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39. お茶会をしよう3

 目が覚める。今日はマリーさんとリリムちゃんが来る前に目覚めた!

 体を起こして伸びをする。カーテンを開けて、まだ寝ているタルトを撫でながら外を見る。

 晴れてる。朝の光を受けてたなびく東雲を見ながら、昨日の事を思い出す。

 昨日の午後は大変だった。カステラを作ってクラウディア様のお茶会に参加していたら、終わり際にタルトが大量の魔物を狩って来て、下処理と加工と調理と大騒ぎ。

 更に街の人まで集まっての大宴会。

 最後に、お姉ちゃんと……おに……お義兄様! と飲んだアップルブランデーはおいしかったけど、代わりに不安も残していった。

 さて、今日は精霊の日。地球で言うところの日曜日だね。だから貴族のマナー講習はない。

 代わりに、午後にはクラウディア様に誘われたキルシュ子爵夫人とのお茶会があるから、そのために午前中にカステラを作っておかないといけない。昨日食べられなかったタルトの分も忘れずにね。

 一通り考えが済んだら、丁度そこでノックがする。マリーさんとリリムちゃんかな。


「どうぞ」


 扉の外に声を掛けると、マリーさんとリリムちゃんが扉を開けて入ってきた。


「おはようございます、アオイお嬢様」

「おはようございます!」

「おはよう、二人共。相変わらずお姉ちゃんとタルトは寝てるよ」

「昨夜は盛り上がりましたしね!」

「お肉もおいしかったです」


 二人の感想を聞いて嬉しくなる。頑張った甲斐があったね。それからリリムちゃんに髪を梳かされて、ヘアオイルを付けて貰う。

 その後に、クローゼットからドレスを取り出すリリムちゃん。


「あ、今日はカステラ作りするから、午前にドレスは着ないよ」

「かしこまりました」

「お昼過ぎにお願いね」

「はい!」

 

