34. リインフォース家と冒険者2
私たちは、リインフォース領の冒険者ギルドで、この領の冒険者を教育して欲しいと頼まれてしまった。
また、私たちがリインフォース家の養女になった事も知られていて、同時に教育する事で得られるリインフォース家の利益を提示されてしまった。そこで、ゲルハルト様に確認するため、一度家に戻る所。
「マリーちゃんとリリムちゃんに謝らないと。ごめんね二人共。雫、二人と蒼ちゃんが彼らにいやらしく見られてるって知らなくて……」
「「頭を上げてください、シズク様」」
「私たちは侍女であり護衛です。お二人のお世話と守護をするのが仕事です」
「シズク様に怒っていただいて嬉しいです。ですが、その感情はアオイ様のために向けるべきです」
「それは違うわ。雫は雫のやりたいようにするの。その中には、二人を守るのも含まれるのよ。大事な家族ですもの」
「そうだね、私たちも養女ってバレた時に二人が守ってくれて嬉しかったよ。それと一緒」
仕事柄受け入れられないかもだけど、二人を守るのも上の仕事よ! と、お姉ちゃんが続けて話す。
「ところで、本当に先程の依頼を受けられるんですか?」
「なんか、帰りも視線が嫌だったんだよね」
「実は、私も言葉にして申し訳ないんですが、とっても気持ち悪かったんですぅ」
「二人共、どんどん言っていいのよ。そうね、帰りは雫も感じたわ。もし、あの人たちが他領で悪さをしたら、リインフォース領の汚点だわ」
「そうだね、厳しく、教育しないとね」
私たちのお義姉ちゃん仕込みの、と二人で頷く。
それからリインフォース家に着いて、早速ゲルハルト様の執務室に行く。
ノックをして、中から了承の声が聞こえたので入室する。
「おかえり二人共。早かったな」
「ただいま帰りました」
「ただいま! 実は相談があるのよぅ」
「相談か、義娘たちの頼みなら受けない訳にはいかないな」
旦那様、話がまだでございます。と、突っ込むジョセフさんにも挨拶をして、私たちは先程の話を二人に伝える。
「ふむ……。まず、二人の考えを聞こうか。それぞれ、教えてくれ」
私から考えを話す。
「はい、私は、受けるべきだと思います。理由は二点あって、まず、冒険者の強さを上げて、森などに発生する魔物退治を安定して出来るようになる事。二点目がリインフォース領の冒険者の性根を叩き直して、他領から来る人の印象をよくする事です」
マイヤではレインやバルトさん、ディオンでも、アルデナでも私たちが出会った冒険者の人たちに悪い人はいなかった。
全員は無理だろうけど、少しでも街がよくなるなら協力したい。
「雫も賛成よ。蒼ちゃんたちに嫌らしい目を向けた償いはさせるべきだわ! それに、そうする事で、ギルドや街の雰囲気がよくなるならするべきよ。ゲルハルトパパは教育に力を入れているんでしょう? 冒険者も教育するべきよ」
いい事言ってる風だけど、血気盛んだね……。私もか。
「二人の意見は分かった。私は、義娘が好奇の目に晒されるという事、それから冒険者と領は独立しているから、手を出すべきでは無いという理由で反対。だが、リインフォース領の治安向上や、ギルドに恩を売れるという理由で賛成。つまりイーブンだな。だから、二人の意見を採用しようと思う」
「ゲルハルトパパ、それって……」
「あぁ、存分にやってくるといい」
だが、安全には十分に注意するんだぞ、と告げるゲルハルト様に抱きつくお姉ちゃん。
「タルト、二人を守ってやってくれ」
『言われなくとも』
「マリー、リリム、二人はどうする? 好奇の目に晒されるのが辛いならば、この任務だけ義娘の護衛を代えるが」
「「やります!」」
「雫たちは魔術しか使えないから、近接戦闘は期待してるわぁ」
「お二人の腰のショートソードは……?」
私はすっかり馴染んだ、腰に差したショートソードの鞘を叩いて二人に説明する。
「これ? 護衛用のショートソードだけど、初級剣術しか使えないんだよね。後は威嚇用の見てくれだよ」
「雫は物を切る事にしか使ってないわねぇ」
短剣の方が使い勝手がいいわねぇ、なんて呑気に言ってるけど、嘘でしょ。リタちゃん助けるために抜いてたじゃない……。
「ではお嬢様、私がもう一度ギルドへ行って伝えて来ますか?」
マリーさんがそう提案してくれる。
「エミリーさんたちと詳細も決めたいから行くよ。お姉ちゃんもそれでいいよね?」
