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第一話*銀河へ

俺は今、街を見下ろしている。


高層ビルの屋上。


そこは通常では人が立ち入る事は出来ぬ場所。


俺もどうやってたどり着いたのか分からない。


摩天楼から見下ろす街路は、この都会を循環する血管のようなもので、照らすネオン、走り去る車の過ぎ行くライト、そしてそのライトを指揮するシグナルの色によって、実におかしな色彩を描いている。


ぼんやりと、視線を上げると、摩天楼の背比べが目に映る。


それぞれが独特に光を放ち、それぞれの外観を闇に映し出す。そんな中の一つから、建築者の趣を伺おうと、闇に浮かび上がっては消える細部を見ようとするが、上手く捉える事は出来ない。まるでこのビルは人のようだな、誰かの理想を映し出す事に必死で、自分らしさを犠牲にしている。


そう考えていると、ゆらりと人影が動くのが、ビルの屋上に見て取れた。


ああ、そうか。俺は今日もこの世界にやってきたんだった。ここは現実ではない。だからあいつは、揺れ動いているんだ。


きっと同じような気持ちで俺を見ているんだろう。


見ていろ、俺は飛べるぜ。そう思い、体重を前にかけ、自由落下を試みる。試みは見事に成功し、俺は頭から地面へ向かって落ちていった。


摩天楼は、俺が急速に落下すると同時に高さを増していった。グングン加速しながら落下する感覚を味わいながら、虹色の光に照らされた街の血脈を見据えるが、一向に地面との距離は縮まらない。


当然だ。ここは仮想世界なのだから。この奇妙な全能感をニヤリと一笑いして、さらに俺は加速した。


加速がピークに達した時、俺の意識は世界とシンクロしていった。過ぎ行く車のライトは、まるでワープするかの如く、光線として浮かび上がり、シンクロが進むにつれ、背景は青い銀河へと様変わりしていった。


この充足感、ここでしか味わえない極上の果実。


俺はこの感覚に浸るのが好きだった。ここにいる間は、自分がちっぽけな存在だと言う事を忘れさせてくれるからだ。


加速が止み、ふとおれはそこに降り立っている事に気がついた。


群青色の宇宙に、極彩色の星々が輝いており、俺はその全てを見渡す事が出来た。ここは何もない宇宙の中の荒野。


遮るものは何もない、平らな空間には俺の影が不自然な程、鋭く、長く、濃く、そして寂しげに揺れている。気がつくと、誰かが目の前にいた。この姿はどこかで見た事がある。


思い出せない。でも何故かその存在感は暖かく、俺に不思議な希望を与えてくれた。


目を凝らし必死にその姿を捉えようとするが、俺はそれが誰なのか認識する事が出来ないのだった。


こんな事があっていいのだろうか。ここは俺の世界だ。俺の望むもの全てが手に入る空間だ。


それなのに、何故俺はそれを瞳に映す事が出来ないんだ?そんな疑問が解ける事は無いまま、世界は姿を変えようとしていた。


ホログラムの世界が崩壊していくように、地平線の彼方から世界は再構築を始めた。


そうか、この瞬間、俺は、誰かと無意識の意識のはざまで干渉しあっていたんだ。


ぶつかり合いながら、それでも一つになろうと、もがき苦しんだ、そんな世界を誰かと共有していたんだ。


だがそれが誰なのかはもう分からないし、世界は再構築を始めてしまっている。


「遅れるとこの渦に飲み込まれちまうぜ!」そう俺は叫ぶと、ふわりと宙に浮かび上がり、一気に急上昇していった。


続く

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