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異世界トラック  作者: 鵜飼ネギマ
7/10

7話 曖昧な基準

 19時、予定通り飯田さんがホテルの部屋にやってくる。


「お疲れ様です、どうでしたかその轟仁くんは」


「お疲れさま、やはりかなり今回は嫌な相手になりそうだよ、詳しくは後で話す、すぐに出る準備しろ、運転の練習するぞ」


 急いで支度をして飯田さんについていくようにホテルを後にする。その後は2時間みっちりトラックの運転の練習を公道で行った。


 練習中、私は今日盗聴で聞いた内容を告げ、飯田さんからわかりに轟仁くんについて話を聞いた。


「その、嫌な相手ってどういう意味ですか」


「おい、そこもっと早くブレーキ踏まないと止まれないぞ、トラック自体が重たいんだから制動距離も長くなる」


「すみません、気を付けます」


 私は急ブレーキほどではないがシートベルトに体重がかかるぐらいのブレーキをしてしまいハンドルを強く握る。


「まあ、少し落ち着け、話しながらだと危ないか、ちょっとそこの曲がった先の路肩に止めってくれ」


 私は案内さるままトラックを何とか停車させた。2時間練習した成果なのだろうか、言われた通りの場所に停車でき、安堵した。


「飲み込みは早い方だな、センスあるよ、でもまだ話しながらは少し危ないからもっと慣れてからにしよう」


「すみません、もっと頑張ります」


「いいよ、そんなに気張らなくても、まだ本番まで1か月あるんだから」


 その本番というのはその轢く日のことだ。トラックを運転できるようになるのは楽しく感じていたが、目的を忘れかけていた。


「そうか、僕は轢くために練習してるんだ」


「飛ばす、な、そこをはき違えると大変なことになるぞ、はあ、今日は終わりにしよう、ドライバー交代だ、お前さんの家まで送るよ、その間に轟仁について話す」


 飯田さんに運転席を任せてトラックは走り出す。


「お前さんの家までこのままいくとつくのは23時過ぎるが大丈夫か」


「はい、前の会社でも同じような時間だったので」


「そうか、家族には連絡しとけよ、それにお前さんが慣れてきたら練習がてら帰り道を走ってもらうからもう少し早く帰れると思うからがんばれ」


「ありがとうございます。何から何まで、飯田さんは家どこらへんなんですか」


「大体ここから30分ってところだな、そんなことより轟仁だ、最悪な読みが当たっちまった」


「何が最悪なんですか、そんなにやばい人なんですか」


「そうじゃない、まあ今時なかなかいないレアケースだよ」


「もったいぶらないで教えてくださいよ」


「あいつ、スマホを持ってないんだ」


「え、本当に、高校生ですよね」


「ああ、まあいなくはない、いるさそりゃ、でも対象者では初めてだ、厄介極まりない」


「でも、何が厄介、、、あ、盗聴」


「そう、それが全くできない、だからこれは一応決まりなんだが、やむを得ず盗聴、監視ができない場合、実際に会いその者を見極めなければならない」

 

「それをやるんですか」


「ああ、俺は今日遠くで見てたが家も相当なもんだ、恐らく超貧乏」


 飯田さんは頭を抱えていた。それもそうだ、こんなの嫌すぎる。これから轢くかもしれない人間とコミュニケーションを取らないといけないんだ。


「だから、初めの仕事にしては申し訳なんだが、その、あれだ、わかるだろ」


「はい、なんとなく」


「すぐに決めなくていいのは救いだ、ちょっと考え始めといてくれ」


 そうこうしているうちに私の家の近くの駅に着いた、時間は22時40分。


 飯田さんにお礼し、明日8時に駅集合とだけ決め別れた。


 駅から家まで歩き、家に着くと娘はいつものようにもう寝ており妻は待ってくていた。


「いつもありがとう、食べたらすぐ寝るから先にもう寝てていいよ、おやすみ」


「わかった、おやすみ」


 私は妻が用意してくれていた晩御飯を食べ風呂に入りすぐに床につき瞼を閉じ考える。


 あの時、飯田さんが言いたかったのは恐らく『轟仁に接触せず桧山のみで転生者を決める』ということだ。盗聴されてるとしたらまずいから濁した表現をしたのだろう。


 本人に会い関わったら必ず情が沸く、それを避けたいんだ。


 実際、今日盗聴しただけでもかなり私は桧山という人間に情が沸いている。しかし、その盗聴以上に危険なのだ、実際に会いコミュニケーションを取るというのもは、だから苦渋の選択。


