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44. 王都に向かおう

「荷物は全て積み込んだか?」

「はい、私たちのストレージに全員の荷物と食料が入っています。念のため、食料の一部は馬車に積んだままです」

「では出発しようか」

「分かったわぁ」

「はい」


 快晴とも言える、雲がほとんど無い澄み切った天気の今日この日、私たちはリインフォース領から王都に向けて旅立つ。

 一緒に向かうのはゲルハルトお義父様、クラウディアお義母様、お姉ちゃん、タルト、私。使用人はジョセフさん、ジェニファーさん、マリーさん、リリムちゃん、ビルさん。それと御者の二人。馬一頭立ての馬車二台で行く。馬はネーロとブルーノだ。馬二頭に当然のようにお姉ちゃんと話し掛けたら、人からも馬からも驚かれた。

 御者出来るのでさせてくださいとお義父様にお願いしたところ、御者の仕事が無くなるからダメと却下された。彼らが休憩したい時をお姉ちゃんと狙う事にする。

 ちなみに、ハインリヒお義兄様はお留守番。お土産を買って来てあげたいと思う。


「それじゃ行ってきます!」

「行ってきまぁす!」


 私とお姉ちゃんは馬車の窓から顔を出して、見送ってくれるお義兄様たちに手を振る。

 乗車の配置は、私とお姉ちゃん、マリーさんとリリムちゃん、ビルさんが前、タルトがその屋根。残りが後ろだ。お義父様曰く、家族四人を後ろにするつもりだったとの事。だけど私とお姉ちゃんは道中の警戒も担っているので、一人は前にして欲しいとお願いしてこうなった。ビルさんがちょっと居心地悪そうだけど、ごめんね。

 本当は後ろの防御が心許ないので、私とお姉ちゃんが分かれて乗る事を提案したんだけど、ジョセフさんが相当出来るらしい。この家で一番年上なのに、実力はマリーさん以上だとか。魔術は生活魔術しか使えないらしいけど、尚更すごい。そんな説明もあったので、お姉ちゃんと二人で一緒に乗る事にした。まぁ、タルトをお菓子で釣って警戒させるのが一番安全なんだけどね。

 馬車は今日ものんびり進んで行く。




 一日目、お昼の休憩ポイント。

 道は私たちより他のみんなの方が詳しく、このポイントはいつもお昼休憩で止まる所らしい。

 私はビルさんとお昼を用意しようと、『ストレージ』から食材と愛用の調理道具を出した。


「アオイお嬢様! 私が作りますので休んでいてください」

「え、でもこの人数、一人じゃ大変でしょ?」

「大変なら侍女の誰かにお願いしますから!」

「そうですよ! アオイお嬢様は、お嬢様なんですから休んでいてください」

「蒼お嬢様、雫と一緒に休憩しましょ」

「お役御免になっちゃった。そうする」


 おどけて言うお姉ちゃんの隣に座って休む。シートもいつの間にかマリーさんが敷いてくれた。

 向かいにはお義父様とお義母様。


「ママ、疲れてない? ヒールするわよぅ」

「ありがとう、シズクちゃん、まだ大丈夫よ」

「クッションは足りてますか? 一杯ありますよ」

「じゃぁ一つ貰っておこうかしら」


 私はお義母様にクッションを一つ渡す。それを見ていたお義父様がしみじみと言う。


「二人共、旅慣れてるんだな」

「そうよぅ、だってマイヤ領からリインフォース領までずっと馬車で旅してたもの」

「その前も警戒や野営なんてしょっちゅうやってますしね」

「そうか、なら引き続き道中頼むぞ」

「「任せて!」」


 料理は時間節約のためみんなで食べた。スープと大きめのBLTサンドだ。いただきます。

 スープは根菜と燻製肉を細かく切って煮込んだもの。短い時間ながら、具が柔らかくなっていて、味が滲み出ていておいしい。

 サンドイッチは甘辛のソースで味付けしてある。味は濃いもののくどく無くておいしい。

 びっくりしたのはクラウディア様も手づかみで食べていた事だ。


「お義母様は、フォークとナイフで食べるものだと思ってました」

「私だって時と場合は選びたいですよ。それに、こうする方が楽しいって二人に教えて貰いましたからね」


 それを聞いて私とお姉ちゃんが笑顔になる。ごちそうさまでした。

 出発前に、お姉ちゃんが使用人全員を集めてエリアヒールしたみたい。

 それから馬車はのんびり進む。




 一日目、野営。

 晩ご飯を食べた後、私とお姉ちゃんはテントを張る。

 お義父様が、お前たちは馬車で寝ろ、と強く主張するでちょっと困った。しかもてっきり女性だからって理由だと思ったのに、聞いてみたらテントで寝てみたいんだって。お義母様がそれを聞いて呆れていた。

