5話 初出勤
次の日の朝、飯田さんに言って家の前ではなく、近くの駅前に来てもらいそこで集合した。
もちろん家族にばれないための偽装だ。
駅に着くとあのトラックが止まっており、私に気が付いた飯田さんがドアウィンドウを開けた。
「おはようございます、すみません、待たせてしまいましたか」
「ああおはようさん、いいや、別にいいよ、てか、お前さん相変わらずスーツかよ」
少し笑った飯田さんにこちらも笑顔で返しすぐさまトラックに乗り込む。
「昨日はよく眠れたか」
「いろいろありすぎて、よく寝れなかったです」
「まあ、今日から仕事だがゆっくり慣れていけばいい」
「わかりました、それで今日はどこに行くんですか」
「初出勤ってことだし、まずは仕事の説明のために事務所というか、あの昨日行った本社以外の職場というべきか」
「そんなところもあるんですね」
少し走って高速を降りると、人があまりいない田舎にたどり着く。地域名は聞いたことがあるが、確かに山際で観光名所もそこまでなく、たまに遠くに行くとき過ぎるようなそんな場所。
「ここですか、なんていうか田舎ですね」
「まあな、この仕事は都会だろうと田舎だろうとあまり関係ない部分があるしな、むしろ人が少ないほうが何かと都合がいい、ああでも別にここに毎日出勤しろってわけでもなんだ、初めにいろいろ教える上でここがちょうどよかったってわけだな」
「出勤はここじゃなくてもいいってどういう」
「決まってなんだ、別に残業も、休みも特にな、そこらへんも後で教えるよ」
田んぼと田んぼの間の道を抜けると少し木が生えており、そこでトラックを停車させる。
そこには小さな小屋がある、見たところ10畳あるかどうかぐらいの小さな小屋。
「ここですか」
「ああ、ここだ」
トラックを降り、飯田さんが小屋の扉の鍵を開け中に入っていく。
私もついていく形で中に入る。
中には年季の入った椅子が2つとその間に薄汚れたテーブルあり、奥には誇りを被った大きなプリンターが一台置いてありその横には黒色のバインダーファイルがずらりと並んでいた。全体的に小汚いこの小屋は昨日聞いた最先端の技術とはかけ離れすぎており、現実世界に引き戻されるような感覚になる。
「まあ座ってくれ」
案内のまま私が椅子に着くと椅子の間接からギーギー音が鳴る。
「汚いだろ、そんでもって古いだろ、でもな、あれだけ毎日最新の機械ってのを見てるとどうもこっちの方が落ち着く」
「はあ、そんなもんですかね」
飯田さんも席に着き、白紙のコピー用紙を1枚机の上に置いた。
「今から仕事について、いろいろ教える、準備はいいか」
私は無言でうなずくと、飯田さんは書きながら説明を始める。
「まず、給料についてだが、毎月125万円。そこから税金なりを差し引いて手取り120ってところだな」
「なんというか、多いのか少ないのかわかりませんね」
「そこは感覚によるな、でも何年やろうとも125万だ」
給料自体は普通の仕事に比べらた多いどころの話じゃない、年収で換算すると役員クラスの給料だ。しかし、仕事内容はほぼ人殺しといっても過言ではない。
「そもそも給料が出ている時点で喜んだ方がいい、やつらは簡単に俺たちをどうにでもできるぐらいの力は持ってる。それなのに雇用しようという姿勢が見えるだけ俺はかなりいい話と思うが」
「そうですね、だからと言って進んでやろうとは思いませんけど、あくまで死ぬぐらいならやるといった気持ちではあるんので」
「それぐらいで十分さ、大体の奴は最初そんな感じだし」
少し引っかかる感じがしたが話の流れを切るのはよくないと思い相槌を打つ。
「そんで、給料の振込先は前の会社と同じでいいか」
「え、まあいいですけど、そうだ、振込先はですね」
私はスマホに保存してあるメモを開こうとしたとき飯田さんに止められた。
「いい、いいよ別に、もうそこら辺の情報は全部あるらしい、あくまで前と同じでいいかどうか聞いてこいと言われてる。だから就職した際の細かい情報は何一ついらないみたいだ、マイナンバーとか車の保険の写しとか」
「個人情報全部知ってるってことですか」
「まあ、そういうことだ、ってことで前と同じところに振り込むぞ」
「わかりました、でも、その金額だったらばれないように一部は別のところに送ってほしいです。お願いできますか」
「全然かまわんぞ、後でその振込先と分ける金額教えてくれ、じゃあ、これで金の話は終わりだ、次に仕事の話をしよう」
