『火曜日』
あたしこと七曜日々は多重人格者である。
ってこれ多分昨日月野のやつが言ってるわね。
あたしは火曜日担当の火野よ。よろしくしてあげてもいいわ。
あたし達の人格は0時を回った瞬間に切り替わる。意識の有無に関わらず。
原理は謎。わかってたら苦労しないっての。
前にあたしが夜ふかししようとしたら途中で水野と変わって水野にめっちゃキレられた。11時までには寝ろってあんたはあたしの母親かっての。
あたしの朝は寝苦しさから始まる。
暑いから。
あたしの前日つまり月野のせい。
月野はボタンで止めるタイプのパジャマを好んで着ていて何故か年中長袖。
しかもボタンも律儀に上まで止めるから暑苦しくてしょうがない。
残念なことにもう慣れた。
言っても聞かないし。あたしもだけど。
まあおかげで早めに起きてシャワー浴びれるからいいんだけどさ。
軽く汗を流しそのまま制服に着替えドライヤーをかける。
あたしはデフォルメされた炎がついたヘアゴムでツインテール。
もともと髪が長いこともあって子供っぽさがないのがいい。
髪をまとめ上げ今度は鏡に向かいメイクをする。
ちなみにこのメイク道具使ってるのはあたしと金野ぐらい。
月野は興味ないし水野は規則規則うるさいし木野はめんどくさがるし土野はなんかメイクなくても可愛いから良し。日野も運動するからメイクはしない。
そういった理由からこのメイク道具はあたしと金野によって管理されている。
もっと可愛くなりたいとかないのか、と聞いたらメイクしなくても可愛いからいいと返された。メイクしなくても可愛いのは土野だけだから。
ま、みんな同じ顔なんだけどね。全部七曜日々だし。
最後に火曜日の腕章を腕に巻いて登校。
あたしも月野と同じで朝は食べない。
あまりお腹すかないのよね。
「おはよう一花」
「おはー。ひーちゃん」
あたしの登校時間にはコイツ、館脇一花がついてくる。
一花はこの登校時間中にあたしの知らないあたし達のことを話してくれる。
「昨日はね〜。つっきーとアイス食べに行ったんだ〜。昨日も笑ってくれなかったけど楽しそうだったよ〜」
次こそは絶対笑わせてやる。と意気込んでいる彼女を横目に今日の予定を考える。
それと一花。月野は楽しかったってちゃんと思ってるわよ。
声には出さない。こういうのはあたしのキャラじゃないっての。
「今日はユミんとこ行くけど一花はどうする?」
「んー見に行くだけ行こっかな」
よし決定。
ユミこと宮川由美子。
あたしの友達で六葉ダンス部のエース。
火曜日限定であたしも入部してる。
ダンス部は第二火曜日が休み。
月3回だけしか顔を出せないから半幽霊部員みたいな扱い。
まあ部活に入ってるのはあたしと金野と日野だけなんだけどさ。
◇◇◇◇
あー授業つまんない。
英語以外はどうしても眠くなっちゃうのよね。
実際今日の授業大半寝た。
「一花ごめんねーノート写させてもらって」
「んー全然ダイジョーブ。つっきーとかみっちゃんには教えてもらっているし」
大半寝たから一花にノートを写させてもらっている。
あたしは別にやる気はないんだけどコレやっておかないと水野がうるさい。
あいつガリ勉だからさ、ちょっぴり不良なあたしとは気が合わないのよね。
あーあいつのこと考えるだけでイライラしてきた。
ただでさえ口うるさいのにあたしの次だなんて。
あたしの次が土野だったら良かったのに。
あの子かわいいし。
「ひーちゃんはつちのんのことだ~い好きだよねぇ」
「土野は可愛い。可愛いは正義」
どうしてあの子はあんなに可愛いのかしら。
全く同じ存在なのにもう雰囲気から違うのよね。あの木野とは大違いなのよ。
「えーモクちゃんもかわいーよー」
一花と木野はゆるふわ同盟とか言う訳のわからない同盟を作っている。
のんびりした口調や仕草が割とそっくりで趣味が合うらしい。
わたしにはわからないね。
強いて言うなら木野が集めてるのを土野が装備すれば完成だと思うんだけど。
「やほーユミ。部活きたよ」
「よーひのひーにいっちー」
ユミはあたしのことを火野日々、略してひのひーって呼んでくる。
あたしの周りにはセンスのいいヤツがいないのか。
「一花は見学。今日は思いっきり踊るわよ」
「先週なかったもんね」
ダンスを踊っているとその瞬間だけ主役になった気分になれる。
最近流行りの曲に合わせてフリーに踊る。
日野が運動好きなのも相まって身体は引き締まっている。
ダンスも週一でしか踊れないのにプロ並みの技量。
母さんによると最近土野と日野が拙いながらもダンスを始めたらしい。
え?なにそれみたい。
いや危機感を抱いたほうがいいのか?
あたしのアイデンティティが⁉
「いやーその汗ばんだ肢体いいですわ〜」
「寄るな変態」
思考中断。
宮川由美子は汗フェチなのだ。
女の子限定で。
踊っていたせいもあるのか息を切らしながら迫ってくる姿は放送禁止レベル。
女の子がそんな顔すんじゃないわよ。通報するわよ。
「そこでぱっとスマホが出てくるあたりひのひーらしい」
「そりゃさっきまで動画撮ってたし」
ユミとあたしは二人でたまにSNSにダンス動画を投稿している。
グループ名はファイヤーアロー。
火とユミでファイヤーアロー。
ダサいんだよな……。
コメントにちょいちょい曜日のアカウント名が混ざっているからもしかしたらあたし達の誰かが見ているのかもしれない。
「とりあえず、スマホ下ろそうか」
おっと気づかぬうちに110番を押していた。
通話ボタンを押す前に止まってよかった。
◇◇◇◇
「うわー汗でベチョベチョ……」
部活を終え、帰路。
下校時間ギリギリまで踊っていたからベットリしてる。
ユミからは即逃げた。
このあとは帰ってお風呂入ってご飯食べて寝るだけ。
宿題とかは明日やる。水野が。
「早く帰ろっと」
七曜日々は多重人格者である。
しかし火野日々は火曜日にしか存在できない。
それでも、毎日を楽しく全力で過ごしている。
明日も寝苦しくて起きるのはやだなぁ。
明日は水曜日。
あたしの明日は火曜日。




