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三十四話


それから数十分後、正希は熊本市上空で結界補修完了の知らせを受けた。正希はその旨を隊員たちに伝え、熊本市に召集をかける。さらに数十分後、彼に召集を掛けられた第一第二部隊の隊員たち徐々に熊本市上空に集まり始めていた。


こうして作戦遂行後に隊員を空中に集合させるということは常時ならばならあり得ないことであるが、なにぶん九州には軍に関連する施設も隊員たちを集めるような保存状態の良い建物もない。なので、緊急時に備えることも含め渋々空中に全隊員を集める事にしたのだ。


「お疲れ様でした。みなさん。取り敢えずは九州の結界の構築は完了したので、これから本格的に移住なんかが始まると思います。皆さんの任務はここまでです。明日から一ヶ月間は特別形態で業務が始まります。各々確認して、今後に備えてください。それでは、解散です。ルートを守って、できるだけ集団で帰ってください。……小学生みたいなこと言ってますが、大事なことなので」


帰還の指示を受け、隊員たちが徐々に東京に向かって九州を離れていく。暫く時間が経過した後、一般隊員達が帰路に着いたのを確認し、正希達六席は結界の張り漏れや、アンノーンの撃ち漏らしがないか最終確認を行うために九州各地に飛んでいた。


正希が担当したのは福岡県一帯の地域だった。

北九州上空、正希は本州を一望している。先日はここで追撃似合い、危うく命を落としかけた。その様子を思い出し、改めて自戒する。


正希は暫く無言で観察した後、『彼女』を呼び出した。


「ミデン!!!」


彼の言葉に反応し、アグリメントにより見せられているAR空間に『!』コマンドが出現した。するとそのコマンドからホログラムが現れて、青髪の美少女が登場した。


『こんにちわ。綾本さん!お久しぶりです!!なかなか呼んでくれなかったので、退屈してましたよ!!』


はつらつと語る彼女に、正希はにっこりと笑みを送る。


「ごめんね。ちょっと色々あって………ミデンでAIプログラムだよね?退屈とか、そういう感情も芽生えたりするんだ………」


何気なくそう言った正希に、ミデンはプンスカと頬を膨らませて、腰に手を置き説教を始める。


『良いですか、綾本さん。AIプログラムと言えど、私はかなり高貴な部類なので、感情豊かなんですよ!!まあ、初期設定からディープラーニングで徐々に……って、危ない危ない。呼び出された事をすっかり忘れてしまうところでした。それで、何の用でしょう?』


「あはは。わかったわかった。ミデンも普通に女の子なんだね、心に留めておくよ」


『むきー!あなたは何時もそうですね。何かと意識させる言葉ばかりを!!ちゃんとアグリメントを起動させているときは見えているんですよ?』


目を細めてジーっと正希を見つめると、ミデンは腕を組み、「それで、要件は?」と本題に入るように催促する。


「まあ、見てたんなら話が早いや。ねえ、ミデン。超高等アンノーンのデータって採ってある?この間対面した時の、どんな小さなデータでもいいから」

『承知しました!ちょっと待ってくださいね!』


そうミデンが言った瞬間、彼女の周囲に可視化されたデータが滝のように溢れ出した。その滝のなかから、ミデンは超高等アンノーンに対する情報だけをピックアップして行く。数秒の後、ミデンの頭上には一メートル四方程のディスプレイが五枚浮かび上がっていた。恐らくは、それらが彼女が所持する超高等アンノーンの情報なのだろう。


そのディスプレイには、おびただしい数の『0』と『1』が羅列されていた。


『データの抽出が完了しました。只今よりデジタルデータをテクストデータに変換します』


ミデンがディスプレイに触れると、一瞬にして『0』と『1』の数字の羅列が消え、ディスプレイには日本語が浮かび上がっていた。

しかし、浮かび上がった日本語の情報に、正希は不満そうに顔をしかめる。


「……………これ、だけ?」

『………すいません。超高等アンノーンについては、情報がこれくらいしかありません。人工衛星からの監視情報だけなら膨大なデータに及ぶのですが、奴自身に関する情報は、十六年前に日本に攻めてきた時と、二年前の柴崎一席との対戦の時、それと先日の渡六席と綾本さんの戦闘データしか存在しませんでした。なので、報告書に換算しても数枚程のデータにしかなりませんでした………』

