四十三話
「ついに現れたか!この間は取り逃がしたからなぁ!!次は逃さねぇぞ!!」
奈良県上空。大阪へと向かう鍋城と橋代路の前に、大天使のような形態をしたブロンズの生命体が立ち塞がった。
これまでに数十万という集団で襲い掛かり、第三部隊の隊員によって足止めされている下等中等アンノーンとは違い、その生命体が放つ存在感は異様なものだった。強さが体から滲み出ている、そう表現するにふさわしいほどに圧倒的で、神々しささえ感じられる。
『都合のいい解釈だな。弱い方よ。別にお前らが私を取り逃がしたわけではない。上の命令により私が退いたのだ。個々では私に敵わない者達よ。潔く私に始末されるが良い』
「弱い方」呼ばわりされた橋代路は、その言葉が余程頭にきたのか、アンノーンに向かって鎌状の風属性の刃を飛ばした。閃光のごとき勢いで放たれた刃は、空気を切り裂き一直線に高等アンノーンへと飛んでいく。躱す間も無く橋代路の攻撃は炸裂した。
『…………やはり、この程度か。避ける必要さえもない』
「………………硬いな」
風の刃が霧散するように消えていく。しかし、アンノーンの体には傷ひとつさえもついてはいなかった。
「コイツはどうかな?」
刹那、鍋城は手に持った本を空へと投げた。バッサリと本のページが風に揺れる。本が上昇を止め、自由落下に動きを変えようとしたその瞬間、鍋城はページのひとつひとつを撃ち抜くように風の刃をぶつけ始めた。空中に飛散した本のページは、風に折られ紙飛行機へと姿を変える。次の瞬間、三百を優に超える紙飛行機はアンノーンめがけて高速で飛んで行った。
『…………ッッ!!』
三百を超える乱撃がアンノーンに襲いかかる。先ほどは橋代路の攻撃を真正面に受けた彼であったが、まるで紙を拒絶するかのように、紙飛行機を躱していく。
「………………へえ、避けるんだ。やっぱり紙は効くんだね。植物が地球外にはないからかい?」
『……………ッチ!!!小賢しい真似を!!!』
中等以下のアンノーンとの戦いの際も、鍋城は本のページを武器として扱う。無論、彼の風属性の恩恵により銅を貫けるほどの威力と硬度を持つことを可能としためでもあるが、何万何百万とアンノーンを葬るうちに、彼にある確信が生まれたからでもある。
「思ったんだよ。幾ら何でも、たかが紙が鋭利すぎるってね。初めは僕の力だと思っていたけど、どうやらそうでもなかったらしい。……まさか高等以上のアンノーンにも効くなんてね。拒絶反応でも出るんだろう?」
『………図に乗るな餓鬼めが。私までには辛うじて効くが、アヤツには効かん。それに、攻撃を受けなければ相性も無いに等しいのだよ』
目の前の巨体は冷静さを保ってはいるものの、二人の脳内に響く音声はすこぶるドスが効いていた。
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