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28. リインフォース領に向かおう

 馬車は今日ものんびり進む。

 アルデナ領を出て、リインフォース領に向かって馬車を進めて三日。

 道中はマイヤ領からディオン領へ移動していた時と変わらず、日に一度くらい出てくる魔物を倒し、昼休憩には動物を狩って、それらをご飯にして進んで行く。

 途中、馬車とすれ違う事はあったけど、盗賊なんかは出なかった。

 そういえばこんな会話をした。


「途中で魔物を見つけたら、杖の試し撃ちをしたかったわぁ」

「お姉ちゃん、攻撃魔術使えないじゃない……」

「気分の問題よぅ、杖なら練習してる魔力集束も出来そうな気がするわぁ」

「たしかに、私も出来そうな気がしてきた」

『やめた方がいいよ』


 タルトから待ったが掛かる。


「どうして?」

『僕のブレスを参考にした魔力集束だよね? あれを、作ろうとした杖で撃ったら、領都までの道が一直線になるよ』


 勿論、雫が全力で撃ったらだけどね、と続けるタルト。


「いやまさか、全力でなんて……」

「危なかったわぁ……」

「撃とうとしてたの?!」

「お三方がいれば本当に道中安心ですね。助かります」


 カールさんから笑い声と共に安心を含んだ声がする。


「確かに、敵を検知出来ますし、よっぽどの魔物じゃない限り倒せますが……」

「勿論強さもありますが、何より楽しそうです。旅には退屈が一番辛いので」

「楽しくなかったらダメよぅ。一番大事だわ」

「そうだね。私もそう思う」

『僕は騒がしくなければ、それでいいよ』

「次にご飯ね! 蒼ちゃんのご飯は本当においしいわぁ」

「私も同意します。旅でこんなにうまい飯を食ったのは初めてですよ」

『蒼のご飯は確かにいいね。甘いものを増やしてくれてもいいよ』

「なんだか照れるなぁ……。じゃあ今日も張り切って作りますか」


 馬車は今日も、のんびり進む。




 アルデナ領都を立って五日目。午後のおやつ休憩を挟んだところ。

 カールさんが言うには、そろそろリインフォース領都の門が見えてくるとの事。

 お姉ちゃんとカールさんが、御者台に座って前を見ている。

 私はタルトと魔力制御の訓練中。


「蒼ちゃん、門が見えたわよぅ」

「いよいよリインフォース領だね」

「今日は、支店で荷下ろしだけして宿に行きましょうか。そろそろ夕方ですので、リインフォース領主邸へは明日がいいと思います」

「はぁい」

「分かりました」


 そのまま馬車を進ませて、リインフォース領都の門にたどり着く。いつも通り、警戒の目を向けた門番さんが、槍を交差させて行く手を遮る。

 馬車を止め、カールさんが御者台から降りて門番さんに話をしに行く。

 すぐに門番さんが警戒を解いて槍をまっすぐに構え直す。それからカールさんと少し談笑して、カールさんが戻ってきた。


「知ってる門番でよかったです。これで入れますよ。さぁ行きましょう」

「ありがとうございます」

「カールさん、ありがとう」


 ウォーカー商会リインフォース支店に向かう道で、カールさんにこの領の事を教えて貰う。

 リインフォース子爵領。領都は長方形で、東の端に領主邸。西南北に門がある作り。

 各門から中央に向かって大通りがあり、三方の道が交わるところに中央広場。ここで種々の市場が開かれるらしい。

 他の道は綺麗に真っすぐ敷かれており、区画整備がしっかりしてある。碁盤の目になってるって事かな?

