dernière étreinte
部屋の中
女 眠っているように
男 部屋に入り 女を少し寂しげに見る
女 起き上がり
女 お疲れさま
男 ん(少し微笑んで)
女 ごめんね 大変だったね
男 いいよ
女 うちのお母さん
すごく大きな声で泣いちゃって
男 ま こんなときだから
女 そうなんだけどさ 周り関係ないから
でも 始めて見たと思う お父さん泣くとこ
お父さん こんなふうに泣くんだなあって
男 泣くでしょ 普通
女 普段 全然泣かない人だから びっくりした
もう何か申し訳なくって せっかくここまで大きくしてもらったのに
男 泊まってもらえたらよかったんだけど
女 あいいよ 気にしなくて 泊まるにはちょっと狭すぎだし
それに気使うでしょ
男 そんなこと ないけど ま いきなりだったし
女 …ごめんね
男 ああ そういう意味じゃなくて
女 でもいろんな人来たね 全然知らない親戚とか
男 あ そうなの
女 うん 見たことない
あー私 親戚こんなにいたんだあ でもお年玉もらってないぞ
さては 正月とか避けてたな とか
男 がめついな
女 明日はもっと来るね
男 なんか わくわくしてない
女 するわけないじゃない
ね ね ね それよりさ 大丈夫 明日?
男 ん ま なんとかなる … かな
女 本当 疲れてない?
男 多分 … うーん
女 ほんとに大丈夫? ほんとの本番は明日だよ
男 本番って 大丈夫だと思うよ
女 じゃあ ちょっとやっとこうよ?
男 何を
女 スピーチ
男 スピーチ?
女 違うっけ あの挨拶するやつ スピーチって言うんじゃないんだっけ
男 スピーチって言うのかな
女 だって一番心配じゃない しめな訳だしさ
男 そうかもしれないけど 今
女 うん りはーさる
男 えー
女 だって 心配なんだもん 絶対あがるよ 緊張する
声なんかさきっと上ずってさ
安田大サーカスのクロちゃんみたいになるよ
きっと だったらリハーサルしとうこうよ
クロちゃんにならないためにもさ
男 ならないよ クロちゃん
女 なる あなたはね 上がり症なの
自分ではそんなに気がついてないかもしれないけど 私は知っている(にやり)
だからね やっといたほうがいいよ りはーさる
そもそもね 何話すか考えてる
男 え ま … ぼちぼち
女 考えてないな
男 いや 考えてる
女 本当
男 ん
女 よし じゃあ やろう
男 まじで 今
女 考えたんでしょ やってみせてよ それにね
私 明日その姿見れないかもしれないんだよ
男 見たいの
女 見たい ものすごく見たい
男 うーん
女 見たい
男 わかった
立つ
女 あ 立つんだ
男 え
女 気合入ってますなあ
男 座る
女 あれ立たないの
男 え
女 本番と同じにしなきゃ意味ないじゃん
それとも明日座って言うの?
男 仕方なく 立つ
女 拍手
男 拍手いらない ごほん えー本日は… お日柄もよく?
女 ん それなんかちがうんじゃない
男 え ちがう?
女 ん なんとなく そうじゃないと思うよ むしろ 反対だと思う
男 あそうなの じゃあ … 本日はお足元の悪い中
女 あ 明日 雨なんだ(笑)
男 反対って言ったじゃん
女 違う違う 反対の意味がさ でも まあいいんじゃない
形式ぶらなくても 普通で
男 普通?
