2話 異世界トラック
何故いない。
かなり飛ばされたのかと思い10メートル先を見渡すがそれらしき影はない。見間違いか、いや音はしたし、そんなはずはない。
少年の体が捻じ曲がるのを確かに見たじゃないか。まさかトラックの下敷きになってるかもしれない。
探せ探せ。
そうだ救急車。私は急ぎ手に持っていたスマートフォンを見るが電源が落ちていた。
「なんでこんな時に」
私が焦りに焦っているときにガチャっと音がする。音のなる方を見ると先ほど少年を轢いたトラックのドアが開いた。
中からゆっくりとグレーのポロシャツに短パンの自分より少し年が上であろうおじさんが降りてくる。
「あ、クソ、設定ミスっちまった、これはやっちまったな」
何やらブツブツ言っているが、この人も事故の衝撃でけがをしているかもしれない。俺は駆けよる。
「急、救急車まだ呼べてないんですけど、まだ読んでないですよね、僕呼びますから落ちついてください」
私は声を震わせながらそう伝えた。
見た僕でさえこんな状態なんだ、引いた運転手はもっと動揺してるだろう。
しかし、トラックの運転手は落ち着いている。冷静というより何も起きていなかったかのような。
「何してるんですか、あ、もう呼んであるんですね」
「はあ、めんどくさいことになったな、しょうがない」
落ち着いた様子というよりこの状態にひどくけだるそうに見えた。明らかに状況とリアクションそして、自分の心境とのギャップに唖然する。
「まあ、落ち着け、こうなったら話すしかなくなっちまったからな」
「いや、待ってください。さっきの男の子が」
何を悠長にしているんだ、一刻を争う事態なんだぞ。
俺は運転手の言うことを聞かずにトラックの下を覗こうと近寄ると、運転手が俺の両肩をがっしりつかみ少しイラついた様子だった。
「だから、落ち着け、もうあいつはこの世界にはいない。そして、何があったかしっかり説明してやるから、落ち着け」
その瞳は、先ほどまでのけだるそうなものとは違いまっすぐで真剣さが伝わってきた。
「説明って、何を言ってるんですか」
「まず、これを見ろ」
そう言ってトラックの前方まで連れられ運転手がフロント部分を指さす。
「傷、一つもないだろ、普通4トントラックが人を引いた場合、衝撃で、バンパーやフロントガラスに傷が付くものだ、いくらトラックが頑丈にできていたとしてもな」
なにをこの人は言っているんだ、事故が無かったって言いたいのか。
「じゃあ、あれは見間違いだったんですか」
最近、疲れているから何か幻覚のような、見間違いとしてしまったのか。
「いや、俺は引いたよ間違いなく。お前さんの目は正しい」
今ちょうどこの混乱した状態から納得して抜け出せる糸口を自らいとも簡単に否定する、私は余計にわからなくなる。
「じゃあ、なんで轢いたはずのあの少年はいなんですか」
「まあ混乱するのもわからんでもないが、ちゃんと一から説明してやる。落ち着け」
そう言って両肩とポンポンとたたかれ自然と力んでいたのをほぐされる。なにが、なんだかわからないがこの人は何か知っている。そしてそれを話そうとしている。
「でも、警察を呼ばないと」
「まあこい、あそこでいいな、行くぞ」
無理やりおじさんに引っ張られ先ほどまで座っていたベンチまで連れてこられる。
ベンチにまた腰掛けるとお尻に冷たさを感じ少し身震いをする。運転手も横に座り少し寒そうにしている。
「まあ、まずは落ち着け、全部話すから、な、まずは自己紹介からだ、俺の名前は飯田清志おまえさんは」
「僕の名前は木道 浩です」
心拍数が上がったまま私は答えた。
「そうか、まあ初めに俺もお前さんにいろいろ聞きたいこともある」
「なんです、ほんとに見たんですよ、しっかりこの目で」
「わかってるって、そんなことじゃない、そもそも、なんでお前さんここにいた。それにその恰好、、、仕事はいいのか」
私は焦っていたこともあり簡潔にここに来た経緯を話した。
