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21. 名前をつけよう

 ディオン領の山道で道を塞いでいた瘴気の塊は、実はドラゴンの親子だった。

 そのお母さんドラゴンをお姉ちゃんと力を合わせて浄化した。

 したんだけど、子ドラゴンが佇んでしまっている。ほっとくわけにもいかないし、どうしたものかなぁ。


「お疲れ様、蒼ちゃん。すごかったねぇ、さっきの魔術」

「あ、うん。やっとできるようになったよ。それで、どうしよっか?」

「そうねぇ……」


 私とお姉ちゃんが、動かなくなったお母さんドラゴンに寄り添っている子ドラゴンを見る。

 お母さんが死んじゃったんだもんね、寂しいよね。

 するとお姉ちゃんが子ドラゴンに近づいて話しかける。


「とりあえず、ご飯にしましょう」

「今そんな雰囲気じゃないよね!」

「雫は疲れたわぁ。お腹もすいたし」

「それは私もだけどさぁ……」

『ほら、子ドラゴンちゃんも、ご飯にするわよぅ』


 こっちを見てくる子ドラゴン。お母さんドラゴンを一瞥してから、こっちに近づいてくる。

 仕方ない、とりあえず簡単に作るか。パンにさっと焼いたソーセージ、それからレタスとトマトを挟んでホットドッグにする。それを二つずつ。あと甘いの食べたいし、リタちゃん謹製のタルト出しちゃおっと。ストレージから取り出して切る。私とお姉ちゃんの分はこれでよし。

 ドラゴンってなに食べるんだろ。


『あなた、なにが食べられる? 生肉とか? 焼いた方がいい? それとも野菜?』

『なんでも食べられる。同じものでいい』

『わかった』


 じゃあ、と私はホットドッグをもう二つ作る。それぞれお皿に盛って、お姉ちゃんに手渡し、子ドラゴンの前に置く。いただきます。

 子ドラゴンはホットドッグを前足? 手? に持って器用に食べてる。まだ小さいから両手で持ってるけど、人間の子供が食べてるみたいに食べている。なんだか変な光景だ。

 食べているのを確認したので、私も自分の分にぱくつく。ソーセージがいい感じに焼けたかな。香ばしくてパリッとしておいしい。そろそろ野菜も新しく仕入れないと、手持ちが少なくなってきたな。なんて思いながらホットドッグを食べて、お楽しみタルトにフォークを伸ばそうとしたら、タルトがない。

 あれ、お皿から落とした? と思って地面を見ても落としてない。まさかお姉ちゃんがリタちゃん恋しさに私のタルトの略奪を……。


「お姉ちゃん、私のタルト食べた?」

「ふふ、雫はなにもしてないわよぉ」


 だよね。お姉ちゃんがそんなことするはずないし、でもなんで笑ってるんだろ。それに言葉のイントネーションがおかしい……。

 子ドラゴンを見ると、ホットドッグは食べ終わったのか、最後のタルトを口にしているところだった。


『これ、おいしい』

『そう、よかったわぁ』

『もっと欲しい』

『これは雫のだからだぁめ』


 子ドラゴンがこっちを見てもっと欲しいと言ってくる。だけど残念ながらそれどころではない。

 私も楽しみにしていたタルトがどこかに行ってしまったのだ。それに、ストックもないんだよね。


『ふふ、蒼ちゃんのは子ドラゴンちゃんが食べちゃったでしょう? もうないわよぅ』


 ん? 食べた? 子ドラゴンが?


『え! 私の食べちゃったの?! まさか、さっきこの子が食べてたタルトって私の?!』

『蒼ちゃん全然気づかないんですもの。面白かったわぁ』

『見てないで止めてよ! 私のタルト……』

『おいしかった』

『だよね!』


 うぅ……食べたかった……リタちゃんのタルト……。

 泣いてたら、お姉ちゃんがよしよしって言いながら一ピース分けてくれた。ありがとうお姉ちゃん。これはきみにはあげないよ!!!

