22. 買い出しをしよう
目が覚める。なんだか体が痛い。
もそもそと動くと、自分がとても変な体勢で寝ていたのがわかる。
そうだ、昨日タルトを助けて、ギルドで瘴気の塊の顛末を説明して、ウォーカー商会に戻り、ご飯も食べずにあっという間に寝ちゃったんだ。
うぅ、ヒール欲しいよぅ。掛けられるお姉ちゃんは、と窓側のベッドを見ると、移動する直前の尺取り虫みたいな姿勢で寝ている。赤子みたいだな……。
タルトは……、窓辺で日光浴をしながらうとうとしてる。ドラゴンって昼行性でいいんだよね? 夜は寝るんだよね?
仕方ない、お姉ちゃんが起きるまで私も微睡んでいたいけど、目が覚めちゃったし起きよう。
ベッドから起き上がって伸びをする。体が痛い。激しい運動はしてないんだけど、多分複合魔術で魔力を放出しすぎたかな。もっと放出量を無理なく増やせるようにならないとなぁ。
とりあえずお風呂にも入らず寝てしまったので、服と体を『ウォッシュ』と『バスタイム』で綺麗にする。お風呂ほどじゃないけど、さっぱりした。
『起きたんだね、蒼』
タルトが私に気づいて目を覚ました。
「起こしちゃった? タルトも寝てていいんだよ」
『うとうとしてただけだから』
「お腹すいたし、ご飯食べに行くけどタルトも行く?」
『行く。雫は?』
「昨日の一件で疲れてるだろうし、寝かせておくよ」
タルトが私の左肩に向かって飛んでくる。着地の瞬間、翼が頬に当たってこそばゆい。それから肩に重みを感じる。
ドアを静かに閉めて、一階に降りる。食堂に入ると、アンナさんがお茶を飲みながら書類を見ていた。
アンナさん、ペーターさん以上に商会長の貫禄を感じるんだよね。言わないけど。
「アンナさん、おはようございます」
「おはようございますアオイさん、タルトちゃんも」
『おはよう、アンナ。さっきはごちそうさま』
「あれ? タルトご飯食べたの?」
「先ほど朝食の時間に起こしに伺ったのですが、お二人が起きて来られないので、タルトちゃんとだけ一緒にご飯を食べたんですよね」
「それは、大変失礼しました……」
ふふ、よっぽどお疲れだったんですね、と笑って許してくれる。
「昨夜も食べていませんし、お腹がすいてるでしょう、すぐに準備しますね。シズクさんは?」
「すみません、お姉ちゃんはまだ寝てます。疲れてると思うので、起こさないでいいかなと」
「わかりました。では、先に食べますか?」
「お姉ちゃんが起きるまで待っていてもいいですか?」
「えぇ、もちろんです。では、お茶を淹れますね」
アンナさんがお茶を淹れて持ってきてくれる。おいしいんだよね、アンナさんのお茶。タルトちゃんはぬるめね、と言って、タルトにもお皿にお茶を淹れて置いてくれた。いただきます。
私は一口飲む。口の中いっぱいに紅茶の香りが広がる。それと同時に、花の香りもする。
「おいしいです。優しい味がします」
「ありがとうございます」
アンナさんとタルトと三人で談笑していると、階段からとんとんと音がして、お姉ちゃんが起きてきた。
「蒼ちゃぁんおふぁよう」
「おはようお姉ちゃ……って、寝ぼけたまま降りて来たの!?」
私は慌ててお姉ちゃんに『ウォッシュ』と『バスタイム』、『ブラシ』を掛けて身だしなみを整えさせる。
「お姉ちゃんが失礼しました」
「ふふ、お気になさらず」
「お腹すいたぁ」
「ちょっとお姉ちゃん! いい加減シャキッとして……」
「すぐに準備しますね。お待ちください」
アンナさんが、お姉ちゃんの前にもティーカップを置いて厨房へ向かう。
戻ってきた時には一緒にペーターさんが、トレイに載せた料理を持ってやってきた。
