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26. 反省会をしよう

 森の中に巣食っていたゴブリンを退治して、アルデナの街に戻ってから、こっそりとチュロスで腹ごなしをしてギルドに着いたところ。

 私たちだけ食べたんじゃ心象よくないよねって思って、他のみんなの分も買ってたらちょっと遅くなっちゃった。

 タルトも着いたらお代わりあげるから、もうちょっと我慢してね。

 ギルドに入ると、モニカさんが私たちを見つけて声を掛けてくれる。


「シズクさん、アオイさん、こっちですぅ! みなさん集まってますよ。わ、いい匂いですぅ」

「ごめんねぇ、買ってたら遅くなっちゃった。みんなの分も、もちろんモニカちゃんの分もあるから、お茶を人数分お願いできるかしら?」

「わかりました!」

「場所は奥かな?」

「はい! 奥の会議室です。執務室の隣です」


 私たちは教えてもらった通りに進み、奥の会議室に入る。会議室は楕円形の大きなテーブルと椅子が置かれた広い部屋だった。装飾は簡素で、ギルドの旗とアルメイン王国旗が掛けてあるくらい。

 そのテーブルに、ロイさんと他に各パーティのリーダーかな、十人くらいの人がいた。


「おう、シズク嬢! アオイ嬢! 遅かったな。さてはアオイ嬢が飯食ってたな?」

「どうしてみんな、私をそういう目で見るんですか? 確かにそうですけど、買ってきたチュロスあげませんよ」


 私はかばんから大皿を四枚出し、抱えていた紙袋からチュロスをそのお皿にわけて出す。お皿の配置はロイさんを絶妙に避けてだ!


「すまなかった。だから、俺にも食わせてくれ……。腹ペコなんだ」


 いいでしょう、ということでちょっとお皿をロイさん側に寄せてあげた。

 みんなが一斉に食べ始める。お腹すいてますよねぇ。タルトもお代わりを食べ始めた。その姿をみんなが見ている。器用に食べるうちの子可愛いでしょ。

 そこへ、モニカさんがお茶とグラスを持って会議室に入ってきた。大人数だからお姉ちゃんと配膳を手伝う。配り終わってモニカさんもあいていた席に着席して、チュロスに手を伸ばす。


「いただきます! ……これ、おいしいですねぇ!」

「モニカは……そのままでいいか。じゃ、始めるぞ。まず改めて、みんなご苦労だった」

「「お疲れ様でした!!」」

「ゴブリン自体の数も多かった上、ゴブリンチャンピオンというイレギュラーもいた。残念だが商人らしき者の命が失われていたが、街への被害は事前に食い止めることができた」


