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47. 貴族に餅つきは必須です

 昨日、王都についてからは美容品を作ったり、材料集めに奔走したり忙しい。

 今日も午前はウォーカー商会で、お姉ちゃんが作った美容品の今後について話したりした。

 お昼を食べ終わった午後は、私が主体となって進めようとしているお菓子作りをしようと思う。

 そのために、大事な調理器具を作るところから始めようっと。

 私は庭に出て、『ストレージ』から、抱えきれない程の、大柄の人が椅子にでも出来そうな大きな丸太と、それよりも小さいけど、重くて持てない細い丸太を取り出す。後は柄にする木の棒。

 ついてきたお姉ちゃんが、私に尋ねる。


「蒼ちゃん、何作るの?」

「臼と杵だよ、家から丸太持ってきたんだ」

「そう言えばジョセフさんに聞いてたわねぇ」

「あっちで作れなかったから、今日作っちゃおうと思って」


 という事はお餅! お餅! と言いながら、近くの椅子に腰掛けるお姉ちゃん。

 向かいにはタルトも座って、マリーさんが紅茶とお菓子を準備している。二人共、さっきお昼食べたじゃない。

 リリムちゃんは興味津々にこっちを見てくる。やっぱり木は気になるよね。


「オモチとは何でしょう?」

「喉に詰める毒よぅ。このお菓子で何人もの老人が亡くなってるわ」


 お餅は危ないので小さくして慌てず、よく噛んで食べましょう。


「そんな危険な物、お嬢様がお作りになってはいけません!」

「マリーさんが信じちゃったじゃない! おいしくて勢いよく食べて喉に詰まらせるって話だからそれ」

「オモチとはおいしいお菓子なんですか?!」

「そうよぅ。気付くとお腹がお餅になるのよね」

「きのこのようにお腹に生えて来るんですか……?」

「リリムちゃんにまで変な事吹き込まないでよ! 食べ過ぎて太るって話だから!」

「全然安心出来ません~」


 わいわいと滅茶苦茶な事を吹き込むお姉ちゃんの言う事は全部デタラメ、でもないけど適当だからと私は二人に、タルトには重々よく言って、まずは臼作りから始める。

 私は風魔術を詠唱する。『風 回転 抉る』。黄緑色の魔術陣が足元に現れ、風が起きる。


『ドリル!』


 唱えると同時に、丸太の直径より少し短い風の刃が高速で回転して、丸太の中心を抉っていく。底の方が広くなるように作るのがいいって聞いた事があるので、底に行くにつれて風の刃を少しずつ長くして、丸太を削っていく。

 それから風の刃をかまぼこ状にしたから、底の中央はやや丸みを帯びて抉れるはず。

 シャアアアァァァァという音を出しながら、丸太は木屑を綺麗に外に放出していく。刃が風だから、中が見えて作業しやすい。

 丸太の半分程を削ったら、風の刃を消して確認する。いいね。綺麗に削れている。

 ただ、このままでは表面が粗いので更に削っていく。研磨って作業だね。

 私は風魔術と土魔術を融合させた一つの魔術陣を展開する。『風 回転 砂』。

 複合魔術をこんな事で……と一瞬頭をよぎったけど、こんな事だからこそだよね! お餅食べたい!

 足元に、灰味の掛かった黄緑色の魔術陣が光り出す。


『ポリッシュ!』


 現れた砂の粒が、回転しながら丸太の抉った所へ入り込んでいく。

 本当は順番に研磨剤の粗さを変えていくらしいんだけど、魔術で研磨剤代わりの砂は生み出せるし、砂の粒は出来るだけ小さくなるようにしたから多分出来る、はず。硬さも控えめだしね。

 その代わり風でひたすら砂を回転させて、高速で丸太の内側を研磨していく。

 始めはガキッ、バリッといった雑音が聞こえていたけど、だんだんシュウウウーという綺麗な音になっていく。綺麗に綺麗に、お餅を包み込んでくれるように丁寧に研磨していく。