「おはようございます。シズクさん、アオイさん、タルトさんも」
『おはようペーター』
「ペーターさん、おはようございます」
「おはよぅ……」
ペーターさんが私たちの前に料理を配膳してくれる。商会長にさせて、なんだかすみません……。
ご飯はパンにスープ、それから茹でたソーセージだ。タルトにはマフィンが置かれていた。いただきます。スープを一口飲む。ミネストローネと違う、トマトスープだ。トマトといくつかの野菜が入っている。野菜の味がトマトベースのスープに染み出していてとてもおいしい。次にパンを手に取って一口大にちぎって口に入れる。これらの酸味が、私の目を覚ましてくれる。
するとペーターさんが早速、と話を始める。
「昨日はお疲れ様でした。詳細なことを伺いたいのですが……」
「はい、と言っても大筋は昨日話した通りなので、補足になりますが」
「まず、瘴気の塊がタルトさんの母竜だった。それを倒して、同じく瘴気に汚染されていたタルトさんを、シズクさんの浄化で救出した、ということでしたよね」
「そうよぅ」
ご飯を口にしてやっと目が覚めたのか、お姉ちゃんが答える。
「瘴気の塊だった母竜はどうしましたか?」
「助けられなかったので、燃やしました」
「それは跡形もなく、ですか?」
あぁ、素材としてかぁ。商人としての目が光っているのに気づく。ペーターさん、ちょっとわかりやすいんだよね。
「お母さんドラゴンにタルトを守る代わりにと、その体を素材としていただきました。今、私たちのストレージに入っています」
「見せていただいても?」
「タルト、いい?」
『いいよ』
タルトの了承を聞いて、私はストレージから爪を一つ取り出してテーブルに置く。
「今出したのが爪ですね」
「これがドラゴンの……」
ペーターさんだけでなく、アンナさんも驚いている。ドラゴンの素材なんて見ることないよね。私たちだって初めてだったし。
「ご相談なんですが、譲っていただくことは……」
「あなた!」
ペーターさんの発言を、アンナさんが止める。商人としてか、人としてか、難しいよね。
一旦、私たちの考えを伝えよう。お姉ちゃんと目を合わせて頷く。
「タルトちゃん次第よぅ」
「ただ、私たちとしては仮にタルトが売ったとしても、そこからさらに売るのはやめて欲しいですね」
それからタルトが続ける。
『ドラゴンは君たちにとって繁栄の象徴だ。爪ひとつでいいなら持っていけばいい。でも条件がある』
「伺います」
『僕と雫、蒼に庇護を。君たちの商会全てを懸けて』
「あなた! 私は、すでにシズクさんとアオイさんに、商会として援助は惜しまないと約束しました。今まで受けた恩は、それだけのことをしていただいたと思ったからです。これ以上の欲は破滅になります」
「アンナ……」
ペーターさんが顔を顰めている。ペーターさんは商会長として商会を繁栄させなきゃいけない。アンナさんに子供も生まれるしね。でも、アンナさんが言うことも事実だ。私たちはもう援助を約束されている。例えそれが独断だとしても。
するとタルトが発言する。
『なんだ、アンナがすでに約束していたならいいよ。持っていけばいい。僕には大した価値がないからね』
一気に雰囲気が弛緩する。とりあえず波は去ったかな。
「私たちは、お二人の仲が悪くなることを望みません。だから、タルトがそう言うなら気を楽にして受け取ればいいと思います」
「仲良くしないと生まれてくる赤ちゃんが不幸よぅ」
ペーターさんが、タルトから爪を渡される。しかしペーターさんは受け取らない。
