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42. リインフォース家の娘たち2

「やっぱり、何か出来ないかなぁ」

「何がかしら?」


 昼下がりの午後。今日も今日とて、杖を使いこなすためのタルトのスパルタ魔術教室開催中です。

 最近は午前にマナーの講習。午後は隔日で冒険者の訓練。一昨日はリンダ様のお茶会と忙しかった。

 お茶会は及第点を貰った。茶葉の選択とお菓子は褒められたけど、話題はもう少し流行を追いましょうって所かな。ただ、指摘されたのは言葉遣い。私もお姉ちゃんも、すぐに地が出てしまう。

 そう言う訳で、気を付けてはいるのです。ですが、三人だとつい元に戻ってしまいますわ。

 そんな私には今悩みがありまして……それがつい口から溢れてしまったみたいなのですわ。


「リエラの事さ、私たちに何か出来ないかなって」

「そうねぇ。雫には王都に殴り込みに行く事くらいしか思いつかないわ」

『とりあえず殴っとけば勝ちって思想がリンダに怒られる原因じゃない?』

「王都か……。リエラってそもそも未遂ですら無いんだよね」

「そうよ、リエラちゃんがそんな事する訳無いわ」

「王子様も違うって思ってるけど、王宮の政治でそれを言えなかった」

「その通りね。男の子の癖に不甲斐無いわねぇ」

「不甲斐無いって言うのは不敬になるからね? まぁそれは置いてておいて、って事はだよ、リエラはそんな事をしていないって声が大きくなればいいんだよ」

「どう言う事かしら?」


 お姉ちゃんが疑問符を浮かべて、唇に指を当てて首を傾げている。


「私たちが王都に行って、民衆派? の立場を大きくすれば、声高々にリエラの無実を言えるって事じゃないかな」

「蒼ちゃん天才! 今すぐ領都のみんなに雫の妹は大天才って言って歩きたいわ!」

「それはやめて!」

『僕分かった、雫は深慮って言葉を覚えるべき』

「前にも言ったけど、それが出来たら苦労はしないんだよ、タルト」

『蒼ももうちょっと、雫程は困るけど自由になるべき』

「え?」

『してみたいんでしょ。そのリエラって魔術師の助けになる事』


 お姉ちゃんも分かった顔で、そうなの? と聞いてくる。


「……うん。今のままじゃ、家族みんなが不幸なままだよ」

「そうねぇ……」


 じゃぁ早速相談に行きましょう! と、立ち上がってゲルハルト様に直談判に行こうと言う事になった。こう言う時のお姉ちゃんの行動力に、いつも助けて貰ってるなぁ。




「ダメだ」

「えぇ! 蒼ちゃんが考えた完璧な計画よ! 何で!」

「穴だらけじゃないか……。例えば、貴族派にその動きが知られたらどうする?」

「魔術で焼き殺すわ」

「シズクはリインフォース家を滅ぼす気か!」

『だったら僕が王様脅した方が早くない?』


 やいのやいの物騒な事を話し始める、どうしようもないペアを放っておいて、私はゲルハルト様と話を続ける。


「やる事は民衆派の声を高める事です。私たちが社交に出る事で、その助けにならないかと……」

「今、リインフォース家の女性は、クラウディアを含めてそれだけで悪評になっている。近づきたがる者がいるとは思えないが?」


 むぅ……。それでも私たちと知己になってみたいと思える利益……。そうだ!


「お菓子が作れます! カステラみたいな! 誰も見た事の無いお菓子です!」

「その着眼点は悪くないな。キルシュ子爵夫人に売ったろう? レシピを。もう王都で話題になってるみたいだぞ。そのように、悪評を知っても付き合いたいと思える評判を作ればいい」

「パパ、反対じゃないの?」

「義娘がやりたい事に反対はしない。ただ、二人の安全が心配なんだ。貴族は怖い。お前たちが思ってる以上にな。本人が意図していなくても、上位の者、声の大きい者がそう取るだけで人が死ぬ世界だ。私やリエラがそうだったように」

「はい」

「うん」

「ただ、お前たちには幸いか、間も無く社交の季節だ。今年は私とクラウディアだけで行くつもりだったが……」


 私とお姉ちゃんの顔が明るくなる。もしかして、連れて行ってくれたり!


