表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/71

第7話 カンナ村

「おおっ、ここか! 外じゃなくて森の中にあったのか!」


 図らずもトオルがマルコを驚かせまくったあと。

 案内されてたどり着いたトオルは、目の前の光景を見て自然と笑顔になった。


 森の中にポツンとあった村。

 世界樹ほどではないにしろ、高くて立派な一本の大樹を中心に、木の柵に囲われた村が存在していたのだ。


「カンナ村であります。小さい村でありますよ」

「す、スゴイな。ファンタジー村の極み……といってもいいでしょう!」


 マルコは謙遜し、トオルは興奮する。


 元インスタグラマー(無名)としての悲しいさがか。

 気持ちが疼いてしまい、ジーパンのポケットを無意識に触って、今はもうないスマホを取り出そうとしたほどだ。


「では、こっちであります、トオル殿。まずは村長のところに挨拶にいくであります」

「お、おう」


 とにもかくにも、まずは村長のもとへ。


 その途中、優しそうな村人たちや元気な子供たちから声をかけられて、トオルは一安心しつつ、

 村の中心の大樹の前に位置する、一際大きい木造の家へと入ろうとした。


 ――のだが、


「こんの飲んだくれジジイ! さっさと仕事しな!」

「ぐぬぉおおお……!」

「えっ!?」


 マルコに連れられたトオルが村長の家に入る寸前。

 なぜかその家の中から、一人の白髪の老人が転がって出てきた。


 ……どういう状況だこれ?

 ひたすら困惑してしまうトオルと、その横で額に手を当ててため息をつくマルコ。


 そんな家の前で立ち止まっていた若者二人に向けて。


「おやマルコ、客人かのう? ……ワシはアントニオ、ここカンナ村の村長じゃ!」


 頭を地面にお尻を空に、村長のアントニオは力強く自己紹介をしたのだった。



 ◆



「ほっほっほ! いきなり見苦しいところをお見せしたのう!」

「まったく、何を笑っているんだい! 反省の色が見えないよ!」

「あ痛ッ!」

「本当にどうしようもない亭主だね……あ、どうぞトオルさん。村の近くで取れた茶葉を使ったお茶です」


 なんやかんやあったあと、無事に村長の家に上がった。

 きちんと名乗って挨拶をしてから、トオルは出されたお茶をずずい、と飲む。


 村長のアントニオと妻のレベッカ。

 そのレベッカいわく、ついさっき叩き出されたアントニオが村を束ねているとのことだ。


 北の森の南側にあるカンナ村。

 村人は七十人ほどいて、全員が農作業か魔物狩りのどちらかの仕事をしている。


 ……ちなみにトップの村長はというと、基本的に飲んだくれ。


 農業の知識は村一番で、仕事もできるが……あくまでそれは仕事をすれば、の話だ。


「――というわけです。もちろん働かせてもらいますので、しばらく村に置いてもらえないでしょうか?」

「村長、私からもお願いするのであります。それにトオル殿は一人でオークを倒す実力の持ち主でありますよ」


 一方、トオルも自分のことを話した。

 記憶喪失キャラを押し通した上で、村にいさせてくれと村長に願い出る。


 ……正直、村の者から見ればトオルはどこの誰かも分からない者だ。


 しかも身元不明。格好も見たことがないネルシャツ&ジーパン姿。

 黒髪黒眼もこの世界には誰もいないので……普通に考えれば許可は下りづらいだろう。


「かまわんのう。記憶が戻るまでいくらでもいるとよいぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「うむ。この村は常に魔物の脅威があるからのう。強いのならむしろこっちからお願いするくらいじゃ」


 村長の言葉に、妻のレベッカは今度は頭を叩かずに黙ってうなずく。


 そもそもカンナ村は生活に困って流れてきた者が多い。

 だから見ず知らずのトオルも大歓迎で、追い返す気はサラサラなかった。


「家は村の端にあるものを使うとよい。たしか空き家じゃったな? マルコよ」

「はい。今は物置き代わりなので、少し掃除は必要でありますが」

「うむ、ではそこにトオルを案内してやってくれのう」

「了解であります」

「ありがとうございます。これからお世話になります!」


 ――こうして、話はサクサクと進んでトオルの寝床が決定。


 村長の家を出たトオルは早速、マルコの案内で村の北端にある家へ。

 外観は少しボロい木造家屋だ。ただ中に入るとそこまで痛んではいなかった。


 農作業用の道具を除くと、ベッドとテーブルとイスが一つづつ。

 親切なマルコも手伝ってくれた結果、十分とかからずに住める状態までになる。


(最初は心配したけど……。思ったよりは悪くはない異世界転移かな?)


 木窓から元気な村人たちと大樹を見ながら、トオルはホッと胸をなで下ろすのだった。



 ◆



「じゃあ、いきますか」

「今日はもう軽くやるであります」


 家でしばしの休息を取ったあと。

 村の入口でマルコと再合流したトオルは、また村の外へと足を踏み出した。


 時刻はもうすぐ夕暮れ時。

 ただ村長宅での歓迎会を兼ねた夕食まで時間はあるので、トオル発で少し仕事をしようとなっていた。


 だから魔物狩りというよりは巡回だ。

 あまり村からは離れずに、周囲に魔物がいないか見回っていく。


「そういえばマルコ。この北の森ってオークが魔物の頂点なのか?」

「村がある森の南側はそうであります。北の方にいくにつれて、もっと手強い魔物が増える感じでありますね」

「なるほど。まだ上はいたか」


 巡回中にさらなる情報収集も忘れない。

 トオルの職業はパパラッチ、スキルは『モンスターパパラッチ』だ。


 オークが最強ならそれでいい。だが違うのなら当然、次の撮影対象となる。


 より強い魔物を撮影・保存して、ステータスを上げれば生存率は必然的に上がるからだ。


「んじゃ、オークの次に強い魔物って何になるんだ?」

「次でありますか? となるとジャイアントスパイダーであります」

「……ほほう。つまりデカイ蜘蛛か」


 マルコの答えにアゴを触って考えるトオル。


 下手に格上すぎると撮影しても保存できない。

 すなわちコピーしてステータスに上乗せできないので、遭遇したら最後、られる可能性が高い。


 だから慎重かつ確実に、一つだけ格上の魔物を。

 現地人の知識を借りて、トオルは次の撮影対象をジャイアントスパイダーに決めた。


「けど、魔物狩りでは狙わないのであります。吐き出す糸は上質で高価でも、危険すぎる相手でありますから」


 魔物狩りをする村の男衆の中で、単独でジャイアントスパイダーを倒せる者はいない。


 力のある者たちでもオークまで。

 チームを組んで挑めば勝てるとはいえ、わざわざその危険は冒さないとマルコは言う。


「ありがとう。また何かあったら聞いてもいいか?」

「もちろんであります。特に魔物関係は命に直結しますので、いつでも聞いてほしいのでありますよ」


 やはり親切でいい人なマルコ。

 そんな茶髪そばかすなマルコと一緒に、トオルは棍棒を握りしめて北の森の巡回を続ける。


 異世界転移をしたパパラッチ(オーク級)と、村の若い剣士。

 結局、この日は遭遇したコボルド一体だけを持ち帰り、魔物狩りの男たちが得たほかの魔物と合わせて、


 日付を跨ぐまで、肉だらけのトオルの歓迎会が行われたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