四十一話
爆炎がブロンズの生命体を襲う。
岩壁がブロンズの生命体を挟み込む。
暴風がブロンズの生命体を吹き飛ばす。
濁流がブロンズの生命体を押し流す。
正希が現在飛行しているのは、古都京都の上空だ。彼ら特化班を大阪に近づかせまいと襲いかかる下等アンノーンの群れに攻撃を放つのは、正希の周りを飛ぶ第一部隊の隊員である。
正希は攻撃したい思いをどうにか堪え、アンノーンの間をすり抜けるように飛行していく。千歳もそれに続いていく。
「ここは僕らに任せてください!!」
十数人の隊員が、ここでアンノーンを足止めするために正希のもとを離れていく。そんな隊員に「任せた」とだけ言い残し、正希は大阪を目指して飛行を続けていく。
「ミデン!!!」
戦闘用に開発されたAIプログラムの名前を叫ぶ。
『お呼びでしょうか!綾本さん!!』
「アンノーンをすぐさま感知して!逐一、集団までの距離とその数、そして各地の戦況の様子を教えて欲しい!六席との無線はすぐに繋がるようにしてて!」
『了解しました!!』
正希の隣を高速で飛行しながらに、ビシッと敬礼のポーズをすると、ミデンはディスプレイを出現させて目にも留まらぬ速さで捜査を始めた。
恐らくは各システムを起動させるプロセスを可視化しているのだろう。一見無駄にも思えることだが、死線を越える正希にとっては、無機質な音声のみのナビゲートに比べたら、まるで仲間が一人増えたようで好ましい。
『…………綾本さん、ご指示されたことは完了しました!!六席の方の名前を出して貰えば、私がすぐに回線繋ぎます!!綾本さんの視界上にも敵の数、目標までの距離を表示しました。視界の左下をご覧ください!戦闘に支障が出ないように半透明で各地の映像を表示しました!』
「ありがとう。さすが、完璧だね。あと、このままホログラムのまま出ててね」
『了解です!!』
「む、私はちょっと嫌だけど………まあ、今回は特別に許してあげるわっ!」
『綾本さん、前!!!』
何故か「フンッ!!」と顔を背ける千歳に、一瞬正希は首を傾げるも、すぐさま前方を向き直し、アンノーンの攻撃をヒラリと躱す。
「ちょ、エアシューズを使う時は前を見なさいって習ったでしょ!!滅茶滅茶前にアンノーンいるんだから、気をつけなさい!!」
「あはは、そうだね……」
そんな指摘を受けながらも、再び正希はヒラリとアンノーンの攻撃を躱していく。なかなか掴まらないことに業を煮やしたのか、アンノーンは集団で正希へと襲い掛かっていた。
「数が多いっての!!!」
正希は金を生成する。しかし、その量はほんの僅かであり、彼の手を纏う程のものだった。アンノーンの群れに向けて、手刀に変えた右手を繰り出した。
「くらえっ!!!」
時速二百キロの速さで繰り出された金の手刀は、まるで紙を突き破るかのごとくアンノーンを貫いていく。しかし、それでもなおアンノーンは束になって襲いかかる。今度は金時雨を生成しようと思った矢先、アンノーンの群れに向かって火土風水の遠距離攻撃が炸裂していた。
「六席はなるだけ温存するんですよね!!!だったらそのまま直進してください!!綾本さんの邪魔になる雑魚は僕らで排除します!!」
男性隊員の大声が飛ぶ。生成は軽く微笑すると、振り返ることもなく、しかし大声で叫んで前進した。
「ありがとう!!!絶対に死なないでくださいね!!!」
「了解です!!」と遠くから響いた声を信じ、正希はエアシューズのギアを上げた。
『綾本さん!!たった今、高等アンノーン二体と六席三名が衝突したようです!!』
「案外早いね。僕らも急がなくちゃ!!」
自らを引き締めるように頬を叩くと、正希は晴天の中のブロンズ達へとガンを飛ばした。
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