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50. リエラの親友

「準備出来た?」

「大丈夫よぅ。そろそろ来るわねぇ」

「二人共、人を招待するのは初めてですね。緊張しないで」

「「はい」」


 こんにちは。

 一昨日はデビュタントボールだったね。そこでアーガスさんと再会して、ほとんど一緒にいて話してた。アーガスさんとダンスを踊ったけど、足を踏まずに済んでよかった。その後も何人かに誘われて踊ったけど、アーガスさんのリードが一番うまかった気がする。

 ところで、アーガスさんが途中いなくなったタイミングで、メアリー・ノーヒハウゼン様とお知り合いになったよ。

 メアリー様は私たちに次の事を要望してきた。彼女の知らないリエラの話をする事、新しいお菓子が食べたいからお茶会に誘って欲しい事、皮膚乾燥が酷いからリエラ特製のレシピで薬を作って欲しい事。以上を、出来るだけ早く。

 対等な立場だったらゆっくり出来たんだろうけど、うちは下から数えた方が早い子爵家。相手は事実上トップの侯爵家。

 そんな訳で昨日は朝から、メアリー様をお呼びする準備で大変だった。

 私は朝からあんことお餅作り。白あんがあるから、今回は黄身あんも作った。そしてそれをお餅で包んで大福に加工。鶯あんを加えた三種のあんと、いちご大福を加えた四種類の大福。ちなみにいちごは、ビルさんが市場で探してきてくれた。大福は種類があるからサイズを小さめにしたよ。

 一方でお姉ちゃんは皮膚乾燥薬の材料探しと調合。朝から市場巡りをしていたらしい。帰ってから調合、念のため薬だけじゃなく美容品も。

 僕も行きたかった、とごねるタルトを宥めるために、大福を渡す。大丈夫、想定の内。

 結局、色々としていたら、二人して一日かかってしまった。


「昨日は久々に、森にいた頃のような事をしたわねぇ」

「私はお菓子職人になれそう……森、どうだった?」

「魔物はやっぱり少なめね。ハーブも全体的に数が少ないわ」

「取られちゃってるのかなぁ」

「だと思うわよぅ」


 お義母様の、いらしたわよ、の声で話を打ち切って、やってきた馬車を見る。街を移動しやすいように、一頭立ての小さめな馬車ではあるものの、馬の毛並み、馬車の形、色彩、装飾。どれを取っても秀美としか言う事がない立派な馬車がやってきた。

 やがてうちの玄関前に横付けされて、中からメアリー様が出てくる。それをお義父様がエスコートする。

 出てきたメアリー様は、一昨日と同じ樺色の長い髪をウェーブさせてセットしていて、ドレスの色は昨日と違って深めの赤を基調にした色。今日は夜会じゃないので露出や布は控えめだけど、優美さは変わらない。


「ようこそいらっしゃいました、メアリー様……お一人ですか?」

「急な要望に応えてくれてありがとう、ゲルハルト様。えぇ、今日は一人よ。この家では、誰も私を害したりしないでしょう?」

「はい、勿論です」


 お義父様の声が緊張している。ただでさえ爵位に差があるのに、おまけにリエラの件で大層お世話になったから、頭が上がらないって状態になってるんだね。私たちもカーテシーをして歓迎する。


「「ようこそいらっしゃいました、メアリー様」」

「こんにちはシズクさん、アオイさん。今日は招待をありがとう。昨日は楽しみでなかなか寝付けなかったのよ」

「メアリー様。本日はお越しいただきありがとうございます。まだ作法が拙い義娘ですが、何卒寛大なご配慮を……」

「心配は無用よ、クラウディア様。二人とお話をしに来ただけなの」

「ありがとうございます。私が伴ってもよろしいでしょうか?」

「申し訳ないけど三人で話がしたいわ。大丈夫よ、悪いようにはしないと誓うわ」

「失礼しました。かしこまりました」


 お義母様のヘルプは無し。二人で切り抜けなければいけない。


「メアリーちゃん、こっちへどうぞ」

「えぇ」


 あ、お義父様の顔が引き攣った。お義母様は無表情だけど、必死で抑えているんだろうな……。私も意表を突かれて同じ気持ちです。

 お姉ちゃんを先頭にメアリー様、私の順で庭に向かって歩き出して、すぐにメアリー様が話し出す。


「いいわね、シズクさん。そんな呼び方、家族にもされた事がないわ。これからもそう呼んでちょうだい」


 アオイさん、あなたもね、と続けて言われる。これは逃げられないやつ……。

 庭に用意したテーブルについて、マリーさんが紅茶を淹れてくれる。

 蒸らしの時間が終わって、サーブ用のポットに注いでいく間、私たちは無言だった。

 それからカップに注いで、大福と共に私たちに出してくれる。

 私が紅茶を、お姉ちゃんが大福を口にする。

 大福に目を輝かせるメアリー様。


「これが、新しいお菓子?」

「大福と言います。先日お出ししたお餅を使って、ソースとして使っていたあんを包んだお菓子になります。あんは先日の白あん、鶯あんと新しいものを一種、それから、白あんにいちごを包んだものを作りました。どうぞお召し上がりください」

