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極光アポカリプス  作者: 南乃 展示
2章 雇用契約
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間隙を詰める 1


 生き方を選べるのと死に方を選べるのでは、どちらが羨ましがられるだろうか。



 サクラと話し合ったその日は、結局コスギの所へは向かわなかった。

 今はもう夜になり、そろそろ1日が終わろうとしている。


 もう既にススキと、そしてソラにはぼくが聞いた内容はすべて話しておいた。


 ススキはひとしきり『フォース』に対しての悪口をぶつくさと述べたのち、手近な物に当たり散らし、ぼくの着ている服を引っ張って伸び伸びにし、ぼくが手に入れてきた麻薬原料のサンプルを携帯トイレに放り込んでふて寝してしまった。なぜかぼくの寝床で。


 おかげで寝る場所を失ったぼくは、こうしてテーブルの前で座っている。

 やる事といったら昨日も使ったナイフの手入れか、それか考え事ぐらいのものだ。


 まあ、ススキが怒るのも理由は判る。

 『軍』は最初から、『図書館ライブラリ』の調査などアテにしてはいなかったのだ。

 既に彼ら自身が自分達の有する内通者から情報を得ていたのだから。


 普段の統計データは『図書館』のデータに頼っているようだが、今回の依頼のような調査については、言うなれば出来レースだったということになるだろうか。

 表向きは『図書館』の調査によって『農家』の不正が発覚したとする、ただの方便のための依頼だった。


 今でこそぼく達もある程度事情を知ることができたが、これがもし最初にぼくが請け負わず、ススキのみで調査をしていたらどうだっただろうか。

 そうだった場合、彼女は『軍』の手で踊らされていたのも気付かないまま調査報告をしていた可能性が高い。そして『軍』はその結果いかんに関わらず、最初から決めていた終わり方に強引に舵を切ったに違いない。

 今でこそサクラという『軍』の情報を得られる存在がいてようやく、話の背景の部分が判明したようなものだからだ。

 それが判ってしまったから、あいつも怒っているのだろう。


 今夜の『磁気嵐』がより本格的に始まってきた頃、ぼくの部屋の窓側から鉄板をずらす音が聞こえた。


 寝る時はいつも玄関側と窓側の間、一部屋の中央を分断するようにしてカーテンを引いているのだが、それをくぐってこちらも窓側に向かう。


 数日前に買ってきて窓の内側に設置した磁気避け目的の鉄板はアルミと銅線を内側に貼ったのちに下部にレールのような機構を取り付けており、小さな子の膂力でもスライドさせて開けることができる仕組みだ。


「ソラ、ぼくも出ていいか」


 閉じようとしていた鉄板が再び開き、窓の外からソラが顔を覗かせた。

 彼女本来の姿である白い髪が揺れ、そして赤と黒のオッドアイがこちらを見ている。


 開けてくれた隙間から外に出て、所々に最低限の補強をしてあるぼろいベランダに立つ。

 掃除だけはしっかりしているつもりだ。

 端の方にはちょっとした家庭菜園もどきもある。


 ソラが場所を空けてくれたので、もう少しオーロラの空が見やすいその子の隣へと距離を詰めることにした。


 外に出た途端に『磁気嵐』の影響が強くなり、僅かに視界の色が明滅し、低く耳鳴りが聞こえてくる。そして若干の頭痛に加え、わずかな嘔吐感まで。


 前回深夜に外に出たのは、2週間と少しほど前だっただろうか。


 それからぼくは間が空いていたが、ソラは1日も欠かさず外に出ていたはずだ。

 この子が出る時に毎回『磁気嵐』遮断用の鉄板をずらすのに苦労していたから、先日買ってきた新しいものにはレールを付けていた。


 相変わらず空は小憎らしくなるほどにいつも通りで、月も星も全て、夜の『磁気嵐』によって生じる極光オーロラの圧倒的な自己主張のせいでその存在を押しのけられてしまっている。


 たまには他の景色を見せてくれても良いと思うのだが、隣の子もそう思うことがあるのだろうか。


「今日、サクラに会ったことは話したが」

「サクラ。げんきな、ちゃいろのひと」

「……間違ってはいないが、日焼けによる肌の色の茶色い変化は、小麦色と言った方がいいと思う」

「こむぎいろ。わかった」


 ソラにとってのサクラの印象は、元気な人という評価に収まっているらしい。

 まあ、あの少し日焼けした肌とボーイッシュなシャギーが入ったセミショートの茶髪を見て、内向的だという印象を持つ人間はまずいない。


 またソラも彼女と会う機会があるかもしれないと思い、この子がススキのようにサクラと険悪にならないようにしなければとも思う。


「そうだ。そのサクラはなかなか子ども好きで、そして好かれやすい性質なようだ。ぼくが会った時には小さいの子達と遊んでいた」

「ミレイみたいな?」

「ああ、ソラともそこまで歳は違わないだろう」


 そしてその時の話と貰った握り飯の経緯などを話しているうちに、ソラは1つの単語が気になったらしく、首を傾げて訊いてきた。


「……あふたーます?」


 どうせいつかはソラも聞く単語であり、今さら隠していても仕方のないことなので、その言葉の意味を説明する。

 『災害後の子どもたちアフターマス・チルドレン』。

 『磁気嵐』発生から確認されるようになった、産まれた子どもにしばしば見られる多様な形質変異。それらが起きやすい世代の総称。


「わかった。わたしも、あふたーます」

「年齢としては、そう区分けされる」

「ケントも、ミレイも?」

「そうだ」

「ミレイのゆびは、ケントよりもたくさん」

「そういうこともある」

「わたしのかみ、しろい」

「それも『磁気嵐』によってそうなった可能性はある」

「かのうせい」

「可能性だ。だから、夜に景色を見るかどうかはソラ自身が決めて構わない」


 空を眺めて考えていたのか、あるいは言葉を探していたのか、その子は少し考えてから言った。


「いいけしき。しゅうかん。ひびのうるおい」

「……最後の言葉、ススキに教わったな」

「うん」


 それならば、ぼくから言うことはない。


 普通の人なら1ヶ月ずっと浴びたら狂って死ぬというまことしやかな風説すらある、真夜中の活性化した状態の『磁気嵐』を眺め続けてきたソラ。


 それが緩慢な自殺にあたるのか、それともただの景色を眺める習慣で終わるのかは今は判らない。

 だが、直接の死の危険がないものを声高に叫んで止めるようなことはするつもりがなかった。


 少なくとも4、5年浴び続けた上で、それを日々の癒しとまで言い切ってしまうソラだ。体調が悪くなったりといったことも無かったらしい。その時点で既に、うさんくさい定説など遥かに超えたラインにこの子はいる。


 そうなると、そんなソラよりもむしろ自分自身の方が、『廃品回収スカベンジャー』などというよほど死に身近な生き方をしている自覚もあった。


 『集合体コミュニティ』においては、他の様々な要因によって人間の死を目にする機会すら多いのが現状だ。さらに言うなら、『集合体』の中も外も関係なく、この世界は人間の死が日常で、かつ不平等に訪れる。


 この子もここで生きる以上、そのくびきを逃れることは決してできない。


 ならば。


「明日コスギの所に向かう。決着をつけたい。ソラはどうする」

「いく」

「一応言っておくが、ススキのぶんの仕事はもう果たしている。そして危険だ。それでも行きたいか」

「もんだいない。いく」

「判った。明日も付いてきてくれ」


 生き方も死に方も選べないのなら、せめて誰か1人くらい、いま何をしたいかぐらいは訊く人間がいても良いだろう。


 そう思った。


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