 南東が商会や宿のある商業区、南西が冒険者ギルドもある工業区。北側は居住区だ。

 特に他領と違うのは、北西に一般教養や生活魔術を教える学校がある事。学校は子供向け。

 聞く限りは小学校のイメージ。なお、生活魔術の授業については、この領に住む人なら誰でも無料で学ぶ事が出来る。

 主な産業は農業。野菜が特産で、加工品も多く作っている。砂糖もあるとか。他は、空いた土地で牧畜も行っているんだって。

 両隣に鍛冶や漁業で栄えている領があり、そこから品々を輸入しているため、生活水準は高いとの事。

 リインフォース領主は人格者として有名で、領民の事を第一に考えた領政が行われている。領民からの人気もあり、時々市場で買い食いする姿が目撃されている。

 最近は、その領主の長男であるハインリヒの結婚相手が注目されているんだって。

 それから、長女の事はタブーとされている。なんでも、領主夫妻が溺愛していたけど、行方不明になってしまったらしい。

 そんな話を聞いていたら、商会に到着した。カールさんが馬車から降りて店に顔を出す。私たちはとりあえず待機する。

 少しして、一人の男性を連れてカールさんが戻ってきた。

 こっちを見て一礼する男性。


「こちらのお三方が、今説明したシズクさん、アオイさんの姉妹と、ドラゴンのタルトさんだ。失礼のないように頼む」

「分かりました! 初めまして、この支店を任されているアランです。よろしくお願いします」

「雫よ。よろしくねぇ」

「蒼です。よろしくお願いします」

『タルトだよ。きゃぴっ!』

「またお姉ちゃんに仕込まれたの……? タルト、正直に言って変だよ」

『……雫、もう僕やらないね』

「えぇ! 可愛いのにぃ」

「ドラゴンと初めて話しましたが面白いですね。お疲れでしょう。中へどうぞ」


 私たちは中の応接間に案内される。それから遅れて、少年がお茶を持って入ってきて、私たちの前にお茶を置いて行ってくれる。ここにも見習い少年が!

 タルトの分もちゃんとボウルに淹れてあって、気配りがすごい。

 とりあえず、一息つきたい。いただきます。

 紅茶だ。しかもアールグレイかな、柑橘類の香りがする。

 するとアランさんが教えてくれる。


「ディオンでお茶は飲みましたか? あれを参考に作られたお茶なんです。最近貴族でも流行っているんですよ。お気に召していただければ」

「おいしいです。柑橘類のフレーバーティーですよね」

「アールグレイね。おいしいわぁ」

「ご存じの通り、アンナ義姉さんがお茶好きなので、茶葉はうちの商会では力を入れて販売してるんです」

「アンナさんの淹れてくれるお茶、本当においしいんですよね」

「また遊びに行って、飲みたいわねぇ」

「アンナさんにお茶をいただいたんですね。あのお茶、本当に認めた人にしか出さないんですよ。僕も去年にやっといただけたんです」

「自分も随分掛かったな……。商会長の弟とはいえ、自分が商会で働き出したのはアンナ義姉さんより後だったから、よく赤子扱いされたよ」


 マイヤからディオンに行く途中で普通にいただいてましたけど……とは言えず、話を聞いて相槌を打つに留めておいた。


「お三方には丁重に対応するように、と商会長夫妻名義で手紙をいただきました。なので、この支店でも協力は惜しみません。とりあえず、今夜の食事と宿を準備します」

「そうだな。アラン、お勧めのレストランはあるか?」

「えぇ、これから行きますか?」

「そろそろ蒼ちゃんのいつもの時間ねぇ」

「ちょっと! いつの話してるの! 恥ずかしいからやめて!」

「でもそろそろでしょう?」

「……そうだけど」

「いつもの時間とは?」


 カールさんが尋ねてくる。


「何でもないです! ご飯行きましょう!」


 無理やり話を終わらせて、私たちは商会を出て、アランさんの先導でご飯屋さんに向かう。

 ご飯屋さんは、商会から一度中央広場に出て、領主邸方面へ歩いて左手にあった。ちなみに右手に見えるのがお勧めの宿屋さんらしい。

 早速中に入る私たち。店員さんは、お姉ちゃんの肩に乗ったタルトに一瞬顔を引き攣らせたが、スマイルで店内に案内してくれた。奥の個室だ。

 エールでいいですか? とアランさんに聞かれたので、お姉ちゃんは頷き、私は果実酒、タルトは果実ジュースを頼んだ。

 店員さんに飲み物と料理の注文しに行ってくれるアランさん。

 すぐに飲み物が運ばれてくる。それから、料理は少々お待ちくださいと残して去って行く店員さん。


「では、早速乾杯しましょう」

「「かんぱーい」」


 私は合わせたジョッキを口に運ぶ。いただきます。

 果実酒は水で割った柑橘系のお酒だった。何だろう、多分果物が一種類じゃないな。ちょっと甘いから、桃とか入ってそう。後オレンジ類。それからレモン? 難しい。

 お姉ちゃんは、今日は一気飲みじゃなかった。よかった。タルトはマイペースで飲んでる。

 おいしいわねぇ、とお姉ちゃんはアランさんとカールさんとお酒談義を始める。私は、お酒はよく分からないので聞いているだけ。

 すると、料理が運ばれてきた。野菜? あ、お肉もあるけど、表面が焼けてない。もしかして、蒸してる?