 すっごくおいしい……。ごちそうさまでした……。

 お茶を淹れて、お姉ちゃんにカップを渡す。子ドラゴンにはボウルに注いだ水だ。

 一口飲むとホッとする。お姉ちゃんも同じように飲んでいて、一息ついて話を始める。


『子ドラゴンちゃん、あなたはこれからどうしたいのかしら?』

『わからない』


 わからないかぁ、子供じゃ仕方ないのかな。でも放っておくのは危ないし、母ドラゴンに頼まれたし。


『じゃあさ、一緒にこない? 私たちは、きみがやることを見つけるまで守るよ。きみのお母さんにも頼まれたしね』

『わかった。よろしく』

『でもそうすると言葉が不便ねぇ』


 確かに、街中でドラ語? を突然話したら怪しい人だし、私たち以外にこの子の話は通じない。うーんと二人で悩んで、私は名案を思いつく。


「そうだ、従魔契約すれば通じるんだっけ。この子が不利にならない条件に書き換えれば……」

「条件書き換えなんてできるのかしら?」

「リエラに聞いてない? 従魔契約はかなり自由だよ」


 聞いてないわ! 教えて! と騒ぐお姉ちゃんを無視して子ドラゴンに話しかける。多分お姉ちゃんは居眠りしてたな。

 

『人間の街でも過ごしやすように、私たちと従魔契約してくれないかな? 魔術の制約上、主従関係ってなるけど、あなたからも自由に契約を破棄できるようにするから』

『かまわないよ』

『ありがとう、じゃ、始めるね』


 私とお姉ちゃん、それから子ドラゴンを均等に三角形になるように配置して、魔術陣を展開する。

 まず術式を改変する。主従関係の破棄を従からでも可能なように条項を書き換えて……。それから主従者名……。雫……蒼……あれ、この子の名前なんて言うんだろ?


『きみ、名前は?』

『坊や?』

『それは違うわねぇ』

『じゃあ、知らない』

『それじゃ契約できないなぁ……名前つけていい?』

『いいよ』


 許可をもらったので名前を考える。ポチ……タマ……。これじゃ犬猫じゃん……。


「蒼ちゃん、この子はドラゴンよ……」


 なんで考えてることわかったの!? これが姉妹の絆……。いや、きっと同じこと考えてたな。


『じゃあタルトね』

『蒼ちゃん、さっきのことをそんなに恨んでるの?』

『違うよ! おいしそうに食べてたからだよ!』

『わかった』


 本人が承諾したので契約を続ける。

 魔術陣の内に、私たちそれぞれの足元に張った小さい魔術陣が輝き出す。

 私は詠唱する。


『契約 主 雫 蒼 従 タルト 破棄 対等 是非』

『許諾』

『許諾するわ』

『許諾する』


 私たちが言葉を発すると、魔術陣全体が輝き出し、三本現れた光柱が私たちそれぞれに重なって収束する。

 輝きも収まり、魔術陣が消えた。これでよしっと。


「タルト、通じる?」

『うん、意味がわかるよ! それ人語だよね?』

「そうよぅ、でもなんだかか喋り方が変わってるわねぇ」

『契約して、ドラゴンに対する知識の解像度が上がったんじゃないかな』

「な、なるほど?」

「通じるならいいわぁ」

『二人のことも理解したよ。異世界人なんだね』

「そうだよ」

「タルトちゃんはなんてドラゴンなの?」

『ホワイトドラゴンだよ』

「ホワイトだったの!? 子供だから白いのかと思ってた」


 リエラに習った魔獣講座によると、ドラゴンは色で強さが分かれてて、ホワイトは上から三番目。一番強い色はゴールドドラゴン。ただし進化するとまた変わる。進化の区分は竜、真竜、古竜の順で何百年って単位で起きるらしいけど、進化すると種族名称が変わるんだって。

 白は聖属性を表すから、真竜になると聖属性のホーリードラゴンになりやすいけど、別の属性になることもあるらしい。竜の気分次第なのかな? ちなみに聖属性でも別の属性が使えるとのこと。これは人間と違って竜は精霊に近いから、使えるのが魔法っていうのが理由。

 古竜については詳しいことはわかんないって。多分リエラは知ってるけど、教えてくれなかった。


「あとは、お母さんドラゴンをどうするか、かな」

『お母さんも言ってたように、好きに使ってほしい。雫と蒼は、もう僕と姉弟みたいなものだから。ドラゴンは世代を重ねるときに記憶を受け継ぐけど、人間にそれはできない。だからその代わりに、素材として体を受け継いで、武器にでもするといいんじゃないかな』

