消しゴム~消せない想い~
初めて短編、さらに恋愛というジャンルを書きました。
楽しんで貰えたら嬉しいです。
ある日の午前。
カオリは部屋の掃除をしていた。
散らかっていたマンガを本棚に揃え、脱いだままだったセーラー服をハンガーに吊るし、ぐちゃぐちゃだったベットをキレイに整頓する。
片付けがだいたい終わったところで1階に下り掃除機を取ってきた。
この掃除機一台で、床から布団まで掃除できる上に吸引力が高く、箸しか持ったことのないような女の子でも持てるほど軽いという優れもの。
とりあえず床に掃除機をかける。
カオリ自身、掃除は苦手だがこうやってキレイになることは嫌いじゃない。
一通り床をキレイにしたところで、ふと顔をあげると散らかった勉強机が目の前にあった。
カオリは長いため息をつき、掃除機をおいて机の片付けに取りかかる。
修学旅行のお土産のシャーペンは右に、いつも使うマーカーは左に。
短い鉛筆は捨て、受験勉強でよく使ったインクギリギリの赤ペンも捨てる。
(この消しゴム......)
カオリはそっと消しゴムのカバーを外す。
そこには [守日] とかかれていた。
カオリは自然とあの時のことを思い出していた。
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中学2年生のカオリには好きな人がいた。
カオリとはクラスが違うが、学年でも人気者のタイヤという男子だ。
しかしタイヤには付き合っている人がいるという噂が立っていた。
その噂の相手もまた美形で、学年公認のお似合いカップルみたいな感じの雰囲気になっており、嫉妬深い女子でさえも黙認していた。
その相手というのがカオリのクラスメイトであり親友のレイだ。
とある土曜日、バレー部の活動を終え、カオリはレイといつも通り二人並んで帰っていた。
二人が別れるY字路に来たとき、カオリは意を決してレイに聞いた。
「ねぇ、レイとタイヤ君が付き合ってるってホント?」
「なんでそんなこと聞きたいの?」
「え、えっと......私達親友でしょ? 隠し事はなくしたいなーって」
カオリがそう言うと、レイの顔からは明るさが抜け落ちた。
正確には顔は笑っているのに目が笑っていないようにみえる。
レイがこの顔をするときはそれ以上聞かれたくないとき。この顔のときは踏み込んではいけない。最悪1ヶ月はろくに会話しなくなる。
「......そう。付き合ってはないよ。というか親友だからって隠し事をなくすのは違うと思うよ? カオリは隠し事を言える?」
「そ、それは...」
カオリが言葉に詰まっていると、レイはその場の空気を戻す為に手を叩き、顔を笑顔に戻した。
「はい! この話はここまで! 隠し事があったとしてもずっと仲良しでしょ?」
「そ、そうだね......!」
そこで二人は別れる。
カオリはレイにこのことを聞くのは止めようと決心した。
「まさかカオリまでとは......」
カオリと別れたレイは誰にも聞こえない声で呟いた。
*
カオリは家に帰り1人もんもんとしていた。
(レイがあんな顔するなんて......付き合ってるって認めてるようなものじゃない!)
カオリにとってレイは大切な親友だ。
休日だって二人で遊ぶし、高校も一緒のところに行こうと決めている。
その親友の恋の邪魔はしたくない。かといって自分の恋をこの場で諦めるというのも難しい。
カオリの頭ではそんな思いが行ったり来たりしていた。
そんな時だった。とある友人の言葉がカオリの頭をよぎった。
『ねぇ知ってるぅ? 消しゴムに好きな人の名前を書いてぇ、誰にも名前を見せずに使い終わるとぉ、その人と両想いになれるんだってぇ!』
早速カオリは新品の消しゴムと黒マッキーを取り出す。
消しゴムの透明なカバーを開け、紙のカバーも外す。
そして本体にタイヤの名字である[狩日]と書いた。
(これくらいなら私もタイヤ君と付き合えるかもしれないし、レイの邪魔にはなってないよね?)
多少歪んだ理論を組み立てたカオリ。
カオリ自身も正直上手くいくとは思っていない。
それでもカオリが"レイとの関係をある程度保ちつつ、タイヤと付き合う"という難しい要望をかなえるにはこれにすがる他なかった。
(よし! 早速明日から使おう!)
カオリは小さく、されども堅く誓うのだった。
*
カオリが誓ってから数日後、消しゴムもある程度使われていた。
特に消さなくてもいいところも、字が汚いからと自分に言い訳して使って来た甲斐あって、すでに4分の1は削れている。
皆帰った放課後の教室。
この調子ならとカオリも少し油断していたのだろう。
カオリの机の近くに来ていたレイがふっと消しゴムを手にした。
「あれ? これこの前買い替えたばかりじゃなかった? 何でカバー切らないの? 使いづらくない?」
私が片さなかったばかりに......!! とカオリも悔やむが、時すでに遅し。
「あっ......」
カオリが手を伸ばすもその前にレイがカバーを開いてしまった。
レイが中身を見た瞬間、ここだけ時が止まったのではないかと思うほどの静寂に包まれた。
レイも最初は消しゴムに [守日] とだけ書いてあり困惑したが、すぐに誰のことだか理解した。
カオリは色々な気持ちで頭がいっぱいになっていた。
好きなひとが親友にバレたという羞恥。
この後またレイが今まで通り接してくれるかどうかの不安。
この時間が終わらないことへの焦燥。
それを軸に物凄い数の気持ちが入れ替わり立ち替わりカオリの脳内に浮かぶ。
次にレイが口を開いたのは数秒後か数分後かカオリにはわからなかった。
「カオリはタイヤが好きなの?」
レイはその消しゴムの文字が意味することを知っている。
「.........ぅん」
ここまで来て誤魔化しは出来ないと判断し、カオリは小さく頷く。
「......そっか。そうなんだ」
「ごめんね。レイの彼氏とは知ってるんだけど......それだけじゃ諦められなくて」
「......はぁ」
レイは深いため息をつき、口を開いた。
「ひとつだけいい?」
レイはカオリの机に手を置き、座っているカオリを見下ろす格好になる。
「...言っておくけど俺、同性愛者じゃないから」
「え? でも女子のみんなが...」
「噂をすぐに信じちゃうその性格、どうにかしなよ。噂は噂でしか無いんだからさ」
まだその言葉が信じられないカオリはレイに疑うような眼差しを向けている。
レイは女子達からBLの対象に見られることを不快に思っていた。
やはりカオリは噂を真に受けてしまっていたらしい。
そのためこの前はカオリまでそう思ってしまうのかとキレそうになってしまったのだ。
レイは長いため息をつくと、覚悟を決めたような顔になった。
「.........それと、俺が好きなのはカオリ、お前だから」
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ピーンポーン。
下からインターホンがなり、カオリの意識は部屋に引き戻された。
今日は家に彼氏がくる予定。部屋の片付けはほぼ終わっている。
カオリは消しゴムをゴミ箱に投げ入れ、玄関に向かった。
「いらっしゃい、レイ!」
どうでしたか?
自分的にうまくかけたかなと思います。
ちなみに、この小説の中でレイが女子だという描写はありません。もう一度読み返してみてください。
この作品はお題を消しゴムに定めてから書きました。
皆さんが楽しんでくれたなら幸いです。