「焼き目がついていませんが、蒸して熱を通しているので、食べて大丈夫です」

「蒸し料理なんて初めてです」

「おいしそうねぇ」

『蒼、肉多めで取って』


 私は自分のお皿に野菜、タルトのお皿に肉肉野菜と取ってお皿を置く。

 にんじんに、かぼちゃ、じゃがいもに玉ねぎ、それからほうれん草と色とりどりだ。

 どれもとても柔らかくなっていて、ほうれん草なんて繊維がしっかりしているはずなのにナイフで簡単に切れる。口に運ぶと、かぼちゃやじゃがいもはほろほろとしていて、にんじんと玉ねぎはとろとろして食べやすく、なんと言ってもとても甘い。味付けはほとんどしておらず、多分塩だけなのに口の中が幸せになる。

 次にお肉をお皿に取ってみる。鶏肉かな、ほんのちょっぴり桃色で見た目が綺麗。口に運ぶ。こっちも味付けは塩だけかな。でも鶏肉なのでとってもジューシーで肉汁が溢れてくる。そして柔らかく口の中で解ける。


「……イさん」

「……レポに…………今ダメよう」

「……満足…………です」


 何か声が聞こえるけど、私はこの食事に集中をして、大変満足しました。

 ごちそうさまでした。

 あっという間に食事が終わってしまって、解散となる。

 お支払いはカールさんがしてくれた。

 それから、アランさんと別れて私たちは勧められた向かいのホテルに行く。

 中に入ると、フロントの人が一礼してくれる。

 すでに手続きしてあったのか、カールさんが商会の名前を出すとすぐに案内された。

 私たちはお礼を言って階を上がる。私たちは三階、カールさんは二階。食堂は一階との事。

 二階の踊り場でカールさんと別れて、私たちは三階の部屋に入る。

 部屋はベッドが二台にちょっとしたリビングスペース、後トイレとお風呂がついた部屋だった。マイヤのホテルにちょっと似てるかな。ベージュを基調にした内装が落ち着く。

 タルトは早速窓辺の定位置へ移動。

 お姉ちゃんはお風呂へ、恒例のように一緒にとせがまれたけど、ここも二人で入れる程のスペースはないのでしっかりとお断りした。

 その間に私は魔術訓練をする。手の平を合わせられるようになってから、まったく進展がないんだよね。

 それでもバチっと音を立てながら訓練する。やってたらお姉ちゃんがお風呂から出てきた。手の平にヒールを貰って、入れ替わりに私がお風呂に入る。

 うーん、難しいな。

 ぼんやりとしながらお風呂を出て、体を拭いて服を着る。髪を『ドライヤー』で乾かして部屋に戻ると、お姉ちゃんが魔術訓練してた。


「難しいわねぇ」

「取っ掛かりがないよね……。日記は書いたの?」

「そうだわ、書かないと。ありがとう蒼ちゃん。タルトちゃん、訓練はここまでねぇ」

『分かった』


 お姉ちゃんは日記を書き始め、私はベッドに入って一足お先に眠るのだった。




 目が覚めた。今日は寝ぼける事なくぱっちりだ。

 お姉ちゃんは、当然まだ寝ている。タルトも窓辺で舟を漕ぐようにこっくりこっくりしている。体が上下して首が動いてるの可愛いね。

 さて、私は起き出して身支度をする。着替えをどうしようかな。ペーターさんは商人の娘に見えるから、かしこまった服なら大丈夫って言ってくれたけど、具体的にどれを着ればいいのかな。

