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90. 魚が、食べたいんです。

 おはようございます。

 最近、戦闘とか魔族とか王様に謁見とか大変な事が多かったけど、そんな大変だったなという疲労を吹き飛ばすような清々しい朝!

 まだ当然、お姉ちゃんは隣のベッドで……。

 ……あれ、私のすぐ隣で寝ている。

 そっか、いつもは追い出すのにの、昨日は珍しく二人でそのまま寝たんだっけ。

 そんなお姉ちゃんの寝顔をそばで見ていると、私はちょっといたずら心が出てきた。

 私は寝てるお姉ちゃんに顔を近づけ、その耳元で囁く。そう、愛を込めてね。


「今起きれたら……デートしよっか」


 ゴチンッ。


 初速から最速に起き上がったお姉ちゃんと、私の頭が激しくぶつかる。


「「いったぁ〜〜」」


 星が見える。二人して頭を抱えるけど、しかしすぐに復活したお姉ちゃんが私の手を握って、私を見つめてキラキラした笑顔で更に別の星を飛ばしながら叫ぶ。


「ねぇねぇ! 今デートって!」

「言ったかなぁ〜」

「言ったわ! 早速行きましょうね!」


 まさか秒で起きるとは……。さすがに誤魔化せないか。


「それで、どこに連れて行ってくれるの?」

「えっとね……バイゼル領に小旅行なんて、どうかな?」

「という事は、魚ね!」


 寝ぼけ眼ながらも、物凄い勢いで喜びながら私に抱きついてくれる。

 私がどうやって引き剥がそうかなと思っていると、ノックがしたので許可を出す。

 すると、リリムちゃんが部屋に入ってきた。


「おはようございます! 今日も仲良しですね!」


 うちの人間は私とお姉ちゃんの、お姉ちゃんからのやや過剰ともいうスキンシップを「まぁ、そう言うものか」と誰も彼もが思っている。貴族令嬢って、それでいいのかな?


「マリーさんはリエラの方?」

「そうです。『今日こそ朝から徹底的に掃除します』と気合十分に言っていました」

「本が山積みだからなぁ、あの部屋。それだと長そうだね。リリムちゃん。二人分で大変だけど、支度の手伝いをお願い」

「かしこまりました」


 服の着替えを手伝って貰って、それから私の髪を梳かしながら、リリムちゃんが尋ねてくる。


「今日はシズクお嬢様がいつにも増してご機嫌ですが、何かいい事でもあったんですか?」

「そうなのよぅ。蒼ちゃんがデートしてくれるって!」

「それは素敵ですね。でも、アオイお嬢様から誘うって珍しいですよね」

「つい、うっかりね……」

「どこにお出かけされるんですか?」

「バイゼル領よぅ!」

「あぁ、前から魚が食べたいとおっしゃってましたものね」

「うん。後でお義父様に許可を貰わないとね」


 今日の朝ごはんは賑やかになりそうだね。


    ◇


 ビルさんの作ってくれた朝食を食べながら、私はお義父様に話をする。


「お義父様、ちょっとバイゼル領に出かけてきます」

「バイゼル領か。魚が好きだと言っていたな。買い付けか?」

「一番の目的はそうです。ただ、他にも食材があれば広く買ってきたいと思います」

「つまりうちの食事が楽しみになる訳だ。よろしい」

「お待ちください旦那様」


 許可を得られたかに見えたけど、お義母様から物言いが入る。


「危ない事は無しですよ。ただでさえ、魔族の侵攻があるかもしれないのですから」


 そう、もっとも危惧しているのはそれだね。魔族侵攻。

 私たちがこの世界にくる原因にもなった神様。転移の後でも何度か現れて、私たちに言うだけ言って去っていく。そして前回私たちの前に現れた神様が、魔族が攻めてくるなんてふざけた事を言って、それが本当になってしまったという話。

 しかも完全に討伐出来なかった。勿論何体かは倒したけどね。

 でも、あのヘルベルとヘルタって魔族のペア、私たちの魔術がほとんど効いてなかった。もっと強くならないととは思うんだけど、どうやったらいいのかなと、立ち止まってしまっているのも事実。