「そっか」


求めに応えられず、シュンとして落ち込む様子を見せるミデンに、正希は苦笑して「気にしないで」と励ました。AIプログラムと対話しているのにも関わらず、正希は普通の人間と会話するように自然体で話していた。正希には落ち込むミデンは普通の人間とそう差異のない存在にも思えた。


『一応、分かった事をお伝えしますね。まず戦闘力についてですが、超高等アンノーンの戦闘力は高等の数十倍に及びます。取れたデータだけを見ても、綾本さんを上回るのは確実です』

「そっか。僕も対戦しててそう思った。多分僕じゃ勝てないね。僕もまだ弱いなぁ……」

『も、申し訳ありません!!!!失礼しました!!ご気分を損ねましたか!?』


少し表情を暗くさせた正希に、ミデンは反射的に謝罪していた。彼女が頭を下げるたびに、ホログラムで作られた美しい髪の毛がなびいていく。

恐らくは彼女のプログラムが正希の表情の変化を『失言』によるものと判断したのだろう。

そんなミデンに、正希は「いやいや!」と両手を前でわちゃわちゃと振って否定する。


「違う違う!別にミデンの言葉で不機嫌になったわけじゃないよ!そもそもちょっと不機嫌じゃないし、ただ情けなく思ったていうか…………まあ、そういうわけだがら、君の認識プログラムに自己修正を入れてて!」

『?りょ、了解しました。すいません、不完全なプログラムで……』

「あ、いや………ごめん。言葉の選択を間違えた。まあ、そのうち人間の表情や言葉の真意についても分かってくれれば……………それで、他の情報は?」


いちいちミデンの認識の間違いを指摘しているとラチがあかないし、その都度落ち込む彼女を見ると罪悪感が募ってくるので、正希は適当にはぐらかして超高等アンノーンの情報へと話をシフトさせる。


『そうですね。これも戦闘力の部類に入りますが、耐性がある属性は分かっています。少なくとも、故柴崎一席の土、故渡六席の火、そして綾本さんの金にも耐性があるようです。これは私の推測ですが、超高等アンノーンは高等以下と違い、属性への弱点が無いと思われます。先日の超高等アンノーンへの綾本さんの攻撃の威力を換算したのですが、高等アンノーンにも大打撃を与える程度の威力はありました。それを喰らって平然としていた事を見ると、やはり五属性が奴の弱点とは言えないかと……』

「なるほどね………」


先日、本子を救うためにアンノーンへ繰り出した攻撃は、まず間違いなく正希の全力を込めていた。それを喰らってのうのうとしていた様子を見て、正希は『勝てない』と判断したのだ。だからこそ、ミデンの推測にも正希は頷かざるを得なかった。


「ここ数日の超高等アンノーンの動きは分かる?相変わらず大阪からは動いてないのかな?」

『…………そのようですね。綾本さんが九州に向かった際も、高等以上のアンノーンは動く様子を見せませんでした。今までの例を見ても、高等以上のアンノーンが動いたのは、二年前の大規模作戦と、四国奪還作戦の時のみでした』

「何か、共通点はないのかな?そこから導かれる法則とか……」


『法則ですか…………うーん。難しいですね』

依然AIプログラムの範疇にあるミデンにとって、思考というプロセスは苦手な部類に入る。まるで人間の所作のように、腕を組み、手に顎を乗せ『考えるそぶり』を見せていた。しばらく「うーん」と唸っては見たものの、答えが出なかったのか、ミデンは手でバッテンを作った。


「そっか…………まあ、僕も普通に分かんないし………。あ、それともう一つ聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」

『ええ、勿論です!』

「ミデン的にはさ、二属性混ぜる攻撃なら超高等アンノーンに通用すると思う?」


『………………………はい?』


余程、正希の質問が想定外だったのか、思考を高速回転させたミデンは、十数秒の間ショートして機能停止に陥っていた。


✳︎

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