 手持ちでドレスに近いって言うと、このロリータ服なんだけど、これで本当にいいのか……。

 なんて悩んでいると、隣のベットからもそもそと音がした。お姉ちゃんが起きたかな。


「おはよう、蒼ちゃぁん。ふぁぁ……」

「お姉ちゃん、おはよう」

「あら、そんな可愛い服を出してどうかしたの? デート? えっ……だ、誰と?!」


 お姉ちゃんが普段は絶対に見せない速度でシーツを蹴り上げ、体を起こして私に迫ってくる。

 私は、迫り来るお姉ちゃんの肩を押さえて落ち着かせる。


「違うよ。今日リインフォース領主様に手紙を届けるでしょう? 結局、どの服を着ればいいのかなって」

「そういう事ね。よかったわぁ。デートだったらくっついて行って、絶対に相手を許さないところだったわ」

「そんな……。それじゃ私に出会いがないじゃない……」


 過激なお姉ちゃんから一時目を逸らして、なんとか気を持ち直す。


「それより、服! お姉ちゃんは決めてる?」

「えっと、これよぅ」


 お姉ちゃんはストレージから服を出してベッドの上に広げる。

 上は控えめにフリルのついた白藍のブラウス、下もやっぱり、チェック柄で装飾が控えめになっている空色のストラップスカートだ。派手じゃない清楚な感じが出てて、何より清潔感があってとてもいい。この服ならきっと貴族とも会える……。


「前にリエラちゃんと見てて買ったんだけど、着てなかったのよね。これにパニエを合わせれば丁度いいかなって」


 リエラと買ったって事はマイヤの街かぁ。私その時何買ってたかな……。あぁ……。


「なんであの時私は甘ロリばっかり買ってたんだろう。こういう用途を想定してなかった……。それ、すごくいいね……」


 欲まみれだった自分の行動にちょっと反省する。けど、そんな清楚なのないし、どうしよ……。


「蒼ちゃんの分も色違いであるわよ」

「え?! お姉ちゃん天才?!」

「もっと褒めて抱きついてもいいのよ」

「でも何で買っておいてくれたの……? 貴族と会うなんて思ってなかったよね?」

「双子コーデしたかったからに決まってるじゃない」


 何言ってるのこの子は? って顔で見ないでほしい。欲まみれなのはお姉ちゃんもじゃない!


「でも、ありがとう」


 助かったのは事実なのでお礼を言う。ちょっと不本意だけど。

 渡された服はお姉ちゃんと同じデザインで、ブラウスが白緑、スカートが青竹色のものだった。チェックの色がちょっと違う。

 早速着替えて身だしなみを整える。お姉ちゃんと一緒……久々でちょっと嬉しいやら恥ずかしいやら。


「あら、やっぱり蒼ちゃんは可愛いわねぇ。その色にしてよかった」

「お姉ちゃんも似合ってるよ」


 この色、私たちの目の色に合わせたのかな。私の服が緑寄りだし、多分そうかな。

 私の目の色が深い青緑色なのに対して、お姉ちゃんは深い青色をしている。お姉ちゃんって、かなり色を気にするし、気にしてくれて嬉しい。

 二人で互いを確認して、タルトを連れて一階の食堂へ行く。

 食堂へ入ると、ざわざわしていたのが止み、こっちに注目が集まった。

 お揃いの服装ってだけで珍しいのに、双子って、尚更珍しよねぇ……。

 カールさんが座っていたので挨拶をして同じテーブルに座る。


「おはようございます。お二人共お似合いですね」

「変じゃないかしら?」

「貴族に会っても大丈夫でしょうか?」

「問題ないでしょう。見目麗しい双子の令嬢が会いに来たとなったら、追い返す人はまずいません」

「ありがとうございます」

「ありがとう」


 そこに朝食が運ばれてきた。サンドイッチと野菜スープにヨーグルトだ。タルトにもサンドイッチが置かれていった。いただきます。

 サンドイッチはトマトレタスサンドにハムチーズサンド。野菜が特産の話に間違いはなく、昨日に引き続き野菜が非常においしい。この街で野菜買い溜めしておこう。ストレージも広がったしね! ハムはあっさりしてて、一方でチーズは濃い。塩味がいい感じになっていてどんどん食べれてしまう。