「へぇ、いただくわ」


 まず紅茶に手を付けるメアリー様。今日用意したのはダージリンだけど、アンナさん秘蔵のスペシャリティだ。ディオンを発つ時にちょっと分けて貰って、ずっと取っておいた茶葉。貴族にも滅多に卸さないって言ってたし、きっと大丈夫。

 大福も、みんなで試食出来なかったけど、ビルさんと話した限りなら問題ない、はず。


「アオイさん、この紅茶どこで入手したの? 初めて飲むわ。とてもおいしい。まるで花畑でフルーツを食べているみたいだわ」

「友人に分けて貰った茶葉なんです」

「これでも紅茶はこだわっていたけど、知らない茶葉があるなんてね。一体どんな知り合いなの?」

「ウォーカー商会よ。会長夫人に貰ったのよぅ」

「なるほどね」


 次に大福に手を付けるメアリー様。あれは、白あんだね。


「先日の舞踏会でオモチをいただいたけど、こっちの方がソースとの一体感があるわね。それに生地が柔らかいみたい。甘くておいしいわ。甘さのバランスも丁度いい」

「包む必要があるので、お餅として出すより薄く、柔らかくしています。甘さは調整出来ますが、お口にあってよかったです」


 あっという間に、白あんだけでなく鶯あんも食べてしまったメアリー様。私はリリムちゃんに目配せして、追加の分をテーブルに置いておいて貰う。


「さて、続きは話しながらにしましょう。三人だけにしてくれるかしら?」

「マリー、リリム、下がって」

「「かしこまりました」」


 マリーさんとリリムちゃんに指示を出して下がって貰う。そしてテーブルの周りには私たち三人だけになり、メアリー様が話し始める。


「今日お邪魔したのは、この前言った通り、リエラの話を聞かせて欲しいからなのよ」

「アーガスさんには聞けなかったのかしら?」

「アーガスは、私がこの話題を振ると逃げるのよ。メアリーに話す内容じゃないって。だから、あなたたちにお願いしに来たって訳」

「私たちが知っているのは、森で暮らしている時の事だけですけど……」

「十分よ。私は、あの子の事は少しでも知りたいのよ。それで、少しでも助けになる事が出来たらいいって思ってるんだけど、ね」


 そう言って悔しそうに顔を顰めるメアリー様。この人はリエラの友人で、リエラがマイヤの森で隠居する事になったのをお義父様と違う角度から、間近で見てきた人なんだ、というのが痛い程伝わってきた。

 そしてお姉ちゃんが決断を下す。


「分かったわぁ、雫たちがどこから来たか、から話すわねぇ」

「え、お姉ちゃん?!」

「蒼ちゃん、メアリーちゃんはリエラちゃんを救う同志にするべきよ」

「よく分からないけど、今あの子を救うって言ったわね。それに、私が乗らない訳には行かないわ」


 だからメアリーちゃんも、後で知ってる事を教えてね、と言いながら私たちが何度もしてきた、この世界に来る事になった所から話を始める。

 途中、紅茶や大福を摘みながら話は続く。




 今はリエラの訓練の話だ。


「あの子、まだそんな事やってたのね。学院でも生意気な下級生に訓練って称して模擬戦じゃ、って言いながら校舎を壊しかけてたわよ。火消しに私がどれだけ苦労したと……」

「メアリー様、リエラを止められるってすごいですね……」

「メアリーちゃん」

「……」

「メアリーちゃん、よ」

「……メアリーちゃん」

「よく出来ました」


 リエラより怖い。凄みが違う。




 アーガスさんの話で寄り道。


「学院の剣術大会でアーガスが優勝してね、あんなでも見た目は眉目秀麗しょ? 剣を振るう姿が綺麗だって上級生から下級生まで交際希望の手紙の嵐よ。だけど、片っ端から断るから、いつも一緒にリエラを追ってた私が意中の相手じゃないかって噂になってね。でもアーガスはリエラが好きだから、違うのに……、って毎日のように傷心して私に愚痴をこぼすのよ。私に言うならさっさと告白しちゃえばいいのにねぇ」