「クラウディアの賛成を得てくるんだ。それなら同行を認めよう」

「クラウディア様の……?」

「クラウディアママに?」

「あぁ。私よりやり手だぞ。クラウディアは」


 私たちは頷いて早速クラウディア様の書斎に向かう。




 ノックをして入室の了承を得て中に入ると、そこにはゲルハルト様の執務室より小ぶりだが、執務机に応接ソファも置かれた部屋があった。室内の調度品はベージュを基調に落ち着いた色で纏まっていて、クラウディア様の落ち着いた雰囲気にとても合っている。その中で、メガネを掛けて綺麗なオレンジの万年筆を持って机に向かうクラウディア様がいた。

 手前のソファに座るのを促されて座る。するとジェニファーさんが紅茶を淹れて置いてくれた。


「二人がこの部屋に来るのは珍しいですね。どうしましたか?」

「実は相談があって」

「何ですか?」

「今度の王都の社交に同行させて欲しいのよぅ」

「……」


 お姉ちゃんの発言を聞いて、こっちを一度見てから万年筆を置き、ゆっくりと紅茶を一口飲むクラウディア様。


「理由を聞きましょうか」

「社交の勉強のためです。リンダ様からも一通り及第点をいただきましたし、実践して学びたいなと」


 という方便だ。お姉ちゃんとここに来る前に相談した。リエラの事はクラウディア様に話せない。


「二人は、社交と言うより貴族の事が苦手で、避けていたいのだと思っていましたが」

「リインフォース家の養女として、この家の役に立ちたいのよぅ」

「なら十分して貰っていますよ。家族や使用人との関係も良好、領民との関係も良好。まだ養女、貴族になって一年も経っていない二人に、これ以上は望みすぎと言うものです」

「でも私たちは……」


 手を上げて私の話を遮るクラウディア様。


「それとも、他に理由があるのですか?」


 痛い所を突かれて私とお姉ちゃんは黙ってしまう。


「では、今回はお留守番ですね。また機会もあります。それまでこの家で十分勉強するといいでしょう」

「クラウディアママ! 雫たちは!」

「お姉ちゃん!」


 お姉ちゃんを慌てて止める。その先は言わせてはいけない。でも、ここで引き下がる訳にもいかない。

 訝しげなクラウディア様がまた話を打ち切ってしまう前に、私は話を続ける。


「クラウディア様、護衛はいりませんか? 私たちなら、道中の安全に食事の確保、それに王都にいる間にお菓子を作る事が出来ます」

「えぇ、いつも冒険者を雇って、ビルを帯同させていますが、二人がいるなら更に安心ですね」

「コリーナ様に売ったお菓子と違うお菓子、王都で広めてみたいと思いませんか? 私なら作れます」


 材料は何とか探す! とにかく王都行きを認めて貰うんだ!


「ママ! 雫の調合スキルが気になってるって言ってたわよね! 王都で美容品を広めるのはどうかしら?」

「シズクちゃん、それなら私が使いたいですよ」

「でも、それを使ってるクラウディア様を見たら、みんな気になりますよね」

「確かにそうね」

「そのために私を王都へどうですか!」

「そのために雫を王都へどうかしら!」


 息を吐いて少し考え込むクラウディア様。それからゆっくりと口を開く。


「二人がいれば王都も楽しそうね。ただ、リインフォース家の女性にとって、今の社交はあまり好ましい空気じゃないの……リエラちゃんの行方不明が原因なのは分かってるわ」


 クラウディア様が悲しそうな顔をして更に話をつづける。


「旦那様が、まだ何か隠している事も。私を心配してそれを言わない事も。その事で二人が何かしようとしている事もね」


 え、バレてる……。


「あの、クラウディア様」

「クラウディアママ……」

「でも聞かないわ。二人が私たちのためにしてくれる事だって信じてるから。と言うより、聞けないの。私は弱くて臆病な人間だから」

「ママ、雫たち頑張るわ! 絶対いい結果になるように! だから信じて一緒に王都に連れて行って欲しい!」

「クラウディア様、お義母、様。私も頑張ります。家族みんな笑顔になれるように。だから、王都に行きたいです」

「えぇ。私の娘はみんな強い子ね。一緒に王都に行きましょう」




 こうして、お義母様からの許可も得た。その事をゲルハルト様に報告する。


「私だけか……」

「え?」

「アオイ、私だけだぞ。父と呼んでくれないのか。兄と母は呼ぶのに」

「えぇ、今それですか……」

「蒼ちゃんもパパって呼べばいいのに」

「それは恥ずかしいから……」


 パパ呼びに期待するゲルハルト様とお姉ちゃんの眼差しが迫ってくる。というか圧が凄い。


「うー……お義父、様。お義父様! これでいいですか!」

「あぁ! 嬉しいぞ!」


 顔を真っ赤にした私の前には、お小遣いをあげようとでも言い出しそうな笑顔をしたゲルハルト様と、微笑ましく私を見るお姉ちゃん、ジョセフさん、マリーさん、リリムちゃんの笑顔が印象に残った。




