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18. ディオンで依頼を受けよう

 ディオンの街での滞在は、街の宿屋ではなく、ペーターさんの商店で泊まらせてもらうことに決まった。

 とは言っても、商人の仕事なんて私たちにはわからないので、邪魔にならないようにとりあえず外に出ることにした。

 せっかくだから冒険者ギルドに顔を出そうっと。ペーターさんに場所を聞く。

 すると、依頼の精算がまだなので一緒に行きましょうということになった。

 冒険者ギルドは、中央の広場に出て右、つまり東の方へ進むと右手にあるらしい。商業区をぐるっと回る感じかな。

 お姉ちゃん一緒にペーターさんについて歩き出す。中央広場に向かう道の左手には川が流れていた。深い川なのかな、小さな船が行き交っている。

 ペーターさんに聞くと、街の物流も一部船で行っているようで、ちょうど荷物を運ぶ船が見えた。

 川を見ながらそのまま歩いて行くと、領主邸の外周に着いた。領主邸は石造りで小さなお城みたいな佇まいだ。林業が盛んって聞いてたけど、木造じゃないんだね。

 領主邸を柵の外から見学して歩くと、やがて中央広場に着いたので右に曲がる。中央広場は、遊ぶ子供たちやそれを遠目で見守る老夫婦、休んでるお兄さんなどがいて、のんびりした雰囲気だった。中心には噴水もある。お昼時だと露店とか出るのかな。

 広場を抜けると左は住宅、右は商店という作りの道だった。はっきり区分けされていてわかりやすい。

 するとやがて、無骨な石造りの建物が右手に見えてきた。冒険者ギルドってあれかな。他の建物と雰囲気が違ってわかりやすい。景観法は……ないよね。

 それに、周りのお店は商人や街の人がお店にいて活気あふれてたりするけど、ここだけはそんな感じはなかった。

 お姉ちゃんが雰囲気が違うわねぇ、なんて言いながらペーターさんより先に入って行くので、私とペーターさんは慌ててその後ろをついて行く。

 中に入ると、マイヤの街と同じくらいの広さのロビーがあって、正面にカウンターは四つ。右手にクエストボードと精算カウンター。左手は相談と軽食スペースがあって、そこは賑わっていた。相談スペースの奥に、二階への階段がある。上は資料室かな。


「たのもーぅ!」

「ちょっとお姉ちゃん! なんで道場破りみたいな……違うでしょ!」


 思わず大声でお姉ちゃんに突っ込んでしまい、私たちに注目が一斉に集まる。「新顔だな」とか、「ガキじゃねえか」とか、「可愛いな」とか、それは嬉しい。でも恥ずかしい……。

 お姉ちゃんはそんな周りの目線を気にせず、カウンターへと向かって行く。私とペーターさんはその後ろをついて行く。

 カウンターには、ソフィアさんと同じくらいの年齢に見える、浅葱色のボブカットをしたお姉さんがいた。ちょっとキリッとした雰囲気で、癒し系と言うより綺麗系だ。


「ようこそ、ディオン冒険者ギルドへ。冒険者登録ですか?」

「こんにちはぁ。今日は挨拶にきたのよぅ」

「えっと……挨拶、ですか?」

「シズクさん、少々お待ちを……」


 先行してお姉さんに話しかけたお姉ちゃんをペーターさんが止める。私はお姉ちゃんが黙ったその隙に、お姉ちゃんの口を押えて大人しくさせる。


「あら、ペーターさんじゃないですか。お久しぶりです」

「お久しぶりです、レベッカさん」

「今日は奥様ではなく、可愛い子を連れてどうしましたか?」

「はは……。今日は依頼の精算処理に来ました。こちらのお二人が私の護衛依頼を受けてくださったシズクさんとアオイさんです」


 可愛い子と言われてにやにやしてしまう私。お姉ちゃんもまんざらでもないみたい。おっと、挨拶しないと……。


「普段はマイヤの街で冒険者をやっている蒼と言います。こっちはお姉ちゃんの雫です。今日は、ディオンの街に来たので、依頼の精算と顔見せの挨拶に来ました」

「そうですか、私は受付のレベッカです。よろしくお願いしますね。ペーターさん、依頼を確認したいので商業ギルド登録証を、それからお二人の情報を確認したいので、ギルドカードを預かってもよろしいでしょうか?」