 なので今夜はお義父様がテント、私とお姉ちゃん、お義母様が馬車。別の馬車にジェニファーさん、マリーさん、リリムちゃんとなった。男性陣は外で毛布。今後のためにテントを増やすかな。

 タルトが馬車の屋根で警戒を請け負ってくれた。どら焼き一個でいいって、ちょっとちょろいけど絶対言わない。




 二日目、昼過ぎ。

 お姉ちゃんが御者さんに言って馬車を止めさせる。


「魔物?」

「えぇ。魔力も結構大きいわねぇ」

『ちょっと狩って来る』

「あ、ちょっとタルト!」


 行ってしまった。お姉ちゃんも呑気にタルトちゃんが行ったなら平気ね、と馬車を再び進めさせる。

 少ししてタルトが帰ってきた。屋根に戻るのではなく、窓から入って来て私の膝に止まる。


『行ってきたよ。ついでに先も見てきた』

「魔物、いたの?」

『雫が気付いたのはすぐに狩ったよ。先には小さいのがいたから威圧しといた。今頃逃げてると思う』

「ありがとねぇ、タルトちゃん」


 血抜きはしてないから後でよろしく、と言い残して屋根に戻ってしまった。


「うちの子が優秀で、私たちのやる事が無いんだけど」

「いいじゃない、一応これでも雫たちお嬢様だし?」

「その通りです。シズク様」

「普通のお嬢様は、狩りや料理をしません!」


 コクコク、とそれを首肯するビルさん。

 馬車は今日ものんびり進む。




 二日目、野営。

 晩ご飯を食べ終わってみんなでお茶を飲んでいる頃、私がジェニファーさんにお茶の淹れ方を教えて貰っていたら、大事な話がある、とお義父様が切り出した。何か忘れ物をしたのかな。髭剃りとか。

 

「アオイ、風属性魔術が使えるだろう?」

「えぇ、使えますよ」


 なんで今更、と思ったけど、お義父様が魔術言語を書いたメモを渡してきた。何々……『疾風 纏う』。これって……。私の知らない魔術だ。


「お義父様。これは……?」

「物体を風で後押しする魔術だ。馬車によく使う。明日から馬車にこれを掛けて欲しい。二台共、出来るか?」

「出来ますけど……昨日、出さなかったのは何でですか?」

「それはだな、旅程が遅れてからでいいと思っていたのと、義娘を気遣って……」

「違いますよ。アオイちゃん、旦那様はさっき思い出したんです」

「クラウディア……そこは私にも格好を……」

「今回の移動は、冒険と違って早いに越した事はありません。大変ですが、お願い出来ますか?」

「うん!」


 戦闘がないと役に立たなかった私にも、補助の役目が来た。嬉しい。


「よかったねぇ、蒼ちゃん」

「頑張る!」


 お姉ちゃんに頭を撫でられながら、二日目の夜は更けて行くのだった。




 三日目、朝。

 朝ご飯を済ませて荷物を馬車に積み込む。それぞれ馬車に乗り込んで、最後に私も乗り込んで魔術陣を展開する。『疾風 纏う』。馬車の中に黄緑色の魔術陣が広がり、魔力が満ちていく。後ろの馬車も同じようになってるはず。私は魔術を発動する。


『エアイクストルード』


 馬車が魔術陣から発生した風に包まれていき、ドーム状になった。御者さんが馬車を走らせ始めると、馬車は昨日とは比べ物にならない位の速度で走り出した。

 走り出してすぐ、タルトが入ってきてお姉ちゃんの膝に座る。


『風がすごくてこっちに来たよ』

「いらっしゃいタルトちゃん」

「わ! 振動もすごいね」

「すす座ってても、たた倒れちゃいそそうですぅ」

「クラウディア様は大丈夫でしょうか」

「案外ダメなのはお義父様だったりして……」


 それに、馬車の強度とか大丈夫なのかなって心配になるけど、馬車は今日は素早く進む。




 五日目、野営。

 食後の紅茶を飲んでいる所。今日はリリムちゃんが淹れてくれた。今練習してるんだって。練習とは言っても、当然貴族に出せるレベルではあるから、香りが立ってとてもおいしい。