 私は『ストレージ』から服を取り出して自分で着替える。

 手持ち無沙汰の二人に見られるのは、まだちょっと恥ずかしい。

 そしたらマリーさんは、のそのそと起き出したお姉ちゃんの方へ行き、その体を支えて、水を差し出している。


「マリーちゃん、ありがとぉ」

「いえ、おはようございます。シズク様」

「おはよぉ。蒼ちゃんもリリムちゃんもおはよぉ」

「おはようございます!」

「おはよう」


 私も挨拶を返す。

 マリーさんにお世話されるお姉ちゃん。窓の方からバサバサと音がしてそっちを見ると、タルトが翼をはためかせている音だった。タルトも起きたみたい。


「タルト、おはよう」

『モーニンエビバリ!』

「……またお姉ちゃんに仕込まれたの?」

『これは朝の挨拶で、最先端を行く僕にお勧めだって、雫が』

「それ、私たちの世界の学校の先生位しか使わない朝の挨拶だから。誰も使わないし、この世界の人は多分分からないよ」

『僕はこれからどう生きていけばいいの?』

「一緒に探して行こうね。とりあえず、挨拶はいつも通りでいいと思うよ。おはよう」

『……おはよう』


 お姉ちゃんを叱るべきか、タルトに説くべきか……。私には分からない。

 そうこうしている内に、お姉ちゃんの着替えも終わったみたい。私を呼んで抱きついてきた。


「お姉ちゃん、私は今日の午前はカステラを作るけど、お姉ちゃんはどうする?」

「午後からお茶会よね。午前は何も予定が無いから、お義兄ちゃんと街で遊んでくるわ」

「分かった。程々にね。タルトは?」

『僕の分のカステラがちゃんと作られるか見張る』

「わ、分かった」


 中々恨みが根深いな……。


 みんなで食堂へ向かって朝食を食べる。昨日の余ったお肉で作ったらしいコンソメがとてもおいしかった。あ、そうだ。


「ゲルハルト様。お庭の訓練場に、燻製小屋を一時的に建ててもいいですか? 厨房の燻製室ではとても処理しきれません」


 昨日ビルさんたちと話してて出てきた問題だ。この家は勿論加工場ではないので、あの量のお肉を燻製する場所が無いのだ。


「勿論いいとも。ロックウォールで作るのか?」

「そうです」

「なら私が作っておこう。何度も作っているから任せてくれ」

「そうなんですか?」

「あぁ、ビルとトムとはよく燻製を作るぞ」

「初耳ですね。旦那様」

「……スモークチーズも作るから見逃してくれ」

「楽しみですわ」


 しまった、という顔をするゲルハルト様。しかしもう遅い。そしてさすがクラウディア様。アンナさんの時も思ったけど、やはりこの国の奥さんは強い。

 チーズを仕込みに行かねば、と呟くゲルハルト様と一緒に、私とタルトも厨房に向かう。

 お姉ちゃんは、部屋で言っていた通り、お義兄様を街に誘っていた。

 カステラを今日も作る事は、昨日の段階で伝えてある。ただ、量が増えた事は伝えていなかった。

 厨房に入ると、ビルさんとトムさんが道具を準備して待っててくれていた。


「おはようございます。アオイ様……と旦那様? タルト様も?」

「あぁ、ビル、トム、おはよう。うっかりしていてクラウディアに燻製室がばれてしまったよ。スモークチーズで詫びねばならん」

「かしこまりました。実は、折角燻製をするのでと、あの後チーズも仕込んであります」


 笑顔で答えてくれるビルさん。

 ゲルハルト様もホッとした顔をしている。それから、ビルさんとトムさんの視線がタルトに向かう。


『僕は蒼の監視。昨日は僕の分のカステラが無かったからね』

「分かりました。ところでアオイ様、昨日作られたカステラでしたら、私もトムも作り方を覚えましたのでいつでも作れます」

「本当に? さすがだね! じゃあ三人でどんどん作っちゃおうか」

『僕は蒼が作ったのがいい。魔力量が違う』

「そんな事もあるんだ?」

『蒼はもう少し魔力感知する癖を付けた方がいいよ』

「……はい」


 そんな訳で三人でカステラを作っていく。


「チーズの仕込みがされているって事は、つまりゲルハルト様の用事は終わったのでは?」

「私も娘の手作りお菓子が食べたいのだが……しかも異世界のお菓子じゃないか」

「……分かりました。作ります」


 窯は大きいし、パウンドケーキ型で妥協しちゃえば型も沢山あるから、生地さえ用意すれば大量に焼ける。

 お茶会用は二人に任せて、私はタルトとゲルハルト様の分を作る。

 昨日ビルさんがやってた水魔術の使い方をマネして、泡立てを試してみたけどとても楽だった。

 そして昨日、焼いた時にすでにコツを掴んだのか、ビルさんの焼き加減はとても上手で、今日も綺麗に焼けている。

 焼き上がったので、粗熱を……え? 味見? 全員が私を見て強く頷く。

 念のため私、ビルさん、トムさんが作ったカステラを、それぞれ薄めに人数分切り分けて貰って味見する。


「二人が作った方が、やっぱりおいしいんじゃない?」

「恐縮です」

「お嬢様も遜色無いと思いますが……。しかしビルの泡立てはうまいな……俺も頑張らないと」

「私はアオイのが一番うまく感じるぞ!」

『蒼のカステラの魔力量はずば抜けてるね』


 最後二人の評価は何か指標が違う気がするけど、とりあえず目的の物は完成した。

 私のカステラを『ストレージ』にしまうタルトと、それを見て羨ましい! と言っているゲルハルト様。また作りますから、喧嘩しないでくださいね。

 片付けをビルさんたちに任せて、私たちは食堂に行く。

 カステラ作りの間に、昼食も仕込んでる二人はすごいよね。

 食堂にはクラウディア様、お姉ちゃん。お義兄様がいた。

 お昼ご飯を食べ終わったら、お義兄様に小箱を渡された。


「今日のお茶会で使うといい」

「あ、ありがとうございます。開けていいですか?」

「勿論だ」


 箱を開けると中には髪飾りが入っていた。バレッタで、小さな丸と四角を並べたデザインに、青と緑の宝石が散りばめてある。


「雫と色違いよぅ」

「そうなんだ。綺麗です。ありがとうございます」

「あぁ」

「これを他の女性に出来るといいのですけど」

「母上もか……。それは言わないでくれ……」


 義妹とはいえ、女性に贈れたのは及第点にしておきましょう、とクラウディア様。頑張って! お義兄ちゃん!


