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第四話

________六時間後、東京スカイツリーの特別防衛庁本部に、第一席から第六席までの隊員が召集され、かつ内閣総理大臣兼防衛大臣と内閣官房長官も参加して、緊急会議が開かれた。勿論、議題は国防に関する事柄である。


「ひとまずは、緊急出動ご苦労であった。君たちの活躍で、隊員誰一人とて失うことなく敵兵三十万を殲滅させることができたことに、私から感謝申し上げよう」


内閣総理大臣が直接謝意を述べる。会釈した第五席の橋代路健吾はししろじけんごを除き、隊員は皆、首相を無言で見つめていた。その後、数秒間の沈黙が続く。それを割ったのは、正希であった。


「……………それで、防衛大臣。今回は何の要件ですか?……まあ、改めて聞く必要は無いでしょうけどね」


正希は首相を敢えて防衛大臣と呼ぶ。勿論、首相は防衛相を兼職をしているので、それは間違いでは無い。しかし、国の頂点に君臨する役職名で呼ばないのは、彼への反抗心からくるものであり、彼を国の総意と認めないという正希の意思の表れでもある。


「お前!!いち公務員の分際で、総理に失礼だろうが!!悪意が籠っているのは見え見えだぞ!!!」

「何のことでしょうか?えっと………官房長官…………でしたっけ?国防会議なのでしょう?なら防衛大臣と呼んで何か問題でもありますか?」

「お、お前っ!!!!」


部下であるはずの正希に軽くあしらわれたのは、内閣官房長官である草木元次郎くさきもとじろうである。顔を紅潮させ、眉を上げ、怒りを露わにする。このままでは一触即発もあり得ると判断したのか、首相が官房長官を「まあまあ」と制止する。


「もう!正くん!喧嘩はダメだっていってるでしょう?何回言ったら分かるの?会議なんだから、無駄に挑発したらダメじゃないの」

「うう…………でもほら、モトだって思うことはあるでしょ?」

「しのごの言わないの!!返事は!?」

「は、はい……………」


ここまでは、もはや恒例となりつつある会議の光景である。官房長官が第一席へと突っかかり、軽くあしらわれた官房長官を首相がなだめる。そしてかの第一席は、同じ孤児院で兄弟のようにして育った第六席の渡本子にお叱りを受ける。


ピリピリとしがちな会議であるが、正希が不満そうに本子に返事を返す時だけは、自然と皆、クスリと笑みを漏らすのだ。しかし、会議が本格的に始まると、すぐに皆の表情は真剣なものへと変わる。


「では早速本題に入ろうか……。君たちがアンノーンを撃退した後、結界修復班が破損部位の修繕へと向かった。君たちはそのまま結界『維持』に努めてくれ。それともう一つ。近いうちに、東海の奪還作戦を実行するつもりである。………現時点ではまだ思案段階ではあるのだが………何か意見のあるものはいるか?」


すぐさま挙手をしたのは橋代路を除く五人であった。首相が正希を指名する。


「正直言って、僕はこれ以上の軍事作戦を望みません。勿論、向こうが攻めてきた際には対応はしますが、これ以上領域を広げるべきでは無い。それに何より、隊員をこれ以上死なせるのは、僕のポリシーに反します。」

「そうか………他の四人はどうなのだ?」


「「「「同意見です」」」」


そんな五人の意見に、首相は多少顔をしかめた。現在日本の最高戦力である第六席の、その過半数が作戦の思案自体に反対しているのだ。その意見を無視して、この場で反感を買うことは彼にとっても好ましいものでは無い。首相はしばらく思考した後、五人に向けて口を開いた。


「そうか。ならば、君たちでも納得のいきそうな作戦を練っておこう。作戦は現段階ではまだ思案段階なので、本日採決に掛けるのは辞めておこう。それと、もう一つ。これは君たちにとっては朗報かもしれん。君たちの所有するAR搭載無線、『アグリメント』に、ナビゲータ機能を追加した。起動ボタンを押してみてくれ」