「もちろんよぅ」

「はい。これです」


 私たちはレベッカさんにギルドカードを渡す。ペーターさんも同じ形のカードを渡していた。商業ギルドにも同じシステムがあるのかな。


「Cランクなんですね……。見た目が可愛らしいので見えませんでした」


 そんな評価をしてくれる。綺麗な女性に可愛いって言われるの嬉しいな。

 レベッカさんはマイヤのギルドにもあった魔術具に、ペーターさんの商業ギルド登録証をかざす。


「マイヤの街からディオンの街までの護衛依頼ですね。依頼は完了でよろしいですか?」

「えぇ、評価は最良です。貢献値ボーナスができるならばそれも加算してください」

「冒険者ギルドへ支払う手数料に追加が必要となりますが、よろしいですか?」

「もちろんです」

「ちょっとペーターさん?!」


 私とお姉ちゃんは、物問いたげにペーターさんを見つめる。ペーターさんは笑顔で私たちに告げる。


「せめてこれくらいはさせてください。お二人にとってマイナスにはなりません」

「むぅ、ありがとうございます……」

「ペーターさんありがとう!」


 次にレベッカさんが私たちのギルドカードを端末にかざす。

 すると、あら? と不思議そうな顔をして魔術具の画面と私たちの顔を交互ににらめっこするレベッカさん。あれ、案外可愛い人だぞ。

 ところで私たち、また何かやっちゃいました?! お姉ちゃん今度は何したの?! 私は何もしてないよ!


「ソフィアの担当だったんですね」

「はい、ソフィアさんをご存知ですか?」

「えぇ、同期なんです。あの子、元気でした?」

「元気でしたよ。いつも優しくて、よくしていただきました」

「ソフィアちゃんにはとてもお世話になってるの」

「ふふ、姐御のソフィアも相変わらずですね。元気そうで何よりです」


 え、姐御? 麗しいソフィアさんにはあまり似つかない単語が聞こえたけど、同期って言ってたし、ソフィアさんと仲良いんだろうな。なんて考えていると、レベッカさんが本題とばかりに口を開く。


