が多くありましたので、後でご確認ください」

「いや、いい……」


 お義母様が知らない言葉なんて……あ、きつい言葉って事かな。大変だ……。


「旦那様、報告が遅れまして申し訳ありません。こちら、ウォーカー商会のフランツ様からです」


 中身は分からないけど、タイミングよくウォーカー商会からの手紙を持ってきたジョセフさん。

 既に封は切ってある封筒から、手紙を取り出してお義父様が読む。


「追求は止みそうだぞ……」


 呟きながら手紙をお母様に渡す。手紙を読んで、曇っていたお義母様の表情が少し晴れやかになる。


「材料と調合師の目処が経ちましたか……これで間もなく販売になると申しても?」

「あぁ、ただ、発売時期については一度シズクとアオイに確認してもらわねばならん」


 私とお姉ちゃんが首を傾げる。食材と調合器具かな。

 お義母様からお姉ちゃんが手紙を受け取って読んだ後、私に手紙を渡してくれる。何々……。要約するとこんな感じの事が、貴族相手への言葉遣いで書いてあった。


『まず食材について、モチゴメに関しては日数がかかりますが、東方の商会と専属契約を交わしましたのでご報告させていただきます。正確な日数は分かりませんが、十日前後でやってくる次回の船便では、積荷にあれば全量購入出来ます。次々回からは、連絡が付くそうなので、必ずモチゴメを乗せてもらいます。

 その他、アオイ様が探している食材に関しては、相手方に伝えましたので、商会に在庫があれば次々回から、無ければ仕入れ次第船便で、となります。

 次に美容品について、教えていただいた全ての材料入手の目処が経ちました。ただし単価は他の商会や調合ギルドとの兼ね合いがあり、高くなります。

 調合器具は入手に手こずっています。腕のいい魔術具師に伝手はないでしょうか? もしくは、見せていただいた器具を作製した方に繋いでいただければ幸いです。

 以上、長くなりましたが取り急ぎ報告させていただきました』


「すごいね、フランツさん。あっという間に段取りつけちゃった」

「そうねぇ」

「お嬢様方、しかし危惧もあります」

「どうした、ジョセフ」


 私とお姉ちゃんがジョセフさんに向き直って疑問符を浮かべていると、お義父様がジョセフさんに話を促した。


「最近、ウォーカー商会の動きが活発だと噂になっております。取引の内容までは掴まれていない様ですが。注意は必要だと具申いたします」

「商会同士の小競り合いで済めばいいがな……」

「それって、危険があるって事かしら?」


 お姉ちゃんがお義父様に質問する。私も同じ疑問を持った。


「あぁ、商人同士なら材料の仕入れ妨害や値の釣り上げなどの嫌がらせで済むだろう。しかし欲に目が眩んだ貴族がいた場合、暴力沙汰になる可能性がある」

「なるほど。ジョセフ、動きがありそうなら些細な事でもいいから教えて」

「かしこまりました。タルト様」

「タルト、助けてくれるの?」

「一応、僕が曲がりなりにも加護を与えた商会だ。もし何か危害を与えようと言うのなら、僕に喧嘩を売ったも同然だ」

「武闘派ねぇ」

「可能な限り、出来るだけ、なるべく、お願いだから穏便に頼む……」

「さもありなん」

「不安だ……」


 これはジョセフさんの情報待ちかな。私はフランツさんから助けを求められた件についてお姉ちゃんに話し掛ける。


「お姉ちゃん、調合器具はどうする? 伝手なんてないよねぇ……」

「あるわよ」

「だよね……え? ……え?!」

「何を驚いているの? リエラちゃんに調合を教えてもらうときに、一緒に教えて聞いたじゃない」

「あれ……」

「ふふ、蒼ちゃん、まさか寝てたの?」

「お姉ちゃんにだけは言われたくなかったセリフ!!」

「職人ギルド所属の魔術具師、キミアさん」

「あ! 思い出した。あの時、リエラが調合器具と魔術具と杖の話をまとめてしてたから、魔術具と杖の方ばかり覚えてたよ」

「フランツさんに教えてもいいけど、一緒に行った方がよさそうねぇ。ジョセフさん、職人ギルドに手紙を出してもらえるかしら?」

「かしこまりました。日程はいつになさいましょう」

「明後日の光の日がいいわねぇ。フランツさんにも伝えてちょうだい」

「承知しました」

「お姉ちゃんが先触れを出している……」

「変人って話だから、先に伝えておかないと」

「変人なら先に伝えたら逃げられるんじゃ」

「まぁ、何とかなるわよぅ」

「結局雫は行き当たりばったりだね」


 コホンとお義父様が咳払いをする。私たちはそちらへ向き直る。


「食材が届くまで、あるいは器具が出来るまでの期間、お前たちが品物を用意しないといけないが、出来るのか?」

「他の事が出来なくなるだけよぅ」

「大鍋が欲しいですね……」

「僕は試食以外は冒険者ギルドで遊ぶ事にする」

「出来るのならいいが……無理はするなよ?」

「「うん」」




 食事が終わって二人でお風呂。

 も、終わってマリーさんとリリムさんに本日の仕事終了を告げ、三人で部屋でのんびりしているところ。


「タルトは、明日はお姉ちゃんと一緒だよね?」

「そうだよ、アロエ探す」

「その後は冒険者ギルドに行くの?」

「お茶会に僕がいてもしょうがないでしょ。冒険者ギルドで有名になってくる」

「え? 何で?!」

「二人の手が足りなそうだから」

「手が足りない? どう言う事なの? タルトちゃん」

「二人は、リエラって魔術師のために貴族社会とこの街で有名になるつもりだよね? でも現状、街のお菓子市場は進んでいるけど冒険者ギルドにアプローチ出来てないよ」

「タルトなのに鋭い……」

「僕は英明なドラゴンだよ」

「それでタルトちゃん、冒険者ギルドではどうするの?」

「幸いBランクの肩書きがあるし。双麗の魔術師のただ一人の弟子とでも言って魔物討伐して来るよ」

「うーん……ボロが出そうで怖いんだけど」

「この屋敷で僕より賢明なのはいないよ」

「不安だ……」

「不安ね……」

「君たちに加護するのやめようかな……」


 結局、私たちは何を話していても面白い雑談になっちゃうみたい。いつもの様にタルトを褒めてちょろいタルトから加護を再び取り付けてから、私たちは眠る。お風呂は三人じゃ入れないから、タルトはそのタイミングでドラゴンに戻ってる。今はその翼をはためかせて、窓辺に移動した所。

 私とお姉ちゃんも日課をして、それぞれ布団に入る。

 おやすみなさい。

評価、ブクマ、いいね、いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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