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41. 続・杖を受け取ろう

 お昼ご飯を食べて、食後の紅茶を飲んでいる所。

 今日は冒険者の訓練もないし、街にでも繰り出そうかとお姉ちゃんと話していたら、リリムちゃんが慌ててやってきた。


「何です、リリム、走って。はしたないですよ」

「すみません! でも!」

「どうしたの? リリムちゃん」

「お嬢様方に男性のお客様です!」

「認めんぞ!」


 ゲルハルト様がいきなり立ち上がって叫び出す。何を?


「雫も認めないわ! 蒼ちゃんに男性なんて!」

「いや、お姉ちゃんに、かもしれないじゃない。後私の出会いを奪わないで欲しい」

「義妹たちに男が……いい人か?! 俺は認めんぞ! 俺より先になんて!」

「お義兄様にもいい人きっと見つかりますよ」

「アオイちゃんあなた、義母である私に隠れていつの間に」

「記憶にございません! で、誰が来たの?」

「ゲルト様と伺ってます。ドワーフの方です」

「待ってたわぁ!!!!」


 今度はお姉ちゃんが立ち上がって叫び出す。紅茶、零れなくてよかった。


「何ぃ! シズクにだと?!」

「もういいですから! ただの武器職人ですから! 私たちの杖を持ってきた人です!」


 やっと一同に黙って貰って、リリムちゃんに応接間に案内するように伝える。そしてお姉ちゃんとマリーさんとタルトで早速向かう。付いて来ようとした一同はジョセフさんに抑えて貰いました。

 応接間に入ると、堂々としてると思ってたゲルトさんは、意外と小さくなってソファの真ん中に座っている。それと、大きな布に包まれた長物がテーブルに置かれている。あれが杖かな!

 私とお姉ちゃんは、ゲルトさんの反対側に座って声を掛ける。


「久しぶりねぇ、ゲルトさん」

「あぁ……いえ、はい……」

「どうしたんです? なんか声が小さいですよ」

「お前ら……いや、お前様方は貴族だったんですか?」

「あの後色々あって、貴族の養女になっちゃったんですよ」

「そうなのよ。だから口調とか態度とか気にしなくていいわよぅ。誰も不敬で罰したりしないわ」

「助かる……」


 そこでマリーさんがお茶を淹れて、カップをテーブルに置いてくれる。私が紅茶に口を付けて、お姉ちゃんがリリムちゃん手作りのクッキーに手を伸ばして口にする。それからゲルトさんに勧める。

 クッキーを口にしたゲルトさんが目を見開く。


「うまいなこのクッキー。紅茶もよく分からんが、いつもカカァが淹れてくれるのと違う」

 リリムちゃんが笑顔で一礼する。


「まず、長く待たせてすまなかった」


 ゲルトさんが座ったまま頭を下げる。


「いえ。冒険者ギルドに伝言が来てから取りに行くつもりだったんですけど、持ってきて貰ったみたいですみません」

「いや、それはこっちのミスだしな。ついでに王都の用事も済ませるつもりだから気にしないでくれ」

「王都の用事がついででいいんですか?」

「いい。つまらない仕事ばっかりだしな。その点、この仕事は最高だった。出来もな」

「それで? 雫は杖が気になって仕方ないわ」

「あぁ、シズクも落ち着け。今見せる」


 ゲルトさんが長物から白い布を取り払って、中身を見せる。中からは、私たちの半身より長い二本の杖があった。それを、私たちの前に一本ずつ置いてくれる。


「お前らの前に置いたのが、それぞれシズクの杖とアオイの杖だ」


 私とお姉ちゃんは、自分の目の前に置かれた杖を互いに手に取って見る。


 私の杖は、全体は白くて細長い円錐形をしている。太くなった先は鉤形になっていて、鉤形の根本は大きくくり抜かれていて、魔石が一つ付いていた。鉤となる先には、四種の宝石が順番に埋め込まれて、それぞれ光彩を放っている。

 お姉ちゃんの杖も、真っ白で細長い円錐形なのは同じ。ただ太い側は球形になっていて、その中心がくり抜かれて魔石が付いている。太い方の先端には、透明で大きなダイヤモンドが煌々と輝いていた。