 話は旅程の事になる。お義父様曰く、予定よりだいぶ早く着くらしい。

 

「御者の二人と話したが、予定より恐らく四日早い。明日には着くだろう」

「アオイちゃんの魔術のおかげかしら」

「蒼ちゃんすごーい!」

「役に立てて嬉しい!」

「だが、ここまで早いとは思わなかったな」

「普通は違うんですか?」

「前に知り合いの馬車に乗せて貰った時は、今回程早くなかった。魔力制御の差だろうな」

「さすが蒼ちゃん!」


 お姉ちゃんがベタ褒めである。でも、本当に役に立てて嬉しい。


「私でも使えるでしょうか?」


 リリムちゃんが私の顔を見て言ってきた。


「魔術言語を見る限り中級魔術のようだし、出来ると思うよ。明日やってみる?」

「いえ、今回は二台同時に掛けられないので……申し訳ありません」

「そっか。リリムちゃんもマリーさんも並列詠唱覚えたいね」

「冒険者より二人に教えるのが先だったわねぇ」


 顔を引き攣らせる二人。マリーさんが一瞬で無表情に戻ったけど、私は見逃さないよ!


「あの、アオイお嬢様、シズクお嬢様。私に教えていただく事は可能でしょうか?」


 お義母様のお世話をしていたジェニファーさんが話し掛けてきた。私は笑顔で答える。


「勿論! 大変だけど頑張ってみる?」

「はい! 厳しくても結構です。お願いします!」


 おっと、ジェニファーさん、あまり話す機会が無かったけど意外と体育会系だぞ。


「ジェニファーがやるなら私もやります! 負けてられません! マリーもやりますよ!」


 それに反応してリリムちゃんがやる気になる。そしてマリーさんも死なばもろともの勢いで誘い出す。


「私もですか……。でも確かに、お嬢様方にこれ以上置いて行かれる訳にはいきませんしね」

「領主として負けてられないな。アオイ、シズク、私にも教えてくれ」

「リエラちゃん直伝の教育法なら私も知りたいですわ」

「もっと料理の速度が上がるなら私も教えていただきたいです!」

「私は生活魔術しか使えませんので、残念ですが諦めましょう」

「生活魔術も並列詠唱出来るわよぅ、ジョセフさん」

「シズクお嬢様。老骨を虐めようとなさいますな。しかしそれなら負けていられませんね」


 結局、魔術の使えない御者さん以外、全員が名乗りを上げてしまった。お姉ちゃんと相談する。


「お姉ちゃん、教えるのは勿論いいんだけど、どうやって教える?」

「流石に戦闘は出来ないわねぇ。お手玉は難しいかしら」

「投げるからなぁ。それをやるお義父様とお義母様がイメージ出来ない。んー……投げる必要はないから、魔石二個使って交互に魔力の出し入れするのはどうだろう?」

「それなら投げなくていいし簡単ね!」


 私たちは相談を終えてみんなに向き直る。そして『ストレージ』から大きめの魔石を大量に取り出して二つずつ配る。


「魔石を二つずつ配りました。やって貰う事は、魔力を込めたり吸い出したりするだけです」

「そんな簡単なのでいいの? アオイちゃん」

「はい。ですが、左右の手で交互にやってください。こうです」


 私は右手に火属性の魔力を込める。右の魔石が赤色に輝き出す。

 その後、右から魔力を吸い取りながら、左手に土属性の魔力を込める。すると右の魔石の輝きが失われていくのと同時に、左の魔石が茶色に輝き出す。これを交互に繰り返して見せる。


「ポイントは魔力をしっかり込める事、ゆっくりでもいいので滑らかにやる事です。複数属性使える人は、左右の手で属性を変えてください。単属性ならお姉ちゃんがやってるようにすればいいです」