 全員が頷く。街への被害を未然に防げたのは大きいよね。


「これは非常に大きなことだとギルドでは考えている」

「ギルマス! 俺は難しいことはわかんねぇ! 報酬はいくらもらえる?」


 ちょっと我慢できない人もいるみたい。まぁ、早く休みたいよねぇ。


「あぁ、一人小金貨一枚だ。もう精算カウンターで受け取れるように手配してある。それから、集落で見つけた物は別途調整する」

「太っ腹だな。それだけ聞けりゃ十分だ。帰っていいか?」

「……わかった。だが今後も、任務中の団体行動は守ってくれよ」

「あぁ、生死に関わるからな。それじゃお先」


 ちょっと粗野な男性が一人席を立つ。それに合わせて、別の二人の男性が部屋を出て行った。


「まったく、仕方ないな……。帰るなら他もいいぞ? あと聞きたかったのは、ゴブリンたちに気になった点がないかってことだけだ」

「はい、ロイさん。いいですか?」


 大人しそうな男性が手をあげる。魔術師チームの人だね。火属性と、闇属性も使える人だ。


「あぁ。いいぞ」

「やはり、あの規模の群れで、しかもゴブリンチャンピオンが現れていたにも関わらず被害が出ていないのはおかしい」

「だよな。普通ならもっと早く略奪行動を開始しているはずだ」

「最前線にいてずっと見ていましたが、かなり統率が取れていたように感じました。それこそ、チャンピオンの知性では指揮できないレベルです」


 杖を持った女性が話を継ぐ。後衛チームの人かな。


「こっちは四チームにわかれていたけど、的確に合わせてきてたわねぇ。それから、最初チャンピオンはいなかったわ。あとから出てきたのよぅ」

「どういうこと? お姉ちゃん」

「まず各方面のチーム戦だけど、各チームへの後衛チームの補助の手が薄くなるタイミングに合わせて、ゴブリンの突撃が強くなってた気がするのよ。それから、雫は戦闘前からずっと魔力感知していたんだけど、最初あんな大きな魔力の塊はなかったわ」