 手にすごく馴染む。重くないし、軽く動かしてみた感じも重心がやや上にあって振りやすい。

 お姉ちゃんもそう感じているのか、ぶんぶん振って確かめている。


『ふぅん、ゲルト、なかなかよく出来てるよ』


 タルトが私とお姉ちゃんを代弁して感想を言う。ちょっと生意気だけど。


「持ちやすいし振りやすいわぁ。魔力を込めてもいいかしら?」

「ダメだ!」

『やめた方がいいよ』

「えぇ……」

「いやすまん、説明が遅れたが、杖はよく出来た。魔力を流しても問題ない。問題ないんだが、ここで流したらまずい」

「どういう事ですか?」

「アオイの杖は火属性補助も付いてるから俺が試してみた。外で試してよかったと思ったぞ」

『森が燃え尽きたかな?』

「いや、俺の魔力じゃそこまでじゃない、ただ、広場が出来た」

「はぁ……」

「まだ分かってないな? 試し打ちなら外でやれ、って事だ」

「ならヒールなら大丈夫よね!」


 そう言ってお姉ちゃんが杖に魔力を込め始める。お姉ちゃんの魔力に呼応して、杖の魔石と宝石が光出す。そして杖の先端から魔術陣が広がり始めるが、様子がおかしい。

 いつもより、分厚くて、大きくて、輝いて……何より魔術陣の回転が速い。これ、暴走してない?


「え? え? あれぇ?」

『シズク、すぐエリアヒールにして』

「わ、分かった!」


 お姉ちゃんが魔術陣の魔術言語に記された『聖 治癒』から無理やり書き加えて『聖 治癒 範囲』とエリアヒールのものにする。


『エリアヒール!』


 深い乳白色の魔術陣が広がり、部屋全体が眩しく輝き出す。窓の外も光ってるんだけど! これ、もしかして屋敷全体が?!

 私たちの体も輝き出し、ヒールを貰った時特有の体が楽になるふわふわした感覚に包まれる。ハイヒール?

 光が徐々に収まって、だんだんと周りが見えるようになってくる。

 マリーさん、リリムちゃん、ゲルトさんが顔を見合わせて、三者三様に喋り出す。


「肩の辛さが無くなりました」

「体が楽になりましたぁ!」

「俺も、連日の疲労が無くなった」

「お姉ちゃん、何したの?」

「ゲルトさんに普通のヒールをしようとして、魔力を込めたら抑えきれなくなっちゃったの。タルトちゃんに言われてエリアヒールに書き換えても抑えられなくって……」

「今の効果、ハイヒールだよね?」

「そうね、あの光と効果はハイヒールだけど、でも……」

『魔力量はそれ以上だね。雫のイメージが足りなくてハイヒールになったみたいだよ』


 そこで、ゲルハルト様が慌ててやってきた。


「シズク、アオイ! 大丈夫か!」

「お姉ちゃんが暴走しました……」

「ちょっと蒼ちゃん?!」

「なら仕方ないな、何をした」

「仕方ないって、雫はそんなやんちゃじゃないわ! ヒ、ヒールよ。ただのヒールよゲルハルトパパ」

「ただのヒールで屋敷全体の者が元気になるはずないだろう。ジョセフに至っては、古傷の膝の痛みも治ったと言っていたぞ」

「魔力を込め過ぎたエリアハイヒールよぅ!」


 あ、開き直った。


「エリア、ハイヒール? そんな魔術聞いた事無いぞ」

「雫も無いわ!」

「なんか杖の魔力増幅が作用しちゃったみたいです」

「そうか、よく分からんが程々にな……。そしてアオイの魔術だと屋敷が吹っ飛ぶな……。本当に、十二分に、絶対に気を付けてくれ」

「分かりました!」


 クラウディア様とお義兄様に説明しに行くとゲルハルト様が立ち去って行った後、私たちは再びゲルトさんに向き直る。


「という事だ。増幅作用が凄まじ過ぎて大変な事になる」

「言ってくださいよ!」

「言う前にシズクがヒールしたんだろうが!」

『雫、ステータス見てみて』

「え? うん、分かったわ」

 

『ステータス』


 タルトに言われてお姉ちゃんがステータスを開く。前に見たのと同じ……。ではなく、一箇所だけ明らかに異質な文字があった。


「「超級聖属性魔術……?」」

『おめでとう、魔術と魔法の深淵にまた一歩近づいたね』

「タルトちゃん、何か知ってるの?」

『超級は上級の上の階位だよ。ヒールで言うと欠損回復とか出来るんじゃない? 蘇生は分かんない』

「それって、伝説の聖女様じゃん……」

「雫、聖女様?」

「お転婆のね」

「もぅ! でも蒼ちゃんもその杖使ったら超級? 使えるんじゃないかしら」

『ダメだよ。どこに撃つのさ』

「私もそう思うけど、試してみたいなぁ……」

「アオイ、お前上級魔術が使えるのか?」

「使えますよ」

「俺が撃ったのは、初級ファイアボールだ。アルデナの街の広場より広い範囲が燃え尽きたぞ。だから上級なら覚悟して撃て」

「あぁ、それならお預けだなぁ……」

『どうしてもやりたいなら、雫に向けて撃てばいいよ』

「んー、でもお姉ちゃん抑えきれなかったんだよね? とりあえず、私は抑えきれないって事が無いように魔力制御頑張るよ」

「雫も頑張るわ!」

 

