第4話 一つ格上の猪
(コイツはちょうどいい強さ……頼む。イケるよな?)
トオルの前にワイルドボアが現れた。
水を飲みに来ただけのこの魔物は、トオルの存在に気づかずに水をガブ飲みしている。
ステータス的にはMP、知力、素早さを除いて200前後だったオークよりも格下。
とはいえゴブリンやコボルドよりは明らかに強く、100前後の能力値を誇っていた。
《発見した魔物を撮影しますか?》
(――よしきた! お願いします!)
天の声に許可を出した瞬間、パシャパシャパシャ! とパパラッチなシャッター音が。
『フゴォオオ!?』
直後、突然の奇妙な音にワイルドボアが振り返る。
このシャッター音だけはどうにもならず、毎回毎回、撮影する度に気づかれてしまう。
……残念ながら、密かに盗撮してその場を退散! とはならないようだ。
《撮影した魔物を上書き保存しますか?》
「もちろん! 即行でお願いします!」
天の声に答えて、力強くうなずくトオル。
保存できない場合は最初の問いかけから違う。
本来の問いかけを受けた時点で、ワイルドボアのステータスをコピーできることが判明するのだ。
『フゴォオオ!』
「来た来た来たァアアア!」
水飲みを中断して、鼻息荒く向かってくるワイルドボア。
対してトオルはそっちではなく、自分の体に漲っていく力に向けて叫ぶ。
ゴブリンの時よりも遥かに感じる力強さ。
心なしかネルシャツから出ている腕の筋肉も盛り上がっている気がする。
――とにもくにも、目の前のワイルドボアとパパラッチ(レベル3)である自分の力。
これまでのゴブリン分が消えて上書きされた、それら二つが合わさった現在のトオルのステータスは、
【名前】 篠山トオル
【種族】 人間
【年齢】 二十五歳
【職業】 パパラッチ
【レベル】 3
【HP】 44/169
【MP】 27/67
【攻撃力】 110
【防御力】 106
【知力】 34
【敏捷】 126
【スキル】
『モンスターパパラッチ』
一気にステータスが上昇。四つの能力値が100の大台を突破。
HPとMPこそ現在値は増えていないが、とにかくこれでワイルドボアが相手でも渡り合える。
「いくぞ猪! お前自身の力を体感してみろ!」
トオル(+ワイルドボア)vsワイルドボア。
ゴブリン戦以上のパワフルな戦いの火蓋が切って落とされた。
◆
『フゴォオオ!』
「ぐっ、くんぬォラァアア!」
異世界でも猪突猛進な猪系の魔物の突進。
その初撃はタイミング的に回避が間に合わなかったため、トオルは正面から受け止めた。
普通なら簡単に吹っ飛ばされるだろう。だが少し後退しただけで受け止めきる。
ワイルドボアの巨体から繰り出されるパワーとスピード。
それをパパラッチのステータス分(攻撃力と防御力は約20)上回った力で、大したダメージもなく耐え切った。
「あとはもちろん! タコ殴りの極みッ!」
続いて、トオルはシンプルに木の棍棒で何度も殴打する。
幸い的はバカみたいに大きいので……トオルの素人なフルスイングでも外すことはなさそうだ。
ちなみに、攻撃系のスキルはどちらも持っていない。
相手を倒すには殴打するか突進するか、この地味な二択だけだ。
『フゴォオオ……!』
強烈な棍棒の打撃にワイルドボアが怯む。
明らかにトオルの攻撃は効いているようで、顔面を殴られる度に少し動きが止まっている。
……ただ油断はできない。
巨体もあれば鋭い下顎の牙もあり、攻撃の合間に反撃が飛んできていた。
(HPの現在値はコピーしても回復しないからな。まだ今は俺の方がゼロに近いぞ)
気合いを入れて殴る殴る、殴り続ける。
途中でベキッ! と嫌な音を立てて棍棒が折れれば、すぐさま予備としてゴブリンから奪っていたもう一本で殴打し続ける。
『フゴ、ォオオ!』
「ぬ、しぶといな! いい加減に沈めっての、デカ猪!」
泥臭い戦いは三分が経過。
ステータスで上回っていても、パパラッチ一人分の20程度では簡単には勝てないようだ。
二度三度と反撃ももらい、増えた防御力をもってしても、
ゆっくりと確実に、トオルのHPも減ってデッドラインに近づいている。
――とはいえ、すでに勝敗は見えていた。
頭から血を流したワイルドボアの動きが徐々に鈍り、頭突きや牙の反撃回数も減っていく。
そうして、さらに打撃戦が続くこと一分。
最後は一方的となり、ついにHPが尽きたワイルドボアは地面に巨体を沈ませた。
「つ、疲れた……。もうちょっと楽に勝ちたいんですけど、神様?」
少し遅れて、勝者であるトオルも地面に座り込む。
格上の魔物を倒してレベルは3から5に上昇。
ただ今は心身の疲労からステータスを確認する余裕もない。
……まあ所詮はパパラッチ、見たところで予想通りに大して上がっていないのだが。
――舞台は異世界、魔物が生息するどこかの森の中。
序盤の山場(?)をくぐり抜けたトオルは、しばし休憩を取るのだった。