第8話 装備チェンジ
「うぬおおおおおッ!」
「……強えな。まるでこっちが本物のオークのようだぜ」
トオルがカンナ村に来て三日。
ステータスを活かして魔物狩りを行うトオルは、皮鎧を纏った状態で遭遇したオークを倒す。
そこに同行するのは二名。
空腹だったトオルを救った剣士マルコと、村一番の魔物狩りの腕を持つ男だ。
元冒険者のブルーノ。三十歳。職業は戦士。
褐色の肌に一メートル九十センという大柄な体躯だ。
その上からトオルやマルコと同じく皮鎧を纏うブルーノは、倒れたオークと倒したトオルを交互に見る。
――体格こそ違えど、同じ剛腕からの棍棒での殴り合いは迫力あるものだった。
「トオル殿、さすがであります。パパラッチなんて初めて聞きましたが、やはり上級職で間違いないと思うのでありますよ!」
「俺もそう思うぜ。弱い魔物は論外だが、オーク以上のステータスとスキルを真似できるのはスゲエな」
……すでにトオルの職業はバレている。
人生を左右するほどの、何よりも職業が重要な世界において、
隠し通すのは土台無理な話で、そもそも村に世話になるのだから当然のことだった。
初日の歓迎会の時点で聞かれて、飲んだ酒の力も借りて素直に白状。
謎のパパラッチという職業は最初こそ疑われた。
だが、ブルーノとの腕相撲勝負で完勝して、実力をもって真実だと証明している。
「でもパパラッチ自体は弱いですけどね。レベルもこの三日で10になりましたが、どれも低いですし……」
正直、パパラッチ単体のステータスは低い。
最大でもHPの60で、攻撃力、防御力、敏捷はまだ30台だ。
これはマルコに聞いてみたところ、職業村人とほぼ同じとのこと。
残るMP40の部分は勝っているが、知力(魔法攻撃力)が20は最弱の村人以下だった。
「ま、それは魔物の分でカバーできているからな。問題は……なあ、マルコ?」
「でありますね、ブルーノ殿」
現時点でトオルには大きな問題がある。
マルコは剣士でブルーノは元冒険者の戦士なので、トオルが直面しているその問題を理解していた。
「やはり武器の訓練をした方がいいか。……強えは強えが、ステータス任せにただ棍棒を振るっているだけだぜ」
ブルーノから手厳しい意見が飛ぶ。
攻撃も防御も足運びも完全に素人。
その部分を改善しないのはもったいない、というのがブルーノとマルコの共通意見だ。
神から与えられた職業からのステータスもスキルも重要ではあるが――異世界でも普通に戦闘技術は重要だった。
「ぎ、ギクリ……の極み」
「あと武器だぜ。別に棍棒に拘る必要もねえだろ?」
「村にはいくつか武器はあるので、トオル殿に合ったものを見つけるのであります」
二人の言葉に、気持ち小さくなって頷くトオル。
……たしかにステータス頼み、手数だけのタコ殴りではよくない。
下級職とはいえ剣士のマルコと戦士(斧)のブルーノの技を見て、それはトオル本人も分かっていた。
――となれば、地道な武器の訓練あるのみ。
(本気でやるか。ここはもう死と隣り合わせの世界なんだし)
すでにオーク級のトオルのおかげもあって、今日の狩りの成果は充分すぎるほどだ。
何体かのコボルドが載った荷車にオークを載せると、昼前にはカンナ村へと戻るのだった。
◆
「どうだトオル? しっくりくるのはあったか?」
「……うーん。正直、どれも大差ないですね」
村に帰って昼食を取り、軽く昼寝をして腹を休めたあと。
ブルーノとマルコと村の倉庫に来たトオルは、片っ端から置いてあった武器を手に取る。
片手剣に槍に斧にレイピアなど。
豊富にあった武器を持ち、実際に何度か使ってみるのだが……。
「職業的には適正武器は特にないでありますか」
剣士なら剣が、戦士なら棍棒もしくは斧が。
職業によって適正があるところ、パパラッチのトオルには特にそういう武器はない。
「ならとりあえず剣が無難ですかね?」
「いや、槍の方がいいぜ。剣よりも扱いやすいからな」
「私も賛成であります。適正武器がないのなら、槍が一番だと思うのでありますよ」
「な、なるほど。了解しました」
同じ素人ならまだしも、戦いに身を置く二人の意見だ。
素人のトオルは進言通りに、数ある武器の中から最もリーチのある槍を選ぶ。
材質は鉄。全体の長さは二メートルと少し。
穂先の形はシンプルな直槍で、枝刃のない刺突だけに特化したものだ。
「武器の変更はこれでよし……の前に。ちょっとスキルを試しますか」
「ん? スキルか?」
「はい。今はオークをコピーしているので、槍でも『強打』を使えるのか確認したいです」
言って、トオルは倉庫の外に出てスキルの発動を試みる。
通常攻撃の一・五倍の威力を叩き出す『強打』。
MPを10消費する、すべてのオークが持っている固有スキルだ。
「『強打』!」
スキル名を叫ばずとも使えるが何となく叫ぶトオル。
すると、思いきり突き出した槍とともに。
体感的にもステータスで見ても、MPが消費されたのが確認できた。
「ふむ、問題なく使えるか。というかこれだと『強打』じゃなくて『強突』だぜ」
「さっき普通に突いていた時よりも強烈だったのであります」
どうやら武器が変わっても普通に発動するようだ。
オークの攻撃力もあって威力は折り紙つき。木製の盾なら余裕で貫通するほどの一撃だ。
「(純粋なステータスは現時点でも村で一番だからな。……こりゃ鍛えたら末恐ろしいぜ)」
槍の構えを解いたトオルに、ブルーノは苦笑しつつもそう呟いたのだった。