 しばらく杖はお預けね、と互いの『ストレージ』にしまった。


「ゲルトさん、杖は間違いなくいい杖だと思います。私たちの力が足りませんでした。すみません」

「謝る事はない。武器と人は相棒同士だ。いい武器は人を育ててくれるし、人は武器を育てる。俺はそう思う。自画自賛だが、今回はいい武器を作らせて貰った。だからお前たちはこれから成長出来る。頑張れ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 そしてゲルトさんは王都に向けて旅立って行った。ここには手ぶらだったけど、街に馬車を待たせているらしい。道中食べて、と恒例の魔物肉の燻製セットをあげといた。多めに。後、ドワーフならとお姉ちゃんがお酒を渡してた。俺は酒にはうるさいぞ、とゲルトさんは言っていたけど、ラベルを見てそそくさしまっていたのでお眼鏡にかなったらしい。


「惜しいわねぇ」

「何が?」

「蒼ちゃんの杖を使った魔術を見てみたかったわぁ」

「でも制御出来なかったら怖いよ、お姉ちゃんもヒールって事は初級でしょ?」

「雫より魔力制御出来るから大丈夫よ、ちゃんとプリザヴェイションするから! ちょっとだけ! タルトちゃんも守ってくれるわ!」

『仕方ないね、雫は。ちょっとだけなら僕も守るよ』

「じゃあ燃えたりしないウォーターボールかなぁ」


 私たちは庭の方へ行く。

 撃つ先を森の方になるように位置を調整して、『ストレージ』から杖を取り出して構える。


「お姉ちゃん、先にプリザヴェイション張ってくれる?」

「分かったわぁ」


 お姉ちゃんが杖を構えて魔術陣を展開する『聖 魔力 障壁 身辺』。お姉ちゃんの足元が乳白色に光って、輝き出す。


『プリザヴェイション』


 お姉ちゃんの前に光り輝く障壁が現れ……たけど、大きくない? 後、障壁が厚過ぎてお姉ちゃんたちの姿が見えなくなった。


「お姉ちゃん、始めていい?」

「大丈夫よぅ」


 私も魔術を詠唱する。『水 弾』。魔術言語を紡いだ瞬間、一気に杖に魔力を吸い取られて暴発しそうになる。私は慌てて魔力の供給量を抑える。杖に付いた魔石と、アクアマリンが輝き出し、魔力を増幅させていく。杖の先端に魔力を纏めるイメージかな。先端に魔力が揺蕩う様に……。お姉ちゃんを先に見ていたから、魔力の急激な流れにも対応出来た。これなら制御出来そう。

 なんとか制御して杖の前に水の魔力を集めて水球を作る。杖の前に現れたのは、いつもと同じくらいの大きさのウォーターボールだ。あれ、思ったより小さい? 何だ、魔力をすごい吸われたからどんな大きさかとびっくりしちゃったよ。これなら撃って安心だね。

 私は気楽にお姉ちゃんに尋ねる。


「お姉ちゃん、撃つよー?」

「はぁい」


『ウォーターボール』


 子供の頭程の大きさの水球がお姉ちゃんの前に張られたプリザヴェイション目掛けて飛んでいく。

 いつもと同じか、それよりゆっくりかもってくらいの速度で飛んでいく。あれ、私の杖って魔力増幅してない? 不良品?!

 しかし、様子が変わったのは、放った後、プリザヴェイションにぶつかった瞬間だ。

 触れた瞬間、水球が爆発し、滝と見紛う程の勢いでプリザヴェイションの表面を流れていく。

 え? え?