「いいわよぅ」
「かしこまりました。出過ぎた真似を」
「気にしないで。気遣ってくれてありがとね」
ゲルハルト様にお礼を言って、執務室を辞してもう一度ギルドへ向かう。
マリーさんとリリムちゃんと、またちょっと近づけた気がする。嬉しい。
ギルドに着いて、受付カウンターで暇そうにしているエミリーさんに挨拶する。
「おかえりなさいませ。奥へどうぞ」
挨拶も早々、応接間へ通される。中ではラルフさんが応接机で書類仕事をしていた。
「おかえりなさい。いかがでしたか?」
私たちは、開けてくれた応接スペースのソファに座り、エミリーさんが入れてくれたお茶を一口飲んでからゆっくりと説明する。エミリーさんとラルフさんは応接ソファの向かいに座る。ぬいぐるみを抱えるエミリーさん、絵になるなぁ。
「雫たちは依頼を受けるわ」
「ただ、基本は模擬戦で鍛える事にします」
「分かったわ。助かるわね。ボコボコにしていいわよ」
「承知しました。いつから可能ですか?」
「明日からでも構いません。ですが予定があるので、午後だけです」
「では、明後日の水の日の午後から、隔日でどうでしょう? 精の日は休みで、風、水、闇と続く感じで」
「分かりました」
「分かったわぁ」
じゃあ明後日からよろしくお願いします、と挨拶してギルドを辞する。
今度は依頼に出たのか、冒険者から視線は感じなかった。
「三人共、市場に寄っていい? 夕飯の材料が見たい」
「それ位なら私が買ってきますよ!」
「じゃあリリムちゃんと行こうかな。お姉ちゃんとマリーさんは帰る?」
「行くわ」
「お供します」
リインフォース家への帰り道の途中で、私たちは広場で開いている市場に寄って日本食に使えそうな食材を探して行く。無かったら手持ちのを使うし、気楽にね。
するとお姉ちゃんが何か見つけたみたい!
「蒼ちゃん! これ! 雫これを使ったあれが食べたい!」
「どれ? あ、いいね。和食っぽい。質もいいし、おばさん、これ全部買います」
「え? あんた、これ高いよ? 大丈夫かい?」
「銀貨何十枚ですか?」
「……悪かったね、今お釣りを用意するよ、ちょっと待っとくれ」
別の露店で野菜を買う。付け合わせはこれだよね。
「後は豚肉かしら?」
「うん、あるかな?」
「豚肉なら先程、あちらにありましたよ」
「ありがとうマリーさん」
私たちはマリーさんに教えて貰った露店へ行く。
「使用人も食べるよね……いいや。おじさん、豚肉のこの部位のブロック全部ちょうだい」
「全部……? 嬢ちゃん、こんなに食えるのかい?」
「使用人と食べるんで大丈夫です」
保存も出来るしね。
お代を払ってから、どうやって運ぶのか、と心配するおじさんの前で、カバンにしまって行く。するすると飲み込まれて行く豚肉。びっくりするおじさん。
「よし、買えたし帰ろうか」
「楽しみねぇ」
「何が出来るんでしょう、わくわくします!」
「私たちの分まで……アオイお嬢様、ありがとうございます」
リインフォース家に帰ったら、そろそろ夕飯にいい時間だった。このまま準備しちゃおう。
私はお姉ちゃんとタルトと別れて厨房に行く。するとリリムちゃんが付いてきた。
「アオイお嬢様の料理を覚えたいです。見てもいいですか?」
「勿論いいよ」
厨房ではビルさんたち料理人ズが待っていた。ジョセフさんから、今日は私が作るって聞いてたみたい。
早速仕込みを開始する。
「今日のは簡単だからね。見てたらすぐ分かると思う。じゃあ、始めるよ」
私はストレージからさっき買った豚肉、キャベツ、玉ねぎ、それに生姜を取り出す。後、いつも保存している醤油だ。白ワインも用意しておく。日本酒欲しいなぁ……。
まずご飯を炊く。先日買ったライスを出した。
ご飯の炊き方がビルさんが知っているのと違うらしい。これが故郷式、と教えてあげた。
それから、炊いている間にビルさんに生姜を擦って貰う。私はその間に豚肉を『エアカッター』でスライスする。
出来たらボウルに入れて、擦った生姜に醤油、白ワインを少々。そして漬け込む。
漬け込む間、キャベツを千切りに、玉ねぎをスライスにする。
玉ねぎを飴色になるまで炒めて、一度お皿によけておく。
ご飯が炊けるかなってなったら、漬け込んだ豚肉を焼いて、一緒に端っこで玉ねぎを温める。
お皿にキャベツを盛り付けて貰って、焼けた豚肉をお皿に乗せて行く。
これで簡単生姜焼きの完成!