「つまり、終盤になって突然現れたってことか?」


 お姉ちゃんがロイさんを見て頷く。


『あのゴブリン、汚染されてたね。お母さんと同じやつだ』


 そこへ、タルトが告げる。


「タルト、どういうこと?」

「ちょっと待ってくれアオイ嬢、タルト殿。お母さんのところから説明してもらってもいいか?」

『蒼、よろしく』


 私はロイさんたちにタルトのお母さんのことを説明する。

 でもあの時って、瘴気の塊っていうのがすぐわかるくらいだったけど……。


「雫は汚染に気づけなかったわぁ」

『きっとなり立てで、意志の弱い個体だったんだろうね。魂の汚染がほんのちょっと始まったくらいだったから、気づかないのも無理ないよ』

「だが、突然現れたというのはどういうことだ?」


 ロイさんの言う通りだ。その疑問がまだ解決していない。


「ゴブリンが一体、その場で汚染されて変異したということでしょうか?」


 別の男性が質問する。ゴブリンチャンピオンと対峙してた盾役の人だ。


「それなら雫が気づくわぁ。感知してる魔力の質が変わるってことだもの」

「でも、汚染に気づかなかったんですよね?」

「それはそうなんだけど……」

『変異じゃないよ。それなら僕も気づく』


 タルトがその場で変異した可能性を否定する。

 そこで、私はもう一つの可能性をぼそりと呟く。


「……誰かが空間属性魔術で転移させた?」

「は?」


 ロイさんから呆けた声が聞こえた。けど、他にこれしか思いつかないんだよね。


「でも蒼ちゃん、テレポートじゃ移動距離は魔力を広げられる範囲までよ。雫の範囲には、移動した物はなかったわ」

「上級空間属性魔術なら、ワープがある。標になる魔術具を置いておけば転移できるってやつ」

「ちょっと待て! アオイ嬢、シズク嬢! 上級空間属性魔術なんて使えるやつは……」

「可能性の話です。でも、そういった魔術はあります。もちろん私もお姉ちゃんも使えませんが」


 周囲がざわつく。


「ところで、どうしてそんな魔術を知っているんですか? 学院でも空間属性魔術は初級までしか聞いたことがありません」


 さっきも発言した魔術師チームの男性が質問してくる。学院の人って知識欲旺盛だなぁ。


「雫たちの魔術の師匠が教えてくれたのよぅ」

「へぇ、学院でも知らないことを知っているって、すごいですね。どんな方ですか?」


 若干、挑発的に尋ねてくる。別にけなしたわけじゃないんだけど……。私は質問に答える。


「リエラって名前の、見た目少女の変人なんですけど……」

「おい、アオイ嬢。リエラって、あの魔術師リエラか?!」

「あの……? 生活魔術を考えたって話ですか? それとも、魔術師団にいたって話ですか?」

「なんか面倒で魔術師団は辞めたって言ってたわねぇ」

「王国魔術師団の元副団長だぞ! あのアルメインの奇才が師匠か……通りでお前ら強いわけだよ」

「「せ、生活魔術の祖……リエラ様……」」


 なんだか拝み始めた人が数人……。え、リエラってそんなすごいの? ただのバトルジャンキーだよ? なんてことは言わずにそっと見守る私たち。


「おっと、話が脱線したな。ゴブリンチャンピオンの出現は、ギルド全体に報告しようと思う。これ以上話に進展もなさそうだしな。他に気づいた点はないか?」


 周りを見るロイさん。一同ないと頷き返す。