 慌ただしくも、私たちは部屋に戻ってドレスに着替える。昨日と同じになっちゃうけど、お揃いのドレスにして欲しいとは、クラウディア様の希望だ。

 なので昨日と同じドレスを着る。

 それぞれマリーさんとリリムちゃんに着させて貰って、さっき貰った髪飾りを付ける。ドレスの色にも合ってて素敵。


「髪飾りお似合いですよぅ」

「ありがとう、リリムちゃん。選んだのお姉ちゃんだよね? ありがとね」

「お義兄ちゃんが選んだのよ。雫はドレスの色を伝えただけ」

「そうなんだ」


 お義兄ちゃんのセンスのよさに素直に感心する。

 最後にお姉ちゃんと確認して、玄関へ向かう。

 エントランスに着いて待っていると、クラウディア様とゲルハルト様がやってきた。

 

「今、上の窓から馬車が門に着いたのが見えたわ。もう来るから出ていましょう」

「「はい」」


 エントランスの外に出ると、クラウディア様が言った通り馬車が門からやってくるのが見えた。

 そして馬車が玄関前に横付けされる。

 ゲルハルト様が近づいて、中から出てきた女性が馬車を降りるのをエスコートする。

 この人がキルシュ子爵夫人。私たちはクラウディア様に倣って片足を引いて軽く膝を曲げる。そして両手でスカートの裾を軽く持ち上げる。

 夫人は緋色の髪をハーフアップにして、後ろの結び目にヘアアクセを付けている。クラウディア様と年や身長は同じくらいで、ベージュのドレスを着たその夫人は、クラウディア様を見て笑顔になる。


