37. お茶会をしよう1
「だいぶよくなってきましたね。本日はここまでといたしましょう」
「「ありがとうございました」」
「そう言えば、クラウディア様とお茶会をなさるんですってね」
「はい、そうです」
「ならそこでしっかり学んでいただいて、来週か再来週にでも、私をお茶会でもてなしてください」
「「リンダ様、承知しました」」
「では、ごきげんよう」
私とお姉ちゃんがカーテシーをしているうちに扉が閉まり、マリーさんがリンダ様を玄関まで見送る。
「どうしよう……お茶会だって」
「今日、色々教えて貰うしか無いわねぇ」
「まずはお菓子を作らないと!」
今日は、昨日夕飯を食べながら話をしたクラウディア様に頼まれた珍しいお菓子を作って、試食がてらクラウディア様とお茶会をする日だ。
昼食に行く前に三の鐘が聞こえた。食堂に行かないと。それにその前に、忙しいだろうけどビルさんに今日の事を伝えておかなきゃと、厨房に向かおうとすると、そこでノックがする。
「やぁ、頑張ってるな。二人共」
「ゲルハルトパパ!」
「ゲルハルト様。今日はお仕事は終わりですか?」
「あぁ、ちょっと二人に用があってな。ハインリヒに任せてある」
ハインリヒ様は学院を卒業してから、次期領主として、この領地の経営をゲルハルト様から学びながら手伝っている。勉強熱心ですごい。今日はどうやら丸投げされたみたいだけど……。
「用事ってなぁに?」
お姉ちゃんと私が首を傾げる。
それに笑顔で答えてくれるゲルハルト様。
「二人に話があるんだ。食事が済んだら、執務室に来て欲しい。クラウディアには出来れば内緒でな」
「あの……今日はお菓子を作って、その後にクラウディア様とお茶会をするんです」
「そうか、では明日はどうだ?」
「それなら、大丈夫です。クラウディア様はご友人とお茶会をすると言っていました」
「あぁ、そう言えばキルシュ子爵夫人が遊びに来ると言っていたな。忘れていた。では、その日も止めよう。恐らく二人は呼ばれる。間が悪かったな……なら、来週の火の日の午後は空いているか?」
「その日は冒険者訓練も無いし、大丈夫よぅ」
「では火の日に頼む」
「はぁい」
「分かりました」
それじゃあ食堂に行こうか、とゲルハルト様にエスコートされる。
けど、普通相手は一人で、片手を持つよね……。私たち二人だしどうすれば……。
するとお姉ちゃんが、ゲルハルト様の右腕を抱いてこっちを見てきた。
「蒼ちゃんは左ねぇ」
まぁ公の場じゃないし、それでいいのかな。私は言われた通り、ゲルハルト様の左腕を抱いて三人で歩き出す。
食堂に入ると、クラウディア様が座っていた。こっちを見て顔を少々顰めて言う。
「旦那様、少々欲張りが過ぎるのでは?」
「義娘なんだし、いいだろう……」
「違いますよ。羨ましいって話です。私だってやって欲しいですわ」
「それは私にか?」
「いえ、シズクちゃんとアオイちゃんにですわ」
「クラウディアママ!」
お姉ちゃんがゲルハルト様から離れて、クラウディア様に抱きつく。
まんざらでもなさそうなクラウディア様。いい笑顔だ。反対にショックを受けるゲルハルト様。何と言うか……仕方ないですよ……。
私もお礼を言って自分の席に座る。今日はリリムちゃんが椅子を引いてくれた。
「リリムちゃん、食事が終わったらにお菓子作りをしたいから、ビルさんに厨房貸して貰えるように頼んでおいてくれるかな?」
「分かりました!」
厨房に歩いていくリリムちゃん。その間にジョセフさんとマリーさんが給仕をしてくれる。
カトラリーを見ると……今日はなんだか右端からナイフ、スープスプーンともう一つスプーン。右側に大小のフォークが二本置いてあって、いつもスープスプーンの左にあるナイフが無い。ちょっと料理が違うのかな。
まず最初に運ばれてきたのは、トマトとチーズを使った前菜、カプレーゼだ。いただきます。
チーズが大きかったので、ナイフで切ってから口に運ぶ。トマトの酸味とチーズの元になったミルクの甘みがマッチしてとってもおいしい。間に挟んだバジルと、掛けてあるバジルソースがアクセントになっていい。
それから運ばれてきたのはコンソメスープ、具沢山の方だ。いつも通り、具の野菜がとろとろになっていて、その甘みと塩味のマッチングがとってもおいしい。
そしてメインディッシュに運ばれてきたのは、トマトパスタだ。トマトとベーコンが具材に使われている。
パスタって、食べ方を習ったけど難しいんだよね……。するとゲルハルト様とクラウディア様が私とお姉ちゃんを見ているのが分かった。あ、これテストだ。
一応パスタのためにスプーンが置いてあるんだと思うけど、本来は使わない。勿論ソースを跳ねさせるのも論外。実際、ゲルハルト様とクラウディア様の前にはスプーンは置いていない。
お姉ちゃんはフォークだけ持った。挑戦するみたい。
よし、私もパスタに挑戦しよう。
フォークを持って、お皿の端のパスタを刺して巻き付けていく。
少量、一口大に巻き付けて口に運ぶ。うぅ、緊張する。でもトマトの酸味とベーコンの塩味、それにお肉のコクがとってもおいしい。
数口運んでみたけど、ここまでは順調……。
「二人共、食べられるようになったみたいだな」
「アオイちゃん、緊張しすぎよ。スプーンを使っても構いませんよ」
「いえ、味も分かるようになってきましたし、このまま頑張ります」
「雫も出来てたかしら? クラウディアママ」
「えぇ、出来ていましたよ」
「よかった」
その後もフォークだけで続けて、無事食べ終える事が出来た。ソース飛ばさなかったよ!