「わかった。大切に使わせてもらうね。えっと、魔石は消滅してるね。あとは……角と、爪と、皮膚かな。肉はどう?」

「死んだあとも瘴気に汚染されていたから、もう治せなかったねぇ。食べるのも無理よぅ。報告用に一部だけもらって、あとは荼毘に付しましょう」

「わかった」


 とは言ったものの、角も爪も硬すぎて私の『エアカッター』じゃ切断なんてとんでもなかった。ちなみに上級の『エアギロチン』でも。なので、皮膚だけ『エアスラッシュ』で剥いでストレージにしまう。それから『フレイムサークル』で肉体を燃やし、燃え残った角と爪だけ取る算段だ。さすがドラゴン、体も大きくて火力が必要だったので、魔力ポーションを何度か飲んだ。おいしい方ね。

 燃やしてる間、タルトはただじっと見ていた。

 私とお姉ちゃんが、タルトを守りますからね。

 やっとのことで角と爪を回収して、ストレージにしまう。


「さて、これで完了。街道も、焦げた匂いはあるけど元通りかな」

「一応浄化しておくわ」


 お姉ちゃんの足元に乳白色の魔術陣が現れる。


『エリアピュリフィケーション』


「これで大丈夫よぅ」

「ありがとう。疲れてるけどギルドに戻ろうか」

「そうね。行きましょう、タルトちゃん」

『わかった。よろしくね、雫、蒼』


 私たちは疲労困憊ながら、ディオンギルドへ戻るのだった。




 のんびり歩いて、ディオンの街についた。

 タルトも疲れているのか飛ばず、私の肩かお姉ちゃんの肩に交互に乗るのを繰り返している。

 朝も挨拶した門番さんに、帰還の挨拶するとひどく驚かれた。どうやら煤汚れと顔色がひどいということに、言われて気がついた。

 私は、二人分の洋服を『ウォッシュ』を、お姉ちゃんは応急処置に三人に『ヒール』する。魔力も疲労も限界だから、これでギルドまで持たせよう。

 心配してくれる門番さんにお礼を言って、冒険者ギルドへ足を向ける。途中、通り道にウォーカー商会があるから、そのままベッドに入りたい欲求が出たけど、ぐっと我慢した。店頭にちょうどペーターさんの弟のカールさんがいたので、解決したことだけ伝えたら驚かれた。

 あとで説明しますから、と言って今はギルドへの道を歩く。途中、やたらと、私たちに目線が集まる。

 そんなに汚れてるかな……、ウォッシュしたけど……。って、そうだった。タルトかぁ。

 こればっかりは仕方ない、と諦めてギルドへ急ぐ。

 やがて無骨な石造りの建物に到着したので中に入る。

 ギルドの中に入ると、やっぱりロビーにいた冒険者さんたちから注目を浴びたけど、恥ずかしいのをなんとか無視してカウンターへ行く。今日は一番左のカウンターにレベッカさんがいたのでそこへ向かう。

