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俺が知っている世界は、こんな幻想物語じゃない  作者: オレンジ
一章 世界に蔓延るモンスターと共に
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二話 人は慣れる生き物、名も覚える ①

今回も二分割。

一時間後に。

 洞窟の部屋で目覚めて五日、俺は森の中をひた走っていた。


 全裸ではない。上下に黒の布の服、シャツに七分丈のパンツを着ている。白毛のコボルドの彼女、そう彼女だ、に用意されたものだ。モンスターが現れ五年も経つがモンスターにも文化があるとは驚きだった。


 靴も履いている。それは俺の持ち物。幾つか回収してくれていた物の一つだ。鬱蒼とした森の中を走らされている俺には唯一の宝に思えた。


 道もなく膝まで伸びる雑草、乱立する木々、そこから無秩序に伸びる枝葉、躊躇なくぶつかってくる羽虫、自然は人を容赦なく拒絶する。悪条件しかない。


「ゲギャギャッ! ノロマ! ノロマ! ゲギャギャッ!」


 甲高く嘲笑うこの声もその一つだ。


 視界が届くぎりぎりにはしゃぐ黒もじゃの姿。欲しがっていた玩具を与えられた子供のよう。


 凄く腹が立つ。


 直ぐに追いつき、思い切り放り投げてやりたい。


 だけど、追いつけない。


 決してあの黒の小物体が速く駆けてる訳ではない。あの黒のミジンコを背に乗せているモンスターの脚が速い。速すぎる。


 見た目は恐竜に近い。ある映画で観たヴェロキラプトルに似ている。体高二メートル程の二足歩行。両手脚には鉤爪、鋭い牙も生えている。


 一つイメージと異なったのは体表が鱗ではなく群青色の毛に全身を覆われていて犬、サモエドのようにふさふさしている。


 コボルドの彼女にスパルクと名を呼ばれているそいつは今は悠然と立ちこちらを見据えている。


 俺が近づけばまた駆け始めるに違いない。俺を休ませるつもりはないのか、何時まで走り続けられるのか。


 もう一つのスキル速駆けを持つ俺の自信は一時間も掛からず折れた。まあ、時計は持ち合わせてないので体感だが。


 モンスターに対して何度か逃げ延びた経験があったが、ここまで追いつけないものかと折れた自信を幾度も踏み詰られている。


 また、駆け出したスパルクは毛を靡かせて悪路をものともせずに突き進む。そして、俺の視界から消えるかと思うと立ち止まり、距離が縮まるとまた駆けていく。ゴールのないマラソンだ。


 スキルのお陰で人並みを遥かに越えて速く長い距離を走ることはできるが、限界はもちろんあってその限界はとうに越えていて、手足は思うように上がらず、息をするのも苦しいが、それでも構わず追いかける。


 どうして、そこまで、必死なんだよ? 


 命令? 願い? を達成する手段だな。


 どこからか聞こえてきた幻聴に俺は、素直に答えてしまう。


 思い出される情景はスパルクの頬を撫でるコボルドの彼女。


 彼女はスパルクが何を考えてるか知りたいと乞うてきた。


 どうやら、馬のような存在らしいのだが、どうにも背に乗せることを拒むと言う。その理由を知りたいのだとか。


 それに対し断るわけもなく、スパルクに何度も問いかけたが返答は一つもなかった。


 なんのことはない、プライドが高く俺と口を利く気がないからだ。


 ならば、唯一できることで認めさせろと追いついてみせろと駆けっこが始まった。スパルクは彼女を背には乗せないが言うことは聞くようでこんな阿保のような提案も快く引き受けていた。


「ゲギャギャッ! 走れ! 走れ! 馬車馬のように! ゲギャギャッ!」


 馬車馬を知っているのかあの黒もじゃは。あのもじゃもじゃかきむしってやりたい。


 だが、追いつけない。


 足を止めたいが、止められない。怖い、その一言に尽きる。


 周りにはすがる人間は居らず、それどころかモンスターばかり。今は害されることはないが何時どうなるか。人がモンスターに殺された姿を数多く見てきた。


 死にたくない! だから、走る。


 必死になっているうちに気づけば日は傾き、影が色濃くなると俺達、一人と二匹はコボルドの住処に戻ることにする。


 さすがにコボルドの縄張りとはいえ、闇夜に紛れて他のモンスターが獲物を求めて入り込む。そもそも、夜目が効かない俺が追走できないという理由が大部分で、かつ昼夜問わず走っては体力ももたない。


 コボルドの住処は森の中を切り開いた空間にある。白毛コボルドの彼女の寝床は住処の片隅にあり、報告と夕食を兼ねて生気が抜かれた足取りでなんとかたどり着く。


 目前にあるのは高床式の木造小屋だ。すきま風が吹き、人が造るほど精密なものではないが雨風は十分に凌げるものだ。そんな小屋がこのコボルドの住処には至るところにあり、村と言っていいほどの規模が文化形成されている。


 驚愕した。


 モンスターがここまでの知能と技術がある事実を目の当たりにし、数を想像し、人間の文化圏回復は不可能だと痛感した。


 ここ二、三日のことから今晩も小屋の前で焚き火が焚かれ夕飯の準備を彼女がしているかと思っていたのだが、どうも様子がおかしい。


 いままでは、一人? 一匹? で用意をしていたが今は四匹もいる。そして、ものものしい雰囲気を感じる。

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