「ようこそおいでくださいました。コリーナ様。お久しぶりです。お元気そうで何よりだわ」

「お久しぶり、クラウディア様。あなたも元気そうね。それに、今日は可愛らしい子たちがいるのね。この子たちが手紙にあった?」

「そうよ。早速お話ししたいわ。こちらへどうぞ」


 ゲルハルト様とクラウディア様を先頭に、コリーナ様、その後ろを私たちが歩いて東屋に向かう。

 席にコリーナ様が着いて、ゲルハルト様が退散した後、私たちはもう一度カーテシーをして自己紹介をする。


「お初にお目にかかります。リインフォース家の次女となりました。雫・リインフォースです」

「同じく三女の蒼・リインフォースです。キルシュ子爵夫人、お見知り置きください」


 それから、コリーナ様がわざわざ立ち上がって挨拶を返してくれる。


「丁寧な挨拶をありがとう。コリーナ・キルシュよ。コリーナでいいわ。よろしくね。二人共」


 クラウディア様から座るように促されて、私たちも席に着く。

 そして、ジェニファーさんが紅茶とカステラをテーブルに置いて行ってくれる。

 クラウディア様が紅茶に口をつけ、カステラを一口食べてから話し出す。


「今日はアオイちゃんが教えてくれたお菓子を用意したの。ぜひ食べてみて」

「それは楽しみね。いただくわ」


 コリーナ様も紅茶を飲んでからカステラを一口食べる。


「ケーキのスポンジみたいだけど、味と柔らかさが違うのね。それに、砂糖を塗すなんておもしろいわね。おいしいわ」

「ありがとうございます。カステラ、と呼ばれているお菓子となっております」

「ふふ、緊張しなくて大丈夫よ。クラウディア様からの手紙に、二人は元々貴族じゃないって書いてあったわ。私も元は商人の娘なのよ」


 緊張が伝わってしまったのか、コリーナ様がこっちを見て笑顔になって言う。


「だからつい、お菓子の味より商売を考えてしまうのよね。アオイちゃん、あなたこのお菓子売りに出さない?」

「えっと……? 私が作って売ると言う事ですか?」

「レシピを買い取りたいと言う事よ」

「え、でもレシピなんて……」

「アオイちゃん、ダメよ」


 クラウディア様から話を遮られる。そっか、簡単なレシピとはいえ、これはこの世界には無い新しい物って事か。


「まだアオイちゃんたちは緊張しているし、アオイちゃんだけじゃなくて、私ともお話しして貰えるかしら? コリーナ様」

「勿論よ」

「これから、私たちと領民でカステラパーティーくらいはしたいわ」

「当然ね、いいわよ」

「後、大事なお金の話ははっきり言うわね。レシピは一度の買い取りじゃなくて、前金とレシピもしくは販売物に対してのコミッションにして欲しいわ」

「えぇ。そうね、前金は小金貨二十枚でどうかしら?」

「「え?」」

「いいわよ。その代わり歩合は二割でどう?」

「ちょっと多いわ。一割じゃダメ?」

「それでもいいけど、アオイちゃんは今後も継続してお菓子を作ってくれるわよ」

「分かった、クラウディア様の言う通り二割でいいわ。その代わり、アレンジが出来たら教えてちょうだい」

「カステラに限ってならね」

「しっかりしてるわね。支払いはどうすればいいかしら?」

「アオイちゃんとシズクちゃん用の口座を用意するわ」

「じゃあ交渉成立ね。契約書は今作ってくれるかしら?」

「勿論よ。ジェニファー、契約用の魔術具を持ってきてちょうだい」

「かしこまりました」


 ジェニファーさんが何やら下がって、クラウディア様に頼まれた物を取りに行ったみたい。私とお姉ちゃんは話について行けず、目が点になっている。


「あの……クラウディア様……」

「よかったわね、アオイちゃん。これでお金持ちよ」

「私のおかげでね」


 それから、あなた母と呼ばないのね。気を付けた方がいいわよ、とコリーナ様に言われる。


「クラ……お義母様、まだちゃんと理解出来ていなくて、私は、カステラの作り方をコリーナ様に教えればいいのですか?」

「それだけ分かってれば十分よ。ビルはもうレシピを覚えてる?」

「はい」

「リリム。厨房に行ってビルにレシピを用意させてちょうだい」

「承知しました!」


 リリムちゃんが下がって、厨房に向かって行く。


「蒼ちゃん、お金持ちだって」

「そう、なんだ?」

「貴族と商人みたいな裕福な庶民向けに売り出すわ。銀貨一枚でも安いと思われる様に売るつもりよ。仮にカステラ一個を銀貨一枚で売ったとして、百個売ったらあなたたちの取り分は銀貨二十枚ね。それが一生続くわ」


 貴族は端金だと言う人が多いけど、こういった積み重ねは馬鹿にならないわ、とはコリーナ様の言。さすが商人の娘。

 

「失礼ですが、コリーナ様は販路をお持ちなのですか?」

「そうね。覚えておくといいわよ。キルシュ商会。私の旦那様が商会長で、バイゼル商会、メルク商会に並ぶこの国の三大商会の一つね」

「そうなんですね」


 商会と聞いて何か気になる。何か分からないけど、もやもやする。お姉ちゃんもそうなのか、頬に右手を当てて考え込んでいる。


「最近はウォーカー商会が伸びてきているから、ここらで一手欲しかったのよ。あなたのおかげで助かったわ」

「「あ……」」


 私とお姉ちゃんは合点がいって同時に間抜けな声を上げてしまう。


「どうしたの?」


 それを耳ざとく聞きつけたコリーナ様が聞いてくる。


「あらあら……」

「クラウディア様、合点がいったのなら教えてくださる?」

「シズクちゃんたちはね、ウォーカー商会の商会長夫妻と仲のいいお友達なのよ。それで競合しちゃうんじゃないかって気になっちゃったのね」

「なるほど、そう言う事なのね……安心しなさい、レシピを貰っても潰し合わないわ」

「どう言う事なのですか?」


 お姉ちゃんがコリーナ様に聞く。私もだけど、コリーナ様への言葉が初めてのお茶会で緊張しているためか、ちょっとたどたどしい。


「あの商会はお菓子も売るけど、製造は行っていないし、嗜好品は規模が小さいのよ。だから、うちからウォーカー商会に売る事はあっても、作り合って対決する事は無いわね」

「そうなんですね……」

「それでも気になるなら、そうね。便宜を図りましょうか?」

「どう言う事でしょうか?」

「さっきの歩合だけど、五分にしてちょうだい。その代わり、ウォーカー商会には卸値の二割引きで売るわ」

 再度交渉を持ちかけてくるコリーナ様だけど、そんなの答えは決まってる。


「分かりました。それでいいです」

「アオイちゃん、いいの?」

「お金持ちだよぅ?」

「私にとっては、ウォーカー商会の利が大事です。それにお姉ちゃん、私たちは……」

「そうねぇ。お金なんてすぐに稼げるし、そもそも必要以上はいらないわねぇ」

「それは羨ましいわね。どんな秘密があるのかしら?」

「秘密なんて無いですよ。お金が必要になったら、持っている物を売るだけです」


 お近づきの印にこれをどうぞ、とテーブルから持ってくる振りをして『ストレージ』からいつものタイラントバッファローの燻製肉、今日はインディゴの塊を出してコリーナ様に渡す。

