第1話 転移したらパパラッチ
「おいこれまさか……! どう考えても異世界転移だよな!?」
森で目覚めた一人の男は、むくりと立ち上がった一分後に正解にたどり着いた。
篠山トオル。地方公務員の二十五歳。
フォロワー0人の無名インスタグラマーでもあるトオルは、撮影で訪れていた花畑のど真ん中で、フラッと意識を失ったところまでは覚えている。
――つまりは休日に異世界転移。それが今のトオルの状況だ。
「……んで、転移先は定番の森か。実際に自分がなると混乱の極みだぞ」
冷や汗をかきながらトオルは見る。
現在地は森の中の少し高台になっている場所。そこから遠い木々の隙間に、初めて見るが知っている存在を確認できた。
緑色の皮膚をした、恐ろしい顔の小さな生物――すなわちゴブリンが。
「参ったな。俺には武器もないし食料もないし……ええい! とりあえずその前にだ!」
叫び、ドスン! と自分から尻餅をつくトオル。
そして一度、目を閉じると、数秒経ってから目を見開いて、
「ステータスオープン!」
ダメ元で言ってみた。
トオルの周囲には誰の姿もない。
もしこの状況で自分に何かしらの情報をくれるとするなら、それはこれしかないと思っての発言だ。
そんなトオルの思いに答えるように、ブゥン、と。
小さな虫の羽音みたいな音を鳴らして、トオルの目の前には半透明のウィンドウらしきものが現れる。
「おおっ、あったのかステータス! ……どれどれ、世界については分からなくても、俺については教えてくれよ!」
ラノベやゲームは好きなので、ちょっと感動してしまうトオル。
異世界転移をした衝撃と不安は一旦、横に置いておき、自分のステータスを確認する。
【名前】 篠山トオル
【種族】 人間
【年齢】 二十五歳
【職業】 パパラッチ
【レベル】 1
【HP】 40/40
【MP】 25/25
【攻撃力】 15
【防御力】 14
【知力】 10
【敏捷】 18
【スキル】
『モンスターパパラッチ』
「……ふむふむ。なるほど。そういう感じのステータスと表示の仕方で――って、ちょっと待ていッ!」
遠くには一応、ゴブリンがいるのに叫ぶ。叫んでしまう。
なぜなら、ある程度はトオルの予想した通りだったが……どう考えても変なものが二つあったからだ。
言わずもがな職業とスキルである。
まあスキルの方は置いておくとして、問題の根源は職業にほかならない。
剣と魔法の異世界と思われるのに、パパラッチ。
元いた現実世界ならまだしも、こっちの世界でさすがにそれはないだろう! ……と憤慨するトオル。
「あ、あり得ん。こんなふざけた職業とか……!」
まだ特殊な職業であっても、ステータスの数値が高ければよかった。
だが残念無念。ほかの職業がどれくらいかは分からないが、レベル1だとしても何だか弱そうな能力値だ。
「さすがは嫌われ者のパパラッチなのか? ……何か足と腕も前より微妙に細くなった気もするぞ?」
ステータスが現れた喜びから一転、落ち込むトオル。
農民あるいは村人よりはまだマシなのか? というか、ジョブチェンジとかできるのか?
頭の中を思考がぐるぐると駆け回る中、眉を八の字にして頭を抱えてしまう。
(!? ――っと。ちょっと叫びすぎたか、俺)
それに気づいて、トオルは瞬時に現実に戻った。
ババッ、と伏せるように体を地面に這わせて、高台から少しだけ顔を出して恐る恐る確認する。
『グギャギャ』
誰かと思えばゴブリンだ。
さっき遠くに見えた個体かは不明。木の棍棒を持った百三十センチ程度の緑の小鬼が、キョロキョロと周囲を見回している。
(……ふぅ。危ない危ない。一人で騒いで魔物に接近されるとか愚の極みだぞ)
トオルはフゥーッと息を吐く。強張っていた全身の力を意識的に抜く。
レベル1でも職業が戦闘系なら確実に勝てるはず。
ただパパラッチだとどうだろうか? 一対一なら勝てると思いたいが、名前の響きと丸腰なことを考えると不安すぎる。
(ここは様子見で――え?)
その時だった。
高台にいるトオルとゴブリンの距離が十メートルを切った直後。
ブゥンと、またステータスを表示するあの音が突然、鳴った。
――トオルではない。表示されたのはゴブリンのステータスの方だ。
と同時。予想外のことに困惑するトオルの耳に――どこかの誰かの声が響く。
《発見した魔物を撮影しますか?》
今日はもう一回、更新する予定です。