「えぇ?! アーガスさんってリエラが好きなの?」

「蒼ちゃん、鈍感ねぇ……」



 そして話はおしまいに。


「と、そんな感じでみっちりリエラにコテンパンにされた後、私たちは当初望んでいた旅に出る事にしました。ここまでが知ってるリエラの話です」

「それからは紆余曲折あって、リエラちゃんに渡されたパパ宛の手紙を届けたら、養女になっちゃったのよぅ」

「で、今に至る、ね。お話ありがとう。森の暮らしは調査出来なくて分からなかったのよ」

「ずっとリエラの事を調査してたんですか?」

「事件の前後の事も、隠居した後の事もずっと調べてたわ。緘口令も、いつもなら形骸化しているのにこの件に関してはかなり厳重でね。口を割ったら相当厳しい処分があるみたいで、思うように行かなかったのよ。マイヤ領は貴族派の息がかかりすぎてて、危なくて全く調査出来なかったわ」

「え? でもマイヤの領主は中立派だって」

「貴族派寄りのね。代が変わったら派閥替えになるわ」

「そうなのねぇ」


 紅茶のお代わりを淹れて、私たちは事件について話し出す。お義父様から聞いた話と齟齬は無いみたい。

 代わりにこんな事を教えてくれた。


「あの事件で、リインフォース子爵を民衆派から追い出す話が派閥内で出たわ。うちが一応止めたけど、リインフォース家への風当たりは強いわね。ただ、領地経営がうまく行っていて、領民の支持も厚い、まさに民衆派と言った領主を放り出すのはいかがなものかという声もあって、知っての通り実行はされなかったわ」

「そうなのねぇ」

「でもねぇ……数年前の事件とはいえ、未だにリインフォース家の娘には関わるなって風潮がある所に、義娘が二人でしょう? あなたたち、一昨日の舞踏会が始まる直前の評判、すごかったんだから」

「それは、聞きたくないです……」

「ゲルハルト様が抑えてたんでしょうね。ただ幸い、オモチと美容品で風が変わったわ」

「よくなった?」

「とは言わないけど、味方のふりをしておけば利になるって所ね」


 なかなかよくはならないか……。難しい。


「ちなみに私は応援するわ。あなたたち、オモチと美容品をあそこまで景気よく配っているのは、利のためじゃ無いでしょう?」

「やっぱり、分かりますか?」

「表面的には、民衆派の立場をよくしたいって見えるわね」

「今は、それを狙ってやっているわぁ」

「でもこれがあの子を救うって話になるんでしょう?」

「そうです」

「そうよぅ」

「なら協力するわ。何をすればいい?」

「頼まれていた皮膚乾燥の薬を作ってきたのよ。はい、これ」


 突然、お姉ちゃんが隠す訳でもなく、『ストレージ』から薬の入った瓶を取り出してメアリーちゃんに渡す。


「ありがとう。昔から肌が弱くてね。前にあの子が薬を作ってくれたのよ。事件の前は、会えなくてもこれだけは王都に送ってくれていたのだけど、今は代わりのいい薬が見つからなくてね。助かったわ。私の仕事はこれの評判を上げる事ね」

「えぇ、お願い出来るかしら?」

「違う物も頼まれるわよ?」

「リエラちゃん直伝の薬なら、いくらでも作れるわ」

「わ、私も! お菓子なら作れます!」

「あの子は型破りだけど、いつだって人に優しかったわ。そんな子が幸せになれずにずっと森の家なんて、私は耐えられない。だから、いくらでも協力するわ。信じてくれるかしら?」

「えぇ」

「はい」


 確かに、お姉ちゃんが言った通りだ。この人は同志だ。リエラを救うための。


「ただね、お父様の動きが読めないのよ」

「どういう事かしら?」

「事件の時、リインフォース家を助けるように動いたでしょう? あれは、私が頼んだからなのよ。その後に距離を置く事を条件にね。ただ、リインフォース家の評判を改めようとしなかったり、嫌がらせに近い事もしている民衆派内の貴族をたしなめないから、排斥したいようにも取れるんだけど……」