 魔物肉には疎いのか、疑問符を浮かべるコリーナ様だけど、キルシュ子爵が喜びますよ、と伝えておく。

 そこへ、戻って来ていたジェニファーさんが、クラウディア様に魔術具を渡す。

 クラウディア様がテーブルの上に羊皮紙を広げて、魔力を通す。すると、羊皮紙が淡く光って光の文字を書いていく。

 文字の光が収まっていくと、黒い文字が浮き出して来た。

 書き終わったら一度全体に目を通して、コリーナ様に羊皮紙と筆記具を渡すクラウディア様。

 今度はそれを受け取ったコリーナ様が、文字を目で追って確認していく。


「確かに、確認したわ」


 言いながら羊皮紙の下側に文字を書いていく。名前だ。


「アオイちゃん、シズクちゃん。二人も名前を書いてちょうだい。アオイちゃんが契約者で、シズクちゃんが証人の所ね」

「「はい」」


 私はコリーナ様から羊皮紙と筆記具を渡されて、羊皮紙に目を通す。さっき話した条件が、契約書として纏まっている。

 ちょっと気になって、名前を書く前に私は『ステータス』を開く。


「蒼ちゃん。どうしたの?」

「養女になったでしょう? 私たちの名前、どうなってるか分からなくて」


 お姉ちゃんと二人で私のステータスを覗き込む。確認したので、その名前を私は羊皮紙に書き込む。


「アオイ・ハセガワ・リインフォースっと。はい、お姉ちゃん」

「ありがとぉ」


 お姉ちゃんも同じように書く。書いた羊皮紙と筆記具をお姉ちゃんがクラウディア様に渡して、最後にクラウディア様が名前を書き込む。

 クラウディア様が再び羊皮紙に魔力を通すと、それが二枚に分かれた。一枚をコリーナ様に渡す。カーボンコピーみたいだ。


「ありがとう、クラウディア様」


 そこでリリムちゃんがレシピを書いた紙を持ってきてくれたので、製法に間違いが無い事を確認してコリーナ様に渡す。


「アオイちゃん、ありがとう」

「いえ、カステラ、お楽しみください」


 それからは、当たり障りの無い話題で歓談しているとあっという間に時間は過ぎ、カステラは無くなった。


「このお菓子を毎日食べられると思うと嬉しいわね」

「喜んでいただけてよかったです」

「またいらしてくださいませ。コリーナ様」

「またね。あなたのお菓子、新しいのも楽しみにしているわ。クラウディア様も、次は社交かしら?」

「そうですね、また王都でお会いしましょう」


 そしてゲルハルト様がジョセフさんと共にやってきて、コリーナ様を馬車にエスコートする。

 みんなでお見送りして、コリーナ様は帰って行った。


「お疲れ様でした。シズクちゃん、アオイちゃん」

「ありがとうございます。ちゃんと出来てましたか?」

「アオイちゃん、交渉もしちゃってすごかったねぇ」

「えぇ、出来ていましたよ。自分の利を手放していましたが、ちゃんと考えていたので問題ありません」


 ところで、とクラウディア様が話を続ける。


「二人はお金をすぐ稼ぐ方法を持っているの?」

「貴族としてお金がどれだけ必要かは分かりませんが、冒険者だった頃は魔物を売れば、生活には困りませんでしたし、今はタルトも魔物を沢山狩れますし……」

「蒼ちゃん、まだ宝石あるわよぅ」

「あれ、まだあるの……」

「宝石? 見せて貰っていいかしら?」


 女性は宝石気になりますよね。私も嫌いじゃないけど、あれはちょっと……。

 そしてゲルトさんの工房から、お姉ちゃんに預けっぱなしになっていた、もはや不良在庫とも言える宝石袋を、お姉ちゃんが『ストレージ』から取り出す。そしてそのまま。


「雫たちは使わないから、クラウディアママにあげる!」

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん?! そのままじゃ……」


 そのまま渡しちゃっていいの?!

