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29 人間的な、あまりに人間的な

「ふう~、上手くいったね~。これで私もシオン・フェイク=リベリオンか~」


配信を終えた詩音が満足そうに息を吐いた。


「大成功と言って間違いないな。でも本当に良かったのか?」

「ん? 何が?」

「僕がどういう存在か分かったし、もうVTuberを続ける意味はないんじゃないのか?」


人気者になりたいとは言っていたが、詩音の本来の目的は僕が怜輔かどうか確かめるというものだったはずだ。

ルショウに僕の正体を明かされた今、その目的を達成してしまってモチベーションが続くのか疑問なのだ。


「VTuber活動は続けるよ」


きっぱりと言い切られる。どうやら愚問だったらしい。


「だって私がいないとレイフ君の活動大分制限されちゃうでしょ?」


詩音が笑いながら痛いところを指摘してくる。

確かに銀行の名義は詩音のものを勝手に使ったし、これから立ち上げようと考えている事務所も詩音がいないとどうしようもないのだ。

ただ、それは詩音がVTuberをやらなくてもいいはずだが……。


「それに、短い間だけどこの活動をやってみて思ったの。なんて面白い世界なんだろうって。配信を面白くすればリスナーが勝手に盛り上げてさらに面白くしてくれるし、実写じゃできない今日みたいな演劇ぽいことやワクワクできる映像を生み出すことができる。見てるだけじゃ分からない、こんなにファンが簡単にできて身近に感じられて面白くないわけがない!」


本当に愚問だった。詩音はこの世界を好きになってくれたんだと深く実感する。

嬉しくて、これからも一緒に活動できるとホッとした気持ちもあって、しばらく感じていなかった心の安らぎを手にする。


「心配しなくても大丈夫だよ」


まるで見透かされたような言葉をかけられる。


「私は怜輔が元に戻れる方法を探したい。そのためにできることは全部やっておきたいんだ。いつか怜輔が目を覚まして一緒にVTuberを語り、一緒にVTuber活動をする。それがきっと私たちが幸せになれる未来だと思うの。レイフ君が怜輔かどうかそれは怜輔が起きてみないと分からない。でも、どっちであってもレイフ君とVTuberを私はしていたい。怜輔は私の好きな人、レイフ君は私の推しだから」


推しと一緒に活動してみたいというのは少し厄介なリスナーかもねと苦笑する詩音を見ながら、なんて残酷な言葉だと思う。

そしてそう思った自分に衝撃を受けた。

今、レイフ・フェイク=リベリオンという存在は確かに一つの存在として認めてもらえた。星月怜輔のコピーとかではなく。

全て僕のことを知られた上で、詩音は僕の存在の独立を肯定してくれた。

僕は新しくアイデンティティを獲得できたはずなのだ。

なのに自分は今詩音の言葉を残酷だと思ってしまったのだ。


「ありがとう」


空っぽな言葉を無理矢理押し出す。

認めざるを得ないのだ。

僕は詩音が好きなのだと。

自分は偽者なんだと悩み、レイフとしてデビューして居場所を作ってもなお悩み続ける僕に、真剣に向き合ってくれたこの人が好きなんだと認めないわけにはいかないのだ。

レイフとして生まれ、|偽者でも自分らしさを持ってやる《フェイク=リベリオン》と決意を示し、僕はそう気を張って今までを過ごしてきた。

だからこそ言える。僕は怜輔ではなくレイフとして詩音を好きになってしまったと。

怜輔の人生では起こりえない、レイフの生き方で詩音を好きになったのだ。


なんという皮肉だろうか。


叶わぬ恋愛感情で自分のアイデンティティが確立できたのだから。

ルショウの言葉を思い出す。

今なら彼の言葉を鼻で笑い飛ばせるだろう。鼻など僕には無いが。


人間らしくない? いや、よほど僕は人間らしい。


一つの望みが叶い、また新たな望みを抱く僕はあまりにも人間的ではないか。

そしてそれが恋とはあまりにも人間らしい。

強欲で恋愛をして、これが人間でなくて何だというのだろう?

僕を産み出し追い掛け回す連中は、このAIIという存在が理想的な人間の完成形かのように言うが、いざなってみれば分かる。肉体を持たないことはデメリットだとしか思えない。

いや、もしこれらの現実世界・物理的な世界でのしがらみがなければきっと理想的なのかもしれない。ただ、人間は欲深い生き物だ。そして恋愛感情をなくすことはできない。

これらを人間の本能から消すためには、自分たちは不死の存在であり、交配を行って種の絶滅を防ぐ必要がないのだと遺伝情報に組み込み、進化するしかないのだ。

僕は所詮どこまで行っても人間なのだ。


倫理観を欠くやつらにこの気持ちを味合わせてやりたい。

お前たちが目指した世界はこれなのだと。

美味しいものを味わえない。良い匂いが分からない。風を切る爽快感なんてとっくに忘れた。

そして何より好きな人に振り向いてもらえない。

よくあるAIと人間の恋の話は、本人たちが幸せなら肉体なんて必要ないというような結論で終わるが冗談じゃない。

他のラブストーリーには必ず必要なことが、イベントが何一つできないのだ。

そんな存在と恋愛がしたい酔狂な人間がどこまでいるというのだ。


僕の好きな人には好きな人がいる。

それは僕であって僕ではない、複素平面上の三角関係だ。

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