女 うん 普通
男 普通…えー 皆さん こんにちは
女 (笑)
男 何
女 ごめん でも それあまりにも普通すぎるよ
おかしいよ 一応おごそかなんだから
男 やめた
女 あ 怒った
男 …
女 真剣 聞く聞く
男 いいよ もう 明日考える
女 やっぱり 考えてなかったんだ
男 う
女 本当に大丈夫
男 何とかなる … 多分
女 みなさん こんにちは(真似る)
男 てめー
怒って くすぐる
女 あははは やめてやめて
あはははは
笑いつかれて
女 本当はできると思ってるよ できる子だもん
男 子供か 俺は
女 子供には見えないね
あ でもあの時は子供に見えたな
男 ん
女 あのとき 私に告白したとき
ちょっとうつむき加減で 手なんかこうぷるぷる震えちゃって
先生に叱られた小学生みたいでさ
男 そ そんなだった
女 そうだったよ 声なんかひっくり返ってクロちゃんみたいな声で
かわいかった
男 何それ 男にかわいいって失礼って知ってた
女 あ そうなの
男 ん
女 そりゃあ失礼しました
男 全然思ってない
女 思ってないよ
男 もうしらん
女 あ ふてた ふてないでよ いいこと教えてあげるからさ 実はあのとき
男 ん
女 あ やっぱやめた
男 何
女 ん
男 何 気になるな
女 気になる?(にやり)
男 ん いや それほどでもかな
女 聞きたいんだ
男 別に
女 あのね
男 話すんだ
女 実はね あのとき 前の彼氏に振られたばかりだったんだよ
男 え そうなの
女 ん すごくショックだったんだなあ なんもかも真っ白で
ビルなんてなんかこうぐにゃぐにゃ曲がって見えて
ああ こんなに曲がってたら住んでる人大変だろうな
仕事場だったら仕事になんないなあ なんて そんな日が毎日続いた
朝 外に出てみたら あ 今日もビル曲がってるって まだ 続いてるんだこれ
どこまで続くのかな 線路みたいだねって そんなときだったんだよ
ぷるぷる震えたあなたが私の目の前に現れたのは
なんか笑えたなあ 可笑しかった ぷるぷるぷるって
男 ふーん
女 ま いいかなあって思った 誰でもって
男 ん
女 でもね だんだん 景色が変わっていったんだよ
真っ白だった景色に段々と色がついてきて
曲がってた建物が真直ぐに見えるようになった
ああ ビルってこんなに真直ぐなんだって感動したよ
そしていつのまにかね周りが普通の景色になった
つまりね 段々癒されていったんだよ 私は あなたに
男 ふーん
女 ん
男 …今でも前の彼氏 気になる
女 あははは そこか論点は
そんなわけないでしょ だったら結婚なんてしてないって
男 そうなん
女 そうだよ
男 ふーん
女 何
男 それでかあ
女 ん
男 あの時 なんかすごく淋しそうにみえたのね
いつも笑ってたのに突然笑わなくなった
いつも椅子に座って ぼーとしてた
女 ん それでもちゃんと仕事してたぞ
男 そう見えたんだよ ぼーとして 窓の外みて たまに頭をゆがめたり
女 ふーん 多分外のビルをなんとか真直ぐみようとしてたんだな
男 そしたら急に告白しなきゃって思った
女 え いきなり! なにそれ おかしくない
男 え おかしい?
女 全然 おかしい
男 そうなの おかしいかな そうか
でもね 多分 笑った顔が見たかったんだ 笑った顔が好きなんだなあって
女 笑顔にほれた男 ふーん
男 ん
女 笑顔だけ?
男 何
女 笑顔だけ?
男 ん
女 ん?
男 ん
女 ん? ん? ん?
男 う・うるさい
女 (くすくす)
あーあ 子供ほしかったな
男 うん
女 この狭い部屋でさ子供がばたばた走ってさ
ほらほらお父さん おしめおしめとかさ言ってみたかったなあ
男 うん
女 子供が大きくなって 引越さなきゃならなくなってさ
ローン組んでちっちゃな一軒家かなんか買って
また 子供が大きくなって
小学校行って 中学行って 高校行って 大学行って
就職して 結婚して 家から出て行って
そして また 二人だけになって 一緒に年をとって
その家にはね これぐらいのちょうど二人が座れるくらいの
ちっちゃな縁側があってね 日向ぼっこしながら
こう お茶なんか入れて飲んで ずずーって
今日もいい天気ですね おじいさんって
女 笑う 男もつられて
女 いいなあって
男 …
女 男の顔に手をやり
男 何
女 見ておく 忘れるもんか
私が消えたらそれも消えるのかも知れないけど
消えるまで消えないように
男 …
女 泣きそうな目をしてる
男 …
女 泣いてもいいよ(にやり)
男 ふん
女 あ
男 何
女 呼ばれた
男 え
女 呼ばれた そんな感じ
男 今
女 ん
男 行かなきゃかな
女 うん もう時間みたい
男 そう
女 最初寝ていた場所に戻る
そして おいでおいでする
男 何?
女 最後のホーヨー
男 …ん
男 女のそばによりやさしく包むように
女 あー短かかったけど幸せだったよ
男 うん
女 ごめんね 子供できなくて
男 ん
女 ごめんね 縁側で一緒にお茶飲めなくて
男 ん
女 ごめんね 一緒に生きれなくて
男 …
女 先に死んじゃってごめんね
女 男から離れて
女 じゃあね
男 ん
女 眠るように
男 女の隣にすわり そばでじーと女を見ている
暗転