「この街に来るときに盗賊を倒しましたか?」

「え? ……えぇ、八人グループの盗賊ですよね。捕縛して、ペーターさんが門番さんに報告しているはずです。そうですよね? ペーターさん」

「そうですね。アオイさんとシズクさんが一蹴していました。その件は確かに門番に伝えましたよ」

「蒼ちゃんがあっという間に捕縛したのよぅ!」

「その盗賊を捕まえたことによる、貢献値加算の申請が門番さんから来ていますね」

「はぁ……」

「そうなのねぇ」

「最近この街を騒がせていた盗賊集団ですね。多額ではありませんが、懸賞金も掛けられていました」


 他人事のように聞く私とお姉ちゃん。


「こちらも貢献値に加算しておきますね」


 端末を操作するレベッカさん。そしてペーターさんに商業ギルド登録証、私とお姉ちゃんにギルドカードの返却と懸賞金を渡してくれる。

 私はギルドカードと懸賞金をかばんにしまう。


「依頼の精算は以上で完了です。お疲れさまでした」

「お二人の貢献になってよかったです。では、戻りますか?」

「あ、シズクさんとアオイさんに少々お話があるので、このまま残っていただけますか?」

「わかりました」

「わかったわぁ」

「では、私はすみませんが仕事をしなければならないので戻ります。お二人は戻ったら商会の者に声を掛けていただければ、客室に案内するようにしておきます」


 商会? 商店ではなく? 私は首をかしげるが、確認できずにペーターさんはギルドを去って行ってしまった。

 それから、ペーターさんを見送っていたレベッカさんが、改めて私たちを見てくる。


「ペーターさんに、いい評価をつけてもらえてよかったですね」

「えぇ、よくしていただいてます」

「友達だからねぇ!」

「貢献値ボーナスって、そんなものがあるんですか?」

「滅多に行われませんが、最良以上の貢献値評価をつけたいときに、手数料を上乗せしてギルドに願い出ることができます。お二人はそれだけいい仕事をしたということですね」

「さっき商会って言ってたけど、おっきいのかな……?」

「あら、ご存知ないんですか?」

「お店をやっているってことしか知りません」

「ペーターさんは商会長さんですよ」

「それが、ウォーカー商会かしら?」

「えぇ、そうです」

「お姉ちゃんどうして知ってるの?」

「お店に着いたとき、看板に屋号が書いてあったじゃない」

「私それ見てない……」

「うっかりさんねぇ」


 そんなところも可愛いって頭を撫でられたけど、お姉ちゃんにうっかりさんと言われるのは釈然としない。

 レベッカさんが、では、と話を区切る。


「お忙しいところ申し訳ないのですが、これからギルドマスターと会っていただきます」

「私たち、なにかやらかしてしまいましたか……?」


 マイヤのギルドマスターからの申し送りで、要面会となっているんです。ふふ、と優しく笑って小声で教えてくれる。それからギルマスに声を掛けるため、席を外すレベッカさん。

 なら仕方がないかな……。きっと魔族の件だろうし……。

 お姉ちゃんも面会の理由に気づいたのか、私の方を見てくる。うん、要請は受けない、邪魔されたら倒すっていうスタンスは変わらないよね。


「アオイさん、シズクさん、こちらへどうぞ」

 

 ギルマスはすぐに会ってくれるとのこと。レベッカさんの先導で部屋に入る私たち。

 マイヤのギルドと同じように、手前に応接スペース、奥に執務机、両サイドに棚がある。配置は一緒なのかな。でも、配色がバラバラだったマイヤと違って、統一されたディオンの方がちょっとおしゃれだ。それから、部屋の奥には筋骨隆々とはほど遠い、細身のメガネを掛けた男性が迎えてくれた。


「ようこそ。私はマシューと言います。ディオンの冒険者ギルドのギルマスをしています。さぁ、おかけください」


 私たちは自己紹介をしてソファに隣り合って座る。マイヤのギルマスみたいに、ガタイのいいおじさんが出てくると思ったので、肩透かしを食らった気分でちょっとぽけっとしていた。


「はは、あまりギルマスの雰囲気じゃないですよね。私に初めて会う方々は皆、そんな反応をします」

「ご、ごめんなさい! マイヤのギルマスが戦士って感じだったので、同じ雰囲気なんだろうと勝手に……」

「私は魔術師ですからね。ガイウスとは似ても似つかないですよ」

「マシューさんは、ガイウスさんを知っているの?」

「えぇ、何度かパーティーを組みましたよ。突っ込みがちですが、頼り甲斐のある前衛です」


 レベッカさんがお茶を淹れてきて、私たちの前に置いてくれる。それから、私たちの向かいに座ったマシューさんの隣に座った。それで、とマシューさんが口を開く。


「簡単に二人のギルドカードの内容と申し送り、それから盗賊の捕縛について聞き及んでいます。盗賊は集団で弱い商人を襲い、逃げ足が速いので困っていたので助かりました」

「たまたま出てきただけですから」

「蒼ちゃんが可愛いから襲われたのよねぇ」

「違うと思うよ……」


 女に御者させる商人なんて、人が足りないので襲ってくださいって言ってるようなものだしね。


「それから、魔族のことですが……、名付きを浄化できたとか」

「そうよぅ」

「浄化できたこと、みなさん驚いてますよね」

「前回の魔族討伐で、ホーリーでかろうじて下っ端の魔族を浄化したのは私なのです」


 まさか魔族を浄化した人物がこんな身近にいたなんて……。マシューさんはさらに続ける。


「これでも上級聖属性魔術を使えるので。シズクさん、失礼ですが、スキルを見せていただいてもよろしいですか? 後学のため、私とは何が違うのか知りたいのです」

「いいわよぅ」

「ありがとうございます」


『ステータス』


 お姉ちゃんはステータスを唱えて画面を見やすいように机に置く。

 何々……。マイヤのギルドで登録した時とあまり変わってないかな?