「では長時間ご苦労。ゆっくり休んでくれ! 解散! シズク嬢とアオイ嬢はすまないがもう少し残ってくれ」


 一斉に席を立って部屋を出る冒険者のみなさん。私たちはそのまま座ってお茶を飲む。モニカさんがお茶のおかわりを注いでくれる。

 部屋にいるのが四人と一頭になって、再びロイさんが口を開く。


「すまないな。早速続きだ。アオイ嬢が言った通り、出現は空間属性魔術だな。おそらく使ったのは魔族じゃないかと俺は思う」

「魔族って、魔術を使うのかしら?」


 私も疑問に思ったことをお姉ちゃんがロイさんに聞く。


「使うやつもいる。人間から変異した魔族はそうだ。だから空間属性魔術を使えるやつがいても不思議じゃない」


 二人も中級使えるだろ、と添えてくる。


「今後も魔族が出てくる可能性がある。まぁ注意だな」

「わかったわぁ」

「話はそれだけですか?」

「ま、まだですぅ! お二人の報酬の話です!」


 モニカさんが立ち上がろうとした私たちを慌てて止める。


「あぁ、二人には指揮報酬として別途小金貨が追加で一枚出ている。それと貢献値にも追加がある」

「この上ってAランクよねぇ? 雫たちはもう貢献値いらないわ」

「Aランクになれば報酬や名声が多く得られるぞ?」

「どっちもいらないわ。蒼ちゃんと、タルトちゃんとのんびり旅がしたいだけだもの」

「貢献値は規則だから諦めてくれ。ちなみに、Aランクになるには貢献値の他にギルマス三名の推薦が必要だから、貯まる分には問題ない」

「それなら、仕方ないわねぇ」

「だがここに三名分の推薦状がある。Aランクになってくれないか?」

「手回し早く無いですか?! 嫌です!」

「嫌よぅ。しつこいと嫌われるわよぅ?」

「私も強引だと思います!」

「モニカちゃん! いい子ねぇ」


 まさかのモニカさんの寝返りに唖然とするロイさんと、モニカさんをなでなでするお姉ちゃん。

 両手をあげて嘆息するロイさん。


「なら仕方ない……。だが魔族には注意してくれ」

「はい」

「わかったわ」


 さっきチュロスのお代わりを食べて、お姉ちゃんの肩の上ですやすや静かにしていたタルトが起きる。


『話終わった? じゃあロイ。ケーキをよろしく』

「おう、うまい店行くぞ! そこで飯も食おう! モニカ! 案内頼む!」

「えぇ、私任せですかぁ。ギルマスの奢りですよね?」

「お前もがんばったしな。俺が出す」

「じゃぁお店の場所を教えてください。一度、商会に顔を出してから行きます」

「それなら私がついて行きますよ」

「お願いねぇ、モニカちゃん」

「ギルマス、メタラジーカフェで待ち合わせましょう」

「あそこだな。わかった」




 私たちはモニカさんを連れて、ギルドから一度ウォーカー商会アルデナ支店に顔を出す。店先に行くと荷出しをしているカールさんが迎えてくれた。

「シズクさん、アオイさん。お疲れ様です。そちらの方はお仲間ですか?」

「お疲れ様です、カールさん。こっちはギルド受付のモニカさんです。実はモニカさんと、ギルマスのロイさんと夕飯を食べることになりまして、その連絡だけしに寄りました」

「そうですか、残念ですが交流は大事です。行ってらっしゃいませ」


 カールさん、ペーターさんに似て素直なんだよね。肩が下がってがしょんぼりしてる。また機会ありますからね!