「へぇ……また便利になりましたね。別にいらない機能と思いますけど…」


そう言いながらも、正希はポチリと起動ボタンを押した。


『アグリメント、起動しました。ただいま新規データローディング中。しばらくお待ちください』


無機質な音声とともに、正希の視界には『Lording』

の文字が映し出された。このAR搭載無線は、使用者の視覚に干渉し、視界にAR空間を映し出す。更にはキーボードを映し出すこともできて、指のフリックに合わせて画面も動き出すほどに高性能な仕様だ。また、視界に映る景色に合わせ、様々な付属情報が投影されるという便利な機能付きだ。因みに、正希はこのAR機能だけで充分過ぎるほどに満足している。


__________これ以上機能追加されてもなぁ。ちゃんと使えるのかなぁ。


そんな不安を抱えながら、正希は読み込み率が百パーセントに達するのを待った。約数十秒後、『読み込み完了しました』との文字が表示される。ボタンを指でフリックしたその刹那、正希は思わず「あっ」と声を漏らした。


『こんにちわ!!本日より、ナビゲータに就任しましたミデンです!!よろしくお願いしますね!!』


視界に突如として現れたのは、青長髪のセーラー服姿の3D映像____否、現実の人間とも区別がつかないほどに精巧な、ホログラムの少女の姿だった。


「ふふっ。どうだね、綾本くん。君の好みの女の子だろう?」

「ぐ……………ぬぬ。こ、こればっかりはその………感謝し………」


________ます。と言い切ろうとしたところ、背中におぞましい視線を三つ感じた正希は、体をビクンと震わせた。視線の送り主は、西条院千歳、渡本子、そして第三席兼第二部隊隊長の益城ましきハルカである。

________私も、髪を青く染めてみた方が良いのかな…………。


三人とも、一様の思いを抱きながら、各々に美しく絹のような髪をいじっていた。


『特別班第一席綾本さんですね。貴方には、特別にさらなる追加プログラムが添付されています!』


再び喋り出したAIプログラムナビゲータことミデンに、皆の視線が集まっていく。ミデンはスタスタと正希に近づいて、彼の左手をそっと掴むと、ニコッと愛らしい笑みを繰り出した。突如不意打ちを受けた正希は一瞬失神しかけ、瞬間にして湯沸かし器のように真っ赤に顔を紅潮させた。


『全部隊に命令指揮を送ることのできる、マスターメッセージ機能です。どうぞ!!』

「ど、どうも…………」


正希の視界に、『NEW!』と言うアイコンと共に、新たにオプションボタンの表示が追加されていた。


『それでは私は失礼しますね!再び呼び出す先は、『ミデン』と名前をお呼びください!戦闘以外にも、話し相手や町案内、デートなんかも請け負いますよ!!勿論人によりけりですけどねっ。それじゃあ私はこれで!皆さんも、そして綾本さんも、これからよろしくお願いしますね!!』


小さく(確実に正希に)手を振ると、ミデンはぱぁっと光の破片になって消えていった。


「ふっふっふ………ミデンはまさに君の好みの女性だろう?因みにだが、最新鋭のディープラーニングシステムを導入しているから、感情さえも持っているぞ。もしかすると、彼女たち三人の最大の敵になる日も来るだろうな」

「ありがとうございます」


正希は先ほどの対立などとうに忘れ、上官たる内閣総理大臣に頭を垂らしていた。


「さて。君たちを読んだ要件はこれで終わりだ。今日の出動、改めてご苦労であった。ココのところ連戦続きだったようだからな。明日は特化班の全二百五十名には臨時休暇をやろう。これからは特に君たちの力が必要になるからな。明日はゆっくりと羽を伸ばしてくれ」


首相の言葉で会議が幕引きとなった後、各班員たちは各々に部屋を後にしだした。正希も流れに続き部屋を出た。


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