思いのほかあっさりと話は進み本題に入る。
「はい、覚悟はできてます、だれを、、、その、、どの子を轢けばいいんですか」
「まあまあ落ち着け、そうポンポン轢きまくるってわけじゃない、昨日も言ったが対象は子供でもそのある程度決まってる。初めに上から大体2から3人選ばれた人材のリストが送られてくる、それで1か月間俺たちが選定し一人選ぶ、それでトラックで飛ばす」
「選ぶって何を判断基準に、それに私たちがそんな重要な判断をしていいんですか」
「判断基準は毎回指令がある、その中で一番合っているものを飛ばす、それに上もそんなに暇じゃない、ある程度絞って後はやっぱり人を選ぶのは人の目じゃないとだめだ、ただし、どれだけ悩んでも1か月、早くても遅くてもいけない」
てっきりたくさんの人を大量に轢くものだと思っていたから、1か月に1人それで月125万、全然悪い話じゃないかもしれない、少し怖いが、初めに想像していたよりも全然ましだ、やれるかもしれない
「おい、聞いてるか」
「はい、聞いてます、少しイメージと違ってちょっと安心したというか」
それを聞いた飯田さんは少しにやりとしたと思ったらいつもの顔に戻り話を続ける
「でだ、今朝、さっそくだが次の転生者のリストが出た」
そういうと飯田さんは机の上に2枚の紙を置いた。
「今回は2人の中から一人選ぶ、桧山秋定と轟仁だ」
紙には一見履歴書のようなものだった。
「履歴書ですか」
「まあそんなもんだな、ある程度の情報がここに載ってる」
急に張り詰める。現実味がより増した瞬間だった。
今から私はこの2人の中から選ぶのか、そして、選んだ方を、、、覚悟を決めろ。
「何してる手に取ってみてもいいぞ」
私は恐る恐る1枚手に取った。
配置や構成はよくある履歴書と大差なくちゃんと右上には証明写真が貼ってある。
桧山秋定 16歳 男 生年月日 ****年12月14日 父 定信 母 明子 妹 優梨愛 住所 *****
そのほかにも今までの学歴がすべて記載してある。
それに誰と友達で、今熱中していることまでこと細かく書いてあり、中には親の年収から、仕草の癖まで本人も知らないようなことまでだ。
「こいつのも見るか」
そう言って渡された轟仁のファイルを見たが同様であった。
「今から選ぶんですね、この二人から」
「そうだ、1か月、よろしくな、ってそんな嫌そうな顔するな、まだ1か月、30日もあるんだぞ」
「わかってます、でも、こんな写真まで見てしまうと、どうしても、気が引けて」
「まあ、時間はあるしゆっくりいこう、ちゃんとサポートもする」
「ありがとうございます」
「あとこれ、ほい」
そういうと飯田さんはズボンのポケットから何か取り出す。
私は興味深く見ていると机の上を滑らし目の前にくる
「これは、私の免許証ですか」
「ああ、よく見てみろ」
免許証をよく見ると資格のところに大型の文字が入っている
「え、なんで」
「見ればわかるだろ、発行したこれからはこれ使え」
「偽造免許ですか」
「まあそんなところだ、別にばれたところで国は俺たちのことを知ってるから罪にはならないがな」
昨日、聞きはしなかったが、やはりそうなのか、国はこのことについて知っているのか。
「そうなんですね、にしてもあまりもの早いと言いますか準備がよすぎるような」
「さあ、なんでこんなにも早いんだろうな、俺にもよくわからん」
「そうですか、これで免許取りに行かなくてよくなったのはありがたいですけど、私、運転できませんよ」
「知ってるよそんなこと、大変だと思うがこれから1か月飛ばすやつを決めるまでの間、夜中練習するぞ」
「なるほど、でも、トラック自体が自動運転だとか何かサポートする機械がついてるとかではないんですね」
「確かにな、異世界飛ばす技術あるならできそうだが、すまんが覚えてくれ」
「わかりました」
そううまい話もないか。
「あぁ、それと運転席のスイッチ関係も覚えないといけないから普通の運転できるようになる以上に大変だから覚悟しとけよ。それと、大体の企業は入社して初日は企業の説明だったり見学だったりだと思うが、そんなのないしここでずっと話しててもあんまり意味ないから、行くか、見に」
「見にってまさか」
「あぁ、できるだけ早く見といたほうがいい、今回の異世界転生候補者を」
最後まで読んでいただきありがとうございます。