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ペトラさんと大追跡

 二人並んで早足で路地を歩く。


「ペトラはいつもああやって店を開けてるのか?」


「週に1、2回くらいです。商人の修行の一環なので、他にもいろいろやってますです。お兄さん、お金がないのなら貸してあげますですよ」


 金貸しまでやってるのか。まだ若いのに手広くやってるな。


 そんな話をしていると、大通りまできた。先ほどまでとは打って変わって数え切れないぐらいの人、人、人。遠くまで見渡しても人だらけだ。何も手がかりがないまま人捜しだったらうんざりしているところだが、目的地は一つだ。


「で、どこへ行くんですか?」


「ああ、ここから少し離れたところに古道具屋があるんだ」


「もしかしてあのじじいの店ですか? 店内がめちゃくちゃ狭くて暗くて怪しい品ばっかり売ってるところ」


「知ってるのか」


「そりゃあもうあのじじいには何度も煮え湯を……。あそこなら盗品でも何でも買い取りそうですね。早速行きましょう」


 目的の古道具屋に着くと、俺たちは店には入らずに外から中の様子をうかがった。


「店の脇の隙間からだったら中の声が聞こえるかもしれません」


 ペトラはリュックを降ろして手に持つと、建物と建物の間の狭い隙間に入っていった。こういうときくらいは俺に預けてもいいと思うのだが。俺も後に続く。


「何か聞こえるか?」


「シッ!」


 人差し指を唇の前に持ってくるペトラ。耳を澄ますと中から話す声がわずかに聞こえた。


「じいさん。早くしてくれよ。高く買い取ってくれるって言ってたろ」


「……そう急かすな。まだ時間はあるだろう。それともガストン以外に気になることがあるんかいの」


「ね、ねえけどよ」


 つっけんどんな返事をする少年。後ろ暗いことがあるのを見破られてるな。


「ま、とにかく一度持って帰れるといい。金は用意しておいてやる」


「ぜ、絶対だからなじじい!」


 すぐに店から出てきそうな雰囲気だ。目でペトラに合図を出し、二人で隙間から出ようとする。


「あっ」


 ペトラが声を出した。次いでガシャンと大きな音がする。ペトラの大きなリュックがほうきの柄が引っかかって倒れていた。


「ちょ、おま……」


 俺は焦って出口の方を見る。目と目が会った。泥棒少年達が驚愕の表情を浮かべ、


「逃げるぞ!」


 少年(大)がそう言うと、彼らは逃げ出した。俺たちも隙間から這い出てその後を追う。


 少年達は大通りへ出ると、通行人の波へ紛れていった。


 俺たちも大通りを突っ切ろうと前に進む。


「ちょ、ちょっと待っ――へぶっ」


 ペトラが人の波に飲まれて消えた。体が小さいうえにでかいカバンしょってるからな……。


 後戻りしてもみくちゃにされているペトラを見つけた。


「つかまってろ」


 手をとって引き寄せ、肩車をした。


「ちょ、ちょっと! 何するんですか、降ろしなさい! めちゃくちゃ見られてるじゃないですか!」


「この人混みじゃこれが一番いい。我慢しろ」


「ううー……」


「どっちに逃げた?」


「もうしょうがないですね! あっちです。もうちょっと右!」


 ペトラが足で俺の右胸辺りをとんとんと叩く。俺は馬か。


 周囲の視線を一手に集めながら進んでいく。


 しかしながら……


「重い……」


 ボソッとつぶやいたのだが、ペトラは聞き逃さなかった。


「ハ、ハアアァァァーーー!? レディに向かってなんてことを!」


 バシバシと頭を叩いてくる。レディはそんなことしねぇよ。


「いってぇ! グーはやめろ! リュックだリュック。いてっ! 重いのはリュック!」


 そう言って振り向き、ペトラの顔を見る。まだまだ怒りは収まってなさそうだ。敏感なお年頃なんだろうか。


 ともかく彼女の指示を受けてしばしの間人波を掻き分け続けていると、ようやく人混みを抜けることができた。少年達の姿を探すと、ちょうど路地へと消えていくところだった。


 追いかけようと足を踏み出そうとした瞬間、


「もう人混みは抜けたんですから、さっさと降ろしてください!」


「いてぇ! おま、やめ――降ろすから叩くな!」


 ペトラがポカポカと俺の頭を叩いてくるのでたまらず降ろす。なんだこのばか力。叩かれるたびに視界が真っ白になったぞ……。


「ああ、いってぇ……」


 俺は頭をさすりながらも歩みは止めない。


「まちなさい! 今なら百叩きの上、市中引き回しで許してあげますよ!」


 ……それは許すと言わないのでは。


 少年達が眼前に迫ってきた。もう手が届きそうだ。


 と、少年が指笛を吹いた。辺りに甲高い音が響く。何の合図だろう。警戒しつつも追跡する。二人が角を曲がった。俺も角を曲がり――


「――ッ!」


 眼前に襲いかかる影。腰を落としてぎりぎりでかわす。俺の後頭部ギリギリを何かがかすめた。


「クソッ! お前ら囲め囲め!」


 目の前には目を血走らせた、先ほどとは別の少年。そして周りを10人近い少年達が俺を取り囲んでいた。手にはそれぞれが獲物を持っていて、殺気がこもった視線を向けている。