デザートの梨のジェラートが大変おいしく感じる……ごちそうさまでした。
食休みも済んだので、厨房に行ってお菓子作りをする。
お姉ちゃんも付いてきた。味見要員とか言っているけど、手伝って貰おう。
厨房に入って、ビルさんに挨拶をして早速始める。
ボウルにミルクと、アンナさんから貰った蜂蜜を入れて湯煎する。『ウォーター』でお湯も出せるから、料理関係はこの世界の方が便利だったりする。
別のボウルに卵、砂糖を入れて、こっちも湯煎しながらひたすらかき混ぜる。
「お姉ちゃん、混ぜて」
「えぇ……、ビルさんよろしくぅ」
「かしこまりました。アオイ様、どの程度混ぜればよいでしょうか?」
「リボン状までお願いします」
「分かりました」
「泡立て器って無いんだよね、頑張って」
「魔術を使ってもいいですか?」
「勿論、出来るならいいですよ」
ビルさんが卵を対象に『ウォーターフロウ』を唱えて、ボウル内をかき混ぜる。そんな工夫で泡立て器の代用が……。
「ビルさんすごい!」
「これしか取り柄が無いもので……」
ビルさんがひたすら魔術でかき混ぜると、いい塩梅に泡立ってきた。
「パン用の小麦粉を入れます」
次に、この中にふるいに掛けた小麦粉を入れて混ぜて貰う。
混ざったらさっき湯煎した蜂蜜ミルクを加えて更に混ぜる。
「いいですね。パウンドケーキの型はありますか?」
「用意してあります。どうぞ」
その型に、ざらめの代わりに砂糖を入れすぎないように底に塗してから、生地を流し込む。高めの位置から流し入れるのがポイント。更に型を軽く落として空気を完全に抜く。
「後は焼くだけです。百八十度で十分、百六十度で四十分程です」
「アオイ様、申し訳ありません。温度も時間もそこまで正確に測れません」
「あ、そっか。どうしようかな」
「蒼ちゃん、蝋燭あるわよ」
「それでいいか、短いのちょうだい」
お姉ちゃんから蝋燭を貰う。これで大体一時間くらいだったはず。どうしても時間は正確に測れるようにしておきたくて、前に二の鐘から三の鐘まで、この蝋燭を三本使って測ったから、大体正確。言語理解のスキルで、地球の単位で話しても通じるんだけど、この世界、まだまだ測る手段が無いんだよね。うっかりしてた。
「この蝋燭が燃え尽きるまで大体一時間くらいです。目安にしましょう。温度はケーキを焼くのと同じ温度と、少し下げた温度で。後はビルさんの勘に任せます」
「責任重大ですね……」
「大丈夫よぅ。いつもおいしいご飯もデザートも作ってくれてるんですもの」
高温にした窯に入れて、蝋燭にも火を付ける。ビルさんがお茶を淹れてくれたので三人で休憩する。
「あの、先日も伺いたかったのですが……アオイ様はどこでこのような料理を学んだのですか?」
「元々貴族じゃないので、毎日私がご飯を作ってたからかな。それに、私たちの世界じゃ世界各国の料理の作り方が載った本が溢れてるんだ。材料さえあれば色々作れるんだけど、応用が出来なくて、まだまだですね」
「蒼ちゃんはすごいでしょう!」
「はい。弟子入りしたいです」
「弟子入りしなくても教えるから! でも私は、ビルさんみたいに貴族の食べる料理の種類も作り方も分からないんだよね」
「本来覚えなくていい物ですよ」
「んー、作れた方が楽しそうなんだよね。お菓子は特に知りたいかも」
なんて話ながら、ビルさんにもお菓子の作り方を軽く教えて貰いながら、火力調整をして、また話して、をしていたら時間が過ぎた。
「さて、焼き加減はどうかな」
「見る限り、綺麗に焼けてますよ」
窯から取り出して、型から外す。後は粗熱を取って出来上がりかな。
「私たち、この後お茶会の準備をしないといけないんだ。だからビルさん、味見して大丈夫そうだったらクラウディア様に出してよ」