 かかわらない、そして桧山だけの情報でどちらかを選ぶ。まだ初日だ。だからこそのこの1か月という時間。


 ゆっくり心の整理をするんだ。


 それにトラックの運転の復習もしないと。。。


 気が付けば朝になっていた。


 今まではどうクビになったのをばれないように過ごすかという悩みだったが今日からはまた別の悩みを抱えて朝を出発する。


 いつも通り妻と娘を背にドアの閉まる音を聞いたのちゆっくりと駅に向かうと駅に昨日と同じところにあのトラックが止まっていた。


「おはようございます」


「お、おはようさん、じゃあ行くか」


 昨日と同様に飯田さんと共にホテルに向かう。


 道中はまたトラックについての復習と飯田さんなりのコツを教えてもらった。


 あっという間にホテルに着き2人でホテルに入る。


「今日もずっと聞いてればいいですかね」


「そうだな、今日は俺もここで一緒に聞いてるよ」


 昨日同様に10時ごろから淡々と授業を聞いていた。


「休憩時間になったみたいだな、昼ご飯買ってくるよ、何がいい」


「いいですよ、僕が行きます」


「何言ってるんだよ、お前さんに一人でトラック運転させられんよ」


「そうですね、じゃあ、運転うまくなったら絶対僕が行きますから、今日はすみませんお願いします、僕は何でもいいので」


「わかった、ちょっと行ってくる」


 飯田さんがホテルを後にして私は一人で盗聴を続ける。


「ザザッ桧山君ってほんとに優しいよね」


「そうかな別に普通じゃない」


「お人好し過ぎるんだよお前は」


 桧山は昨日同様周りからとても好かれているように思える。


 異世界転生者にはふさわしいそう思えるのは初めからの印象だ、会話を聞いていると大体の人は桧山に対していい人だという印象を持っている。


 だからこそ気が引けるんだよな、こんないい子をこの世界から消す。


「いやだなあ」


 つい口から本音が漏れてしまい、急いで口をふさぐ。


 そうだ、聞かれているかもしれないんだ。


 私が静かに狼狽しているとお昼ご飯を買ってきた飯田さんが戻ってきた。


「おい、どうした、なんかあったのか」


「いえ、別に何も、何買ってきたんですか」


「牛丼だ、適当なトッピングもいろいろ買ってきたから好きなの食ってくれ」


「ありがとうございます、いくらかかりましたか、出します」


「いいよ別に、で、何か進展あったか」


「えーと、特に進展ってのはありませんが、桧山はとても友達からよく思われてるみたいです」


「これは今回の適任者かもしれないな」


「今回のってどういう意味ですか」


「そういえばまだお前さんに言ってなかったな、今回の異世界に飛ばすやつの選ぶ基準だ」


「そういえば昨日ある程度絞るって言いてましたね、その基準っていうのもっと早く教えてくださいよ」


「忘れてたんだ悪いな、まあ大体はいつも頭がキレるやつとか運動神経がいいやつとか、もっと具体的な奴があるんだがな、この2人から3人に絞る過程であらかたその基準でふるいにかけられたやつが残っていくわけだ」


「それで今回は2人に絞られたってわけですね、今回の基準は」


「それは『いいやつ』だ」


「え、なんですかそれ曖昧じゃないですか」


「俺に言うな、たまにあるんだどういう測り方をしてその人が選ばれ残っていくかわからんが今回はこの二人からいいやつを選んで飛ばす」


 だから飯田さんは適任者と言ったのか、轟はまだちゃんとどんな人か見ていないが桧山が胸を張って適任者だとわかればもうこれで今回はおしまいになる。


 轟仁にかかわらずに決められる。


「じゃあ今回はその僕と飯田さんがいいって思えばOKってことですか」


「まあそうなる、注意してほしいのはいくら悪くて向いていないと思うような奴でもその基準にあってればそれでいいってことだな」


「なるほど」


「ある程度基準に乗っ取た人間をAIが判断してふるいにかけ最後の人選を人の眼で見て決めるってことだ、人は見かけによらない時があるからな、そのための俺たちってわけだ。正直、この人を飛ばせって決めてくれた方が精神的にも楽なんだが、俺たちに決めさせるところがひどいところだ」


「いいんですか飯田さん、そんなこと言って」


「いいだよ、このことは上も承知で俺たちにこの仕事を振ってる、だから給料が出るんだ」


 いい人。ただそれだけで選ぶ。そんなの完全な個人的な意見でしかない。曖昧で適当な基準だ。そんなの基準として成り立っていることすら怪しい。


「でも、いい人って難しいですね」


「まあな、大雑把な表現の仕方でしかない、でも少なくとも桧山はいいやつそうでよかった」


 私と飯田さんでそのまま桧山の音声を聞きながら19時まで過ごした。


 その日の桧山は18時に家に帰ってきて19時から夜ご飯のようだ。


「カチッ 今日は秋君の大好きなハンバーグよ」


「優梨愛は」


「今日は部活で遅くなるって、だから先に食べちゃいましょ」


「わかった、いただきまーす」


「どう、おいしい」


「すっごくおいしいよ」


「そうなの、よかったわね」


「今日学校で凄い面白い授業があったんだよ」


「何がったの」


「タケルとね一緒に実験したんだけど、あいつ失敗しちゃって」


 私たちは運転の練習のためホテルを後にした。


 昨日同様に2時間トラックの練習を行い、そのまま帰路に着いた。


 そんな毎日が2週間続いた。


 そのころには朝からトラックを運転しホテルまで行けるようになっていた。たまに危ないときはあるがそれなりに運転はできている。そう言った感じだ。


 助手席の飯田さんにサポートしてもらいながらだが着実にうまくなっていた。今日は一人でホテルに向かっていた。


 飯田さんの計らいで土日は休んでいたが、飯田さんに悪いと思い今週の日曜日は代わりに出ることにした。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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