 ついでに丸太の表面と側面も研磨して綺麗にしておく。表面は内側に傾斜が付くようにね。これもポイントらしいよ。

 そして十分に研磨した後、風を止めると、ツヤツヤになって綺麗に丸く削れた臼が完成した。

 最後に『ウォッシュ』で木屑と砂を洗い流す。


「蒼ちゃん、随分綺麗になったけど、出来た?」

「うん、臼はね。次は杵。ちょっと難しいけど頑張る」

「お餅のために頑張ってねぇ」


 まず私は細長い方の丸太を、『エアカッター』で円柱状に切り出す。

 それから『ドリル』で柄を差す穴を掘っていく。振り回しても抜けないように、円錐状に掘っていく。刃を細くしていく要領はさっきの臼削りでつかんだのか、すんなりと出来た。

 次に『ポリッシュ』で円柱になった丸太の表面を研磨していく。

 ドリルで穴を開けたのと反対側の底面付近は、お餅と触れる所だから特に丁寧に研磨していく。

 次に木の棒。柄になる部分だね。さっきドリルで開けた円錐穴の小さい方の太さになるように、『ポリッシュ』で丸く研磨していく。

 ただし、柄と杵の丸太が嵌合する部分の柄の一部は、円錐の穴より太いままにしておく。じゃないとすっぽ抜けちゃうからね。

 太いままにしていた部分を、粗めに逆円錐状に削っていく。この円錐の角度を、杵に開けたの円錐穴の角度と合わせないと、綺麗に嵌合しないから、注意して削っていく。

 削り終わったので、『フロート』で丸太を持ち上げて合わせてみる。嵌め合った所はちょっと隙間があって、カタカタする感じがする。私は外して慎重にもう一度、少しだけ削る。今度はうまく噛み合ったみたい。後は振ってみて調整かな。

 私は『ウォーター』で熱湯を出して臼に入れ、杵の先も浸けておく。


「出来たよ」

「オモチ出来た?! 僕大盛りね!」

「いやまだ道具だけだから、調理自体は始まってもないよ」


 何やらショックを受けているけど、まだなものはまだだからね。

 しかしこの勢い、タルトは絶対喉に詰まらせると思う。気を付けさせないと。


「リリムちゃん、ビルさんに言って朝渡した餅米を三十分くらい蒸して貰って来てくれるかな? 出来たらこっちに来て貰って、一緒に作ろうって」

「分かりました!」

「蒼ちゃん、こっちで休憩しましょ」

「そうする。細かい作業で集中してたからちょっと疲れたよ」

 

 マリーさんが紅茶のカップを私の前に置いてくれる。謹製のクッキー付きで。


「ありがとう。いただきます」


 アールグレイだ。爽やかな香りがくつろぎを与えてくれる。




 ゆっくり四人でおしゃべりしながら三十分を過ぎて、リリムちゃんがビルさんを連れてやって来た。

 ビルさんは蒸した餅米が入っていると思しきボウルを抱えている。

 じゃぁ、始めますか。


「お姉ちゃん、つき手と合いの手どっちやる?」

「え? 雫は試食よ?」

「いや、お姉ちゃんしか分かる人いないじゃない……」

「はい! 私やってみたいです!」


 戻って来たばかりのリリムちゃんが手をあげる。偉いよ。つき立てを一番にあげるからね。


「じゃ、つく方をお願いしようかな」


 私は『フロート』で臼と杵を浮かせてひっくり返し、入れていたお湯を捨てる。

 その後、ビルさんから蒸した餅米を受け取って、全部臼に投入する。

 杵を持って、周りの方から餅米を軽く潰して丸く纏めながら、リリムちゃんに説明する。


「このハンマーみたいなの、杵って言うんだけど、これで、餅米の中心を叩いていってくれるかな。あまり振りかぶらないでいいよ、器にしてる臼と杵が割れちゃうから。それと、合いの手を入れるから、叩くテンポは一定にお願いね」