 そこで、私はデビュタントボールでノーヒハウゼン侯爵に言われた事を思い出して、メアリーちゃんに告げる。


「期待しているぞ、か……。排斥したいのか、助けたいのかよく分からないわね。まぁこっちでも調査してみるわ。助けた方がいい事尽くめだと思うんだけど」

「どっちでも、雫たちがリエラちゃんを助けるために動くのは変わらないわ」

「そうね。私の状況は手紙で伝えるわ。今後、私主催のお茶会に誘う事も増えるでしょう。お菓子と美容品に目を付けたメアリーが囲い始めたって筋書きがいいと思うわ。よろしくね」

「分かったわぁ」

「はい」


 随分長く話してしまった。ゲルハルト様にも伝えておいてね、と言ってお茶会はおしまいになった。




 お義父様のエスコートで馬車に乗るメアリーちゃん。

 馬車の中から私たちに手を振ってくれる。やがて馬車が走り出して、メアリーちゃんは帰って行った。


「シズク、アオイ、書斎に来てくれ」

「「はい」」


 私たちはお義父様を先頭に、後ろをついて書斎に行く。書斎に入ると、ジョセフさんが紅茶を淹れてくれていた。


「ジョセフさんの紅茶、初めて飲むかもしれないわ」

「そうかも」

「ジェニファーやマリーの方が丁寧ですので、お口に合えばよいのですが……」


 折角なので、そのままソファに座って紅茶を置いてくれるのを待つ。

 やがてジョセフさんの手で紅茶が置かれる。


「いただくわぁ」

「いただきます」


 応接机に置かれた紅茶を手に取って、それぞれ一口ずつ飲む。

 芳醇な甘い香りと、コクのある濃厚な味わいを感じる。アッサムかな? でも、飲んだ事があるアッサムより渋くなくて飲みやすさを感じる。


「アッサムねぇ」

「やっぱり? でもなんだか思ったより濃くないような」

「ファーストフラッシュだ」


 お父様が正解を教えてくれる。春摘みの茶葉は夏摘みより全体的に特徴が控えめになる。だからかな。飲みにくさが無いのはジョセフさんの腕だろうけど。

 そして紅茶をテーブルに置いた頃、マリーさんが用意してあったクッキーを添えて出してくれた。


「さて、話をしよう」

「旦那様、私とリリムは下がります」


 マリーさんがお義父様に提案する。しかしお義父様がそれを手で遮る。


「いや、いい。マリーとリリムにも聞いて貰おう」

「「かしこまりました」」

「パパ、ジョセフさんも?」

「ジョセフ、知ってたぞ。全く……どこで聞いたのやら」

「執事たるもの、主人の貴慮を少しでも把握する必要がありますので」

「さて、マリーとリリムも触りは二人から漏れ聞いているだろう、リエラの事だ」


 最初私たちがお義父様に提案したリエラを救うための策を、三人にも説明して行く。

 リエラの件で民衆派が貴族派より劣勢になっている事。

 民衆派の声を高めてリエラの無実を訴えてくれた王子の後押しをする事。

 そのために、まずは民衆派内での地位の向上が必要な事。

 それを達成するために、お菓子や美容品を作って評判を上げる事。


「という方針で一昨日の舞踏会に出たら、今日メアリー様をお茶会に招く事になったな。その話を聞こう」


 お義父様がそこまで話して、続きを私とお姉ちゃんに振ってくる。


「はい。まず目的ですが、本当にリエラの話を聞きに来ただけでした」

「何?」

「メアリーちゃん、リエラちゃんが大好きなのねぇ、それが伝わって来たわよぅ」

「シズク、その呼び方は……」

「メアリーちゃんの希望です」

「アオイまで……」

「それから、雫たちはリエラちゃんを助けるために来たって事を話したわ。メアリーちゃんは一緒にリエラちゃんを助けるための同志よ!」

「お姉ちゃん、違うでしょ……全部話したじゃない」

「全部ってどこからだ?」

「雫たちが異世界から来たって所からよぅ」

「話したのか?! 全部?!」


 だから全部って言ってるじゃない、ってお姉ちゃんがお義父様に突っ込んでいるけど、お姉ちゃんの説明からは読み取れないからね。


「まぁいい……メアリー様は話を聞いて何と言っていた?」

「リエラを救うなら私が乗らない訳がないと、始めから乗り気のようでしたよ」

「後は頼まれていた薬を渡したわ」

「例の皮膚乾燥薬か?」

「そうよぅ。派閥内で薬の評判を広げてくれるって」

「お菓子も広げてくれるそうです」

「なるほど」

「その評判がよくて、他にも希望する人がいたらメアリー様主催のお茶会に誘って貰えるわ」

「後は、メアリー様も独自に調べていて、何か分かったら教えてくれるそうです」