タイミングよくご飯も炊けたのでよそう。
配膳はリリムちゃんたちに任せて、私は食堂に行く。
そこにはお姉ちゃんを始め、みんな待っていた。
「お待たせしました。そろそろ運ばれてきますよ」
みんなから、楽しみねぇ、といった声が聞こえてくる。
そして配膳される生姜焼き。それを見て、最初に口を開いたのはゲルハルト様。
「何だ、ソテーか……。アオイ、故郷の料理では無かったのか?」
「故郷の料理ですよ。生姜焼きと言います。キャベツと一緒に食べてみてください」
「分かった。だがソテーか……」
「旦那様、まずは食べてみてから言うのがよろしいかと」
「うむ、そうだな……」
私も食べようっと。いただきます。
まずキャベツと生姜焼きのセット。生姜の香りがとてもいい。やっぱり質がよかったな。それに、豚肉も柔らかい。白ワインを使ったけど、醤油が勝ってて全然気にならない。これは間違いなく生姜焼き。キャベツがちょっと濃いめの味付けをマイルドにしてくれておいしい。
二口目は当然、豚肉とライスそれに玉ねぎ。お姉ちゃんはキャベツだけ食べた後に、豚肉とライスに行ってるけど、私はこのパターンで食べる。ライスに醤油と豚肉の味が染み込んでおいしい。ストレージから箸を取り出して掻き込みたい欲求に晒されながら、マナーに気をつけて食べて行く。
「おいしいわぁ」
「シズク、キャベツだけ先に食べて、一緒に食べないのか?」
「ライスとセットにするのもおいしいのよぅ、お義兄ちゃん」
「「何?!」」
それを聞いたハインリヒ様と、黙々とキャベツと豚肉を口一杯に食べていたゲルハルト様が豚肉とライスを一緒に口に運ぶ。ふふ、禁断の味でしょう?
ちゃっかりクラウディア様も同じ食べ方をしたみたく、頬が綻んでいる。
「アオイちゃん、これは何という調味料を使っているのかしら? 初めて食べる味ですね」
「醤油です。たまにこの国の露店で扱われる、東方の調味料です。私たちは見つけたら買い占めています。高いですが」
「慧眼ね。こんなにおいしいものがあるなんて」
「奥からも歓声が聞こえるぞ」
「使用人たちにも振る舞ってますから、歓喜の声でしょう」
「高かっただろう? 支払うぞ」
「お気になさらず」
ゲルハルト様とハインリヒ様のうまいコールを聞き続けた食事は、お代わりの嵐で終わった。ごちそうさまでした。
数十人分の食事の片付けを任せられるってのは楽だね。いつもありがとうございます。
食後の紅茶を飲んでいて、また食べたいと三人に熱望されたので、気が向いた時ならいいですよ、と伝えておく。
その時にはビルさんに教えながらやるし、食材さえ揃えば徐々に私がいなくても出来るようになると思う。
それから四人と一匹でお風呂に入る。初めは戸惑っていたマリーさんとリリムちゃんだけどもう慣れたもので、マリーさんはお姉ちゃんに背中を洗われていたりする。私もリリムちゃんの髪を洗っている。
「リリムちゃん、髪のシャンプー流すよ」
「はひっ」
ウォーターで出したぬるま湯を一気にリリムちゃんの髪の上から掛ける。ぎゅっと目を瞑ったリリムちゃんがちょっと可愛い。
「アオイ様、今度は私が洗いますぅ」
「そう? じゃぁおねが……」
「ダメ! それは雫の仕事よぅ! リリムちゃんでも許さないわ!」
「でも、いつも洗われてるだけで侍女としての仕事が……」
「そんなのはいいのよぅ! 雫がやりたい事だからやるのよ!」
毎回洗われるだけなのが非常に心苦しいリリムちゃんと、私の髪と体を毎回洗いたいお姉ちゃんの言い合いは毎度の事。ちなみにマリーさんは、慣れた様子でお姉ちゃんの体を洗っている。
「どっちでもいいから、早くやって……。タルトを洗って、私も自分でやっちゃうよ」
そして結局逆らえないリリムちゃんがお姉ちゃんに譲る事になる。
髪を洗って貰って、お返しに私もお姉ちゃんの髪を洗う。ここまでがテンプレ。
そして湯船に浸かる。さすがに二人は入らない。代わりに、ここからが私たちの仕事です、と言わんばかりに腕とかマッサージしてくれる。気持ちいい。