 翌日、私たちは早めに冒険者ギルドに来ていた。社交で王都に行くため、冒険者訓練が出来なくなる事を伝えるためだ。

 お姉ちゃんが冒険者ギルドの扉に颯爽と触れる。

 マリーさんもリリムちゃんも今日も抑えられなかったみたい。私? 私はもう諦めている。


「たのもーう!」


 お姉ちゃんと、その後ろから私たちが入った瞬間、喧騒が鎮まる。


「おい! シズク姐さんだぞ! 集まれ! 集合! 集合!」

「アオイ姐さんもいるじゃねぇか! 急げ! のされるぞ!」


 なんて変な雰囲気が出来てしまった。


「「ようこそ! 今日は何のご用でしょう!!」」


 前の嫌な雰囲気も引いたけど、これもちょっと引くわ、私は。リリムちゃんも引いている。お姉ちゃんは嬉しそう。マリーさんはまんざらでも無いみたい。よく組むペア同士の相性もいいみたいね、私たち。


「今日はエミリーちゃんに会いに来たのよぅ、いるかしら」

「姐御ならカウンターです! 案内します!」

「すぐそこだもの。いらないわ」


 お姉ちゃんが軽くあしらってカウンターへ向かう。

 カウンターでは嫌そうな顔をしたエミリーさんがいた。私たちは挨拶をする。


「こんにちはエミリーちゃん。どうしたのかしら?」

「あたしはちやほやされたいんであって、姐御なんて呼ばれたくはないのよ!」

「まぁ、見くびる人がいなくなってよかったじゃないですか」

「前の方が快適だったかも……。それで今日は、何の用かしら」

「実は、王都に行く事になって、冒険者訓練が出来なくなりそうなんです」

「そう。分かったわ。戻ってきたらまた頼める?」

「えぇ、勿論よぅ」

「案外あっさり。大丈夫なんですか?」

「最初に話した性根は、この通り叩き治ったし、後の戦闘力は私たちでも何とかなるわ」


 というか、そっちはあなたたちじゃ強すぎてダメなのよね、とエミリーさんが言う。


「そういう訳だから、あなたたちは貴族のお仕事? 頑張ってちょーだい」

「えぇ、頑張るわ」

「はい。行ってきます」


 ラルフさんは冒険者の教育のために狩りに出ているそうで、後で伝えておいてくれるとの事。

 私たちは冒険者ギルドを出てウォーカー商会リインフォース支店に向かう。




「こんにちはぁ。アランさんいるかしら?」

「こ、これはお嬢様?! い、今呼んで来ます!」


 店先にいた店員さんが、私とお姉ちゃんを見て慌てて奥に行く。

 最近は、すぐに応接間に案内されたから新鮮。新人さんかな? 待ってる間、店頭にある商品をぼーっと見る事にする。


 ……。


「あー!!!」

「ど、どうしたの蒼ちゃん」


 私の大声に驚いて、お姉ちゃんの肩でうとうとしていたタルトもバサッと翼を広げて驚く。


「これ、お米……?」

「お米なら別に見慣れてるじゃない」

「いや、なんか違う……」

「お久しぶりです。早速お目が高いですね」


 アランさんが奥から出てきて説明してくれる。


「何でも、普通のライスと違うそうですよ。東の海の向こうの国からやってきたライスだそうです。チマキ? という料理に使われるのだとか」

「っ!! 全部買います! 在庫全部!」

「アオイさん?」

「蒼ちゃん、チマキって事はもしかしてもち米?」

「そう。これでお餅と白玉が作れる! こないだ白インゲンが領にある事が分かったから、お汁粉が出来るよ!!」

「何やら新しい料理が出来るんですね。今裏からも持ってきます」

「アランさん、米の種類ってこれだけですか?」

「今回船で来たのはこれだけですね。ただ、これとも違うライスはまだあるようですよ」

「あったら仕入れてください。量も値段もいくらでもいいです。後、東方の調味料や食材なんかも。私が全部買いますから、気にせず仕入れてください」

「かしこまりました」


 アランさんに店員さんへ指示を出して貰う。

 それから、アランさんが私たちをすぐに中へ案内しなかった事を詫びてから、応接間に案内して貰う。

 二人でアランさんの向かいに座ってから、早速と話を始める。


「今日はどうしましたか?」

「実は今度王都に行く事になりまして、しばらくこの領を不在になります、という連絡をしに来ました」

「なるほど。かしこまりました。その間に仕入れた布や食材は王都の支店に運びますか?」