「お兄さん、大ピンチってやつじゃないですか、これ」


 少女が特にピンチという風でもなく言った。うーん他人事。


「お、落ち着け君たち。俺は盗られた物を取り返したいだけだ。返してくれたら何もしない。衛兵にも言わない」


「そんなの信じるか!」


 もう穏便に済ませられないな、と思った瞬間、背後に気配を感じて振り返る。


「おらぁ!」


「さっそくか!」


 棒を振りかぶる少年に体当たり。相手の腕を掴んで壁に押しつけた。


「まぁまぁ落ち着いて。荒事はよくないぞ」


「この野郎!」


 少年が叫び、俺に向かってこようとする。が、壁にでもぶつかったように止まってしまった。


「なんだ!? 腕が!」


 ふっふっふ。壁に押しつけたときに土魔法で固めたのだ。


「よくもヨセフを!」


 逆上した少年達が次々に飛びかかってきた。


「こっちだってやってやるです! お兄さん、全員ぶっ飛ばしちゃってください!」


 少女がシュシュシュッと虚空を殴る。無駄にキレがいい。


「煽るなバカ! さっさと逃げろ」


 そう言っている間に近づいてきた少年が拳を大きく振りかぶってきた。横に躱して足をかける。スッ転んだ少年を先ほどと同じように地面にくっつけた。


 つかみかかってくる相手には突進してくる勢いを使って地面に引き倒し、やはり地面にくっつけた。


「いけ! そこです! 全員お仕置きですよ!」


 ……楽しんでるな、アイツ。


「お前らちょっと落ち着け。俺は別に喧嘩をしにきたわけじゃない」


「そんなの信じられるか!」


 話を聞いてくれる感じじゃないな。残っている少年達も興奮状態だ。いったん落ち着かせないとしょうがない。


 いったん距離をとり、杖を取り出して魔力を一気に最大まで高め、


「大地よ、その怒りですべてを飲み込み給え」


 詠唱を完成させ、地面を強く踏みつける。目の前の地面がうねり、大きな波となって、悲鳴を上げる少年達を飲み込む。


 土の波が消えるとあたりには、体を土で地面に固められた少年達がいた。うめき声が上がっているが、けがなどはさせていない。戦意は喪失しているようだ。


 まだ一つ、こちらを伺う気配があったが、それはすぐに消えたのできにしないことにする。


「あーこれ食堂とかで見たことあります。ネバネバでネズミを捕まえるやつ」


「嫌な例えだな」


「それにしても魔法がお上手ですね、お兄さん」


「そりゃどーも」


 ペトラが聖剣を盗んだ少年に近寄るが、それらしき物はないように見えない。


「盗んだ物は返してもらいますよ! どこですか!?」


 少年はプイと顔を背けた。 


「とっとと返さないと一人ずつビンタですよビンタ」


 少年の顔の前でビュンビュンと風切り音を鳴らすペトラ。少年がギョッとした表情を見せる。


「余計なことを言うんじゃない」


 暴れるペトラを下がらせる。


「別に取って食おうって訳じゃない。俺はこの子が盗まれた売り物を取り返したいだけだ」


 といいながら、一人ずつ拘束を解いていく。


「……返せねぇよ」


「往生際がわるいですね」


「違う、もうガストンのところにもっていっちまったよ」


