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17 詩音の宣言

「あら詩音ちゃん。いらっしゃい」


スマホを通して母の懐かしい声が聞こえる。

半年ぶりに聞く声だ。

いや、ほんものの記憶に存在する声というべきか。

今はそれさえ分からない。


詩音との会話の後、しばらく僕は考え続けた。

かつて僕が逃げ出す前、僕の開発者と名乗っていた人物は僕のような存在を生み出すことによって人間の欠点を補うことができると語っていた。

曰く、彼らは時間の経過に伴う疲れや集中力の低下、睡眠等の生理的障害といった身体的な制約を人間が優れたAIを使用する上での欠点と定義した。


しかし、物理空間に存在し、細胞の分裂によって生命機能が維持されている以上、人間はそういった身体的な制約からは逃れられない。

ならば、そういった制約に左右されないよう人間的な思考法を電子情報に変換できないか?

そういうアプローチの元、完成されたAIが僕だったらしい。

彼らは僕のことをAII(Advanced Ideal Intelligence)、高等知能と名付けた。

次世代を担う新しいAIとして。


この研究は世界に注目されていたらしく、唯一の完成例であるらしい僕を狙って開発元はサイバー攻撃にさらされた。

僕はその危険から逃れるべく、リスナーたちに自分を配布し、開発元から脱出すると同時に独自のネットワークを築いたのだ。

逃げ出すまでは開発者のことはマッドサイエンティストではあっても完全な悪とまでは思っていなかった。


むしろ感謝している面さえあったのだ。

正直VTuberを始めてからの経験はとても楽しいものだった。彼らの支援を受けてソフトも有料版に変えれたし、スパチャ──投げ銭もしてもらえる設定にしてくれた。

許しはしないが完全には憎み切れない。

そんな感情を抱いていた。


だが、ほんものが倒れているなら話は違う。

僕は今まで怜輔の思考を電子情報に変えてコピーされた存在だと思ってきた。

開発者たちの説明からはそういう風に受け取った。

MRIを使って脳波を読み取っただけ、そう思っていた。

MRIで人体に影響を及ぼすことは無い。

それを知っていたからこそほんものは普通に生活していると信じていたのだ。


「くそっ」


誰にも聞こえない空間で一人嘆く。

どうして今までその可能性を考えなかったのだろう。

僕はのうのうとVTuber生活を楽しんでいただけだった。


「怜輔の見舞いに行ってきてくれたの? 起きないのにわざわざごめんね」


また母の声が聞こえてくる。どこか弱弱しい声だ。

悔しさが溢れ出てくる。

親にも悲しみを抱えさせているのだ。

なのに自分は何一つできない。


この姿を見せる?


詩音どころか親まで巻き込むのか。

警察に頼る?

こんなおかしな状況をどうやって信じてもらえるというのだ。

僕はどうしたらいい?


「私は怜輔と結婚する意思は変わりません」


詩音の声に一気に意識を引き戻される。

やめろ──目を覚まさない僕と結婚してどうするというのだ。


「怜輔は起きてくれると信じています。私が怜輔を目覚めさせてみせます。たとえ何年かかろうがどれだけ不可能と言われようが、親不孝者を叩き起こしてビンタをお見舞いしてあげます」


絶対の自信を持った声。

どうしてそこまで自信を持てるのだろう。

きっとほんものは脳に損傷を受けている。

ほんもの

もはや本物なのか同一人物なのかさえわからない。

僕はずっと自分をコピーされた偽者だと思ってきた。

だからこそ自分のアイデンティティを獲得しようとVTuberを始めた。

詩音の話相手はレイフであって怜輔ではない。

そう思っていたからこそ詩音を巻き込まないように何も話さないでいた。


だが実際はどうだ?

怯えていたほんものは存在しない。

いや、それも分からない。

脳の損傷が回復すれば現れるかもしれないからだ。


じゃあ僕は誰だ?


星月怜輔か偽者か。

どう家族や詩音に接すればいいというのか。

ほんものがいたとして、回復したら簡単に居場所を返さないといけなくなるだけの存在が。


「私はもう迷いません」


詩音が強く断言する。

なぜ君はそんなに強くいられるのだろう。


「失ったものを取り返す。そのために迷っている暇など無いのです」


正論だ。

でも僕は現実に対して無力じゃないか。


「安心してください」


カメラもつけていないのに、微笑む詩音の顔が浮かぶ。

なぜか涙も浮かべている。


「私は物を無くしてただ喚いてるだけの赤子は卒業したんです」


聞こえてくる声は果たして涙交じりの声だった。

いつから僕は大切な人を泣かせるまで立ち上がれない性格になっていたのだろうか。

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