 お姉ちゃんもまた一緒に食べられるわよぅ、って慰めてるし、大丈夫。タルトは我関せずとお姉ちゃんの右肩に収まっていた。


「それじゃぁ、行きましょう。モニカちゃん、案内よろしくねぇ」

「わかりました! 任せてください!」


 モニカさんの先導で、商会をあとにして歩き出す。大通りではなく裏道を通るらしい。

 産業区の裏道を歩いて少し、どう見ても見た目が鍛冶屋のお店があった。ドアの上には看板代わりの剣と槍。ドア側に置かれた樽には、当然のようにぼろぼろの剣が差してある。でも中からはいい匂いがする。


「モニカさん、ここ、カフェで間違いないんだよね?」

「そうです! アルデナで私が最もおすすめするカフェレストランです!」

「ここもソフィアちゃんがおいしいって言ってたのぉ?」

「もちろんそれもありますが!」

「あるんだ……」

「おすすめするに相応しい確かなごちそうを約束します!」


 まぁ、モニカさんのおすすめだから、間違いないだろうと中に入る。

 するとギルマスはもう店内で広い席を一人で独占していた。私たちが来るから、席を取って待っててくれたのかな。


「おぅ! 遅かったな! 早速始めるぞ! マスター! 注文したやつを頼む」

「ギルマスの騒がしい雰囲気はまったくもってこのお店に合いませんが、ここの料理が食べられるなら致し方ありません。シズクさん、アオイさん、タルトさん。ギルマスを破産させますよ!」

「ここって、高いの?」

「領主もお気に入りのお店ですからね。貴族もたまに来るそうですよ」

「おいしければいいわぁ。タルトちゃんも座りましょう」


 円形のテーブルの十二時方向にロイさん、そこから時計回りにモニカさん、私、タルト、お姉ちゃんの順で座る。タルトは椅子の上に台を置いてもらって、そこに乗った。

 ロイさんが注文しておいてくれたのか、ドリンクと料理が運ばれてくる。

 ドリンクは私たちにエール、タルトにミルク。料理は焼き野菜とソーセージにじゃがベーコン、それからホールケーキ。ホールケーキはタルトの前だ。

 モニカさんが、私のこだわりが……ソフィア先輩との思い出が……、と頭を抱えている。ここでもソフィアさんエピソードは深いんだね。


「まだるっこしいのはなしだ! ジョッキ持て!」


 タルト以外の全員がジョッキを持ってロイさんを見る。


「「かんぱーい」」


 一口飲む。今日のはいつもと違うのかな? 香りや味がいつもよりかなり濃い。特に味が、いつもは苦さしかないのに今日は苦さも甘みもある。ジョッキの中を見てみると、液体がだいぶ黒かった。これ、もしかして黒ビールっていうやつかな? 好きかも。

 お姉ちゃんとモニカさんは昨日に引き続いて一気に飲んでお代わりをしようとしている。ちょっと!


「昨日、一気飲みはダメって言ったでしょ!」

「おいしいんだもの……、ウェイターさん、同じのもう一杯ちょうだい」

「確かにここのはおいしいですけど……エールなんてやってられませんよ! こっちはゼクトの赤を甘口で!」

「お前らいい飲みっぷりだな! 俺もお代わりだ!」


 ロイさんも飲み干したのかお代わりを頼んでいる。


『騒がしいのは嫌なんだけど……』


 タルト、この人たちにはもう無理よ……。

 私は諦めて料理に手を伸ばすことにする。いただきます。

 まず焼き野菜。にんじんとトマト、わからないけど葉物野菜が丁寧に焼かれている。表面に少し塩が見える。にんじんがやわらかい。フォークだけで切れるくらいだ。口に入れるととっても甘い。焼き目が少し香ばしくなっていい感じだ。次にトマト。中身が溢れそうなくらいとろとろだ。でも水分が少し飛んでぎりぎり保ってる。こっちも甘い。でも同時にくる酸味がトマトが全てと教えてくれるような錯覚を覚える。最後に葉物野菜。わからないけど、一口大に切って口に運ぶ。今度は塩の塩味と強烈な苦味。とろとろになった中にも残る繊維が何度も噛ませてくるんだけど、その度に出てくる苦味がおいしい。癖になる。このあとエールを一口……最高。

 みんな食べないの?