 しかもその二人の親玉、アザリアって魔族は二人どころじゃない。勝てるかなんて考えられなかった。対峙した時、どうやったら生き残れるか、ばかり考えていた。

 そして彼らは、今は蟄居となっているアルメイン王国の第一魔術師団副団長のレント・ウェリスに絆されて、アルメイン王国の国取りを考えているらしい。

 陛下を筆頭に、王国軍総出で国を守らないとと考えているみたいなんだけど、相手になる、倒せる可能性があるという意味で、彼らと対峙出来るのが現状、リエラも含めた私たち三人だけと謁見した時に言われた。

 強くならないと……。

 でもまあ、先日の戦いは本当に大変だったし、乙女にもおやすみは必要です。

 そんな訳で、せっかくだからお休みしてお姉ちゃんとのデートを満喫するつもりでバイゼルに向かう気満々でいるけれど、お義母様の心配ももっともだ。私は安心させるため、聞かれた事に答える。


「この家には標もありますから、何かあったらすぐ逃げてきます」


 実を言うと、誰にも言ってないんだけど、魔族侵攻についての私とお姉ちゃんの見解は『まだ来ない』だ。

 なんでかって言うと、神様の眷属だっていう、あのむかつくウサギが来ないからね。侵攻なんて大イベント、絶対にくるはずだと言うのが共通見解。

 そんな訳で、二週間ぐらいいなくても大丈夫、だと思ってる。


「リエラは一緒に行く?」

「あ! デートって言ったのに!」

「はいはい」


 私は、まだ寝ぼけ眼のまま朝食を口に運ぶリエラに尋ねる。


「わしは留守番しておる」

「魔族なら大丈夫だと思うわよぅ?」


 行かないと聞いて、デートのチャンスがまだ有効だと立ち直ったお姉ちゃんがリエラにそう説明する。


「んー、それより魔術研究がしたい。マギア老への論文も仕上げないといけないしの」

「あー……」


 謁見の時に魔術師団総長のテオレ・マギア様に頼まれた複合魔術に関する魔術論文を一度提出したんだけど、まだ他にもネタがあるだろうと追加を押し切られちゃったんだよね。リエラも研究者気質だから嫌そうじゃなくてよかったけど。


「じゃから、わしはお土産の新しい料理とお菓子を所望するのじゃ」

「分かった、色々買い込んでくるね」


 そうすると、行くのは私、お姉ちゃん、リリムちゃんか。


「三人での長旅はディオンに行った時以来だね。よろしくねリリムちゃん」

「はい! 一生懸命お世話します!」

「そうだ。出かける前に、マリー、リリム、二人に話がある」


 おや? お義父様が二人に話って珍しいね。

 基本的に私とお姉ちゃん、リエラに命令権があるから、お義父様が雑談では無さそうな何かで話を直接するのは珍しい。とりあえず、聞いてみよう。

 私たちもお義父様の方を向いて、話を聞く姿勢になる。


「仕事は辛くないか? 今、二人にはリエラたち三人分の侍女と護衛、更には冒険者としての仕事をさせている。つまり契約外の仕事をさせているという事だな。必要ならば一人か二人、雇おうと思っているが先にお前たちの考えを聞いておきたい」


 あ、確かに。リエラが帰ってきた時、王都では一時的にマリーさんがリエラ付き、リリムちゃんが私とお姉ちゃん付きとしていたけど、そのままずるずるときてしまっていたね。

 お義父様が言うとおり、二人の仕事量が侍女のそれじゃなくなっている。二人はなんて答えるのかな。人を増やすにせよ、二人にはこのまま私たちの侍女を続けてくれると嬉しいんだけど。まず口を開いたのはマリーさんだった。


「リエラお嬢様がお戻りになられてすぐ、リリムと相談しました。最近になっても、私の気持ちは変わりません。今のままを希望します」

「わ、わたしも! 大変ですけど、楽しいので! 行き届かない面もありますが、お嬢様方がお許しくださるのなら、今のままがいいです!」

「今より忙しくなるかもしれないぞ?」

「「がんばります」」

「旦那様。リリムが申している通り、行き届かない面が出ます。人を増やす必要があるかと」


 ジョセフさんがお義父様に進言する。


「ふむ。シズク、アオイ、どう思う? リリムの仕事が行き届かない事で子爵令嬢、そろそろ伯爵令嬢になるが……令嬢として過ごすのに支障が出るか?」


 んー、そもそも、私もお姉ちゃんも自分で出来る。ドレスの着付けや貴族の常識を教えて貰う事が必要で、そこを一番頼っている感じかな。だから、リリムちゃん一人でも問題ないと思うんだよね。という目配せをお姉ちゃんとする。