 レベッカさんもこっちに気づいて笑顔を向けてくれる。笑顔だけど、左手を頬に当ててあらあらって言っているのが聞こえた。やっぱり気になりますかね……。


「こんにちはレベッカさん」

「こんにちはぁ」

「ようこそ、シズクさん、アオイさん。その様子ですと、街道の件で進展があったみたいですね。こちらへどうぞ」


 早速、奥のギルマスがいる部屋へ案内してくれる。

 執務室に入ると、机に向かっていたギルマスが顔を上げてこっちを見た。レベッカさんはお茶を淹れてきますね、と一度下がっていった。


「ようこそ、昨日ぶりですね。肩のそれは、ドラゴンですか?」

「えぇ……そうです」

『タルトだよ。よろしくね、人間』

「私はマシューです。よろしく。タルトさん」


 どうしてこうなった? とマシューさんがこっちを見てくるので、お姉ちゃんとソファに座る。タルトは私の肩の上だ。

 そこへレベッカさんが戻ってきて、私たちの前にお茶を置いてくれる。そのあとレベッカさんが私たちの向かい、マシューさんの隣に座る。


「えっと……」

「街道の瘴気は浄化したわぁ。もう問題ないわよ」

「そうですか。ありがとうございます。そのドラゴンは?」

「この子は……」


 やっぱり気になるよねぇ、なんて説明したものか……。するとタルトが喋り出す。


『僕のお母さんが多分、街道の瘴気の元凶だった。それを雫と蒼が浄化してくれたよ』

「えっと、そういうことです」

「タルトちゃんも一度瘴気に侵されていたから、雫が浄化したわ」

「ドラゴンの浄化ですか……」

「人間の瘴気治療と一緒よぅ」

「私にはとてもできそうにありませんが……。どうして瘴気に侵されていたんです?」


 私とお姉ちゃんもタルトを見る。人間にやられたとは聞いたけど、詳しく聞いてなかったんだよね。


『僕はよく覚えていないけど、お母さんの記憶では人間に瘴気の塊をぶつけられて、それに飲まれているね』

「そんなことが人間にできるはずが……」

『人間だったよ』

「どうして人間にはできないんですか?」


 私は疑問になって尋ねてみる。


「ドラゴンは非常に知性に優れています。それに魔力適性も高い。人間に、ドラゴンを騙し討ちして、かつ姿を変容させるほどの瘴気の塊を生み出してぶつけるのは不可能です」

「でも現に、タルトちゃんとお母さんは侵されていたわねぇ」

「今までの経験からしても、私にはどうやったかわかりませんね」

「原因はわからないし、今考えても仕方ないんじゃないかしら?」

「そうだね、私たちにはわからない。ただ、そういうことをする人間がいるってだけだね」


 タルトも頷く。首を動かしたときにつられて動く翼が、頬に当たってちょっとくすぐったい。


「ところで街道で暴れていたのはドラゴン、とのことでしたがどうやって排除したんですか?」

「私が魔術で足止めしてダメージを与えて、倒れたところを」

「雫が浄化したのよぅ」

「なるほど。倒したドラゴンはそのままですか?」

「燃やしました」

「は?」

「もう瘴気汚染で治療は手遅れだったから、見送ったわぁ」

「そのあと、ドラゴンの意志通り素材だけ回収しました。タルト、見せていい?」

『いいよ』


 タルトの了承を聞いて、お姉ちゃんがストレージからお母さんドラゴンの肉を出して机に置く。


「これが討伐したドラゴンの肉よぅ。死んでいても意志だけで動いていたらしくて、瘴気で変容しちゃってるわね。一応浄化はしてあるわ」

「それからこっちが素材です」


 私はお姉ちゃんに続いて皮と爪の一部を出して机に置く。角は大きいので出さない。


「「拝見します」」


 持ったり軽く叩いたりしながら、じっと素材を見るマシューさんとレベッカさん。


「たしかにこれは、ホワイトドラゴンの素材ですね。ただ、肉はもう邪竜と言ってもいいかと。それから、真竜にはなっていませんね」


 答えたのは意外にもレベッカさんだ。そうか、買取カウンターの仕事もあるから、素材の審美眼は確かだね。ドラゴンもわかるのかぁ。すごいな冒険者ギルドの受付って……。ただ……、とレベッカさんが続ける。


「もし仮にこの素材を精算するのでしたら、ギルドでは安くなるのでお勧めしません。なによりお金が足りませんけどね」

「売りません。タルトのお母さんと約束したんです。この子を守るって。なので、そのために使います」

「杖でも作ろうかしらねぇ」

『好きにするといいよ。僕は使わないしね』

「「ありがとうございました」」


 マシューさんとレベッカさんが素材を置いてお礼を言ってくれた。私はストレージに素材をしまう。

 肉は持っていてもしょうがないので、原因調査用としてギルドに渡した。それから、ところで、とマシューさんが話を続ける。


「シズクさん、今回もホーリーで浄化を?」

「そうよぅ。威力だけで言ったらリヒャルトの時以上ねぇ」

「な! お姉ちゃんそんな危ない量の魔力使ってたの?!」

「大丈夫よぅ。魔力も増えてるし、制御もできたわ。それに蒼ちゃんは人のこと言えないでしょう?」

「う……」

「まぁまぁ……。しかし、ドラゴンを倒せる魔術に、浄化できる魔術ですか……。シズクさんは昨日も見せていただきましたが、お二人のスキルが気になりますね。改めて見せていただいても?」

「わかりました」

「いいわよぅ」

『二人、強くなってるよ』

 

 なんか不穏な一言が聞こえたけど、気にせず二人で『ステータス』を使う。そういえば見ようと思って見ていなかったな。

 私たちはみんなに見えやすいように机に現れた画面を置く。

 まずはお姉ちゃんのステータスから見てみようっと。

 

