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俺が知っている世界は、こんな幻想物語じゃない  作者: オレンジ
一章 世界に蔓延るモンスターと共に
8/23

三話 命懸けなんて、やらないならそれに越したことはない ②

後編です。

「ウバアアアアア!!」


 思考の海に足を踏み入れかけたが、剛毛猿の言葉にもならぬ雄叫びに呼び戻される。


 何度聞けばいいんだ。


 走りすぎて、集中力が散漫になってきている。


 闇雲に逃げてきたが、このまま走り続けて逃げきれるとも思えない。


 チラッと振り向けば、怒号をよだれと共に撒き散らしてナックルウォークで追い掛けてくる剛毛猿。


 一向に振り切れず、それどころか時折石をかっさらい投げつけてくる。何もかも避けられる訳もなく体の至るところ腫れて痣が増えてるだろう。致命的で無いだけましだ。


 もう、じり貧。ここまで逃げ延びただけでも誰かに誉めて貰いたい。一週間ほど追い駆けっこした成果かもしれない。このぐらいやれなきゃ泣くに泣けない。速く動ける訳ではなく。殴るのも蹴るのも捌くのも人並みなのだから。


 どれだけ、人の数倍の膂力に丈夫さを望んでいるか。


 地面から盛り上がった大きな木の根。飛び越える気力なく踏み越え──


「なっ!?」


 滑る。


 このままなら転ぶ。


「くっ!」


 つんのめる体をさらに一歩踏み込んで無理やり起こす。


 だが、足に痛みが走る。木の根で捻ったか。


 もちろん、止まる訳にはいかず歯を食い縛り足は動かし続ける。


「ウボオッ!」


 威嚇の唸り声に肝が冷える。チラと視線を向け、慌てて態勢を極限まで低くする。


 剛毛猿が石の礫を降り投げていた。


「うぐっ!?」


 肩が抜ける。


 そう思うほどの衝撃に襲われ、態勢が崩れ足がもつれる。


 止まれば死ぬ。あんな思いはもう嫌だ。


 近づく地面を無理やり押しやり、まだだと踏み出し駆ける。


 肩が軋み熱を発し、思わず直剣の柄を強く握って、苦痛に顔も歪む。僅かにかすっただけでこの痛みかと、直撃すればどうなるかと想像もしたくない。


「ウバアア! ウバアア!」


 くそ、くそと仕留め損なった悔しさに吠えている声が背中を打つ。


 剛毛猿も必死だ。殺されたくないのが良くわかる。


 俺と同じだ。


 それはそうだ。死ぬのは嫌だ。死ぬのは怖い。


 だから、必死こいて足を動かしている。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ。


 死にたくない。


 死にたくない。


 死にたくない。


 恐怖に痛みに何もかもから、逃げるために走って、走って、走って、走る。


 だが、振り向けば手を伸ばして今にも俺を掴み潰さんとする。


 いつまでも、いつまでも追い掛けてきて、走って、走って、走って──。


 ──走り抜いて、折り返し、剛毛猿を見据え駆ける。


 結果、俺はスキルがあっても逃げることもできない半端者で、でも死にたくもないから、殺すしかないじゃないか。


 視線が合う。


「ウボオッ!!」


 石礫が飛んでくる。


 止まれない。俺の武器はこの勢いに任せるしかない。


 でも、避けられない。せめて、最小限に上体落として頭を腕で庇って真っ直ぐに。


「ぐうっ」


 剛毛猿も此方へ。


 両腕を振りかぶり、宙を駆ける。


 脳裏に過るあらゆる失敗を痛みを振り払い直剣を握る力を入れ前に。


 狙いは目。


 その一点、他に致命的な一撃を与えられる可能性が有るところなど思いつかない。


 迫る開いた瞳孔以外見ない。抜き身の直剣を勢いをのせ突き出す。


 身体が宙を舞った。きっと車に跳ねられたらこうなるんだろうな。


「かはっ!?」


 全身を草木生い茂る地面に打ち付け肺から全ての空気が抜けた。身体中が痛い、額がぬるっとする血が出てるのか。


 でも、感覚がある。生きてる。


 それに両手には直剣が瞳を潰し、肉を抉る感覚が残滓のようにまだある。


「こういう時、青空が広がってるもんだろうよ」


 仰向けに寝転がる俺の視界には枝葉だらけ、隙間から覗く空も曇り空だ。さらに今濃く陰る。


 大きな平手。


 俺の顔など簡単に覆い潰すほど大きな平手が顔面に迫る。直感で剛毛猿のものだとわかった。


 死んだな。

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