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俺が知っている世界は、こんな幻想物語じゃない  作者: オレンジ
一章 世界に蔓延るモンスターと共に
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二話 人は慣れる生き物、名も覚える ②

二章後編です。

 そして、ものものしい雰囲気を感じる。


「形見か何か知らないが、乗れないルーバなんて役立たず肉にして別のにすりゃあいいじゃねえのか? なんなら俺様のをやってもいいんだぜ」

「余計な世話だ。わざわざそんなことを言いにきたか?」

「長の娘だからと……ゲルグドの優しさを」

「何を拘ってるのかねえ」


 一匹はコボルドの彼女、残り三匹は知らない。


 彼女が焚き火を背にし、三匹と対峙していた。その中心の一匹は体格がよく彼女含め周りのコボルドの一点五倍大きい。


「いい肉を手に入れた、大イノシシのの肉だ。一緒にどうだ?」


 翻訳スキルだが、固有名詞も翻訳される。謎だ。


「いらん、肉ならある」

「四つ目じゃねえか。大イノシシのほうが断然うめえだろ。ほら、こいよ」

「触れるな!」

「おお、怖い、怖い。連れないねえ」

「用がそれだけなら、もう去れ」

「へいへい、行くぞ」


 偉そうな体格のいいコボルドがこちらをチラッと一瞥し、去っていく。その視線は炉端の石を見るようで全く興味を示していなかった。


「帰ってきたか、悪いな早く食事にしよう」


 彼女も俺達のことに気付いていたようで気まずいまま夕飯が始まる。


 さて、今日の一品は棒に串刺しされた肉を炎で炙った焼き肉。四つ目、四つ目と翻訳されるが毎回原型なく刻まれているのでどういった生き物か知らないが、辛うじて噛みきれる硬さに脂もそれほどのっておらず、調味料もない野性味溢れるお味。まあ、食べられない訳ではない。


 文句を言える立場ではないが、肉のみというのは味気なく体調面でも気になる所。こんな世界、サバイバルを学び多少の山菜の知識はあるし、山菜鍋でも作ろうかと打診しよう。


 そんなふうに焚き火を囲んで考えを巡らしていたが、ふと疑問が浮かぶ。


「あの、皆さんは全員、他の種を狩れるんですか?」

「何を当たり前な。狩りこそ私達種族の本分よ。強さこそが至上よ」

「な、なるほど」


 不思議だった。


 俺達人間はスキル、それも戦闘系スキルを得た者しか意外傷一つ付けられないのに対してモンスターはモンスターを殺すことができる。


 ならば、モンスターは生まれながらに戦闘スキルを備えているという仮説が成立するんじゃないだろうか?


 いや、モンスターにはスキルなどなく素の能力が人とは違うのか。モンスターは隔てなく戦う力がある。それとも別の要因が? 武器か?


「おい!」


 ん? 待て待て。モンスターは死ぬとスキル関係なく人でも傷付けられる。何せ食べれるのだから。ということは生きている間は何か力が備わっているということじゃ? やっぱりスキルが?


「おい!」

「え!?」


 何度呼ばれていたのか、全く気付かなかった。


 顔を向けると、白毛のコボルドの眉間に皺がよっていた。


「おい、そこ」


 促すように顎をしゃくると胡座をかく俺の膝元を指差す。


 視線を落とすと、地面を這う拳大の蜘蛛がいた。


「うおっえっ!?」


 慌てて立ち上がり距離をとる。


 火の明かりに照らされた紫の体毛が毒々しい蜘蛛は俺が飛び退いてもふてぶてしく止まり、それどころか、此方を向いて今にも近づいてきそう。


 猛毒でも持ち合わせているかと思うと寒気を感じ震える。


 追い払う方法が何かないかと急ぎ目を配り、焚き火に目を止め、蜘蛛が飛びついてこないよう刺激しないようにゆっくりと近づき、火のついたままの棒を引き抜きざま、振り回す。


 何度も左右に振り回すうちに偶然にも先端が当たり蜘蛛を打ち飛ばす。


 飛んだ先はコボルドの彼女の下。


「勿体無い」


 彼女はひっくり返っている蜘蛛を軽々とナイフで串刺しにした。


 そして、そのまま口に放り込み咀嚼し始める。


「うげっ……」


 きっと俺は苦い顔をしていることだろう。


「ん、香ばしい。少し焼けていたか……今度炙るのも悪くないかもな」


 このまま、ここでやっていけるのか、不安が募る夜が更けていく。


 そんな夜中、今更ながら彼女の名はアザミ、知りたくはなかったが黒もじゃの名がレドとわかった。


 森を走り続ける日々が続きさらに三日、家路につくことは当に諦めこの生活にも慣れ始めた早朝。


 もう習慣と言っていただろう、コボルドの集落側の川に足を運び、いつものように汗を洗い流す。


 夏場とはいえ森の中、おそらく標高も高いだろうからか、肌寒く体を震わして我慢しながらだ。「寒い、寒い」と、自然に独り言も漏れる。


 川から上がり、水気を払い服を着ると寒さを忘れるため走る準備も兼ねてストレッチをしていると、


「今日も朝から元気だでな」


 当たり前のように挨拶をしてくるモンスター。


 名はハモ。リザードマンだ。


 リザードマンのイメージは蜥蜴の顔に尻尾、細身でシユッとしていて鱗に覆われ人のように二足歩行で武器を扱うのが一般的だと思う。だが、抱える程の水甕を肩に担いだこのリザードマンは大柄で二メートルは優に越えて腕も足も胴も尻尾も太く筋肉質で顔はオオサンショウウオのような造りをしていて何処かどんくさそうな印象を受ける。実際、俊敏な動きは苦手で性格も体が表すのかモンスターにしては温和だ。


「そっちも朝から精が出るな」

「おいら、ルーバの世話好きだで」


 ハモは甕に水汲みしながら大口開けて笑う。その表情は今にも食べられそうで怖い。会って三、四日、未だに慣れない。


 ハモは従僕らしく色々とさせられているようだ。


 モンスターの世界にも色々あるのだとここ数日驚いてばかりだ。こんなことにならなければ知るよしもなかったことだが。


 似たような境遇、会話もできることから気楽に話しをする仲になっていた。


「ここの生活は慣れだてか?」

「全然、今日も寝不足」

「大丈夫だで、住めば都直ぐ慣れるで」

「そうかな?」


 寝床を思い浮かべ、ついつい愛想がない相槌をついてしまう。

 獣独特な匂いに、蚊も飛び回り、すきま風に体も冷える、そんなルーバの厩舎の隅が今の寝床。


 スパルクとなるべく一緒の時間を多くするためだと、隣で寝かされている訳だ。一応、虫が嫌う匂いを放つ香草、藁に布団代わりの皮布も用意して貰ってはいるが外で寝るのと大差ない。それと、ルーバは早起きのようで今朝も挨拶の合唱に起こされた。


「ニワトリかよ……そういや、ハモは何処で寝泊まりしてるんだ?」

「ご主人の隣の小屋だで。おらが建てたでよ」

「自分で……器用だな」

「昔から造るの好き、あ!」


 ハモが俺の後ろを見て驚いている。


「ん?」


 何事かと振り向──


「ふぇっ!?」


 首に衝撃。

 痛みと共に視界が暗転。


「全く、可笑しなものを良く拾う」


 意識が薄れる中、低く重く厳格ある声音を耳にする。


 何処で聞いた記憶が……。

面白いと思って頂いた方は、下にある☆のマークで評価頂けると幸いです。

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