 野菜スープはサンドイッチでも思った通り、野菜がとてもおいしいので間違いない。特に入っている根菜類がどろどろになるまで煮込まれたこのスープは、食感と根菜の甘さが寝起きの胃にとっても優しい。

 最後にヨーグルト。砂糖が入っていて甘く、デザート感覚で食べられる。また、乳の味が濃厚でしっとりしているが、比較的水分が少なめでずっしりとした感じ。

 大変おいしかったです。ごちそうさまでした。

 カールさんと軒先で別れて、私たちはリインフォース領主邸へ歩き出す。道は、宿屋さんを出て右にまっすぐだ。

 途中、店先で露店を出してる人に何度か挨拶された。私たち、そんなに目を引くのかな? 嫌な感じはなかったので、笑顔で挨拶を返す。少し歩いて、一際大きい豪邸が正面に現れた。ここが領主邸かな。

 ここにも門番さんがいる。さすが領主様。警備も厳重なんですね。

 門に近づくと、不審がって槍を突き出されたりする事はなく、門番さんが笑顔で対応してくれた。


「こちらはリインフォース領主邸です。ご用件を伺いましょう」

「はい、私たちは、領主様に手紙を渡すように頼まれて、マイヤ領から来ました」


 私はかばんから手紙を取り出して、門番さんに渡す。

 宛先を確認し、確かにリインフォース領主様宛ですね、と呟きながら差出人を確認するために裏を見る門番さん。

 そこで目を見開く門番さん。私たちと手紙を何度も交互に見る。

 それから、隣にいた同僚の門番さんに、こそこそと話をしたと思ったら、同僚さんが邸内へ駆け出して行く。


「確認しますので、申し訳ありませんがしばらくお待ちください」

「は、はい」

「はぁい」


 タルトは我関せずと私の肩の上で寝ている。お姉ちゃんは、どうしていつも緊張感なくいられるのかな。羨ましい。

 五分くらいして、さっき駆けて行った門番さんが、男性を連れて戻ってきた。背が高くて細身、金髪の髪を後ろに撫で付けた中年の男性だ。

 二人共よっぽど急いで来たのか、息が上がっているようで、落ち着くまで更に少し待つ。

 それから、新しく来た男性が話し出す。


「大変失礼いたしました。お嬢様方。それに……ドラゴン?」

「はい、私は蒼と申します。隣は姉の雫です。肩に乗っているのはドラゴンのタルトです」

「ご丁寧にありがとうございます。ようこそリインフォース家へ。私は当家の執事を務めているジョセフと申します」

「よろしくお願いします」

「よろしくねぇ」

「早速ですが、リエラ様からの手紙を、主に代わり拝見させていただいても?」

「はい、門番さんが持っています」


 門番さんが執事のジョセフさんに手紙を渡す。裏の差出人を見て、喫驚するジョセフさん。

 しかしそんな振る舞いを恥じるように、一度深呼吸して冷や汗を拭き、再起動する。

 そして失礼します、と言いながら、封筒を懐から取り出したレターオープナーで開いて中を読み出す。一つ一つの動きが優雅で丁寧だ。

 読み出したジョセフさんの手が震えている。何度も目を見開いて、その度に深呼吸して自身を落ち着けようとする様は私たちにも緊張を促した。


「ね、ねぇ、お姉ちゃん。リエラは領主様に何をしたの……?」

「分からないわぁ。マイヤから離れてるし……」


 やがて手紙を読み終えたジョセフさんが、丁寧に封筒に手紙を入れて、それを懐に入れる。

 そして私たちを見て笑顔で言う。


「ようこそいらっしゃいました。いえ、おかえりなさいませ。シズクお嬢様、アオイお嬢様、タルト様。まずは、長旅の疲れをお癒しください」

「おかえりなさいって、ジョセフさん、よく分からないです。一体、リエラは領主様に何をしたんですか?」

「どうぞ、ジョセフとお呼びくださいませ。私はしがない僕でございますので。リエラお嬢様は、リインフォース領主、ゲルハルト・リインフォースの長女でございます。お二人を家族として迎えるよう、手紙にリエラお嬢様から指示がありました」

「「えぇーー!!!?!」」



評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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