憧れの勇者パーティーからの追放
「勇者様! アークドラゴンが召喚された影響で先行部隊が劣勢です。移動速度アップのバフをかけますから、加勢しにいきましょう。」
勇者スペルビアは私を蹴り飛ばした。
「俺に意見するなと何度言えばわかるんだ? 待機だ、待機! 魔王を倒せるのは勇者の聖剣だけなんだぞ? いくらでも替えがきく雑兵共を助けるために、俺が危険な目に合わないといけないんだぁ!?」
勇者は私を何度も蹴り続ける。
「誰のおかげで、お前みたいなクソチビメスガキが勇者パーティーにいられると思っているんだ!ろくに戦うことすら出来ないお前がだぞ?」
「私はバッファーだから戦えないです……、それに軍師も、アイテム管理も、情報伝達もやらされて戦う余裕なんて……」
「俺が優遇してやっているからだろうが!お前の存在価値は多少のバフがかけられるのと、戦場を見渡せて各部隊のステータスが確認できる【千里鑑定眼】のレアスキルを持っているってだけだ。本当なら荷物持ちにすらなれねーんだぞ?」
ドンドン
グルゥウウ
勇者による理不尽な暴行は、ドラゴンの足音によって中断された。【千里鑑定眼】のスキルを使って、前線がいたと思わしき場所を確認してみたが、もう誰も残っていなかった。
いや、今にも事切れそうな生命反応だけど、誰かがこちらに向かって来ている……
「助けてくれ! 勇者様!! 前線は全滅した! 奴らはすぐそこまで」
助けを求めてきた人物の最後の言葉は、ドラゴンの咆哮でかき消された。同時に、天に届くような巨大な火柱が出現した。自分だけが助かりたい一心で、私たちの元までの道案内をしてしまった愚か者を焼き尽くす、偉大な火の柱だ。
「ユニークスキル:【ラストスタンド】!! 10秒間どんな攻撃を受けてもHPが1残るバフをかけます!! これで戦略を練り直すまで耐えてください!」
勇者の取り巻きたちは悲しげな声でこちらに不満を漏らす。
「そんなハズレスキルでどうしろと言うんだよ! 一撃で体力を吹き飛ばされるような相手なら、10秒あっても変わらねーよ!!」
あなたたちが弱いだけじゃないか! 私を育ててくれたチココさんは素晴らしいスキルだと褒めてくれた。彼が率いる大陸最強の騎士団でも通用するって言ってくれたのに、なんであなたたちは評価してくれないの!?
だけど今は、取り巻きたちの言う通りだ。ほんの一瞬だけアークドラゴンの歩みを止められるだけで有効打は与えられない。
「ココアちゃん! 【千里鑑定眼】で相手のステータスを確認するんじゃなかったの?」
懐かしい声が聞こえたような気がするが、今はそんなことを気にしている場合ではない。精神を落ち着かせて、アークドラゴンのステータスを確認した。
「ムウナ・チコ」
情報防御魔法【ブラックアウトカーテンLV980】の妨害で、【千里鑑定眼LV6】の使用が中断されました。
「チココ・チコ」
情報防御魔法【ブラックアウトカーテンLV870】の妨害で、【千里鑑定眼LV6】の使用が中断されました。
「アークドラゴン」
LV190 最上級職「アークドラゴン」
HP96000
攻撃力86***
防御魔法【ブラックアウトカーテンLV43】の妨害で、【千里鑑定眼LV6】の使用が中断されました。
「勇者様! アークドラゴンのレベルは190の最上級職!ステータスは確認出来ません。また、ドラゴンの背中に2つの生命反応を確認! こちらはレベルすら確認出来ません!」
スペルビアは呆れるようにため息をつきながら話す。
「お前は最後まで使えなかったな? 勇者の俺でもLV23だぞ? いくらドラゴンといえどLV190もあるわけないだろ」
自分の魔法の真偽を確かめるために、勇者のステータスを表示してみた。
「スペルビア」
LV23 上級職「勇者」
防御魔法【ブラックアウトカーテンLV2】により妨害されましたが、【千里鑑定眼LV6】に内包された【セキュリティクラックLV6】を使用し突破しました。
HP86
攻撃力38
魔力4
技 32
速さ28
防御力 32
勇者のステータスが正常に表示され、自身の魔法の正当性が証明されてしまった。敵との圧倒的なステータス格差が現実のものだと思い知らされる。
「クソココア! 一旦逃げて体制を立て直す!とっとと移動速度アップのバフをかけろ!」
「ステータスが違いすぎます! 移動速度アップでも逃げ切れません!」
「はぁ?」
いつも以上に冷たい視線を送る勇者を奮いたたせるべく、嫌いな根性論を並べてみる。
「勇者様戦いましょう! 勇者様の聖剣ならきっと勝てるはず!!」
「いや、ココア。確実に逃げ切る方法を思いついた。今使える全てのバフを俺と精鋭部隊にかけてくれ。誰かがあのドラゴンの足止めをしないといけない」
「え?……」
私はここ1年、必死に勇者に仕えてきた。その努力がついに結ばれたのだ。勇者様が私を逃がすために戦ってくださる……
「ココア、次は持っている全てのアイテムを俺のアイテムボックスに入れてくれ、少しでも荷物を軽くするんだ」
「はい! 入れ終わりました!」
勇者は不気味な笑みを浮かべながら近づいてくる。
「ココア! 勇者パーティーにおける最後の命令を与える」
私は勇者に切り捨てられた。
「ろくに攻撃もできないなら、せめて餌となって時間を稼げ。バフをかけるしか能がないクソバッファー!あはは!!」
勇者たちの高笑いと、餌を目の前にしたドラゴンの鳴き声の中、私の心は絶望と怒りに支配されていた。
ピローン!
条件を満たしましたので、ユニークスキル【ラストスタンド】が【虐殺の火種】に変化しました。
条件:自分よりレベルが高いメンバーから追放され、他のパーティメンバーがいない状態になる。
【虐殺の火種】
5秒をかけて対象の体力が1になるようにダメージを発生させるデバフを与える。
さらに対象から範囲20m以内の敵に、対象に与えたダメージと同等の固定ダメージを与えるデバフを与える。
今更ユニークスキルが変わったところで……
もう何もすることができない。
私に残された時間はほんのわずか、その時間を利用して、今までの人生を思い出すことにした。
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