 プリザヴェイションによって受け流された膨大な水は、左右に避けて森の方へ流れて木々を倒して行く。しかし一部は、その障壁を確実に押し破って行く。


『雫、障壁強めて!』

「え? わ、分かったわ」


 タルトが叫んだ直後、プリザヴェイションにヒビが入るのが見えた。

 お姉ちゃんが魔力を流し込んでプリザヴェイションを強化するのと、その内側でタルトが結界を張るのが光で分かった。

 

「お姉ちゃん! タルト!」


 私は何もする事が出来ず、水が全て流れ去った後に見たのは、ヒビが入って薄くなったプリザヴェイションとタルトの結界に守られた二人、それから結界の両サイドで大量に薙ぎ倒された木々だった。

 慌てて二人の元へ行く。


「二人共、大丈夫?」

「大丈夫よぅ。タルトちゃんが守ってくれたわ」

『肝が冷えたね』


 私もそう思う。


「多分、制御出来てたけど、これはダメだ。強力過ぎる」

「そうねぇ……。ステータスはどうなったかしら?」


 お姉ちゃんに言われて『ステータス』を開く。


「あ、水属性魔術だけ超級になってる」

「つまり……」

「「杖を使えば超級魔術が使える」」


 そこで家からゲルハルト様が駆け足でやってきた。


「今度は何だ?!」

「蒼ちゃんが暴走したわ!」

「お姉ちゃんが言ったんじゃない!」

「つまり二人で魔術を撃ったんだな?」

「木々は蒼ちゃんが倒したわ!」

「怪我はないか?」

「はい」

「えぇ」

「ならいい、気を付けるんだ。後、屋敷が無事だと嬉しい。原因はその杖か?」

「そうです。試し撃ちを……」

「随分魔力増幅に優れたものらしいな。どうやって作った?」

「こないだの宝石と……」

「タルトちゃんのお母さんの角よぅ」


 ゲルハルト様から魂が抜けていくのが分かった。


「怪我と周りには十二分に気を付けるんだ。後魔力制御もな。……肝心の時以外はその杖は封印だな」

「分かりました」

「分かったわぁ」

「タルト」

『何?』

「この杖を使える様になるための魔力制御の練習はあるか?」

『あるよ。暴走した時のために外でやるのがいいね』

「なら二人はその練習をする事」

「はい」

「はぁい」


 怪我には気を付けろ、再度そう言って、ゲルハルト様は屋敷に戻って行った。


「タルトちゃん、まだ夕飯まで時間があるし、早速その訓練をしたいわぁ」

「そうだね、私もしたい!」

『分かった。そんな難しい事じゃないんだ。杖を持って、杖に魔力を流す。この時に、流そうとした量以上に魔力を吸われるだろうから、まずそれを抑える。抑えたら、次に先端、魔石の方ね、に魔力を集めて纏める。蒼はさっきの感じでよかったよ』

「分かった」

「分かったわぁ」

『暴発しそうになったら上に向けて放って。無属性なら霧散してくれるはずだから』

「「うん」」


 私たちは杖を構えて魔力を流し出す。さっきの感覚を思い出して、杖の先に纏わせるイメージ。


『雫、流す魔力をもっと抑えて。今のままじゃ、雫は暴発させるよ』

「分かったわ」

『蒼は少な過ぎ、さっき出来てたし、暴発させるギリギリまで流してみてよ』

「危ないんじゃない?」

『危ないけど、量も流せる様にならないと肝心な時に使えないよ』


 こうして、しばらく淡々と叱られ続けるタルトのスパルタ魔力教室は開幕したのだった。




 お姉ちゃんとタルトと三人で湯船に浸かっている。


「疲れたわぁ。タルトちゃんスパルタねぇ」

「魔力が少なくなってきたら、強制的に渡されて続けさせられるのは地獄……」

『取っ掛かりは掴めたんじゃない? まぁまだまだだけど』

「えぇ……雫頑張ったよぅ?」

『一応目標を伝えておくけど、二段階あるよ。最初は杖無しで超級魔術を使えるようになる事。その次が杖を使って超級魔術を使える様になる事。初級を制御出来る様になっただけじゃまだまだ』

「先は長いなぁ……」

「シズク様、アオイ様、お疲れですか?」


 マリーさんが尋ねてくる。


「タルトちゃんがスパルタなのよぅ」

「こんなに愛らしいのにスパルタなんですか?」

『もっと格好のいい形容は無いのかい? リリム』

「タルトはこんなにぷにぷになのにスパルタなんだよねぇ」


 私もリリムちゃんに便乗してタルトをぷにぷにしながら形容する。


『蒼、明日から厳しくしてもいいんだよ』

「タルト様の翼は今日もかっこいいなぁ!」

『まぁ、いいよ』


 翼を褒めると機嫌がよくなるうちの子ちょろい。


 それぞれリリムちゃんとマリーさんにマッサージして貰って大層気持ちよかった。

 お風呂から出て、部屋でのんびりする。

 魔力制御は今日はお休み。というか、昼間散々やったしね。お姉ちゃんも日記を書くだけにするみたい。

 おやすみなさい。

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。


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2022/07/03 文章のつながりがおかしい箇所があったので修正

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