 お姉ちゃんの左右の手に乗せた魔石が、交互に乳白色に明滅していく。


「初めは早くなくて、ゆっくりでいいわぁ、でもスムーズにやってね」

「じゃ、始めてください」


 早速始めるみんな。だけどすぐに混乱が広がる。


「左右同時に魔力が出ちゃいます!」

「魔力を遮断するイメージを強くすると、出ないようになるよ」


 初めに悲鳴を上げたのはリリムちゃん。注意しないと、意図してない所から漏れ出ちゃうんだよね。


「別々の魔石に魔力を込めるなんてどうやって……」

「まず同時でもいいから両手から魔力を出すイメージねぇ」


 ジェニファーさんも混乱している。輝き出す速度は早いから、出力量はあるけど細かいコントロールが出来ない感じかな。


「アオイちゃん、シズクちゃん。魔力を吸い出しながら込めるのはどう行えばいいですか?」

「左手から吸った魔力が、体を通って右手に出る様なイメージをするといいです」


 お義母様は流れが澱みなくきっちりしている。出し入れの同時はまだだけど、切り替えがうまく出来ている。

 そして遅いながらも左右しっかりと切り替え出来ているのはジョセフさんとマリーさん。流石過ぎる。

 しかし意外だったのはビルさん。出し入れを同時で出来ない以外はほぼ完璧。でもよく考えたら、時間が決まってて素早く料理しなきゃいけないから自然と身に付くのか。

 お義父様……。


「パパすごいわぁ!!」


 お姉ちゃんの叫びがする方を見てみると、右手の魔石が赤色、左手の魔石が茶色に明滅している。速度はすごい早い訳じゃないけど、魔力を同時に出し入れしているし、流れもスムーズだ。こっちに気付いてドヤ顔してくる。


「どうだアオイ、すごいだろう?」


 私はいたずら心が芽生えたので、お義父様に挑戦してみる。


「お義父様、私が手を叩いたら左右の属性を入れ替えてください」

「何?!」

「行きますよ」


 パンッと私は手を叩く。そして左右同時に魔石が赤色に明滅する。慣れないとこれは流石に無理か。


「いきなりは無理だぞ!」

「意識したら自分で出来ますか?」

「それなら恐らくな」


 再び右が赤色、左が茶色で明滅し始めた魔石が、ある瞬間から右が茶色、左が赤色で明滅し始める。出来てる。すごい。この中で一番ダメだと思ってました。ごめんなさい。


「これでも領主だからな!」

「パパ流石ねぇ!」

「お義父様すごい!」


 そして三十分くらいして、何人か魔力が切れ始めてきたので終了となった。初日だしね。

 ちなみに終わり側にお義父様に質問された。


「アオイは四属性でどうやってやるんだ?」

「私は、こうやりますね」


 魔石を四つ両手に持ってお手玉する。右手で風、火、水、土と順に魔力を込めて上に投げる。左手でキャッチして属性を抜いてすぐに右手に投げる、の繰り返し。

 周りから感嘆の声が漏れ出しているのが分かる。


「リエラは補助ありで七個まで出来てましたよ。目標は九属性だそうです」

「補助とは何だ?」

「リエラちゃん、一人じゃ手が小さくて四つまでしか魔石が持てないのよぅ。だから、誰かが投げ入れるのよ」


 そこで笑いが起きてお開きとなった。




 六日目、昼前。

 今日もいい天気。清々しい空気の中、私は御者さんと仲良くなったので、御者台でネーロも含めて話しながら手綱を握らせて貰っていたら、門が見えてきた。

 私は馬車の中に通じるように、声を張り上げて言う。


「お姉ちゃん、門が見えたよ」


 窓から顔を出して前を見るお姉ちゃん。


「本当ねぇ。あれが王都?」

「はい、アルメイン王都です」


 マリーさんも顔を出して教えてくれた。私はそのままマリーさんに尋ねる。


「馬車はこのまま走らせていいのかな?」

「はい、門の前で止めてください。そこでジョセフに手続きして貰います」

「分かった」


 私は言われた通りに馬車を走らせる。ネーロも目的地が見えてご機嫌みたい。

 門に近づいてきた。城壁は高く大きく、そして王都の名にふさわしく立派な石積みで出来ている。

 そして当然ながら門には、門番さんが槍を持って立っていた。門番さんが私たちの馬車に気付いたようだけど、貴族の馬車と分かったからか、警戒して槍を交差させて通せんぼする様な事は無かった。しかし、一人の門番さんが少し前に出てくる。

 私は門の前に馬車を止めて、後ろの馬車を待つ。今まで見てきた領都の門番さんとも違って、鎧がライトアーマーじゃない、フルプレートだ。槍もトライデントで、それだけで練度が伺える。