「そういえばシズクさん、ウォーカー商会の人と知り合いなんですか?」

「そうよぅ。会長夫妻とお友達なの。カールさんはその弟で、リインフォース領まで一緒してくれてるの」

「おい! お前らなんでそんな大人物ばかりと知り合いなんだ?」

「マイヤからディオンの護衛依頼で一緒に旅をしただけよぅ。でも知り合えたのは幸運だったわぁ」

「神の祝福か?」

「どうかしらねぇ」

 

 次にソーセージとじゃがベーコンに手をつける。ソーセージは中に香草が入っていて、臭みが消えている。でも肉汁と肉の旨味はしっかりと残っていて、とっても贅沢だ。香草もアクセントになってていい。じゃがベーコンはもう言うことないよね。最高。一口食べてエールを飲む。私の勝ち。

 みんな飲んでばかりで食べないなら食べちゃうよ?


「シズク嬢、魔術師リエラとはどこで知り合ったんだ?」

「神様に転移させられたところで出会ったのよ。あれも幸運だったわね。リエラちゃんじゃなかったら、雫たち生きてないかも」

「ギルマス、その魔術師リエラってそんなすごい人なんですか?」

「モニカお前……受付研修の一般教養サボったな?」

「な! なんでそれを……!」

「そこで習うからだ! それにさっきも寝てたな……。まぁいい。お前も使える生活魔術な、あれ魔術師リエラの発明だ」

「えぇ?!」

「アルメイン王国始まって以来の魔術の奇才と呼ばれていてな、十五の時には各上級魔術を使って王国魔術師団で頭角を表してる」

「魔術師団って、学院で魔術を学んだ内で、特に優秀なエリートが卒業して入れる狭き門ですよね? 歳が合いませんよ?」

「詳しくは知らないが、王が認めた特例と聞いている」

「はぁ……」

「この国一の魔術師ってことだ。だが十八の時には行方不明と聞いてるな」

「そんな方がお知り合いなんですね。でも行方不明って……シズクさんたち、会ってるんですよね?」

「知り合いっていうか師匠ね。多分その行方不明中に拾ってもらったんだけど、雫も詳しくは聞いてないのよぅ。話たくなさそうだったから」


 タルトを見るとケーキをもぐもぐしてる。あぁ、口にクリームつけちゃって。私はタルトの口を拭いてあげて、ホールケーキを食べやすい大きさに切り分けてあげる。


『ありがとう蒼。食べる?』

「私はいいわ。おいしい?」

『とてもおいしいよ。蒼は混ざらなくていいの?』

「……ご飯を食べてたらタイミングを失ったわ」


 三人を見ながらくぴくぴと飲んでいたら、ジョッキが空になった。


「モニカさん、おすすめのお酒ある?」

「シードルですね。自家製で、この街で一番おいしいと思います。なによりソフィア先輩がおいしいって飲んでました!」


 本当にこの子はブレないなぁ。私はモニカさんにお礼を言って、店員さんにシードルを頼む。便乗してお姉ちゃんとモニカさんも頼んでいた。ロイさんはエールお代わりらしい。


「アオイ嬢は指揮経験があるのか? 今日の討伐指示、魔術の選別が的確だったな」

「ありませんよ。いつも一人でやってることを分担してもらっただけです」

「あれを一人でか……?」

「私も見てましたけど、大人数を四属性にわけて綺麗にやってましたよね? 一人でできるんですか?」

「基本四属性なら私も使えますから。拘束、攻撃、追い討ち。ほら、やることは一緒ですよ」

「蒼ちゃんはすごいのよぅ!」

「お姉ちゃん、お酒が溢れるからいきなりはやめて!」


 お姉ちゃんが抱きついてきて私の頭を撫でる。間に挟まれたタルトがちょっと窮屈そうだ。


『雫、狭い』

「ごめんねぇ。でも今日の一番の功労者はタルトちゃんよ! よしよし」


 私から、今度はタルトを撫で始めるお姉ちゃん。あ、鬱陶しそうにしてる。お姉ちゃん、嫌われるよ。


「タルト殿の一撃はすごかったらしいな」

「そうよぅ! ビーム一発で倒しちゃったんだから」

「ビームはよくわからんが、ドラゴンはみんなそれくらいできるのか?」

『僕たちホワイトドラゴンは、下位ドラゴンに比べて魔力操作と防御力に長けてると言われているね。今日のも、魔力操作と魔法の一環だよ』

「確かに、魔術陣なかったね。あれが魔法……」

『魔術でも、詠唱すれば同じことができるはずだよ』

「もっと訓練しなきゃ……」

「そうねぇ……、もっと強くならないとね」

「お前らもう十分だろ……」

「はい! 私も生活魔術で洗濯できるようになりたいです!」

「あら、教えてあげるわよぅ」

「え! いいんですかシズクさん?!」


 お姉ちゃんと二人で生活魔術講座を開く。ロイさんもちゃっかり聞いている。

 モニカさんは食器洗いはできるらしい。じゃあ魔力量はあると思うからあとは魔術言語とイメージだね。

 ハンカチを取り出して実践してみる。『水 流動 布』。流れる水で汚れを削ぎ落としていくイメージかな。布が水を通す特性をイメージすると成功しやすいと教えてあげる。これ以上は本人のイメージを阻害するから応援するしかない。すると、ロイさんはできたみたい。遅れてモニカさんもできた。ちょっと水が絞りきれてないけど、練習だね。

 次にアレンジ。『水 微風 流動 布』。こうすると、洗濯物が乾いた状態で完了させることができる。

 微風で水分を飛ばすイメージをさっきのに追加する。綺麗になって乾いたハンカチのできあがり。

 こっちもロイさんは難なくクリア。でも元々より汚れが落ちたように思えるって。やったね。モニカさんはちょっと湿ってるけどなんとかできた感じかな。


「モニカちゃんはもうちょっと練習ねぇ。でもさっきより乾くようになってきたわ」

「はい! がんばります!」


 ロイさんが感心したようにこっちを見て言う。


「こんな簡単にできるもんなんだな」

「え? 生活魔術って、簡単ですよね?」

「いや、魔力があればできるが、魔術言語を習得するハードルが高いんだ。そこで講師は金を取るから、一般人に浸透しない要因にもなっている」

「リエラの意志と違ったところに行っちゃってるんだね」

「そうねぇ。リエラちゃんは市民の生活を楽にしたいって言ってたわ」

「それとは外れているな。だが言語の掛け合わせ? を自由に変えられるって言うのは初めて聞いた。これならアレンジできるし、口伝もしやすい。知り合いにも教えていいか?」