「そうねぇ。そうしてちょうだい」

「分かりました」

「東方の珍しい食材があったら一緒に運んでくれますか?」

「はい」


 そこで扉が開いて、さっき店頭にいた少年が大袋を担いでやってきた。


「これがうちにある在庫全部ですね」

「いくらですか?」

「お代はいいので、頼みを聞いてくれませんか?」

「何ですか?」

「カステラみたいに、新しいお菓子が出来たらうちにも教えてください」

「もう話が行ってますか。すみません。キルシュ子爵夫人から断れなくてレシピを売っちゃったんです」

「それはいいんです、カステラも安く卸してくれてますしね」

「お菓子は作ってないってコリーナ様から聞いたけど?」

「そうなんですが、商人の性と言いますか……」

『アンナはその働きを評価するのかい?』

「分かりません。私の独断です」

「ならやめましょう。代わりに……。豆は話が行ってると思いますが、それと東方の食材、東方でしか作られていない米。この辺りは押さえてください」

「それはどういう……」

「私が王都で流行らせる予定のお菓子の原材料です」

「ありがとうございます」


 ただ、ペーターさんとアンナさんに報告してからにしてくださいね、と釘を刺しておく。

 もち米をかばんにしまって商会を後にする。かばんの容量以上に大きいもち米が入っていく様を見て、少年は驚いていたけど、いつもの事である。




 後、お義父様に言われたのは仕立て屋さんかな。

 商会から細い道を挟んで隣にある仕立て屋さんにお姉ちゃんとタルト、マリーさんたちと入る。中に入るとエドワードさんが迎えてくれた。


「ようこそシズクお嬢様、アオイお嬢様。本日はお召し物の製作でしょうか?」

「えぇ。今度王都に行く事になって、社交用のドレスが無いのよ」

「かしこまりました。ちょうど仕立てて領主邸へ届けようと思っていたドレスがございます。今お持ちいたします」


 エドワードさんが奥へ行って、女性の店員さんとともにドレスを何着か抱えて戻って来た。


「先日、領主様からもご依頼いただきましたので、イブニングドレスは出来てございます。まずはこちらをご確認いただいて、それから、よろしければ当店の針子が追加で縫ったドレスがございますので、本日お勧めさせていただきたく」

「分かったわぁ」

「お願いします」


 まずイブニングドレスを広げてもらう。ワンピースだ。薄香色、明るくてやや灰味のある橙色のドレスで、お姉ちゃんとおそろいの色。上半身部分はウェストをタイトに見せていて、首元から胸元、それから背中を大きく開けた作りになっている。

 ただそのままではちょっと品が無いのか、レースとフリルで押さえるところはしっかりと押さえて隠してあってホッとした。

 勿論ノースリーブで、同じ系統色の肘上まで隠せるグローブがセットになっていた。

 お姉ちゃんとの違いはスカート部分で、私がフリルスカート、お姉ちゃんがフレアスカートになっている。生地が薄めで柔らかいので、少し揺らすと羽ばたくようにスカートが広がる。


「綺麗……」

「綺麗ねぇ」

「お気に召していただけて何よりでございます」


 マリーさんとリリムちゃんにも手伝ってもらって試着して、寸法に問題が無いか最終チェックする。私のもお姉ちゃんのも問題無しだった。

 着心地もいいし、着てみて一周くるりと回ってみたけど、本当にスカートの広がり方が綺麗。これで踊ったら楽しいだろうな。

 再び元の服を着て、作業机の前に戻ると、別のドレスが広げられていた。


「どうやら針子がお二人の美しい姿を見てインスピレーションが沸いたようでして、今回それぞれ二着を追加で用意させていただきました」


 私たちは広げられた四着のドレスを順番に見て行く。しかし明らかに異質な二着がある。

 当然、お姉ちゃんはそれに目を付ける。だって異質だもん。


「これ、素敵ねぇ」

「私は着ないよ!!」


 しかし私は、お姉ちゃんだけならまだしも、針子さんの血涙にも似た涙ながらの説得に負けて購入する事になってしまった。

 いや、デザインは可愛いよ。私も好きだし。でもさ、桜色でこのドレスは絶対注目されると思うんだ。

 というかドレスには甘ロリ的デザインは無いんじゃなかったの? リエラ!