===========================

シズク ハセガワ  女 異世界人・魔術師

 【称号】

  聖女の加護

  ――聖属性魔術の限界突破

  ――聖属性魔術の威力向上:強

  ――浄化威力向上:強

  ――魔力消費減少

  神の祝福

  ――魔力向上:強

  ドラゴンテイマー

  ――魔力能力向上

  ――魔力攻撃耐性向上

  ――魔力共有


 【スキル】

  上級聖属性魔術

  中級空間属性魔術

  初級従魔術

  上級魔力操作

  上級魔力感知

  多重詠唱

  並列詠唱

  中級詠唱破棄

  初級剣術

  初級料理

  中級調合

  成長向上

  不老

  言語理解

===========================


 うん。強くなってる。

 お姉ちゃんのは昨日見てるけど、そこからさらに称号が、聖女の祝福から加護になってる。浄化威力が上がって魔力消費減少。コストパフォーマンスがよくなったってことかな。

 それにドラゴンテイマーが追加になってる。従魔術と合わせて、これはタルトと契約したからだね。

 神の祝福が相変わらずよくわからないな。魔力向上は、きっとこないだのご褒美だ。スキル欄から魔力向上が消えてるから混ざったのかな。

 あとさりげなく空間属性魔術が中級になっている。いいなぁ。

 一通り見終わったので、次に私のをみんなで見る。


===========================

アオイ ハセガワ  女 異世界人・魔術師

 【称号】

  魔術師の加護

  ――風、火、水、土属性魔術の限界突破

  ――風、火、水、土属性魔術の威力向上:強

  ――風、火、水、土属性の適性追加

  ――複合魔術の威力向上

  ――魔力消費減少

  神の祝福

  ――魔力向上:強

  ドラゴンテイマー

  ――魔力能力向上

  ――魔力攻撃耐性向上

  ――魔力共有


 【スキル】

  上級風属性魔術

  上級火属性魔術

  上級水属性魔術

  上級土属性魔術

  中級空間属性魔術

  初級従魔術

  上級魔力操作

  上級魔力感知

  複合魔術

  多重詠唱

  並列詠唱

  中級詠唱破棄

  初級剣術

  上級料理

  中級調合

  成長向上

  不老

  言語理解

===========================


 称号の変わり方や追加はお姉ちゃんと似た感じになってるのかな。

 複合魔術を覚えたから、それに対するボーナスが追加されてる感じ。

 やった、私も中級空間属性魔術になってる。これでいっぱい物が入る。

 

「魔力共有ってなにかしら?」


 お姉ちゃんが尋ねてくる。マシューさんもレベッカさんも、私もわからず首を左右に振る。するとタルトが教えてくれた。


『従魔契約者同士で魔力を渡し合えるんだよ』

「それって私とお姉ちゃんでもできるの?」

『契約上できるはずだよ』


 ちょっとやってみましょう、と言うので、お姉ちゃんと試してみる。

 お姉ちゃんに手の平を向けて、ファイアボール一回分の魔力の塊を渡すイメージ……。

 するとお姉ちゃんの体が淡く光る。一方で私の体から、魔力が喪失するのがわかった。

 お姉ちゃんが今度は私に手を向けて目を瞑る。私の体が光って、お姉ちゃんからさっき渡したのと同じ量の魔力が返ってきた。


「これ、すごいわねぇ……」

「もしかして、魔力損失してない?」


 一連の流れを、魔力感知しながら行っていたお姉ちゃんが頷く。お姉ちゃんに魔力を渡すことは今までもやってたけど、手を握って魔力を流し込む方法は魔力損失が大きい。ヒール1回分の魔力を渡すのに、ミドルヒールくらいの魔力が必要だった。それが簡単に、損失なしって……。


「実質魔力二倍ねぇ」

「いや、二人換算じゃ消費も二倍だからね……。それに、瞬間放出量増やさないと威力は増えないよ」

『僕は魔力あるけどそこまで使わないから、二人が使いたい時に言ってね』

「そういえばタルトって魔力量どれくらいなの?」

「見ていいかしら?」

『もちろん』


 お姉ちゃんがタルトを魔力感知する。

 んー、と言いながら唇に人差し指を当てて悩んでいるのがわかった。それから一度深呼吸して話し出す。


「雫たちの倍以上はあるわね」

「はあぁ?! ドラゴンってそんなに魔力あるの?」

「しかもまだ子供よぅ」

「もしかして、タルトに魔力をもらえば金輪際リエラの魔力ポーション飲まなくていいんじゃない?」

「それはどうかしらねぇ」


 わぁわぁそんなことを話しながらステータス確認を終え、落ち着くために私は席に座り直す。あれ、レベッカさんがいないぞ。

 お茶を飲んで落ち着こう。あ、おいしい……。なんてしていたら、いつのまにやら席を外していたらしいレベッカさんが、ノックをして再び部屋に入ってくる。


「お待たせしました」

「レベッカさん、ありがとう」


 マシューさんがお礼を告げて、レベッカさんに座るように促す。

 座ったレベッカさんが、私たちの前にギルドカードを置く。あれ、私たちまだ渡してないよ?