「いつもありがとうね。気持ちいい……」
「とんでもないです! と言うより、これくらいしかやる事が無いんです……」
「二人も入っちゃえばいいのに、気持ちいいよぅ?」
「流石にそれは……。後で入りたくなったら使用人風呂を使いますので」
「どうせ私たちしか入んないんだし、気にしなくていいのに」
「身分についてお嬢様方にしっかりとお伝えするよう、旦那様に報告します……」
「えぇ?! 雫、怒られるのはやだよぅ」
「ですので、湯船に浸かるのはご容赦を」
リリムちゃんが最後に笑顔でまとめる。
だけど、ゲルハルト様を説得すればいいのか……。
ゲルハルト様、ジョセフさんと話すために使用人風呂行ってる時あるし。説得出来そうなんだよね。
「雫、のぼせそうだから出るぅ」
「かしこまりました。タオルをお持ちしますね」
「あ、私も出るよ」
「アオイ様のもタオル持ってきますぅ」
二人が先行してお風呂から出て、湯上がりの準備をしてくれる。
私たちが出ると、タオルを渡してくれた。それから四人で体を拭く。タルトは私の後ね。
『いつも気になってたんだけど、ドライじゃダメなの?』
「気分の問題かな。こっちのがサッパリするんだ」
『ふぅん』
『ドライヤー』でお姉ちゃんの髪を乾かしてあげると、お返しに乾かしてくれた。それから、お姉ちゃんがマリーさん、私がリリムちゃんの髪を『ドライヤー』で乾かす。私も結構人の髪乾かしたりするの好きなんだよね。
リリムちゃんは、まだ恐縮するらしく、身を縮こめている。
四人と一匹でサッパリして、部屋着を着て部屋に戻る。
部屋に戻ると、マリーさんが水差しから水を注いで渡してくれた。お礼を言ってそれを飲み干していると、お姉ちゃんが話しかけてきた。
「アオイちゃん、訓練どうする?」
「ペース落ちちゃうよね。前みたいにお風呂上がりのこの時間にやろっか」
「お二人がされている魔術訓練ですか?」
「うん。前に音が出ちゃったやつ」
「私、見てみたいです!」
「じゃあ雫から見せてあげるねぇ」
お姉ちゃんは窓を開けて、魔力を集束し始める。そして、外に向かって聖属性魔術の光線を撃ち出す。
しかし光線はすぐに拡散して霧散してしまう。
「本当は光線が真っ直ぐ飛んで行くはずなんだけど、うまく集められないのよぅ」
「なるほど、ところで回転させないんですね」
リリムちゃんが、気づいた事を言ってくる。
「回転?」
「飛び道具を飛ばすときに、ブレないように回転させるんです。そうすると真っ直ぐ飛んで行くんですよ」
「私聞いた事ある。拳銃も、弾丸を安定させるために螺旋回転させるって」
「それよぅ! ちょっと回転させてみるわねぇ」
お姉ちゃんがもう一度魔力を展開して集束させていき、小さくなった魔力の弾を、螺旋回転させる。
そして撃ち出す。
撃ち出された光線は、拡散する事なく真っ直ぐに飛んで行く。そして一瞬で屋敷の敷地の外壁にたどり着いて、壁を貫通し大きな音を出した。
木の倒れる音がする。それも一本じゃなく、複数本。屋敷の外の森の木が倒れたみたい。
『雫、おめでとう。集束出来たね』
「お姉ちゃん! 魔力込めすぎだよ!!」
「あらぁ……」
「シズク様、旦那様に説明してきます。リリム、行きますよ」
「は、はい!」
マリーさんとリリムちゃんが慌てて部屋を出て行ってしまった。
戻ってきた二人は、ゲルハルト様を連れてきた。そして、音の原因を探っていたゲルハルト様は、窓辺に座っていたお姉ちゃんを見ると納得したように。
「シズクなら仕方ないな……」
「雫そんなやんちゃじゃないわよぅ!」
「お淑やかな娘は壁に穴を開けん!」
「ごめんなさい」
「まぁいい……。怪我は無いな?」
「無いわぁ」
「次、気をつけてくれればいい。アオイもだが、失敗は誰にでもある。後は失敗を減らすためには、どうなるか予め予測しておく事だな」
「「分かりました」」
それから、人には使うなよ、と言い残して部屋を去って行った。