「すみませんでした。商会の繁栄と子供のことで目が眩んでいました。アンナの言う通り、これは私には過ぎたものです」
よかった、ペーターさんの目が覚めたみたい。アンナさんも安心した顔をしている。あとで怒られるかもしれないけど、家庭崩壊の危機は去ったよ。
『じゃあアンナにあげるね。さっきの啖呵は、繁栄するには十分だよ。そのご褒美だ』
「あの、私はそんなつもりでは……」
『それに、子供が生まれるんだろう? 人間で言う出産祝いというやつだね。僕たちドラゴンは、生まれた子供に集落のみなが祝福を授けるから、その代わりだよ』
そう言ってアンナさんの手に爪を置くタルト。お礼を言って震えながら受け取るアンナさん。アンナさんが持ってるなら、売ったりはしないでしょう。
よかった、一件落着かな。
しかしタルト、まだ子供なのに随分達者になっちゃって……。
『蒼、今失礼なこと考えてない?』
「なんで……。そんなことないよ!」
ふぅんと頷いたタルトは、再びマフィンを食べ始めた。これで話は終わりらしい。
一悶着あったけど、私たちも食事を終える。ごちそうさまでした。
食後に、アンナさんからお茶のお代わりをもらう。
「ところでペーターさん、昨日お肉を売った時の約束、覚えているかしら?」
「えぇ、リインフォース領へ向かう馬車ですよね。商会の馬車があります。定期便には早いですが、荷物を載せてリインフォース領へ向かわせますので、それに乗って行くのはいかがでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
「途中のアルデナ領で、数日滞在することになりますが、よろしいですか?」
「もちろんよぅ」
「出発はいつにしましょう。いつでもいいですよ」
「じゃあ、明日にしようか。いいよね?」
「いいわよぅ」
『人間は忙しないね』
「楽しいでしょう?」
『そうかもね』
それから食材などの買い物に出ることにした。昨日ペーターさんたちにお肉を売ったから軍資金はばっちりだし、ストレージも拡張されたからもはや鬼に金棒だ。
ペーターさんとアンナさんに挨拶して外に出る。
今日は川沿いの道ではなく、商業区の中に入る道だ。店先に出ている露店を巡りながら、まずは広場でやってる市場を目指す。
「あ、お姉ちゃんヒールもらっていい? 体中痛くて……」
「蒼ちゃんも? 私もなのよぅ、一緒に掛けちゃうわね」
お姉ちゃんと私の足元に乳白色の魔術陣が現れ、魔術を発動する。
『ミドルヒール』
私たちの体が光に包まれて、体が楽になっていくのがわかる。
「楽になったよ、ありがとう」
「どういたしまして」
私たちは市場に向かって歩き出す。タルトはお姉ちゃんの右肩に乗ってあくびしている。さっき寝てたでしょ。
市場は色々な品物を売る露店が所狭しと並んでいて、様々な食材が見てとれた。
「お野菜多めに、お肉も少し欲しいかな」
「道中で狩りするのじゃ足りなそう?」
「というより、種類を増やしておきたいんだ。今魔物肉しかないんだよね」
「わかったわぁ。調味料は?」
「大体はかなりあるけど、それとは関係なく醤油は必須」
「はぁい」
私たちは通りの左右に分かれて、手分けして買い物を始める。
始めのうちは、ドラゴンを見て驚く人がいるものの順調に食材の買い物をしていた。
そのあと、アクセサリーの露店に飲まれたのはわかる。私もだから、わかるよ。
でもなんでお姉ちゃん、踊るトリスタン人形とか、祝福のルーク人形とかに惹かれてるの? もはや呪いのアイテムじゃない。その二人、騎士団と魔術師団の偉い人だよね? いいの、王国?!
