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四十四話

__________静寂が二人を包み込む。


京の街並みを通り越し、京都と大阪の府界に差し迫ろうとした時、三十万は越えるかという大群に正希達第一部隊は正面から衝突した。その時点では正希と千歳を取り巻く一般隊員の数は十八を数えた。作戦通り、残りの十八名にその場を託すと、正希と千歳はアンノーンの隙間を抜けるようにして直進して行った。


______大群を抜けて十数分が経過していた。


取り巻く隊員もいなくなり、流石に自らも交戦を覚悟した二人であったが、異常なほどに空は静けさを纏っている。


「……………ねえ、正希。コレ、絶対に招かれてるわよね」


正希は隣を飛ぶ千歳に一瞬視線をやると、小さく頷いた。


「だろうね。感知レーダーにも反応はないし…………いや、正確にはものすごいのが一つ。間違いなく、超高等アンノーン。そうでしょ、ミデン?」


『ええ。衛星からの超高等アンノーンの位置情報と、アグリメントから探知できる敵の座標が完全に一致しています。まず間違いないでしょう。目標まで、あと一キロメートルです』


「気を引き締めて行きましょうね。………あなたのことは私が守る。だから、私のことはあなたが守ってよね。絶対よ?」


少し顔を紅く染めて千歳は言った。正希を見つめる彼女の目からは、彼女の覚悟と隣を飛ぶ相棒への信頼の色が伺える。正希は微笑して頷くと、確かな声で返事をする。


「勿論だよ。もう、誰も死なせない。それに僕も死なないよ。君を残して死ねないからね」

「んなっ!!………………うぅ〜」


突然の不意打ちに、千歳は思わず唸ってしまう。そして再び正希に向き直すと、気恥ずかしそうに口を開いた。


「ね、ねえ正希………この戦いが終わったら話があるわ。だから、その……頑張りましょう?」

「奇遇だね、僕もあるよ。……頑張ろうね、千歳」

「うん」


柔らかく頷くと、千歳はキリッと表情を切り替えて、正面に向き直した。正希も顔を正面に向け、間も無く出くわすであろう最強の敵へと全神経を集中させた。


 ✳︎


『二月ぶりか!待ちわびたぞ!!』


大阪市中心部。丁度、かつては大阪市庁舎があった建物の上空に、『超高等』アンノーンは待ち構えていた。


体長は約三メートル。ブロンズの体は光沢を帯びてはいるものの、その容姿は人間のそれとほとんど変わらない。しかし、その体に秘められた圧倒的エネルギー量と遺憾なく放たれる圧倒的な存在感には流石の正希も圧倒されてしまっていた。


約二秒経過してようやく平静を取り戻した正希は、超高等アンノーンを穏やかに見下ろした。その瞳に静かな闘志と殺意を込める。


「二回………あなたは二回も、僕の大切なものを奪った。今日この日を、僕はどれだけ待ちわびたことか………。ようやく二人の仇が打てる」


前回は腹を抉られた本子を目の当たりにして、正希は完全に冷静さを失っていた。

しかし、今回は違う。もう二度、大切なものを失わないためにも、絶対に冷静さは失わない。正希は落ち着いた口調に、穏やかな怒りを乗せていた。


『二度?ああ、そう言えば前にも女を殺したな。………この間の女のように、腹を抉られ絶命した奴のことか。…………懐かしいな。死ぬ間際に、確か『正希くん』だとか何度も呟いていたな。誰のことかは分から無かったが…………ああ!分かったぞ!その口ぶりから察するに、『正希』とはおま________』


______________ドガァァァァァァァァン!!!!


爆炎がアンノーンに降り注いだ。千歳の怒りが頂点へと達したのだ。瞬間的にチャージした火炎弾を、怒りを込めて超高等アンノーンへとぶちまけたのだ。


「____________チッ!!!」


千歳は舌打ちし、蔑む目で爆煙を見下ろした。煙の中から姿を現したアンノーンには傷ひとつたりともついてはいない。


『不意打ちか?行儀がなってない女だな』

「人外のクセに何言ってんのよ?お前に使う気なんてないわよ。人にどうこう言う前にその減らず口をどうにかしなさいよ」

『獣のように野蛮だな。そんなに愛する男が侮辱されたのが悔しいか?』

「__________はあ?」


再び拳銃を構え、チャージを開始する。目標に銃口を向けたその時、千歳は自分の目を疑った。


「………………消えた?」


『後ろだ、獣女よ』


圧倒的な殺意を首元へと感じた時には、もう既に遅かった。どうにかガードしようと反転するも、僅かに相手の方が早い。


「しまっ____________」


カーーーーーン!!!!!!


甲高い金属音が鳴り響く。一瞬死を察した千歳の視界は、金一色で覆われていた。


「千歳っ!!!!!」


正希の咆哮が飛ぶ。次の瞬間、千歳の盾となった金塊は形を変え、弓となってアンノーンへと炸裂した。


『____________ッ!!!!!』


勝利を確信した瞬間には一瞬の隙ができる。その隙を正希は見逃さない。金の弓はアンノーンを貫きさえはしなかったものの、吹き飛ばすには充分な威力だった。正希は千歳へと駆け寄った。


「千歳っ!!!落ちついて!!!」

「__________っ!」


正希の言葉で、ハッとしたように千歳は我を取り戻す。バツの悪そうな顔で、小さく「ごめん」と呟いた。


「怒ってくれるのは嬉しい。君が二年前を忘れてないってことだから。モトのこともある。でも、今はダメだ。感情の暴走は死に直結する。頼むから、君は死なないでくれ」


「………………うん」


 一瞬千歳は俯いた。しかし、正希がアンノーンの飛んだ方角へと動き出したのを見て、慌てて顔を上げて追従した。戦場において、一瞬の迷いは命取りだ。


「千歳!!連携Aパターンでいくよ!!!僕が時雨を打ち込むから、千歳は奴の行く手を塞いで!!任せたよ、相棒!!」


戦闘中にも関わらず、正希はニコリと微笑んだ。仲間を守っただけでなく、励ますようなそぶりも見せる。そんな正希との圧倒的な人格の差を見せつけられ、情けなく思いながらも、千歳はパンパンと頬を叩くと、大声で返事を返した。


「うん!!任せて!!」

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