 御者台からのんびり眺めていたら、後ろの馬車も到着したみたい。ブルーノの嘶きが聞こえた。

 それを聞いたマリーさんが馬車から降りて、後ろの馬車に行ったみたい。ジョセフさんを連れて、門の前に向かって行った。

 ジョセフさんが紙と装飾品を取り出して門番さんに見せる。するとすぐに門番さんが退いて道を開けてくれた。貴族すごい。

 マリーさんを連れて戻って来たジョセフさんが、私を見て言う。


「おや、アオイお嬢様が御者なさってたんですか?」

「えぇ、楽しいですよ」

「確かに、しかしあまりお転婆になさいませんよう」


 ここからは王都ですので、とジョセフさんがコソっと言ったので、私は従って御者台から降りる。

 ジョセフさんがリインフォース別邸に行くように御者さんに指示を出すのを聞きながら、マリーさんと馬車に戻る。

 馬車が厳かに進み出す。

 街の景色を映し出すのを見ながら、私はマリーさんとリリムちゃんに王都について教えて貰う。


 王都は縦に長いかまぼこ型をしていて、私たちは南側にあるそのかまぼこ状の中央にある中央門から入った。この辺りは平民街。平民街には平民向けの店がある。冒険者ギルドや宿屋さんもここ。

 中央通りをしばらく進んで行くと、広場がある。広場ではよく市が開かれている。その広場を左右に曲がって東西に行くと、それぞれ門がある。

 また、広場を通り抜けて、更に真っ直ぐ北に進むためには認証が必要。それは北側一帯が貴族街だからだって。貴族街には土地を持たない貴族の本邸や、私たちみたいな土地持ち貴族の別邸がある。貴族向けの高級店もここだって。仕立て屋さんのエドワードさんの息子さんのお店も貴族街。

 ちなみにキルシュ商会は貴族街にあるけど、ウォーカー商会は残念ながら平民街。

 貴族街を更に進んで奥まで行くと、横並びに大きな三つの施設がある。それがアルメイン城、騎士団舎、魔術師団舎。

 当然の事ながら主要産業は無し。ただし周囲の森で狩りをする事はある。それでも国の各地、国外からも衣食その他は集まってくる。収入は貴族、平民からの税収によって賄われている。

 王様はグローリア・カルブンクルス・アルメイン。リエラの暗殺問題になった第一王子はランプロス。他に第二王子と第一王女がいる。けど、年齢と実力から第一王子の次期王位が濃厚。

 第一王女の嫁ぎ先はまだ決まっていないが、貴族派の侯爵家になるのではないかと言われている。

 王族の話はよく分からないけど、大変な世界に来てしまったなぁ、と改めて思う。

 王都について教えて貰いつつ、お姉ちゃんが馬車の外で見つけるお店の話をしていると、馬車が止まった。


「お嬢様方。お疲れ様でした。到着です」


 マリーさんが教えてくれる。いつの間にか、既に貴族街に入っていたらしい。すやすやしているタルトを起こす。


「タルト、着いたよ」

『おはよう』

「タルトちゃんよく寝てたわねぇ」


 リリムちゃんとマリーさん、ビルさんが降りたので続けて降りようとしたら、止められてしまった。そうか、エスコートか。

 使用人のビルさんではダメ、という事で、お姉ちゃんと二人でお義父様を待つ。


「蒼ちゃん、大変かもしれないけど、頑張りましょうね」

「うん!」


 お姉ちゃんと話していたらすぐにお義父様がエスコートしに来てくれた。お義父様の手を支えにして馬車から降りる。今日のタルトはお姉ちゃんの肩だ。

 降りた先には、リインフォース本邸程ではないが、使用人を入れたこの人数でも十分に生活してもまだ余裕がありそうな程の大きな家があった。

 本邸と違うのは、こっちは周りの家に合わせて白塗りの壁に赤れんが積みの家だと言う事だ。別邸でずっと住む訳ではないので、庭は馬車置き場と少数でお茶をするスペース。当然、東屋なんて無い。貴族街に入るのに認証をしたからか、柵は地球で言う一般宅の様な些細なもので、門も背が低い。それでも私の背では中は覗けないけどね。