 気を取り直してもう一着。こっちはスタンダードなツーピースドレス。


「あ」


 おや、リリムちゃんが反応した。


「リリムちゃん、どうしたの?」

「し、失礼しました。その……素敵なデザインだと思って」

「ありがとうございます」


 針子さんがその発言にお礼を言う。確かに可愛い。スカートは装飾少なくプリーツを多めに取っただけだけど、ボディスのデザインを逆にストラップを多めに……と言うよりビスチェに近いかな。勿論、ウェストを締めたり露出は隠してあるけど。


「これ、夜会用なの?」

「いえ、こちらデイドレスとなって……」

「ギリギリまでお二人の魅力を引き出させていただきました!」


 針子さんが食い気味に答える。これでデイドレスかぁ。結婚式でお姉さんとか、これくらいのドレスを着ていたけど、この世界の基準でいいのかな?


「これもいただくわぁ」

「これ、露出大丈夫なの?」

「大丈夫よぅ、何か言われたら踊ればいいわ」

「いや……そうじゃないでしょ……」


 まぁ、話してた女性店員さんやエドワードさんが流行にも作法にも詳しいし、大丈夫かな。

 試着してみても嬉しそうに笑ってるし、今ドレスは何着あっても使うし、いいかな。

 私とお姉ちゃんは結局全部買う事にして、マリーさんとリリムちゃんと一緒に仕立屋さんを後にする。




「なんだか一気に色々回ったから疲れちゃったよぅ」

「ちょっと休憩する?」

「露店ね!」


 疲れはどこへ行ったのか、お姉ちゃんが広場の方へ駆けて行ってしまった。

 お姉ちゃんと露店を見て回る。するとお姉ちゃんが何か見つけたみたい。


「ゲルハルトパパ見つけた!」

「お、シズク。冒険者ギルドへの報告は済んだのか?」

「冒険者ギルド、ウォーカー商会、仕立て屋さんに行って来ましたよ」


 追いついた私が答える。今日も買い食いしてるんですね、お義父様は。


「パパ、それはドーナツね! 雫のも買ってちょうだい!」

「あぁ。アオイは食べるか?」

「はい。食べます」

『ゲルハルト、僕のも』

「分かった」

「パパ、マリーちゃんとリリムちゃんの分が足りないわよぅ」

「シズクお嬢様、それは……」

「お気持ちだけで……」

「パパが買わなかったら、雫か蒼ちゃんが買うだけの違いよ。使用人にも優しいパパが見たいわぁ」

「勿論買うとも! 何個でもな!!」

「さすがパパ! 雫は二つ食べるわ!」

『ゲルハルト、僕は三つ』

「「「後は一個ずつでいいです……」」」


 そうしてお義父様がドーナツを露店に買いに行った時、私とマリーさん、リリムちゃんは顔を見合わせて苦笑していた。

 私たちは露店のおじさんからドーナツを受け取って食べながら、今日の報告をする。

 特に大事なのはドレスを作る事になった事かな。

 そう言えば、この領と我が家の財政ってどうなってるんだろう。好き勝手にドレスを買っちゃったけど。

 

「あの、お義父様」

「ん? 何だアオイ」

「ドレスを気にせず買っちゃいましたけど、この領とか、家の財政って大丈夫ですか?」

「気にしてくれるのは嬉しいが、特に気にしなくて大丈夫だぞ。流石にこの前渡された様な宝石が欲しいと言われても買えないが」


 どうやら湯水のように使える程裕福では無いが、ドレスを作った程度では揺るがないとの事。今度詳しく勉強しないとね。


「王都に行ったら私たちが頑張ります!」

「雫たちが、お菓子と美容品でしっかり稼ぐわ! 任せてちょうだいパパ!」

「それは嬉しいが、二人には家ではなく領が豊かになるように考えて欲しい」

「どう言う事かしら?」

「例えばアオイ、カステラのレシピを売ったな?」

「はい」

「これは極端だが、うちの領で作っている砂糖を使う事、と契約に入れておけば領民の作った物が売れるな」

「あ……」

「一方でこないだ作ってくれたどら焼き。あのアンコは領で作っている豆を使うな。これも極端だが、レシピを売らずにアンコだけ売っていけば、領民の作った豆が売れるという事だな。領民が作った物が売れると、領民の暮らしが豊かになる。領民が使えるお金が増えるからだ。すると税収が上がる。つまり、巡り巡って領が潤う事になる。するとどうなると思う?」