「アイノテ? って何ですか?」

「見せた方が早いかな。私が合いの手入れるから、叩いてみてくれる?」

「よく分かりませんが分かりました!」


 リリムちゃんが、えい! やっ! と可愛い声で杵を振りかぶって餅米に向かって振り下ろす。

 再び杵を持ち上げた瞬間、私は『ウォーター』でぬるま湯を薄く纏った右手を、臼の中に突っ込んで餅米を丸める。


「ひゃっ!」

「アオイ様!」


 私のいきなりの行動にびっくりしたのか、リリムちゃんが杵を持ち上げたまま振り下ろさない様に無理矢理抑えてふらふらし始め、マリーさんが私を安全な位置に移動させようと動き出す。


「大丈夫だから、これが合いの手。叩くとお餅が端に寄っちゃうから、手で真ん中に纏めるんだ」

「ふぇぇ、びっくりしました」

「アオイ様。先に説明をお願いします」


 あれ、マリーさんの目が思ったより怖いぞ……。

 これは……謝った方がいいやつかな……。びっくりさせちゃったし。


「ごめんなさい」

「気を付けてください。リリムも、絶対に当ててはいけませんよ」

「は、はいっ!」


 途中、打つ役はビルさんやマリーさんに変わったりしながら、餅をついていく。

 餅米のつぶつぶした感じがほとんど無くなり、餅の表面がツルッとした、弾力のあるもちもちした感じが現れてきた。

 

「いい感じだね。つぶつぶが無くなって、全体がもっちりしたら完成。もうちょっと頑張ろう」

「「「はい!」」」


 私たちは引き続きついていく。合いの手はずっと私だけど、つくのは三人だ。リリムちゃんなんかは大分つくのに手慣れてきた感じがする。ビルさんは重いのを持つのに慣れてないのか、運動不足なのか及び腰。マリーさんは、勢いが強過ぎな上、その調整が難しそうだったので見学して貰う事にした。




 よし、もういいかな。


「完成かな。お疲れ様!」

「僕大盛り!」


 テーブル席の方から、叫びにも似た甲高い声が聞こえた。


「タルトの分も一応あるけど、働かなかったので後回しです」

「そんな……次は働くから!!」


 次も絶対手伝わないであろう子供のような発言を無視して、まずは三人分を小皿に千切って載せていく。


「はい、三人の分」

「「「ありがとうございます!」」」

「付け合わせは白あんと醤油と……あ! きな粉忘れてた……お姉ちゃんスパイスミル持ってる?」

「あるわよぅ。はい」


 お姉ちゃんが『ストレージ』からスパイスミルを取り出して渡してくれる。本当は挽きたかったけど仕方ない。この中に大豆と砂糖の塊を入れていく。これで即席きな粉になってくれると、いいな……。