「誰ですかガストンって」


 眉間に皺をよせるペトラ。


「このあたりを牛耳ってる帰還兵……だっけか」


「そうだよ。アイツに金を納めないといけないんだ。聖剣のレプリカはもう持っていったよ」


 少年は悔しそうに歯を食いしばった。


「ほうほう……」


 ペトラはあごの下に手を当てると、俺を見て、少年を見て、また俺を見た。


「わかりました! ワタシ達がなんとかしましょう!」


 ペトラが自信満々で言った。なんでお前がそんな得意満面なんだ……。


「おま、何言ってんだ」


「大丈夫大丈夫。お兄さんのあの魔法ならぶっ飛ばせますって」


 他人事だと思って……。


「オッサン!」


 少年が口を開いた。誰がオッサンだ!


「俺たちからも頼む。さっきのすげえ魔法、きっとオッサンならアイツを倒せるはずだ」


 俺自身どれくらい戦えるか分かってないんだが。しかし、こう頼られたら無下に断るわけにも行かない


「……分かったよ。でも無理そうだったら全員ですぐに逃げるぞ」


 俺はしぶしぶ承諾する。先ほど感じ気配が間違いじゃなければ多分大丈夫だ。


「オッサン!」


 少年が目を輝かせる。だからオッサンじゃないって。


「オッサン、俺もやるぞ!」


 最初に壁にくっつけた、ヨセフが言った。


「お、俺も!」


「俺だって!」


 少年達が次々と声を上げる。


「いや、やめた方がいい」


 俺はキッパリと言った。


「な、なんでだよ」


「正直人質にとられたら、流石に俺も対応できない。君、ええと……」


「ジャックだ」


「道案内に、ジャックだけ来てくれ。……あとペトラ、おまえはここで帰れ」


 それを聞くと、ペトラは眉間に皺をよせた。


「えー、ここで一人で帰れって言うんですかー? 一人じゃ襲われちゃいますよ-。こーんな美人、いいカモじゃないですかー」


「美人ってのは置いとくとして――」


「置いとかないでください!」


「ここでお前一人は不安っちゃ不安だな」


「ちょっと、無視ですか!?」


「ここで待ってろ。後で迎えにくる」


 ペトラの頭をぐしぐしと強めになでる。ペトラは俺の手をペシッとはたいて落とした。


「子供扱いしないでください! マッタク、ここで待ってますからしっかり働いてくださいね。普段はしごとしてないんですから」


「え、おっさん……」


 絶望した顔を見せる少年。


「い、今はちょっと谷間の時期なんだよ。とにかく、お前の弟を助けるんだったな。ガストンはどこに居るんだ?」


「あ、ああ。こういうときはいつもあっちの開けてるところだよ」


 少年が先導する。


「こういうとき?」


「……粛正だよ。2週続けて上納金が足らないと、ここの連中を集めて見せしめにするんだ」


「ハァ-、とんだ悪党もいたもんですね。急ぎましょう」


 そんな会話をしつつ貧民街を歩く。街行く人々の表情は暗い。


 成り行きとはいえ、俺がなんとかしないと。なんて思っている自分がいた。

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