「問題ないわ。パパ」

「私も問題ないと思います。仮に家具に埃とか付いてたら自分でやりますし……」

「それじゃダメだから言っているんだが……まぁリリムが手を抜いて仕事をしない事は理解している。分かった。今のままとしよう。マリー、リリム、何かあれば三人に言いなさい。私でもいい」

「「ありがとうございます」」


 それから、私とお姉ちゃんの方を向いて、お義父様が言う。


「シズク、アオイ、どうせ今日出るだろう? 出立前に私の部屋に来なさい」

「分かりました」

「分かったわ」


 何だろう? とりあえず許可も貰ったし、朝食も終わったので私とお姉ちゃんは早速準備のために部屋に戻る事にする。ごちそうさまでした。


    ◇


 一通りの荷物がストレージにある事を確認して旅装に着替えてから、私たちはお義父様の書斎に向かう。ちなみにリリムちゃんは慌てて自分の準備をしている。

 さて、書斎の扉にお姉ちゃんがノックする。


 コンコン。


「雫よぅ。蒼ちゃんと来たわ」


 いつも通りジョセフさんが来室者の確認して、私たちを部屋に招き入れてくれる。

 私たちは書斎に入って、執務机の前まで歩く。


「二人ともすまないな。……ジョセフ。これを頼む」

「かしこまりました」


 お義父様は数枚の紙をジョセフさんに渡す。

 受け取ったジョセフさんはそれを封筒に入れ、部屋の端へ行く。そこで、魔術具を使って蝋燭に火をつける。

 火の上に、棒状のシーリングワックスを乗せて溶かす。

 慣れた手つきで、溶けてギリギリ原形を保っているシーリングワックスを封筒に付ける。

 そして最後にシールスタンプでリインフォース家の紋章を付ける。

 所作がもうかっこいい。私もシールスタンプで封印してみたい。

 

「アオイ様、こちらをバイゼル領主様へお願いします」


 白でシンプルだけど上質な封筒に、ワインレッドのシーリングワックスで作られたリインフォース家の紋章。綺麗だな……。


「……シーリングは後日やってみますか?」


 私がずっと見ていた事に気づいていたんだね。ちょっと恥ずかしいけど、この気持ちには抗えないので、私はジョセフさんに返答する。


「はい! 教えてください! 楽しみです」

「雫もやるわ!」

「お前たち、ただの封印だろう? 何故そんなにうきうきしているんだ」

「お義父様……」

「パパ……」

「旦那様……」

 

 私たちが一様にため息を吐くと、焦ったお義父様が言う。


「私が悪いのか……?」


 私とお姉ちゃんはそれに更に返す。


「悪くはないですけど……」

「パパ、覚えておいて」


 私とお姉ちゃんは一拍溜めて、お義父様に教える。


「女の子は文房具が大好きです」

「女の子は文房具が大好きよ」


 お義父様が驚いた顔をして私たちに尋ねる。


「それはリエラもか?」

「パパ、今度リエラちゃんの万年筆を見るといいわ」

「私もそれしか言えません……」


 あれ見た時、ちょっと意味分かんなかったよね。ルビーを削って作った軸って何。しかも予備の万年筆はサファイアとか。


「わ、分かった……。とりあえずその手紙はバイゼル領主に宛てたものだ。まぁ渡せなくてもいい」

「?」

「旦那様……」

「……渡してくれると助かる」


 あれ、知り合いなのかな? とりあえず了解を伝える。


「分かりました」

「分かったわ」


 私は受け取った手紙を『ストレージ』にしまう。こうして、私たちは出発の準備が整ったのだった。


    ◇


 移動一日目。

 スピードを上げて快適運行。でもやっぱり馬車にサスペンションのような改造は必要だね。

 ちなみに御者は私。

 たまに道から少し離れた所で、お姉ちゃんが魔力感知した小型の魔物を狩っていくくらい。

 リリムちゃんが作ってくれた夕飯を食べて、食後のお茶を飲みながら地図を見る。地図によると、すでにバイゼル領には入っているっぽい。けど、バイゼル領は広いのでここからまだかかる感じかな。