「白あんと醤油。これがきな粉、を忘れてたので即席です。どれがいい?」

「悩んじゃいますぅ!」

「醤油って事はしょっぱいのもあるんですか?!」

「私は白あんにします」

「僕全部!」

「雫も全部!」

「全部……。タルト様とシズクお嬢様が羨ましいですぅ」

「え? いいよ。じゃあリリムちゃんは全部ね。タルトとお姉ちゃんにはまだ聞いてないから座ってなさい」

「アオイお嬢様! 私も全部で! 料理人たるものさまざまな味に精通していなければ」

「恥ずかしながら、私も全部でよろしいですか……」


 私はさっき取り出したのと同じサイズの小皿を『ストレージ』から大量に取り出して、お餅を一つずつ千切って載せていく。それに白あん、醤油、きな粉を掛けて三人に渡す。


「はいどうぞ。お餅の三種盛り、召し上がれ」

「「「いただきます!」」」


 三人共重労働だったからか、疲れた顔をしているけど、その表情は食べる前の今から笑顔だ。


「うまい! このショウユを掛けたやつ、しょっぱくて最高ですね!」

「シロアン……シロアンこそ至高です……シロアンこそ正義……」

「わわ! のひまふ! なんれすかこれ! 」


 リリムちゃんがお餅をうにょーんとしている。この子は本当に可愛いな。


「んく……どれもおいしいです! でも、このキナコが一番好きです!」

「いいなぁ……僕も食べたい」


 そんな三人を眺めながら、ぽつんと佇んで呟く人型ドラゴンの女装少年。


「おいしそうねぇ……」


 私は二人の前にそれぞれ三枚のお皿を置く。勿論さっき三人に渡したのと同じお餅の三種盛りだ。


「はい。タルトとお姉ちゃんの分。一緒に食べたかったら、みんなで働こうね」

「ありがとう! 蒼ちゃん!」

「僕次からはちゃんと働く!」


 私は二人に渡して、自分の分も取っておく。残りは食べられないうちに『ストレージ』にしまっておく。

 他にも食べて欲しい人がいるからね。


「タルト、ゆっくり食べるんだよ。大変な事になるからね」

「分かった。いただきます」


 いただきますを言えるうちの子偉いでしょ。

 お姉ちゃんともいただきますを言って食べる。


「やっぱりつきたてはおいしいわねぇ。蒼ちゃん、雫のあんこ、鶯にしてくれてありがとう」

「うん、好きだもんね。タルトはどう……タルト?!」


 お姉ちゃんの隣で苦しそうにしている少年の姿が目に入る。

 思った通り、危惧していた事が起きてしまった。私はタルトの背中を叩いて無理矢理嚥下させて、背中をさすってあげる。

 なんとかお餅を飲み込めたタルトが、しみじみと言う。


「人間はこんな危ない物食べてるの?」

「ゆっくり食べればおいしいんだよ」

「タルトちゃん、いつもの千倍はゆっくりね」

「分かった……」

 

 今度は大丈夫そうかな。私も食べよう。まず白あんから。このとても伸びるのは、つきたてならではだよね。まだちょっと熱いけど、ぱくついていく。お餅と白あんの黄金コンビ。とても甘くておいしい。あ、これでお饅頭も作れそうだなぁ。

 次に醤油。海苔があったら磯部に出来るんだけどな。バイゼル領に行ったらあるかなぁ。それか東方にも、お魚を目当てに行ってみたいけど……まずは目の前のお餅!

 私も餅つきで動いた後だからか、醤油のしょっぱさがとてもおいしく感じる。やっぱりこの組み合わせだよね。地球にいた頃だったら、お姉ちゃんしか見ない雑な部屋着にこたつで寝っ転がって何個でも……太っちゃうな。でも一個じゃ足りない! そんな組み合わせ。

 最後にきな粉。ミルで慌てて作った即席だけど、ちゃんと粉になっている。ちょっと粗いけど、次はちゃんと作ろう。でも挽き立てだから、きな粉特有の大豆の香りが立って味もいい。砂糖、偏っちゃったかな。ここら辺は好みで調整出来るとよさそうだけど。やっぱり擂るか。

 ふぅ、おいしかった。初めてにしてはうまく出来たよ。

 ごちそうさまでした。


「蒼、おかわり!」

「今は試食なのでありません。後で他の人たちも食べて余ったらね」


 後ろでリリムちゃんとマリーさんが期待の眼差しで見ている。ビルさんがそうじゃないのは、今後作った時に必ず味見をするからだね。

 お皿とフォークを回収して『ウォッシュ』で綺麗にしてから、『ストレージ』にしまう。

 臼と杵も同じように綺麗にして、これも『ストレージ』にしまおうとしてら、ビルさんに止められた。


「アオイお嬢様、こちら調理器具でしたら私が預かりますよ」

「これ重いからしまっておくよ? 作る時出せばいいんだし」

「いえ……その……」


 珍しくビルさんが言い淀んでいる。あ、分かった。


「あぁ、お米の種類が違うから、そこら辺で売ってるお米だと多分出来ないよ」

「「そうなんですか?!」」


 あれ、リリムちゃんも反応した。それを見てマリーさんが困った顔をしている。これはこっそり作って使用人で食べる気だったな。

 私は『ストレージ』から餅米と、この辺りでも売ってるライスを取り出してお皿に載せて並べる。


「うん、三人から見て右が餅米、左がこの辺りで売ってるライス。私が買った餅米はウォーカー商会が東方から仕入れた物で、追加で仕入れ次第全部買うとは言ってあるけど、いつになるかは分からないよ」