 受け取って、訝しみながら小袋を開け、チラッと中身を見て呆然とした顔をするクラウディア様。


「シズクちゃん、これは一体何?」

「宝石よぅ。クラウディアママなら装飾品に使えるかと思って」

「宝石は分かるわ。でも、こんな王族ですら持っていないような大きさ、質の宝石を一体どこで?」

「えっと、神様に……」

「路銀として貰ったのよぅ!」

「路銀……そうなのねぇ……旦那様、こちらですが……」


 さっきから少し離れた位置で不思議そうに会話を聞いていたゲルハルト様が、クラウディア様に近づいて小袋の中を見る。そしてクラウディア様と同じようにぽかんとした顔をする。その反応、分からなくは無いですよ。


「お前たち、これは……」

「宝石よぅ。神様に貰ったの。雫たちは使わないから、クラウディアママに使って欲しいわぁ」

「いや、私も宝石は分かるぞ。しかしこれは、うちを乗っ取る気か?」


 ゲルハルト様が半分笑顔、半分本気で尋ねてくる。笑顔なのに声が全く笑ってない。


「そんなつもりはありません。それは、単に路銀として貰った物なので、私たちに掛かる費用の足しにしてください」

「お前たちに掛けた費用をこの宝石で払ったら、お釣りでこの家が何軒買えるのか……」

「もうクラウディアママにあげたもーん!」

「旦那様……」


 クラウディア様が旦那様に耳打ちする。唸るゲルハルト様だったけど、何か言いくるめられたのか次第に頷き始めた。


「分かった……。二人共、本当に貰っていいんだな?」


 私とお姉ちゃんが、二人を見て頷く。


「ならクラウディアの装飾品に使わせて貰おう。また、二人の不利益になるような事はしないと誓う」


 そしたらこの話は終わり! と言わんばかりにお姉ちゃんが突然叫び出す。


「あ! タルトちゃんが戻ってきたわぁ!」


 お姉ちゃんが見ている方角を見ると、確かにタルトが飛んでくるのが分かった。あっという間に小さな点が大きくなり、いつものタルト大になって私たちの側に来る。


「おかえりタルト」

「おかえりタルトちゃん。今日はどこに行ってたの?」

『ただいま。こないだ穴蔵に隠れてた奴を狩ってた。出す?』

「いや、今日はやめてくれ。私の精神が持たん……」

『分かった』


 ゲルハルト様からストップが掛かる。何を狩ったんだろう。気になるけど後でにしよう。

 

 それから家に入って夕飯を食べて、お風呂に入って自室に行く。

 日課の魔術訓練をしている時に、タルトにさっき聞きそびれた事を聞いてみる。


「タルト、結局今日は何を狩ったの?」

『トカゲだよ。煩わしかったからね』

「トカゲの魔物なんていたかしら?」


 日記を書き終わったお姉ちゃんが尋ねてくる。


『正確に言うとグリーンワイバーンだよ。全く。五月蝿いったら無いね』

「それ、ドラゴンの亜種じゃん」

『あれをドラゴンなんて一緒にしないで欲しいね。あんなのトカゲだよ』

「ご、ごめん……」

「でもタルトちゃん、冒険者ギルドの括りだと、ドラゴンの下位って位置付けなのよぅ」

『ふぅん。間違ってないけど、知性の欠片も無いあいつらと一緒にされると虫唾が走るんだ』

「そうなのね。気を付けるわ」


 タルトが怒ってきたので、二人で褒めたり慰めたりしながらタルトの機嫌を取る。翼を褒めて、撫でてあげるとすぐに落ち着いて機嫌がよくなるうちの子ちょろい。


『でも、いい点もあるんだ。下手な魔物よりは魔力があるからおいしいよ』

「そうなんだ。流石に食べた事は無いなぁ」

「今度、機会があったら食べましょう」


 お姉ちゃんと頷いてこの話はおしまい。訓練もいい頃合いになったのでおしまい。

 おやすみなさい。





評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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