 マシューさんが疑問に思って見ている私たちに説明する。


「今回の街道の瘴気浄化の件、大変お疲れ様でした。ドラゴンの討伐も加わりましたので、貢献度が大きなものになりまして、めでたく、お二人はBランクに昇格となります」


 本当だ……。目の前に置かれたギルドカードを見ると、Bって書いてある……。


「まだ、Cでいたかった……」

「今までで一番長いお付き合いだったけど、ここまでなのね。寂しいわぁ」


 お姉ちゃんがCランクのカードを撫でながら別れを告げている。本当に名前つけてないよね? あと、長いと言っても一ヶ月も経ってない。


「あまり嬉しくなかったですか?」


 マシューさんが尋ねてくる。


「嬉しいですけど……。ただ、駆け足すぎておっかなびっくりなだけです」

「雫は嬉しいわぁ。できることが増えるんでしょう?」

「えぇ、Bランクになりますと、合同大規模討伐に参加できるようになりますね。これは国が発行する依頼となります。王国騎士団、魔術師団、Aランク冒険者、それから今はこの国にいませんが、Sランク冒険者と一緒に行う依頼です」

「あらぁ…………」

「興味ないですか?」

「雫たちは、のんびり旅がしたいだけなのよぅ」

「ならBランクともなれば、多くの街で歓待されるでしょうね」


 まぁ愚痴を言ってもしょうがないし、私とお姉ちゃんが評価された結果だから、そこはありがたく受け取ろう。

 私たちはお礼を言って部屋を辞する。マシューさんが他の依頼も是非にと言ってきたけど、リインフォース領に行く通り道なだけだから、と言って断った。

 それから、ロビーまで見送ってくれたレベッカさんにもお礼を言って、ギルドを出る。

 特にやることもないし、なにより疲れたからこのままウォーカー商会に戻ろうってことでお姉ちゃんと頷いた。




「なぁ、例の新顔見たか?」

「あぁ、今日も美人だったな。服装も冒険者っぽくないし、お忍びの貴族か?」

「ショートの子が可愛いのは同意だが、貴族と言うより商人っぽくなかったか?」

「今日もマシューさんに会ってたな。レベッカ嬢が案内してたぜ」

「お前らそうじゃねえよ……。肩に乗ってたの、見たか?」

「……あれ、ドラゴンだよな?」

「お前もそう見えたか。よかった。俺の幻覚じゃなかった」

「ドラゴンなんてこの近くにいたか?」

「例の山道の瘴気の塊か?」

「はは! そんなでけぇドラゴンがいたら俺たち死んでるぜ!」

「だが、あいつらが来て昨日の今日だぞ」

「きっとお貴族様がペット自慢に来たんだろうよ。マシューさん、魔術とかドラゴンとか目がないから」

「だな」

「おう」


 彼らが、瘴気の件が片付いたのを知るのはこの数刻後。




 私たちがウォーカー商会に戻ってやらなきゃいけないのは、タルトの説明をすることだ。

 瘴気の件は解決したこと。それから、瘴気の塊は人が悪さして変容させた母ドラゴンで、この子は浄化して助けたけど母ドラゴンはだめだった。害はないと説明した。

 それだけ説明したら納得して警戒を解いてくれた。よかった。

 実は私もお姉ちゃんも限界だ。ご飯などを遠慮する旨をペーターさんに申し出て、細かい説明は明日するからと言って休ませてもらうことにした。


「タルト、ご飯は平気?」

『そもそも周囲の魔力で生きてるから、食べなくても平気だよ。でも明日はおいしいもの食べたいな』

「わかった、おやすみ……」

「おやすみなさい、蒼ちゃん、タルトちゃん……」


 私もお姉ちゃんもベッドに突っ伏して、あっという間に眠りの深海に沈み込んだ。

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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