一通り買い物が終わって、買ったものを確認してたら二の鐘が鳴るのが聞こえた。
「お昼だ。久々に露店で食べたいな」
「いいわねぇ。そうしましょう」
商業区の広場に戻ると、食べ物を売る露店がいくつも出ている。広場で露店を開くのはどこの街でも一緒みたい。
まずは一通り見て品定めをする。それから思い思いの食べ物を買って、座って一緒に食べる。これが私とお姉ちゃんのパターンだ。
私は野菜の肉包み焼き。お姉ちゃんは串焼きを選んだみたい。タルトは私と同じく包み焼き。でも野菜少なめ肉増しだ。
広場のベンチに座って、いただきます。
今日は、いつものレタスで包んでいるものの逆で、お肉で野菜を包んでいるご飯だ。野菜はレタスと、根菜が入っている。噛むとお肉の柔らかな食感と、それからパリッとした野菜の食感が私の口の中を満足させてくれる。
ソースは甘辛に味付けした玉ねぎソース。根菜を細く切ることでソースを垂れにくく、絡みやすくしてるのが露店では食べやすくていい。それに、ソースとお肉がとっても合っておいしい。
「蒼ちゃんのそっちもおいしそうねぇ。一口ちょうだい」
「はい」
私は包み焼きをお姉ちゃんに渡して、お姉ちゃんが持ってる串焼きにかぶりつく。こっちもおいしい。これ醤油ベースの味付けだ。珍しい。
「蒼ちゃんのもおいしいわねぇ。最近包み焼きがブームなの?」
「うん、食感と味の混ざり方がいいんだよねぇ。いつもと巻くのを逆にしてもおいしいよ」
「タルトちゃんはおいしい?」
『焼いた肉も悪くないね。でもちょっと痛いかな』
「辛いって言うんだよ」
『うん。辛い。けどおいしい』
「ふふ」
そんな感じで三人で食べて、食事を終える。ごちそうさまでした。
「食材の買い物は終わったけど、このあとどうしようか?」
「お洋服よぅ!」
「なるほど。今日は服を買うお金くらいはあるし、ストレージにも余裕できたし、今私たち最強かもしれないよ」
「じゃあ行きましょう!」
お姉ちゃんに手を引っ張られて商業区を散策する。見つけた洋服屋さんに手当たり次第に入って、冷やかしたり気に入ったのを見つけたら買ったりしていく。
「タルトちゃんの服ってないのかしらね」
「ドラゴン用の服なんて、ないんじゃない」
『着ないよ。飛びにくいし、必要性を感じないね』
「でも寒かったりしないかしら?」
『魔力を纏ってるから、まったく問題ないよ』
「残念ねぇ」
なんて会話をしながら散策を続けて歩く。すると、道の目立つところにいかにも高級志向な立派なお店を見つけた。ウィンドウに飾ってあるのもかなり綺麗なドレスだ。
「お姉ちゃん、このお店」
「あら、綺麗なドレスねぇ」
「私たちリインフォース領で貴族に会うかもしれないでしょ? 必要じゃない?」
「そうねぇ……。そういえばペーターさんにそのことを聞いてなかったわね」
「聞いてからにする?」
「あとで相談して、アルデナ領で買うのはどうかしら?」
「そうしよう」
というわけで、ドレスは見送り。タルトがさっきから随分と暇そうで、私の肩の上でうとうとしているのがわかる。そろそろ戻ろうか、という話になって、ウォーカー商会に足を向けて歩き出した。
「あら……」
「お姉ちゃんどうしたの? ……家具? 買っても私たちに家はないでしょ?」
「ううん、家具ってことは、作るのは大工さんかしら?」
「家具職人さんじゃない? 違いがよくわからないけど。ほら、タルト寝ちゃってるし、商会に戻ろう?」
私はお姉ちゃんを置いて歩き出す。
「大工さん……ということは、家やお風呂も作れるわね」
商会の入り口にたどり着くと、もう日もだいぶ傾いている頃だった。買い物で結構時間を使ってたみたい。
従業員の人たちに挨拶して、食堂に行く。
するとアンナさんが迎えてくれる。
「お二人ともおかえりなさい。タルトちゃんは寝ているんですね。買い物は済みましたか?」
「えぇ、つい服も買っちゃいました」
「可愛い服がたくさんあったねぇ」
「そうだ、服で相談したいことがあるんですが、ペーターさんはいますか?」
「主人ならそろそろ戻ってきますよ。お茶を淹れますね」
アンナさんがお茶を淹れて私たちの前にカップを置いてくれる。
いただきます。
「アンナさんの淹れてくれるお茶、なんでこんなにおいしいんでしょう?」
「ありがとうございます。特別なことはしていませんよ」
「でもとっても優しい味がするよねぇ」