「明日……いえ、明後日午前に門を通れたらいいって感じかしらね」

「そうだね。バイゼル領は自警団も強くて魔物狩りもしっかりしているらしいから、魔物も厄介なのは出ないかな」


 そんな感じでふんわりと一日目は終わり! おやすみなさい!


    ◇


 移動二日目。

 朝は剣を振って体を少し動かしておく。馬車でほとんど動かないし、魔術だとどうしても体を動かさないからスッキリしないんだよね。

 咄嗟に動かなきゃいけない事もあるだろうし、備えは大事。

 リリムちゃんに付き合って貰って打ち合いもする。

 ただ、リリムちゃんの訓練にならないからそれが問題。いっそ魔術対剣の方がいいかな。

 なんて本末転倒な事を考えつつ、運動を終えてからリリムちゃんと二人で朝食を作っていると、ほぼ完成の頃にお姉ちゃんが起きてくる。うちには匂いに釣られて起きてくる食い意地のはった人たちが実に多い。私も人の事言えないけどね。

 朝食を食べて馬車で移動。

 『エアイクストルード』で今日も快適ちょっと振動って感じかな。

 昨日話した通り、午後にもなると魔物を見る事が少なくなった。遠くに小物の気配を感じるくらい。

 そんな感じで、二日目も快適に移動終了。

 三人ならお風呂ハウスで食事もお風呂も就寝も、端的に言えば生活が賄えるので、移動が快適すぎる。やばい。


 移動三日目。

 異変が起きたのは木立の間に出来た道の移動を開始してすぐだった。


「蒼ちゃん、前に何かある?」


 お姉ちゃんの魔力感知に何かが引っかかったみたい。

 馬車を進めながら前方を注視すると、馬車が止まっているのが見えた。


「お姉ちゃん、リリムちゃん。前に馬車がある」

「何かトラブルかしら」

「盗賊とかでは無いと思うけど、念のため用心して進むね」

「分かったわ」


 私は自分の魔力感知の範囲を広げながら、馬車を近づけていく。

 馬車の周囲には男性二人と、シンプルだけど生地から高級感の伝わるドレスを着た私たちくらいの年の女性、それからメイド服の女性の合わせて四人。


「んー、四人いる。馬車が故障でもしたのかな。男性二人が馬車をいじってる。で、ご令嬢らしき人とメイドさんがそれを見てる感じかな」

「何か手伝える事があるかもしれないから、事情を聞いてみましょうか」

「そうだね。警戒はしといて」

「勿論よ」

「分かりました!」


 私は馬車を更に近づけていく。

 彼らのすぐそばで停車させて、ロッソにちょっと待ってて、と伝えて御者台を降りる。そして、馬車内から降りてきたお姉ちゃんとリリムちゃんと三人で声を掛ける。


「どうかしましたか?」


 すると、執事服を着た男性が私たちに気づいて、作業を中断して慌てて話してくれた。


「道を塞いでしまい申し訳ございません。実は車軸が折れてしまったようで……」

「なるほど」

「わたくしからも謝罪いたしますわ」

「お、お嬢様!」


 馬車の近くで立っていた桃色のツインテールの小柄なご令嬢が頭を下げる。

 が、執事さんがちょっと固まっている。どうやら身分が高めのご令嬢らしい。


「頭を上げてください。もしよろしければ、お手伝いさせていただいてもよろしいですか?」

「え、ええ……願っても無い事ですわ。ですがうちの執事でも手こずっているのです」


 許可を得られたので考える。

 車軸かぁ、車輪を付ける木の棒、シャフトだよね。

 そこで私の肩にポンと手を置いて、お姉ちゃんが話しかけてくる。


「蒼ちゃん、直せる?」

「直せると思うよ。分解させて貰えれば……。で、そこの木を使ってシャフトに加工して、元に戻せばいいはずだから……フロートはお姉ちゃんにお願い」

「分かったわ」


 簡単に作業方針がまとまった所で、私はご令嬢に話しかける。


「直すために、一度壊れた箇所を見たいです。馬車を浮かせる事と車軸まわりを分解する許可をいただけますか?」