 玄関を見ると、中年の男性が一人、ジョセフさんと話していた。誰だろう。すると、リリムちゃんが教えてくれる。


「あの方はこの家の執事兼管理人です」


 お義父様が継いで話す。


「マークだ。二人共、紹介するから来なさい」

「はい」

「はぁい」


 お義父様に付いて行く。マークさんがこっちに気付いて頭を下げる。


「旦那様、お久しゅうございます」

「あぁ、マーク。家の維持管理ご苦労。息災か?」

「えぇ、お陰様で。旦那様には感謝してもしきれません」

「息災なら何よりだ。手紙でも伝えたが紹介する。今度養女にする事にしたシズクとアオイ、それに肩に乗っているのはドラゴンのタルトだ」

「マークと申します。よろしくお願い致します」

「よろしくお願いします」

「よろしくねぇ」

『よろしく』


 そこで、家の中から出てきたリリムちゃんが、準備が整ったと教えてくれる。私たちはまずは、家の中の食堂に案内される。

 食堂には既にお義母様もいた。今、ビルさんが急ぎで昼食を作ってくれているらしい。

 ジョセフさんとお義父様も入ってくる。


「マーク様の管理は相変わらず素晴らしいですね。これなら掃除も何もせずに、すぐにご家族が暮らせます」

「優秀だからな。何か労ってやりたいが……後で一緒に飲むか」

「かしこまりました」


 ジョセフさんが使用人を様付けで呼ぶ事に違和感を覚える。


「ジョセフさん。マークさんってどういう人なんですか?」

「あぁ、ジョセフが敬語なのが珍しかったか?」

「と言うより、使用人に敬称を使うジョセフさんに違和感があるわぁ」

「これはお恥ずかしい。どうにもマークと呼び捨てるのには慣れませんで」

「マークは元々、リインフォース家と仲がよかった男爵家の次男なんだ。私たちは小さい頃よく遊んでいたよ。しかし政変があって家が取り潰しとなってな、当主と跡継ぎの長男は処刑、次男のマークは平民となったんだが、何かしてやれないかと思ってここで雇う事にしたんだ」

「私は旦那様に大変感謝しておりますよ。旦那様のご援助のおかげで、妹も無事嫁入りする事が出来ましたし。私も跡継ぎに恵まれました」

「これくらいしかしてやれなくて心苦しくはあるがな」

「とんでもない。あの処置は当然のものです。私と妹が生きていられるのも、旦那様のお陰です」

「後で久々に酒を飲もうじゃないか。うまいつまみを義娘が作ってくれているしな」


 なんて話が盛り上がっていると、マリーさんとジェニファーさんが食事を運んで来てくれた。


「旦那様、そろそろご着席ください。食事が冷めてしまいます」


 と、ジェニファーさんに怒られて着席するお義父様。

 座ると同時に、お義父様の前にスープが置かれる。私たちの前にもマリーさんが置いてくれた。いただきます。

 今日のスープは具沢山スープ。ただし具がとても細かいので時間短縮のためにみじん切りを頑張ったんだと思う。ミネストローネに近いかな。トマトの酸味がとてもいい。

 その後、私がさっき渡したパンと一緒に来たのは、カレルシープの燻製で作った厚切りステーキだ。

 クセがあるとされている羊肉だけど、狩ってすぐ処置した燻製だから全く臭みが無い。これはおいしいね。脂も落ちててさっぱりしつつも、香辛料とチップの香りがほのかにして食欲をそそる。

 流石にデザートは無かったけど、お腹が空いていたからとても満足出来た。ごちそうさまでした。

 食後の紅茶を飲んでいて、この後の行動について四人で話す。


「シズク、アオイ。お前たちは行きたいかもしれないが、冒険者ギルドと商会はしばらく控えてくれ」

「どうして?」

「社交パーティーで二人をお披露目したいと思っているのです。ですが、あなたたちがギルドや商会に顔を出すと話題になるでしょう?」

「それは……否定出来ません」

「先に話題となってしまうと、お披露目の効果が薄れてしまうんだ。だから、それまででいいから頼む」

「分かったわぁ。それじゃあ、市場はいいかしら?」

「市場? 食材ならアオイちゃんが持って来てくれた分も、マークが買って来てくれた分もあるわよ」

「ううん、美容品の材料と」

「お菓子の材料!」

「あぁ、分かった」


 お義母様も頷く。


「ありがとうパパ、ママ」

「ありがとうございます」


 マリーとリリムを護衛につけてくれ、と言われたけど、護衛をつけたら貴族ってバレるんじゃ。しかしそんな心配はどうやら無用らしい。市場には貴族の子女もよく出歩いているから、街の人も見慣れているし、対応も心得ているって。ただしタルトは間違いなく騒ぎになるのでお留守番。まあ本人は寝てるって言うし、リリムちゃんのクッキーでも置いておけば問題ないよね。

 そんな訳で、私とお姉ちゃんはそれぞれの目的の材料探しに市場に向かうのでした。

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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