 ビルさんが二つのお米を見比べてうんうん唸っている。


「なるほど」

「もし王都にあったら買い占めていいよ。私がお金出すからね。道具も貸すし、ちゃんとみんなの分も用意するから」

「分かりました! 使用人一同捜索に当たります!」

「リリム、私たちは侍女が仕事ですからね」


 分かってます! というリリムちゃんの軽快な発言と笑いと共に、お餅作りはお開きになった。




 餅つきの騒ぎは終わって、今は夕ご飯の時間。

 ビルさんは午後餅つきをしていたはずなのに、夕ご飯もそつなくおいしい料理を出してくれる。

 ただしビルさんにデザートはさっきのお餅を出すと言っておいたので、それだけは無い。

 食事が終わって、デザートのタイミングになったので、ビルさんが私にその旨を伝えてくれる。と同時に、綺麗に挽かれたきな粉を持って来てくれた。

 私はビルさんにお礼を言って、『ストレージ』からお餅と白あん、鶯あん、醤油を取り出す。

 お義父様とお義母様が不思議そうに、でもワクワクした目で私を見てくる。


「午後にリリムちゃんたちと新しいお菓子を作ったので、デザートに出したいと思います」

「待ってたぞ、アオイ」

「楽しみですね」


 私はビルさんが持ってきてくれた小皿に、ストレージから取り出したお餅を『エアカッター』で切って載せていく。載せてそれぞれ白あんと鶯あん、きな粉、醤油を掛けてお義父様とお義母様に渡す。