「何やら解決法がありそうですわね。全て許します。失敗しても責任を問う事は致しません」

「ありがとうございます。では、お姉ちゃん」

「はーい」


 お姉ちゃんの足元に淡い水色の魔術陣が光り出し、発動した『フロート』で馬車を三メートル程持ち上げる。

 びっくりするみなさん。

 私は馬車の下に入って、故障箇所を確認する。

 確かに、後輪を留めている車軸が折れている。


「お姉ちゃん、後ろの車輪両方外して、嵌めてるだけだからちょっと力を込めれば外れるはず。その後この折れてるの分かる? これ外して」

「分かったわ」


 お姉ちゃんの足元に、淡い水色の小さい魔術陣が現れ、『フロート』の魔術を並列詠唱すると車輪が外れる。

 その後すぐにもう一つ魔術陣が現れ、折れたシャフトが外される。


「リリムちゃん、そこの木を切ってくれるかな」

「かしこまりました」


 リリムちゃんが『ウィンドカッター』で木を一本切る。私はそれが倒れる前に『フロート』で浮かせて、リリムちゃんと同じく『ウィンドカッター』で折れた木の軸と同じサイズにしていく。仕上げに『ポリッシュ』で研磨するのも忘れない。

 この間ただ唖然としているご令嬢一行。

 そして私は加工を終えて、お姉ちゃんに再度指示を出す。


「お姉ちゃん、折れたシャフトの代わりにこれ使って元に戻して」

「はーい」


 お姉ちゃんが手際よく組み立てていく。車輪が綺麗に嵌るか心配だったけど、嵌ったみたい。

 私も『フロート』を使ってわずかに出来ている車輪と車軸の間に楔を打つ。

 最後にもう一度馬車の下に潜って確認する。

 馬車から離れて、最後の指示をお姉ちゃんに出す。


「大丈夫みたい、降ろしていいよ」

「分かったわ」


 お姉ちゃんがゆっくりと馬車を降ろす。


「お疲れ様。お姉ちゃん、リリムちゃん」


 そしてご令嬢と執事さんに報告する。


「これで動くと思います。応急処置ですので、到着したら必ず修理に出してください。あ、あと魔術を使って早く動かさない方がいいです」

「なんとお礼を申し上げてよいか……」

「お気になさらず」

「わたくしとした事が名乗ってませんでしたわ」


 ご令嬢は綺麗なカーテシーをして、私たちに自己紹介する。


「バイゼル領主の長女、ミリアリア・バイゼルと申します。バイゼル家の名に懸けて、必ずこのご恩を返させていただきますわ」


 あー……領主一族だったのね……。

 私がどう紹介したらと考えあぐねていると、お姉ちゃんが前に出て口を開く。


「侯爵家ご令嬢とは知らず、大変失礼を致しました。妹と勝手きままな小旅行の途中でございます。申し訳ありませんが、家名は伏せて自己紹介させていただきます。どうぞ、それをわたくしどもの報酬とさせてくださいませ。わたくしは雫と申します。こちらは妹の……」

「蒼です」


 私たちはカーテシーして頭を軽く伏せる。


「シズクにアオイね。もしバイゼル領都に来て、気が向いたらうちに寄ってちょうだい。その時は盛大に歓迎するわ」

「「ありがとうございます」」


 ミリアリア様たちは「先に行くわね」と早速、馬を繋いでバイゼル領都へ向かって行った。

 なんとか切り抜けられた! 今回は貴族の仕事は可能な限り無しにしたい!

 でもお義父様に頼まれた手紙を渡すときに会いそうだね。まあ、仕方ないか。


「また会いそうねぇ」

「うん、仕方ないかな……」


 私たちも少し間をあけて、馬車での移動を再び開始するのだった。

こんばんは


ここから第三部スタートです。

まずは前々から食べたがっていた魚を食べにバイゼルへ。


楽しんでいただければ幸いです。

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