『月曜日』
わたしこと七曜日々は多重人格者である。
それもただの多重人格ではない。7人。7人いるのだ。人格が。
そしてわたし達はそれぞれ決まった曜日にしか表に出てこれない。
改めてはじめましてわたしは七曜日々の月曜日担当人格。月野日々。
名前は曜日ごとに識別できたほうがいいと名字の部分に曜日を入れたもの。
だからわたしは他の曜日から月野と呼ばれる。
わたしという存在は1人だけど7人。それぞれにプライベートがある。
部屋は1つだがロッカーが7つあり曜日をモチーフとしたステッカーが貼られている。わたしはもちろん月。
ロッカーに入っていないものは7人共用。ここには服や本など7人それぞれが色んなものを置いている。
それはともかく。
今日は月曜日。わたしの日。と言ってもやることは決まっている。
共用スペースに掛かっているブレザーを着る。
私立六葉学園の制服。
ブレザーを着込むと自分のロッカーから腕章を取り出す。
風紀委員とかがつけているようなものでそこには月曜日と書いてある。
これは木曜日担当の木野のアイデアだ。全員対応する曜日の腕章を持っている。
デフォルメされた月の模様も入っていてお気に入りのアイテムとなっている。
土曜日担当の土野が作ってくれた。
「いってきます」
「月野ちゃん行ってらっしゃい」
わたしは朝食を取らない派なので食べずに母親に挨拶してから玄関へ。
わたし達の母、七曜暦。こんな七重人格なわたし達を不気味とも思わず育ててくれてそれぞれの人格を理解してくれるわたし達の大切な人。
高校を出たら大学行ってバイトして親孝行をしようとわたし達は話し合っている。
閑話休題
通常の登校時間より早く出てわたしはコンビニに向かう。
月曜日しかないわたしにとってこれは日課だ。
惣菜パンと今週の分の週刊漫画誌を買う。
毎週月曜日発売のそれは一番にわたしが読める。
月曜日の特権だ。労力に見合った報酬だね。
まだ誰も居ない教室につくとノートを取り出し自習をする。
わたし達は同じ身体を共有しているので身体には学んだという情報自体はあるがそれが他の曜日だった場合活用できないことが多い。
例えばわたしが二次関数を習ったとしてそれを他の曜日でできるかはまた別ということだ。
だからわたしは他の曜日がとったノートを使い復習という形で覚える。ちなみにこの作業をやっているのはわたしのほか水金土。水野と金野と土野の4人。
予め先週4日分予習したかいあってなんとか人が集まってくる前に終わる。
「おはー。つっきー」
「おはよう。一花」
机の上の勉強道具を片付けているとクラスメイトである館脇一花が声をかけてくる。
彼女はわたし達7人全員の友達で曜日ごとにあだ名呼びしてくれる。
一応この学校ではわたし達の性質は話してある。
とはいえ曜日ごとに変わる性格のせいで人付き合いが難しい。
だからこそわたしの名字である七曜呼びせずに月野のほうで呼んでくれるものは少ない。下の名前、7人共通の日々で呼ばれることが多い。
ともかくそういう事情もあって全員区別して呼んでいるのは彼女くらい。
「つっきー勉強今日もいけそう?」
「大丈夫。さっきまで自習してたから」
「さっすがー。真面目ちゃん」
「そうでもしないとついてけないし」
「成績上位者なのに」
「自習したからこそよ」
自習と水野と土野がまとめてくれるノートのおかげだ。火野と木野と金野と日野には期待しない。
7人中4人が頭悪いってどうよ。
まあ、それでも火野は英語、木野は美術、金野は技術、日野は体育に特化してる。わたしは国語、水野は数学理科、土野は歴史。見事にまばらなのだ。
わたしと水野と土野はそれが得意ってだけであって他の科目ができないわけじゃないけどね。
「つっきーができないのは英語だけだもんねぇ」
「むぅ」
できなくはないが英語が苦手。
文字を読むのは好きだけど英語になると日本語に訳すので頭がいっぱいになっちゃうんだよね。
火野は感覚派だから英語を英語として理解してるから日本語に直さないとか言ってるし。同じ身体でもこうも違うのか。英語以外はほとんど勝ってるけど。
「つっきーは笑顔が足りないよー」
「むぬぅ」
ほっぺをグニグニされる。
感情は最大限出しているつもりだが一花によると七人格の中で一番表情筋が死んでいるらしい。
解せぬ。同じ身体だから筋肉の作りも同じなのに。
まあ多分日野の反動だろう。
日野は底なしに明るくて笑顔を絶やさないから。
笑顔過ぎて筋肉痛なのかもしれない。
あれ?そう考えると顔の節々がイタタタ……
「わたしの分も日野が笑ってくれるからいい」
「まあつっきーはにっちゃんと違ってくーるびゅーてぃーだもんね」
言葉の端に悪意を察知。
一応言っておくと、にっちゃんは日野のこと。
むぬぅ……笑顔のつもりなんだけどな。
「つっきーは月曜日辛いの?」
ぐでーっと机に突っ伏しながら一花が問う。
どうやら笑わないのが辛いからではないのかと問われる。
一花は火野と木野と金野を足して3で割ったようなのんびりな性格でクラスの癒し的存在。
わたしにとって月曜日は月曜日しかない。
わたしの明日は月曜日だし昨日も月曜日。
でも一花たち普通の人にとっては昨日は日曜日で休日だ。
「辛くないよ」
「休み明けってさほら」
「あー昨日は日野がはっちゃけてたみたいでね」
「あ……ごめん」
人格はその曜日にしか存在できない。
だからわたしには月曜日過ごした分しか記憶がない。
だからわたしは昨日の日野の様子は記憶にはない。
「いいの謝らないで」
「……わかったよ。今日放課後遊びに行こー」
やっぱり一花は気配り上手でいい子だ。
のんびりとした普段の様子からは察することの出来ないほどの直感の鋭さに人の心情の変化に敏感なのだ。
なんでもない風にわたしを気遣ってくれる。
「……本当にわたしには勿体ないくらいだ」
「ん?何か言った?」
「いいや何も」
これはわたしの中でもトップシークレット。
わたしが……多分わたし達が全員抱えているかもしれない闇なのだ。
そう簡単に他人に見せるものではない。
こういうときこの無表情の鉄仮面は役に立つ。
すぐ顔にでる水野とかは欲しがる。
意識を切り替えよう。
これはわたしの闇。わたし達の闇。
わたし達以外にはわかるまい。
「月曜日の日々ちゃ~ん!ここわかんないんだけど教えて〜!」
「いいよー」
別にこんな日々も決して嫌いではないのだ。
頼られるし、友達もいるし、わたしには居場所がある。
いつものように授業を受けいつものように一花達と遊びいつものように勉強しいつものように食事をしていつものように寝る。
こんな月曜日でもわたしは幸せです。
◇◇◇◇◇
七曜日々は多重人格者である。
でも月野日々は月曜日にしか居場所はない。
わたしには月曜日しかないから今日できることをしっかりと。
わたしは月曜日が全てだから。
明日は火曜日。わたしの明日は月曜日。