私はお姉ちゃんに同意する。添加物、人妻の魅力かしら。買った服についてのデザインを、お姉ちゃんとアンナさんと話していると、ペーターさんが帰ってきた。
「おかえりなさい、あなた」
「「ペーターさんおかえりなさい」」
「ただいま」
アンナさんがペーターさんの前にお茶を淹れたカップを置く。それを飲んで一息つくペーターさん。よし、大丈夫かな。
「ペーターさん相談があるんですが、よろしいですか?」
「えぇ、なんでしょう?」
「私たちがリインフォース領に向かう目的なのですが、領主にこの手紙を渡せと頼まれたからなんです。でも、貴族と会った経験がないので服装や作法がまるでわからなくて……」
「さっき商業区でドレスを売ってる服屋さんを見つけて、買った方がいいのかしらって二人で話してたのよぅ」
私は手紙をテーブルに置く。宛名と、裏を見るペーターさん。
「宛名はリインフォース領主ですね。差出人のリエラさんとの関係はご存じですか?」
首を左右に振る私とお姉ちゃん。
「リエラは魔術の師匠です。多分リインフォース領主と知り合いだと思います。ですが、仲がいいのかどうかまでは……」
「でもわざわざ離れた領主に手紙を渡せなんて、仲がよくなければ言わないわよねぇ」
「私もそう思います」
手紙、お返ししますとペーターさんから戻って来たので、ストレージにしまっておく。
「さて、ご相談のドレスですが、私はいらないと思います。お二人が普段着ている服は、子爵くらいの貴族と取引のある商人の子女として十分なものです。お持ちの中で比較的かしこまったものであれば問題ないでしょう。それから、お二人は冒険者でCランクと立場がはっきりしていますので、領主邸の門番か執事に手紙を渡せば、取り計らってくれると思います」
「あ、実はBランクになりました……」
「それは……おめでとうございます。では尚更、立場は問題ないでしょう」
私とお姉ちゃんはホッとする。そこにさらに、とペーターさんが付け加える。
「リインフォース領主は人徳があると名高いです。私も何度か話をしたことがありますが、悪い印象はありません。ですので、大丈夫だと思います」
「二人とも可愛いから大丈夫ですよ」
アンナさんも独特の理由で太鼓判を押してくれる。アンナさんに褒められるとちょっと嬉しい。照れながら私たちはお礼を言う。
「わかりました。ありがとうございます」
「助かったわぁ」
話が終わったところで、ちょうど他の従業員さんたちが食堂に入ってくる。今日の仕事が終わったのかな。そろそろ夕食みたい。
それでは、夕食にしましょうと、ペーターさんが声を掛けて、見習いの少年が給仕をしてくれる。ご飯の香りに釣られてか、タルトも起きる。
ご飯はミネストローネにポークソテー、それにサラダだ。いただきます。
トマトが豊作なのかな? 朝もトマトスープだったけど、これもトマトの甘さが引き出されてる。一緒にパスタも入っていて、食感が楽しい。パンがなかったのは、スープにパスタが入っているからなのね。ポークソテーは塩とガーリックでさっぱりと、でもガツンとした味付けだ。でもポーク自体の味がするのでこれもおいしい。
食事をしながら、ペーターさんたちが今日の報告をしている。傍から聞く限りは黒字で順調そう。ドラゴンの加護も得たし、ますます発展しそうだね。
「シズクさん、アオイさん、明日からは弟のカールが馬車に乗りますので、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。シズクさん、アオイさん」
カールさんがこっちを向いて頭を下げてくれる。
「よろしくお願いします」
「よろしくねぇ」
私たちも頭を下げる。タルトは気にせず食事を続けている。器用にスープ飲むね。
商会のみなさんによる報告会は食事が終わっても続くようで、一足お先に失礼することにした。ごちそうさまでした。
アンナさんに、先にお風呂をいただくとを告げて、タルトを連れてお姉ちゃんと三人でお風呂に行く。
『水浴びするの?』
「お湯ね。お風呂に入るの」
「タルトちゃん、湯船はとっても気持ちいいわよぅ」
あっという間に裸になって、タルトを連れて浴室に入るお姉ちゃん。
また服散らかしたまま! 仕方ないなぁ……お姉ちゃんの服を籠に入れて『ウォッシュ』を掛けておく。私も自分の服を籠に入れて、同じように『ウォッシュ』をする。タルトは、もともと裸か。