「お金が余るわぁ」

「余ったお金は、領民に使える?」

「そうだ。学校や農地へ投資する事で更に事業が発展する。するとより領民が豊かになる、そして私たちはそのおこぼれに預かる事が出来る、と言う訳だ」

「「はい」」

「勿論強制する訳でも無いし、初めは難しいと思う。だが、領民がいるから私たちは食事やドレスが着れると言う事を忘れてはいけない」

「分かりました。次からしっかりと考えます」

「分かったわぁ。雫も考えるわ!」

「あぁ。頼むぞ」


 ためになる話を聞いたし、ドーナツも食べ終わったし、私たちは一緒に帰る事にする。お義父様、一人で街歩きする時は馬車じゃ無いみたい。




 家へ帰って、夕飯を食べる。

 食後の一時に今日あった事をみんなに報告する。


「アオイちゃん、すると新しいお菓子が出来るのですか?」

「東方の国にはもうあるかも知れませんが、おやつにも食事にもなる優れものが出来ますよ」

「俺は食事の方が気になるな。アオイの作るご飯は素朴だがうまい」


 お餅を作ったらお義母様にはお汁粉。お義兄様には焼き餅かな醤油味で。


「アオイ、私も食べたいぞ!」

「お義父様はお義兄様と同じ物が好みだと思います」

「アオイちゃん! 雫は鶯あんの餅が食べたいわ」

「はいはい。お義父様、領で作っている白インゲンと青エンドウの作付け面積って増やせますか?」

「あぁ、今日すぐは無理だが、次回からなら増やせるはずだ」

「なら考えておいてください。どら焼きもそうですが、私が作るお菓子はその二つの豆を使って出来るあんが主になりそうです」

「分かった」


 後はお餅か、あ。


「ジョセフさん、丸太ってありますか?」

「丸太、でございますか?」

「はい、調理道具が足りないので作りたいです」


 私は腕で抱えるくらいの大きさの丸太と、両手の指で作った大きな丸で欲しい大きさの丸太を示す。

 杵と臼が無いんだよね。


「先日お嬢様方が倒した木々にそれくらいの太さの物がありましたので、用意させておきます」

「う……その話は。でもあるなら私が切りに行きますよ。裏の森ですか?」

「左様です」

「アオイ、手伝うか?」

「大丈夫です、お義兄様。風属性魔術と空間属性魔術ですぐ出来ますので」

「義妹が優秀でやる事が無いんだが」

「お義兄ちゃん、雫と一緒に味見役という大役があるわ」

「あぁ! そうだな、シズク」


 そう言えば、とお義兄ちゃんが更に話を続ける。


「父上に聞いたが、二人も王都に行くんだな」

「そうよぅ」

「はい。王都ではお菓子と美容品を流行らせてこようと思います」

「なるほど……まぁ、無理せずに頑張れ」

「「うん!」」

「しばらく一人かぁ」

「ハインリヒちゃんのお相手探しも王都に行く目的に含まれていますよ」

「よろしく、頼みます。母上」

「分かりました」




 それから私たちは四人と一頭でいつも通りお風呂に入った。

 マリーさんとリリムちゃんに、今日も気持ちよくさせられてしまった。はぁ、極楽。

 部屋に戻ってのんびりする。ふと思った事を聞いてみる。


「あ、マリーさんとリリムちゃんって、王都に付いてきてくれるの?」

「勿論そのつもりですが」

「絶対付いて行きますよ!」

「二人が来てくれたら安心だねぇ」

「お姉ちゃんの暴走を止める役が増えるからね」

「何言ってるの蒼ちゃん、雫は暴走した事なんて無いよ?」

「『え……』」


 私も驚いたけど、タルトが初めて見るくらいに目を見開いてびっくりしてる。


「シズク様は本当に自由ですね」

「素敵です!」

「いや、それで収まればどれだけいいか……」

『あれが暴走じゃないなら雫の暴走って、何……?』


 お姉ちゃんが不思議そうに私たちを順に見てくる。本当、自由だなぁ。

 部屋に戻って、マリーさんたちが退室して、タルトは窓の定位置へ。

 お姉ちゃんは日記を書いて、私は魔術訓練。危なくない方。

 それも終わって、ベッドに入る。お姉ちゃんも書き終わってベッドに入っている。


「蒼ちゃん、明日から準備しないとねぇ」

「そうだね。忙しくなるよ」

「楽しみだわぁ」

「おやすみ、お姉ちゃん」

「おやすみ、蒼ちゃん」

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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