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極光アポカリプス  作者: 南乃 展示
1章 消費社会
22/42

石を布く 1


 健康的で文化的な最低限度の生活。


 電気と聞いて真っ先にイメージするのは、大体の人は照明としての役割だと思う。


 しかし今はもう、電力を用いた照明設備はほとんど使えなくなってしまった。


「そして8年前にあった蛍光灯なんてのは無用の長物になってしまったというわけだね。なあサトミ? 長細い蛍光灯を無用の長物とは、私もうまいことを言うだろうサトミ?」

「料理してる最中にくっついてくるな」

「私一人を仲間はずれにしてデートに行ったやつが悪い。それにほら、ソラも気になって見てるだろう。ついでにこの子の勉強さ」


 今はちょうど、夕飯の支度をしていた。


 ぼく達の住んでいる部屋には、玄関から入ってすぐの右手側に調理場がある。

 キッチンというのもおこがましい、元あったシンクを取り除いた跡地に耐熱加工がされた廃品を組み合わせて作ったかまどと、最低限の広さの調理台があるだけの代物だ。水も自力で汲んでくる。


 調理する時は適当な燃料に火を入れ、窓を開け、昔の電気コンロと比べてはるかに弱い熱で煮炊きをしている。

 しかも、燃料は焚き木や適当な古紙、固形燃料など使うものに幅があるため、毎回の火力も安定しない。


 そんな条件下であればこそ、作った料理が多少焦げたり、汁物の茹でが足りなかったとしても仕方ないというものだろう。


 今日の料理番だったぼくは、自分の作った食べ物、いや可食物を皿に取り分けていった。


 キッチンの入り口でこちらを覗いていた2人を、手招きして呼び寄せる。


「……だから、この『集合体コミュニティ』での照明は、前の時代からまだ残ってる電池を用いたライトや、それも少なくなってきた今は、主に栽培した菜種アブラナやサトウキビかすなどから取った油を燃やして使っているわけだね」

「おもに、あぶら」

「うむ。そろそろサトミの料理も終わったことだし……。って、あ、また料理に失敗したな?」

「ごめん。失敗した」

「こればっかりは君が苦手とする所だよなぁ。……うん、まあ味はそこまで酷くない。火加減だけだな」

「フォローは要らない、ごめん。ソラ、もし食べれなければ言ってくれ。保存食の方を開ける」

「おいおい、しょげるなよ。かわいいな君は」


 自分では判らないが、そこまで沈んだ表情をしていただろうか。


 むしろ、どうしてススキが毎回上手く火加減を調整できているのか疑問だ。

 それだけではなく、味を調えるのも包丁(さば)きもススキの方が数段上手いこともあり、ぼくと彼女では同じ調理をしても全く別の物ができると言っても過言ではなかった。


 他の細々とした作業も得意なこいつは、器用さというか、センスがぼくよりもずっと優れているのかもしれない。


「じゃあソラさんや、この皿をこぼさないように持っていくんだぞ。気をつけてな」

「わかった」

「いい返事だ。そんないい子には私の箸を貸してあげよう。なに問題ない、私とサトミは箸を共有して使えばいいだけの話さ」

「問題だらけだ。ススキ、そこのスプーンも持っていってくれ」

「あいあいさー」


 最も近いテーブルはぼくの机であるため、いつもそこが食卓になっている。

 幸いなのは、テーブルのサイズは何も考えずに大きいものを選んで使っていたため、ソラを含めた3人でも充分広く使えることだろうか。


「こげてる。……もんだいない」

「ソラは優しいなぁ。今日はジャガバーグとシチューもどきか」

「そんな名前だったのか、これは」

「たった今、名前をつけてみたよ!」


 今日の夕飯は、ジャガイモをすり潰して塩とにんにくで味付けして焼いたものと、水を張った鍋にニンジンや葉物をいくつかを入れ、小麦粉を入れてとろみを付けて煮たスープ的なものだ。

 言われてみれば、確かにハンバーグの中身がジャガイモで置き換わった料理と、牛乳や肉を省いたシチューらしき料理に見えなくもない。


 『集合体コミュニティ』では肉はロクに手に入らないが、魚は東の湾岸で水揚げされたものが食卓に並ぶ時もある。

 どれも放射線の影響か奇形ばかりだが、それを気にしてはいられない。


「米と醤油、この2つが食卓に無いのはこの国の人間としては非常に惜しまれるよねえ。魚醤は手に入らなくはないけどさ」

「米は保存食がごく稀に売っているが、醤油は難しいな」

「どちらも高級品だね。大豆は専用の『農家』のプラントがあるから、あとはこうじ菌の安定培養と、温度を調整できる大規模発酵設備があればどうにか……。ダメだ、まだ大量生産には手間が掛かりそうだよ」

「そうだろうな」


 テーブルを囲むように座る。

 予備の食器はあったので、ソラにも問題なく皿やスプーン、箸を用意できた。


「では皆さんご唱和を、天におられる我らが」

「いや、何を突然始めだした」


 唐突に目の前の金髪が両手を組んで祈り始めたのを止める。

 もちろん普段はそんなことしていない。

 どうせ言及したところで、宗教的な天使らしさがどうのとか、訳の判らないことを言いだすつもりだろう。


「ぶー! まあいいや、じゃいつも通りいただきます」

「いただきます」


 ススキとぼくがそう言うと、横に座ったソラが怪訝な目でぼく達を見ていた。


「ああ、食べる前はこう言うんだ」


 説明の好きなススキが、この挨拶の意味をソラの疑問に先んじて解説する。


「でも実際、言うたびに毎回本来の意味を意識してるってわけでもないんだよねぇ」

「習慣みたいなものだろう」

「しゅうかん?」

「毎日暮らしてるうちに、やっていて自然と身についた仕草、という意味だ」

「わかった。……いただきます」


 ススキが焦げてるとか生煮えだなどと食べながらいちいちコメントをしている横で、ソラも皿と向かい合う。

 しかし、動きが止まっていた。

 2本の棒をじっと見ている。


「箸は知っているか、ソラ」

「はし」

「その同じ形の2本の棒は箸と言って、食事の際に食べ物を口に運ぶ時に使うものだ」

「スプーンと、おなじ?」

「そうだ」

「つかうと、ゆうしゅう?」

 

 同じ役割ならスプーンで間に合っており、それよりも箸を使うことには、何か箸に有利な点があるからなのか、という質問だと解釈した。

 少しずつ、この子の考え方を察せられるようになってきた気がする。


「箸は突き刺してものを拾い上げられるが、スプーンはこうして汁物をすくうことができる。どちらも良い点と悪い点が存在し、言ってしまえば好みの問題だ。それでも箸を使うのは、まあ習慣だ」

「しゅうかん。わかった」


 頷いたのを確認し、箸の使い方を見本として見せる。手を取って持ち方を直接修正できれば良かったのだが、それはできない。


 だが、ソラは見ただけであっさりと使い方を覚えてしまった。

 もう既にぼく達と遜色なく箸を使えている。


 とても物覚えが早い子なのだろう、と改めて思いつつ、ぼくはすくった汁物を野菜ごと口に入れた。


 レタスがバリッと音を立て、ニンジンの芯が非常に食べごたえのある硬さだった。


「……煮えてないな。ソラ、ススキ、食べれなかったら遠慮せずに言ってくれ。責任を持って処理する」

「そういう時もあるさ」

「そのままよりは、やわらかい」


 いやソラ、その比較はどうなんだ。


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