「そういうことか、俺もお前さんもついてないな、でもちょうどいいっちゃいいな」
「それで、教えてください、さっきの事故は何だったのか」
少し、もったいぶってというか言いずらいのか、なかなかすっと言わないで考えながら口を開く。
「お前さんこれを聞いたらもう引けねえ、覚悟しろよ」
「え、何言ってるんですか」
「まあそうなるよな、これから俺が話す内容を聞いたらお前さんはこの質問に答えを出さないといけない。だから耳かっぽじってよく聞いてくれ。」
どういう意味だ。質問、答え、どうであれ話を聞かないとわからないことだらけだ。
「あぁ、一応言っておくが聞かない、、はなしな、あの現場を見た瞬間にお前さんはこの選択に行き着く運命だ。聞かないは死だと思え」
「知って何言ってるんですか、私はたださっきの事故について聞きたいんです」
「わかってる、でもしっかり聞けよ」
そう言って飯田清志は話し始める。
「まず、簡潔に答えを教えよう、そっちのほうがお前さんも理解が早いだろうからな。」
散々今まで起きてきたこを一番聞きたかったことが今聞けるのだから。あの見たものは何だったのか。
「あの今見た交通事故、あれは異世界転生させた瞬間。さっきの少年、須藤蓮人は俺がトラックでぶつかることで異世界に行ってもらった」
ん?何を言ってるんだ、異世界転生?
「あんまり知らねえだろうな俺もこの仕事着くまでさっぱりだったよ。なんて言えばいいんだ、要はいくつかある別世界に送り込んだ。でだ、俺のトラックは見た目はただのトラックだが、全世界の技術の塊。世界でも指の数ほどしかない代物。こいつで人にぶつかれば狙った異世界に飛ばすことができる。 お前さんが見たのはその現場ってことだな。これでわかったか」
飛ばす。異世界に。こことは違う世界。そして、それを可能とするトラック。いやまて、あり得ない。
「そんな現実離れした話、信じるとでも、冗談はやめてください僕は真実を知りたいんです」
「だからほんとなんだって」
僕は、飯田さんの目を見て訴える。他人の目を見て話したのは何年ぶりだろうか、おそらくこれはあの少年の命にかかわることで、一人の親として私は真剣だった。
「そんな魔法みたいなことできるわけがない、おちょくらないでください」
「魔法って、詳しくは俺も知らねえけど、このトラックは科学の結晶だよ」
「ありえない。そんな地球上ならまだしも別の世界にだなんて」
飯田さんは少し考えてから口を開く。
「お前さんそのスマートフォンどうやって操作する」
「指でタッチして操作しますが、それが何ですか」
「なんで指で反応する、なんでそんなに薄いのにたくさんの機能が付いている、なんでだ答えろ」
「もともと私はエンジニアをしているんですよ、ある程度なら知っていますし、それにこの話とトラック何が関係あるんですか」
「例えばこのスマートフォンが30年、いや20年前にあったとしよう、それを見た人はどう思う」
20年前、カラーテレビが主流になり、家庭用ゲームも増加していったあの時。その時はせいぜい電話ボックス。その時にスマートフォンを見たら当時の人は何を思うか。
「魔法ですかね」
「だろ、このトラックもれっきとした科学の結晶なんだよ。まだ世に出てないだけのな」
あり得るのか、いや、現実がそれを物語っているとでもいうのか。
私は一旦、無理やり非現実的なものを飲み込むことにした。
だが、まだ気になることはある。
「仮に、仮に本当だとします。なんでその、異世界とやらに飛ばす必要があるんですか」
「仮にって、本当だっていてるだろ、なぜ異世界に送り込むのか、そして送ったところでこちらにメリットがあるのか。知ってるが俺が言うことじゃない」
「そんな言い訳通用すると思ってるんですか」
「大体の仕事がそうだろ、徐々に全体を知っていく、初めから全部知ってる奴なんていない、お前さんも仕事してるとき最初はそうだったんじゃないか」
「それは」
そういわれ何も言い返せなかった。反論もない。
そうか、、、待て、仕事?