「もちろんよぅ」

「助かる。独身男性冒険者は洗濯しないやつがちらほらいるからな」

「是非教えてください」


 そんなところで、いい時間になったし、お腹も酔いもちょうどいいのでお開きだ。ごちそうさまでした。

 お会計はロイさんが全額支払ってくれた。けど泣いてた。

 伝票がホールケーキ四つってなってたんだけど、いつの間にそんなに食べたの? 随分満足そうな顔をしたタルトが、ロイさんにごちそうさまを言っていた。

 メインストリートまで出て、二人は居住区、私たちはメインストリート沿いの宿屋さんなのでそこで別れる。

 宿屋さんでは、旦那さんが迎えてくれた。鍵を受け取って上にあがる。カールさんはもう部屋に入っているのかな。挨拶しようと思ったけど、遅いし酔っているのでやめておく。

 部屋に入って一息。タルトは窓辺に飛んで行く。すっかりそこが定位置だね。

 お姉ちゃんが先にお風呂に入ったので私は魔術訓練をすることにした。


「タルト、前に言った魔力制御教えて」

『いいよ。それじゃ座って』


 私はベッドに腰掛けて体を楽にする。


『基本は複合魔術と一緒なんだ。ただ、これは魔力が混ざり合う。だから、難しいのは打ち消さないところかな』

「うん、それはこないだ見てて思った」

『右手と左手で、別の属性を出すのはできるんだよね。その手の魔力を合わせたらどうなる?』

「えっと、打ち消しあったり爆発したりしちゃうんじゃない?」

『じゃあまずは、それをさせずに、魔石に両方の魔力を存在させることから始めようか。土と火か、風と水で合わせるのがやりやすいと思うよ』

 

 魔石を出してやってみて、とタルトが言うので、私はストレージから魔石を取り出して魔力を込める。

 右手で土属性魔力、左手で火属性魔力を発生させて魔石に流し込む。できてる……、それで油断してそのまま流し込みを続けたら、パリン! と大きな音がして魔石が真っ二つに割れた。


『二つの属性魔力が触れ合った瞬間、混ざらずに弾けたね。魔石はまだ早いかな。同じことを手のひらでやってみて』

「危なくない?」

『魔力をうんと弱くね。それくらいなら、仮に怪我しても雫がいるよ』


 タルトから予想外の危ない発言が飛び出したけど、習得したい。私は言われた通りに手のひらに属性魔力を発生させて合わせる。

 バチッと音がして合わせた手のひらが一瞬熱くなる。思わず両手を離してしまった。これじゃダメだ。もっと魔力が共存するイメージを持たないと……。

 土と火か。燃える土、溶ける土……土って溶けるの? イメージできないな。あとは、鉱石。鉄とか金属は高熱で溶けるよね。あ、そうだ溶岩だ。私は溶岩をイメージして、もう一度左右の手に発生させた魔力を合わせてみる。

 すると今度はバチッとした音は出ず、手のひらをつけることができた。赤色の魔力と、茶色の魔力が手のひらの隙間から混ざり合うようにゆらゆらと溢れ出す。


『早いね。すごいよ』

「やった! でき……きゃっ」


 再びバチッと大きい音がして、手のひらを合わせたところが爆ぜて手のひらが弾かれる。ちょっと熱い。


『油断するから。まだ入り口に着いただけだよ』

「う、うん。気をつける」


 そこでお姉ちゃんがお風呂場から出てくる。手のひらを上に向けて呆然としている私と、側にいるタルトを見て、理解したのかため息をついて言う。


「蒼ちゃん、なにか大きい音がしたけど、大丈夫……ではないわねぇ。手のひらが真っ赤よ」

「あ、これは……」

「大方こないだタルトちゃんがやってた魔力制御でしょう? 気をつけてね」

「怒らないの?」

「蒼ちゃんががんばってるんだもの。応援したいわぁ。でも、怪我には本当に気をつけてね」


 そう言いながら私にヒールをしてくれる。魔術陣の色が濃い。『ミドルヒール』だ。私が思っていたより重度だったみたい。気をつけよう。

 今日は取っ掛かりも掴めたしここまでにする。タルトにお礼を言ってお風呂に入る。タルトは再び窓辺に行きたそうにしてたので『バスタイム』だけ掛けといた。

 お風呂から出ると、お姉ちゃんが日記を抱えて寝てた。私と違って最前線でずっと魔術使ってたんだもんね、疲れちゃったよね。シーツを掛け直してあげて、明かりを消す。

 おやすみなさい。

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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