私も遅れて浴室に入る。
昨日と同じように待ってたお姉ちゃんの背中を流し、それから私の背中を流してもらう。
その間、手が暇だったのでタルトの体をごしごしする。
『蒼、くすぐっったい』
「ちょっと我慢して、しっかり綺麗にすると気持ちいいよ」
『砂浴びじゃダメなの?』
「気持ちよさそうだけど、砂浴びじゃ汚れが取れなそうねぇ」
『わかった。我慢する』
次にお姉ちゃんの髪を洗う。シャンプーを流して、トリートメントを付けて軽く流す。
「蒼ちゃん今日も髪はいいの?」
「今日はやってもらおうかな。いい?」
「もちろん! やったぁ」
「なんでお姉ちゃんが喜ぶの?」
「蒼ちゃんの髪洗うの好きだからねぇ」
「ふぅん」
「体も洗うの好きよ。蒼ちゃんのことをするのなんでも好き」
「はいはい、ありがとね」
髪を洗ってもらって、タルトの体も忘れずに流して二人と一匹で湯船に浸かる。タルトは沈みそうだから、手で支えることにした。
「気持ちいいねぇ」
「そうだねぇ、昨日、疲れてて入れなかったから今日は特に気持ちいい」
「タルトちゃんはどう? 気持ちいでしょう」
『ふわふわする。なんだか眠くなってくるね』
「気持ちいいんだねぇ」
タルトが煮えてレッドドラゴンになってしまう前に、お風呂を出る。自分の体とタルトの体を拭いて、服を着る。それから、『ドライヤー』で髪を乾かす。
終わったら昨日と同じように私は食堂へ水をもらいに、お姉ちゃんはタルトを連れて客室に戻って行った。
今日はアンナさんが食堂にいたので、お風呂を出たことを告げる。
「はい、わざわざありがとうございます」
それから、とアンナさんは続ける。
「昼間はすみませんでした」
私はなにを謝られているのかわからず、疑問になって首を傾げてしまう。
「ドラゴンの、タルトちゃんのお母さんの爪のことです」
「あぁ、タルトがいいって言ったんですし、気にせずにもらっちゃえばいいと思いますよ。それに、この商会が発展するのは私たちも嬉しいですし」
「そう言っていただけるとありがたいのですが……」
「まだなにか不安があるんですか?」
「不安というより、怖いんです。商会が発展するために、厄災が来るのではないかと」
「お姉ちゃんも浄化しましたし、それはないと思います。ドラゴンの加護を得たと思えばどうでしょうか」
「加護、ですか」
「えぇ、お母さんドラゴンは、タルトのことを本当に大切に思っていて、最後まで守ろうとしていました。瘴気という厄災に見舞われてもです。それは、これからお子さんを育てていくアンナさんの加護になるんじゃないでしょうか」
「そう、ですね。わだかまりがなくなったようです。ありがとうございます、アオイさん」
「いえいえ」
「お水でしたね。今お持ちします」
「ありがとうございます」
お水をアンナさんにもらって部屋に戻ると、お姉ちゃんとタルトが魔石で遊んでた。
「なにしてるの?」
「タルトちゃんすごいのよぅ、属性が一瞬で変わるの」
「へぇ、魔石の属性を入れ替えてるんだ?」
『違うよ、魔力そのものを変えてるんだよ』
「すごいのねぇ」
「え? 水から火にできる?」
『できるよ。こうだよね』
魔石の色が青色から赤色に変わる。
「途中で打ち消してないし、空にもなってない……。ほんとだ、変わってる」
『練習すればできるよ』
「それは魔法でしょう? 人間には魔術しか使えないわ」
『これは魔力操作だよ』
「え……」
「雫にもできるかしら」
『適性があればね』
「聖属性と空間属性じゃ難しいわねぇ」
ちょっと待って、それができたら複合魔術どころじゃない……。もっと違う魔術を生み出すことだって……。
「蒼ちゃん?」
「それ、教えて、タルト」
『今度ね。今日は眠いよ』
「わかった、約束ね!」
タルトは窓際に飛んで行って眠り始め、お姉ちゃんは遊んでてまだ書いていなかった日記を書き始め、私は魔術訓練を始めたものの、さっきの光景が目に浮かんで全然集中できないまま、夜が更けていくのだった。
評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
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2022/4/2 タルトの単位を修正(頭→匹)