 何か忘れているような気がする。お姉ちゃんも考え込んでいる……。


「話は分かった。それだけか? ん……どうした?」

「何か忘れているような……」

「気がするんですけど……」


 お義父様が慌てて立ち上がって声を大にして言う。


「お前たちのそれは、とても、と・て・も大事な事だから絶対に思い出しなさい!」


 えーっと……協力してくれる事になって、薬とお菓子が作れますって言った後……動きが読めない? あ。


「思い出した!」

「思い出したわぁ!」


 私とお姉ちゃんが同時に叫ぶ。


「よかった。それで、何を思い出した?」

「デビュタントボールで壇上に上がったとき、ノーヒハウゼン侯爵に言われたんです」

「期待しているぞ、ってねぇ」

「何をだ?」

「「さぁ」」


 私とお姉ちゃんは同時に首を右にかしげる。これでお姉ちゃんと同じあざとさを演出出来れば……!


「あ、パパを助けたのはメアリーちゃんよ」

「どういう事だ?」

「減刑をノーヒハウゼン侯爵が嘆願したって話だけど、あれはメアリーちゃんが侯爵に頼んだみたいなの、代わりに距離を置く事って条件が付いたらしいけれど」

「なるほどな……」

「メアリーちゃんも、ノーヒハウゼン侯爵の考えと行動が読めないって言っていました」

「分かった。そちらは調査する」

「話はそんな所ねぇ。後は女子トークだから秘密よ」

「あぁ。それに興味はない」

「リエラの話もありますけど」

「何?! 今の発言は撤回する! 教えてくれ!」

「ダメです。これ以上は秘密です」


 口元で指でばってんを作って、もったいぶって話を打ち切る。お義父様、泣きそうなんだけど。でも乙女の秘密だからね。


「仕方ないな……。話を戻すぞ。ジョセフ、マリー、リリム」

「「「はい」」」

「当然だが他言無用だ。クラウディアにもだ。それから今後、私たちの行動はリエラを助ける目的でやっていると思ってくれ」

「「「かしこまりました」」」


 そういえば、とお義父様が話を続ける。


「アオイ、ドラヤキは出さなかったな。何を考えている?」

「お餅でみなさん、その材料と作り方を探っています。一方でソースは何でもいいと思っているようです。なのでこの後、メアリーちゃんにお茶会に呼ばれたら出せばいいかと思っています」

「ジョセフ、ウォーカー商会とビルと協力して白インゲンと青エンドウを買い占めろ。ハインリヒにも領のマメの出荷先を選ぶように手紙を出す」

「かしこまりました」

「あ! ジョセフさん、もち米は継続して買ってくださいね。ウォーカー商会に行けば分かります」

「承知しました」

「それからな……」

「はい」

「あのお菓子、それに黄色いアンコは何故私の分が無いのだ?」

「……何で知ってるんですか?」

「決して覗いてなどいないぞ!」

「パパ、覗いたのね……」

「旦那様……」

「旦那様、僭越ながら、それは愚行と言わざるを得ません」

「旦那様、ちょっと嫌ですぅ」


 私は『ストレージ』から三人分の大福を取り出して、テーブルに置く。


「これがその噂の新作、黄身あんの大福といちご大福です。ジョセフさん、マリーさん、リリムちゃん。どうぞ」

「雫の分は?」

「お姉ちゃんはさっき一杯食べたでしょ……」


 メアリーちゃんと二人でお代わりしてたよね。


「私のは?」


 お義父様が泣きそうになりながら私に尋ねてくる。


「覗く人にはちょっと……」

「ビルに聞いたんだ! ダイフクという新作お菓子と黄色い新しいアンコの作り方を教えて貰ったとな! おまけにいちごまで使うそうじゃないか! 聞いただけなんだ! 本当だ! 覗いてない!」

「そうねぇ……。いずれにしても、聡明で潔白なパパは今後も覗かないわよねぇ?」

「当然だ!」


 私は、お姉ちゃんの目配せを受け取って、『ストレージ』からもう一人分出してテーブルに置く。


「じゃあこれをどうぞ」

「ありがとう! アオイ、シズク!」


 四人の試食会が始まって、みんな嬉しそうに食べる姿を見て、私も嬉しくなる。

 後でお義母様にもあげようっと。

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。


EX含めると既になのですが、今回で本編が50話となりました。

まだまだ続きますので、引き続き楽しんでいただけたら幸いです。

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