「仕事ってのは」
「そう、本題はここから、お前さんはこの現場を見てしまった。さっきも言ったがこれは極秘。知られたらまずいものなんだよ。お前さんは選ばなくちゃいけない。ここで消えるか、この異世界転生トラック運転手として一生働くか。まあ仕事内容は俺がしっかり教えてやるから安心しろ。で、どうする」
消えるかって、つまり殺されるってことか、さっき極秘といっていたし、仮にこの話が本当ならありえなくもない、そんな聞いたことのない事実を知ってしまったのだから。
じゃあ、答えは一択みたいなものじゃないか。
「僕には、家族がいるんです。こんなわけもわからに状態で、死ぬなんて選びませんよ」
「それはよかった。俺もこんなこと初めてだったからな。少し段取りが悪くて済まない、待っててくれ今連絡する」
そう言って飯田さんはベンチを後にしてトラックに戻る。
飯田さんがさっき言っていた話が本当かどうかは確証が無いが実際に少年がいないという事実が無理やり裏付けている。
訳も分からないまま、その場返事で働くと言ったのは正解だったのだろうか、いや、あってるに違いない。だってもし、やらないと言ったらここでその異世界とやらに自分が飛ばされていたのかもしれなんだから。
そうだ、間違ってない。勢いだったのは確かだけどこれは間違ってない。
それに、まだ何をするのか教えてもらってないしな、給料もどのくらいかわからないし、その後に後悔したって遅くないだろう。
自問自答を繰り返していると飯田さんはこちらに戻ってくる。
「で、どうでしたか」
「大丈夫だ、安心しろ。一度顔を見たいから事務所まで来いだってよ」
「ああよかった」
おそらくここでダメだったらここで消されていたかもしれない。まずはよかった。
「お前さん、今日は時間あるんだよな」
「はい、今日だけってわけでもなくて毎日時間はありますけど」
「そうか、じゃあ事務所行く前にまず飯でも行こうや」
私は「わかりました」と返事し公園のベンチを後にする。飯田さんの後を追い停めてあるあのトラックの前まで来る。
その異世界に飛ばすトラックをよく見る。 周りを見渡すがどこをどう見てもよくあるトラックだ。
何の変哲もない、ごく普通のトラックだ。しかし、近くでこうもまじまじと見るとやはり大きい。
4トントラックは迫力が違う。こんなものに人がぶつかったらひとたまりもないであろう。
それに歩いていて突如現れたこの怪物が自分目掛けて猪突猛進しそのぶつかる瞬間の恐怖ときたら想像を絶するだろう。
「中には何を積んでるんですか、ああ飛ばすのが目的なら何も積んでないのか」
「いいや、これでも小さくして小さくしてようやく収まったって感じだ、このトラックの積み荷の部分にはスーパーコンピューターが入ってる、このサイズが今の限界」
私はもう一度トラック全体を見渡した。
「技術の結晶ですか」
「外から見ててもつまらねえから早く乗れ、中を見たら驚くぞ」
飯田さんはほくそ笑むと運転席に乗り込んだ。私も後を追うように助手席に乗り込む。
トラックの運転席はほかの車より高く、手すりをつかんで登るようにしないといけない。運転席の中は覗き込まないとよく見えなく、何ならほとんど下からは中は見えないようになっている。
車内に入り驚愕した。
中にはまるで飛行機のコックピット張りにスイッチの数々、レバーは8つあり天井にも何個かスイッチがある。
「凄いだろ、俺も初めて見た時はひっくり返った」
あまりにも衝撃的な光景を目にし言葉を失っている私を見て飯田さんはゲラゲラ笑っている。
「そこまで、驚くなよ、面白いなお前さんは、少しはこの話信じてくれたか」
少しづつ現実味が増してくるこの異世界トラックを私はどう受け止めればいいのかいまだにわからないでいた。
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