「えぇ! 雫の味見タイムは?!」
「粗熱取れてないし、着替えないとでしょ。ほら、マリーさんとリリムちゃんが迎えに来たよ」
「熱いままでいいからぁ!」
「アオイ様、焼けてますし、一口だけでも……私も初めてのものなので、不安です」
「もぅ、分かった。マリーさんとリリムちゃんもおいで。みんなで味見しよう」
「私もよろしいんですか?」
「いいんですか?!」
「だって二人共すごいそわそわしてるよ」
私は笑いながら突っ込む。
ビルさんに薄めに五切れ切って貰って、いただきます。
「蒼ちゃんのカステラ! おいしいわぁ!」
「地球と勝手が違うにしてはうまく出来たかな。卵の質がいいかもしれない」
「ふわふわしてます! 底のお砂糖が甘くておいしいです!」
「……このようなおいしいお菓子、初めて食べました」
「これはおいしいですね。後、焦げ目が面白いです」
「メイラード反応って言うらしいけど、詳しくは知らないんだ」
好評そうでよかった。
「これなら、クラウディア様に出しても大丈夫かな?」
三人から、大丈夫です、と太鼓判を貰ったので、私とお姉ちゃんはマリーさんとリリムちゃんに連れられて着替えに部屋に戻る。
「今日のドレスはいかがなさいますか?」
「一緒のやつがいいわ! それしか雫は認めないわ!」
「えぇ……」
「クラウディアママに選んで貰ったドレスだし、絶対いいわよぅ」
「むぅ……確かに……分かりました」
「では、準備しますね!」
服を脱いで、リリムちゃんにコルセットを着けて貰う。幸い、まだ緩いやつでいいみたい。その内、きついやつでウェストを締めないといけなくなるのかな……。
「蒼ちゃんのスタイルなら大丈夫よぅ」
「え? 声に出てた?」
「顔に出てたわよぅ」
「この国できつめのコルセットを着ける方は、恰幅のかなりよい方で、それでも細く見せたい方に限りますね。一般的には、このタイプを使う女性が多いです」
「アオイ様のスタイルなら着けなくてもいいくらいなのですが、一応礼儀として装着する事になっています!」
「そっか、ちょっと安心したよ。ありがとう」
それからドレスを着せて貰う。お姉ちゃんとお揃いのドレスだ。
まず白磁のボディスを身に付ける。ピッタリしたブラウスのようなデザインだ。肩口に青緑のフリルが付いている。お姉ちゃんのフリルは、薄めの紺だ。その後スカートを穿く。ハイウェストの位置から留めたスカートは、ふくらはぎの辺りまでの長さのフレアスカートで、鉄色って言うんだっけ? とても濃い緑色を表地にしている。また、お尻側全体に大きく取られたバッスルからは、裏地に使われた焦茶より濃い茶色も映えて見える。同じデザインのお姉ちゃんのスカートの表地は濃藍だ。
「お嬢様方、とってもお似合いですよ」
「ちょっと照れるね」
「可愛くていいじゃない!」
「お似合いですよ。御髪を整えますね」
リリムちゃんに髪を整えて貰って、ヘアオイルを付けて貰う。
お姉ちゃんは後ろを軽く結んで貰ったみたい。私の長さだと難しいんだよね。たまに結びたくなるけど、この長さが楽だし、好き。
二人で互いを見て確認する。
「私、変じゃない?」
「とっても可愛いわよぅ。雫は? 雫は?」
「……似合ってる」
お姉ちゃんが喜びのあまり私に抱き付いて来て、ほっこりしてこっちを見てくるマリーさんとリリムちゃんが見える。二人もかなり満足した顔をしている。恥ずかしい。
でも、なんとか準備が出来た。二人にお礼を言って、マリーさんを連れて庭園に向かう。
さて、緊張するけど初めてのお茶会だ!
評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。