 

「んー、登録情報との違いは……。スキルの魔力向上が強になっていることと、浄化効果向上が増えたことねぇ」

「本当だ。魔力向上はこないだ言ってた神様のご褒美かな?」

「きっとそうよぅ」

「じゃあリヒャルトと戦ったときに浄化効果向上が付いたのかな」


 地味だけど確実な強化になっているみたい。私もあとでステータス見てみよう。


「それがあれば名付きの魔物でも浄化できるんですか?」

「あと、聖女の祝福ねぇ。これで威力上限がなくなっているわ」


 それと、多重詠唱ね。とお姉ちゃんが続ける。


「なるほど、単に上級魔術だけではダメだと言うことですね……。スキルの習得はどうやったら……」


 そこでレベッカさんが咳払いするのが聞こえた。


「おっと、レベッカさん、なんですか?」

「マシューさん、本題がまだですよ」

「あぁ、そうでしたね、残念ですがスキルについてはまた今度で」


 今度がないといいなぁ。スキルの覚え方なんてわからないし。リエラと同じ訓練ができる人なんて、やる側も受ける側も滅多にいないと思う……。

 失礼しました。と話を続けるマシューさん。


「お二人には、浄化していただきたいものがあるんです」

「魔族かしら?」

「いえ、それがなにかよくわかっていないのです」

「よくわかってないものを浄化するんですか?」

「えぇ、ここから南に進んだ山に沿った街道に、瘴気の塊が出現しているのです。これが暴れていて道を塞いでいるため、人の出入りができなくなっています。慣れた人ならば迂回できるのですが、馬車の商人が通ることができず、街の流通が滞っている状態です」

「お姉ちゃんに、それを浄化して欲しいってことですか?」

「えぇ。もちろん、ギルドからの依頼となりますので、報酬はお支払いしますよ」

「わかったわぁ」

「いいの? お姉ちゃん」

「魔族かもしれないし、困ってる人を放っておけないわ」

「そうだけど、私たちの通り道じゃないよ」

「わかってるわぁ、でも、お願い蒼ちゃん」

「……わかった」

「ありがとう! 蒼ちゃん!」


 お姉ちゃんが抱きついてくる。勘が働いたのかな。引かないお姉ちゃんに、私の方が折れる。


「明日出発します。いいよね? お姉ちゃん」

「もちろんよぅ」

「では、よろしくお願いします」


 私たちはマシューさんの部屋を出て、レベッカさんとカウンターに戻る。


「受注処理はしておきますので、お気をつけて行ってらっしゃい」


 一礼するレベッカさん。姿勢がいい。受付になるとピシッとするのかな。私も大人のレディに……。


「さぁ商会に戻るわよ蒼ちゃん!」

「あ、待ってお姉ちゃん!」


 受付嬢に憧れを抱いた私のことなどつゆ知らず、お姉ちゃんはぐいぐいと進んでギルドをあとにする。私はそれを慌てて追って行くのだった。




 二人が出たあと、ギルドのロビーではこんな会話が繰り広げられるが、二人は知る由もない。


「なあ、今来てたの新人か?」

「知らねぇ、姉妹か、それか双子の魔術師だな。髪が長い子、美人だったな」

「そうかぁ、俺はショートの子の方が可愛かったと思うぜ」

「相変わらず、おまえは少女趣味だな!」

「おい! それよりもだ! さっき端から見てたが、あいつらCランクだぜ! おまけにギルマスから直接依頼を受けたようだぞ!」

「何だって! マシューさんが直接依頼なんて、レア中のレアじゃねえか! どんな依頼だ?」

「Cランクなら街道の盗賊退治が関の山じゃねえか?」

「だがその盗賊退治、完了したようだぞ」

「あと残っているCランク以上の依頼って言うと、街道沿いの瘴気のやつか」

「そんな訳はねえだろう。あんな小娘が。精々Cランクなりたての研修ってところじゃねえか?」

「じゃあなんでマシューさんが直接依頼してるんだ?」

「どうせ貴族のお嬢様が遊びで冒険者やってて、マシューさんも頭下げざるを得なかったんだろうよ」

「なるほどなぁ。だが、仮に瘴気の浄化だったらどうする?」

「あんなのマシューさんじゃないと無理じゃないか? 浄化だぞ?」

「もしそうだとしたら、聖属性魔術を使えるってことだな。しかも上級……」

「……おい、誰か、双子の冒険者の噂知らねぇか?」

「知らねぇ」」

「まぁ、俺たちにゃ様子見しかできねぇな」

「だな」

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただければ幸いです。

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