第三話
人類に成り替わり、世界の覇者に君臨したアンノーンには、放射線が振りまく宇宙空間から来た事もあってか、核爆弾等の化学兵器への耐性が非常に強い。防衛省の技術を結集したウラニウム爆弾でさえ、アンノーンにはかすり傷程度しか与えることができなかったのだ。
しかし、九州を完全制圧されたその時、死の恐怖から錯乱したある兵士がアンノーンに放ったなけなしの一撃(とはいえ、武器を失った兵士が投げつけた木の枝であったのだが)により、状況は変化する。
__________核爆弾さえもものともしないアンノーン達が、木の枝を避けたのだ。
これは、後にアンノーンの死体を解析して分かった結果であるのだが、彼らアンノーンの体は、地球独自の環境及び物質に、致命的な程に拒絶反応を示すのだ。
この報告を受けた当時の秋ノ丘防衛大臣は、禁忌とも呼ばれていた人体実験に踏み切ることを決断する。
__________それが、現在の特化班の隊員達を生み出すことを最終目的とした、『特別化学適応個体生産計画』であった。
幼児に様々な化学的刺激を長期的に与えることで、火土木水金の五つに分類される自然現象を生み出すことを可能とする、人間兵器を作り出す。そんな夢のような個体の生産に成功した日本は、後退一方だったアンノーンとの戦争を、ほぼ均衡に保つほどに、戦力を格段に増幅させた。
無論、当時から倫理的な問題が指摘されていたことは言うまでもない。しかし、アンノーンの進撃を止めることが全日本人の願いだっただけに、行政も司法も立法も、果てにはほぼ全国民までもが、この計画を黙認した。
そうして生まれた彼ら『特化班』は、度重なるアンノーンの進撃のたびに出動し、五重の物質粒子で生成した結界を維持することで、国土防衛に多大なる恩恵をもたらす、全国民が「戦力として」絶大なる信頼を寄せる存在へとなっていった。
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「今回は敵がかなり多い!!西条さんは僕と一緒に沿岸部に回ってアンノーンへ攻撃!!モトと鍋城さんは第二部隊と一緒に陸から奴らを攻め落として!!第一、第三部隊は僕たちが漏らしたアンノーンを追撃!!」
戦場に到着するや否や、第一席の地位にある正希は、全隊員へと指揮を出した。各々「了解!」と返事をすると、正希の指示に従って行動する。
隊員が動き出したのを確認し、正希は空を蹴り出し、海へ向けて高速で移動した。エアシューズ(原子力をエネルギーとして、空気を吸収、排出することで反作用を生み、空を飛ぶことを可能にする靴)を装備した彼の移動速度は、実に二百キロを超える。そんな彼に並行して飛ぶのは、第二席の西条院千歳である。
「もうっ!!正希!!私は西条院なのよ!?どうしていつも『院』を略するのよ!!」
「別にいいでしょ……院が無くても、君のことだって分かるだろう?」
「それは確かにそうだけど………」
______どうしていつも名前をちゃんと呼んでくれないのよ。
隣を飛ぶ少年に、そんな不満を抱くものの、「別にいいけど」と素っ気なく会話を終わらせる。今は戦闘中である。戦いに無関係な私情は、余計な隙を生みかねない。
「……………それで、今回はどこまでやるの?三十万も敵がいるから、全滅は厳しいわよ?」
「……………いや、結界が相当損壊しているからね………敵の撤退ないし全滅が確認されるまでは戦うよ。じゃないと、結界の修復がままならないからね」
「……………そっか。了解」
そう返事だけすると、千歳は腰にかけた拳銃を取り出した。名を『圧縮粒子砲』というその武器は、使用者が生成した粒子を吸収し、その名の通り圧縮し、発射する。科学技術に全幅の信頼を置く彼女らしい、最新鋭の高性能な武器だ。
「ねえ、正希。あと何分くらいぐらいで敵と対面しそうなの?」
「………………そうだね、このままいけば五分もかから無い思うけど…」
「そっか、了解。なら、チャージ満タンの一撃で、一万は落とせるわね!!!」
「…………味方を巻き込ま無いように気をつけてよ?」
「わかってるわよ!」と返したかった千歳であったが、以前に隣を飛ぶ正希を巻き込んだことを思い出し、代わりに「むぅっ」としかめっ面を返す。そんな彼女に苦笑し、少年は正面へと向きなおし、AR機能を搭載した無線に向けて声を発した。
「作戦開始!!!絶対に犠牲者を出すな!!!!」
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