「じゃあ次、蒼ちゃんの訓練?」
「そっとね……」
私は、いつもより弱めに右手に土属性、左手に火属性の魔力を展開して説明する。
「私のは別の属性の魔力を混ぜる訓練なんだ。危ないからちょっと離れてね」
三人が離れたのを確認してから、両手を合わせて魔力を混ぜる。そう言えば、色を混ぜるイメージで混ざったけど、私も回転させてみたらどうなるんだろう。料理の時に卵を混ぜるイメージみたいに。
私は両手の魔力をそれぞれ同じ方向に回転させる。あ、綺麗に混ざっていく。
『蒼、そのまま弾にしてキープ』
タルトの指示通りに、手の平を離して、魔力を回転させながら弾にしていく。弾はうねりを上げながら徐々に丸みを帯びていく。そして、真球に近い赤茶色の魔力の塊になった。
『蒼も出来たね。おめでとう』
「出来た……」
「やったわね蒼ちゃん!」
みんなから賞賛の言葉が飛んでくる。やっと出来て私も嬉しい。
でもこれって……。
「タルト、これどうやって消せばいいの……?」
『土火の複合魔力だから、風水の複合魔力で打ち消せるよ』
「そんな簡単に出せないよ! 魔力が出せない時は?」
『投げるしかないね』
「回転を緩めたら?」
『爆発するんじゃない?』
「どうしよう……」
投げるしか、ないのかな……。
「アオイ様、外壁を壊さぬように……」
「も、森ならいい……?」
「森が燃えちゃいそうですぅ」
「蒼ちゃん、上空に投げて爆発させれば?」
「っ! そうする!」
マリーさんが開けてくれたガラス戸から、バルコニーへ出る。そこから上空へ向けて、思いっきり魔力を込めて撃ち出す。
赤茶色の弾は上空へ飛んで行く。花火のように。魔力を追加で込めたから、そろそろ爆発するはず。
想定内だったのは、上空で綺麗に爆発した事。
想定外だったのは、爆発音と爆風が大きすぎて窓や壁が軋み、家族全員とジョセフさんが私たちの部屋に来た事。使用人が全員驚いたため説明する必要が出た事だった。
「シズク、アオイ。今度は一体何が……」
「今度は、私です……。ごめんなさい」
「あらあら、リエラちゃんを思い出しますわね。ねぇ? 旦那様」
「リエラも、新しい魔術を身につけては私たちを驚かせていたな」
「はぁ……その度に俺は実験台だったな……」
「あの子と同じように、シズクちゃんもアオイちゃんも、目がキラキラしていますよ。反省しているけど、それより楽しくて仕方ないって顔ね」
「そうなのよぅ、クラウディアママ! 雫たち、今まで出来なかった事がやっと出来るようになったの!」
「そうなんです! 出来た時って、本当に嬉しいんです! 魔術って楽しい!」
「それは嬉しいわね。でも、怪我には気をつけるんですよ」
周りへの迷惑も、掛けるなとは言わないけど想像しなさい、と言って、クラウディア様は部屋に戻って行った。
ジョセフさんは慌てふためいているらしい使用人たちへの説明に向かって行った。
ゲルハルト様とハインリヒ様も、怪我には気をつけろ、と言って部屋を去って行った。
「嬉しいけど、気をつけないとね」
「そうだねぇ。でも、これでまた一歩強くなったねぇ」
「うん!」
「お二人はどこまで強くなるつもりですか……?」
「また護衛としての意味が……」
私たちは就寝準備をする。お姉ちゃんは日記も書いた。
今日はいい気分で寝れそうだね! ベッドに入って、マリーさんとリリムちゃんも下がった後。
「やっと出来たわねぇ」
「うん、忘れないようにしないと」
『忘れてないとは思うけど、課題はまだあるからね』
「う……」
「えぇ……」
『雫は魔力量調整。蒼は属性数の追加ね』
「「がんばります……」」
それだけ告げてタルトがおやすみ、と窓辺で眠る。私とお姉ちゃんもおねむだ。おやすみなさい。
評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
================
2022/05/17 表記ゆれ訂正




