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第5話 オークのスキル

「……ふう。無事にデンジャラスな時間帯をやり過ごせたか」


 一夜明けた。

 目覚めても引き続き異世界の森にいたトオルは、寝床にした木のうろから這い出る。


 異世界生活二日目。

 手元にスマホはないというのに、大自然の景色や魔物を載せたらバズるかな? なんて思いつつ、


 無名インスタグラマーだったトオルは、今日も一人で知らない森を歩く。


「というか、さすがにそろそろ空腹の極みがきそうだな……」


 昨日、異世界に来てからは水しか飲んでいない。

 ワイルドボアは食べられそうだったが、ナイフもないので、ぶ厚い毛皮の下の肉を取れず。


 トオルは空きっ腹に小川の水だけをまた入れると、二日目も続いて川に沿って進むことに。


 とにかく森の外に出たい。あと人に会いたい。

 ネルシャツ&ジーパン姿のまま、トオルは棍棒片手に周囲を警戒する。


「魔物と戦う力はあるからな。食べものと安全な場所、あとは何らかの情報もほしいぞ」


 現在のトオルのステータスは、自分(パパラッチのレベル5)+ワイルドボア。


 さすがにもうゴブリンもコボルドも雑魚扱いだ。

 HPの現在値も寝て回復したので、ワイルドボアも怖い相手ではなくなった。


 ……それでも安心などできない。

 名前も場所も分からずとも、この森にはさらに手強い魔物が存在しているのだから。


「オークは本気で嫌だぞ。勇者なんて言わないから、職業が剣士とか戦士なら基本ステータスが高そうだし……。あと戦闘系スキルもあっただろうな」


 起きている個体に遭遇してしまえば命の危険がある。


 今ならワイルドボアでステータスは上がった。

 今度こそ撮影からの保存ができる可能性はあるが……絶対とは言い切れない。


 オークを前に保存できなければ大ピンチ。

 まだステータスは200前後もなく、スキルもないから普通に力負けするだろう。


「そもそもオークはこの森でどれくらいの強さなんだ? できれば最強格であってほしいぞ」


 そう願いながら、腹の虫を鳴らしてトオルはいく。

 まだ全然、歩き慣れないデコボコの森を、特に魔物との遭遇もなく三十分ほど進んだところで、


 グゴォオオ……、と。


 木々の向こうのどこかから、野太いイビキみたいなものが聞こえてきた。


(こ、これはもしや……!)


 とっさに身を低くして、自分の足音にも気を配るトオル。

 耳を澄ませて聞こえてきたイビキの方向を把握して、そっちにゆっくりと近づいていく。


 ――すると、少しだけ拓けた青空の見える円形広場に。

 そいつは一際大きい木を背にして、隙だらけの状態で眠っていた。


 その正体は二メートルの巨体に豚の頭が乗った屈強な魔物――すなわちオークだ。



 ◆



(これはツイているぞ。また眠っている個体だ!)


 ワイルドボアよりもさらに格上のオークがいた。

 昨日の個体とは違うが同じく爆睡していて、そのサマはまるで森の王者みたいな風格がある。


「…………」


 足元に落ちている枝に注意してトオルはさらに前へ。

 まだ二十メートル弱ある距離を詰めて、恐る恐る十メートル圏内に近づけば――。


《発見した魔物を撮影しますか?》

「!」


 天の声が頭に流れた瞬間、ガッツポーズをするトオル。


 当然の反応だ。

 昨日のゴブリンをコピーした状態ではできなかったのに、今回は普通にできるというのだから。


(もちろん。お願いします!)


 すぐに許可を出して、パパラッチのスキル『モンスターパパラッチ』で眠るオークを撮ってもらう。

 いつも通りにパシャパシャパシャ! と激しいシャッター音が響くも、爆睡しているオークは目覚めない。


《撮影した魔物を上書き保存しますか?》

(お願いします。……フッフッフ、もらったぞ。お前の力!)


 オークのイビキが響く中、トオルは漲る力に笑みをこぼす。



【名前】 篠山トオル

【種族】 人間

【年齢】 二十五歳

【職業】 パパラッチ


【レベル】 5

【HP】 173/256

【MP】 69/80

【攻撃力】 225

【防御力】 217

【知力】 44

【敏捷】 118


【スキル】

『モンスターパパラッチ』

『強打』



 これがオークの力。オークのステータス。

 敏捷だけは少し落ちてしまった一方で、攻撃力と防御力は倍以上だ。


(加えてスキルもか。対象の魔物が持っていれば、そっちも手に入るって寸法だな)


 まさに見た目通りの屈強さだ。

 ワイルドボアの時以上に湧く全身の手応えに、トオルは再びオークへと近づいていく。


 そして、眠っている隙に先制攻撃! はせずに。

 オークの足元に転がっている、一メートルほどのゴツゴツした棍棒を手に取った。


(ふむふむ。ゴブリンのは木でオークは石か)


 木よりも遥かに重いはずの石の棍棒を、200超えの攻撃力で軽々と持つ。


 そこでブォン! と何度か試しに素振りをしてから、トオルは真剣な目つきでまだ起きないオークを見る。


「セコさの極みとは言ってくれるなよ? こっちも生き残るために必死なんだ」


 言って、トオルは思いきり棍棒を振りかぶる。

 薪割りにも似た動作で、棍棒の重みも利用して――オークの脳天に叩き落とす。


『グォ、オオオォ!?』


 無抵抗のままに一撃をもらったオークが目を覚ました。


 その頭頂部は数センチほどへこんでいる。

 かなりのダメージを受けたことで、起き上がろうとするもよろめいて倒れた。


(よし!)


 オークも高い防御力を誇るが、今のトオルの攻撃力もオーク以上に高いのだ。

 何とか立ち上がり直そうとするオークに、トオルはすかさず追撃を仕掛ける。


 ボゴン! と二撃目の石の棍棒がオークの右脇腹へ。

 鈍い音を生み出した横薙ぎの攻撃により、またオークは立ち上がることを許されない。


 ……さすがのオークもこうなってしまうとどうにもならない。

 そもそもトオルはこの個体よりもステータスが少し高い状態で、かつ武器も奪っているのだ。


 もし礼儀正しく起こしてから戦っていても、問題なし。まず間違いなくトオルの勝ちは揺るがない。


「トドメだ。お前の技を喰らいやがれ――『強打』!」


 深刻なダメージを負ったオークを前に、冷静なトオルが仕掛けた。


『強打』。

 ゴブリンにもワイルドボアにもなかった、オーク固有の戦闘系スキルだ。


 これまでよりも強い打撃がよろめいたままのオークの首に直撃する。

 と同時。首の骨が折れる音が響き、オークは力なく頭から倒れて、今度は永遠の眠りにつくことになった。


「……うむ、名前のごとく威力の高い打撃だったか。手応え的には倍……いや一・五倍くらいかな?」


 ついさっきまで恐れていた強敵を倒したというのに、トオルはのん気な感じで言う。


 それよりもオークのスキルの『強打』だ。

 普通の打撃とは違ってこのスキルを使った際、変な脱力感もあった。


 すぐにステータスで確認してみれば……MPが10だけ減っていたのだ。


「なるほど。やっぱり消費する感じか。自分で使うのはいいけど、相手に使われていたらと思うとゾッとするぞ」


 これでステータス以外にもスキルという戦う力を得た。


 オークの死体を前に仁王立ちするトオルは、腹の虫を盛大に鳴らしてから現場をあとにするのだった。

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