「お餅というお菓子、料理です。白あんと食べればおやつになりますし、醤油を掛ければ食事になります。どうぞ」

「いただくぞ」

「パパ! 絶対に、ゆっくりと、小さめに切って食べてね」

「死ぬよ、ゲルハルト」

「何だと?!」

「どういう事なの? アオイちゃん」

「喉に詰まりやすいんです。タルトはさっき詰まらせました」

「なら旦那様も、気を付けてくださいね」

「言葉に含みを感じるが……分かった……」


 二人がフォークとナイフを手に取って食べ始める。さすがに餅をうにょーんと伸ばす食べ方は教えられない。


「食感が面白いな、それにうまい。ショウユは酒が進みそうだな。キナコは甘くない物もあるんじゃないか?」

「きな粉の甘さは砂糖を混ぜているだけですので、調整出来ます」

「ショウユだと食事になるという意味が分かりましたわ。私はお茶会でアンコと出したいですね。紅茶に合いそうだわ」


 私は二人の感想を聞けたので、お皿に同じ様に三種盛りを作ってまだ食べてない使用人に渡す。

 マークさんが、びっくりしながらお皿を受け取って私に恐る恐る尋ねてくる。


「私もよろしいのですか?」

「勿論です。みんなで食べましょう。多分、マークさんとジョセフさんは醤油が好きですよ」

「ありがとうございます。アオイお嬢様」


 マークさんとジョセフさんが揃って手を付ける。二人共、私がお勧めした醤油からだ。

 目を見開いて驚くマークさんと、滅多にというか初めて見るジョセフさんの微笑み。イケおじだなぁ。

 それからマークさんはきな粉、ジョセフさんは白あんに手を付ける。

 マークさんはおいしそうに食べているけど、ジョセフさんはさっきみたいな笑顔がない。やっぱり醤油しか勝たないな。

 一方でジェニファーさんは白あんときな粉をおいしそうに笑顔で食べて、醤油は驚きって感じだった。甘くなくて意外だったのかな。


「みなさまお気に召していただけたようでよかったです」


 一同頷き返してくれる。


「お義父様……」

「あぁ、材料の入手だな」

「そうです。リインフォース領のウォーカー商会には伝えてありますが、今日の感じだと、王都の支店にはその話が来てないと思うので、改めて伝える必要があります」

「手持ちの材料はどの程度ある?」

「王都滞在中の私たちのおやつとお茶会で食べる程度でしたら問題ありません」

「なら悪いが在庫を全部出すつもりで頼む。勿論、ウォーカー商会にも伝えておこう」

「分かりました」

「ジョセフ」

「かしこまりました」


 さすが仕事の出来るジョセフさん。呼ばれただけなのに指示が伝わっているみたい。私には分からない。


「ジョセフさん、ビルさんが餅米と流通してるお米のサンプルを持ってるので、話をしてください」

「承知しました。ありがとうございます」


 何やらお義母様がこっちを見て、話したそうにしている。


「アオイちゃん、明日派閥の奥様方とお茶会をするのだけど、持っていけるかしら?」

「お義母様、冷めたり乾燥すると食感や風味が変わってしまうので、お茶会で出すならビルさんと相談したいです」

「分かりました。頼めるかしら?」

「はい」


 私はビルさんを呼んで、お餅保存の注意点を説明する。味や食感の変化の確認で食べていいから、とこっそり多めに渡しておく。料理人さんに渡すのはおいしい物を食べるための先行投資。ついでに白あんと醤油も渡しておく。きな粉はさっき大豆を渡してあるし、これで任せておけばビルさんなら大丈夫でしょう。


「蒼ちゃん、明日は餅つきする?」

「さっき渡した分でお茶会は足りる、よね……? お義母様、人数は?」

「八人ですけど、このおいしさだともっと欲しいかもしれませんね」

「ビルさーん!」


 私は追加でビルさんにお餅を渡しておく。これで手持ちの分は無くなった。

 

「これで足りるはずです。足りなかったら希少な物とでも言っておいてください」

「そうね。分かったわ」

「お姉ちゃん、お餅を明日食べる必要はないからつかないよ。何かあった?」

「ママのお茶会は午後でしょう? その前に化粧品を作っておきたいの。そうすれば持って行って貰えるでしょう?」

「あぁ、手伝いだね。分かった」


 今言ったら大変な騒ぎになりそうだから言わないけど、持って行くなら今後お饅頭にアレンジとか必要そうだなぁ。

 なんて考えていると、お義父様が私たちに傾聴を促してきた。


「二人の明日からの行動に関してだ。まず、明日は午前に美容品を作って貰う。午後にそれをオモチと共にクラウディアがお茶会に持って行き、派閥に広める。午後は自由にしてくれていい」

「分かりました」

「分かったわぁ」

「うむ。明後日に舞踏会がある。それが二人のデビュタントボールだ。まずは民衆派の貴族だけの集まりだから、勉強してきた事を守れば大丈夫だろう。リンダ様に貰った言い回しは覚えているか?」

「う、何とか……」

「頑張ってるわぁ」

「ところで、二人は十七歳でいいんだな?」

「この世界に来たのが十七歳。それから三年と少し経ってるわ。ただ、転移する時に不老を得たから、十七歳なのか二十歳なのか分からないの」

「なら十七歳でいいだろう。この国で年齢を気にする人間は少ないしな」

「いずれにしても、同じくらいの年齢の子女のデビュー、デビュタントにもなっている。うちは変な意味で注目されるから気にしないで頑張ってくれ」

「どういう事ですか? あまり注目されたくは……」

「リエラの件がある。リインフォース家の人間は注目される。おまけに女性だしな」

「私も微力ながら二人をサポートしますからね」

「お義母様……」

「ママ、ありがとう!」

「僕はどうすればいい? ゲルハルト」

「タルト、すまないが留守番だ。影響が大き過ぎる」

「分かった。ゲルハルトの分の蒼の新作お菓子で手を打とう」

「やむを得ないのか……」

「そんな事言うと、タルトには今後お菓子をあげないよ?」

「ぐぬぬ……分かった。なら大人しくしている。さっきの条件も無しだ」


 流石に我儘が過ぎるので釘を刺す。お義父様の分はちゃんとありますからね。


「その後は、周りの動き次第でまた変わってくる。まずはデビュタントを頑張ってくれ」

「分かりました」

「分かった!」


 話が終わったので解散。

 お風呂に入って、いつもの魔術訓練をしたり日記を書いたりした後は、お姉ちゃんと二人で必死にリンダ様に貰った言い回し集を見直して復習するのでした。

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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