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二十八話


「らあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


夥しい金時雨が炸裂する。しかし、彼の攻撃を受けたアンノーンは、全体の総数からすると雀の涙ぼどの数だ。


追撃を繰り出そうと粒子を練る。が、限界をとうに超えた彼が生成できた金の量は、ほんのなけなしの僅かなものだった。


さらに体は悲鳴を上げる。全身に痛みが走り、激しい動悸が起きていた。意識が朦朧とする中、正希は金を剣の形に変形させると、それを右手に持った。

遠距離攻撃が来ないと分かったアンノーンは、圧倒的個体数で正希の周りを囲み、襲いかかる。

言わずもがな、正希は死を予感していた。それでもなお、嫌な音を立てる体を酷使し、目の前の敵を次々に切り落としていく。


一体、また一体と切り落とす。視界の数字が『194002』から、僅かに『1』ずつ減少していく。

ひとつ、またひとつと数が減ると同時に、正希の体には傷が刻まれいった。


剣を振り上げ、眼前の個体に向かって斬撃を繰り出す。続いて後方からの攻撃を手首を回転させてガード、反転し、切り落とす。続いて右から攻めていた個体に向かって剣の矛先を向け、頭から一突きする。正面のアンノーンには袈裟切りを繰り出す。

 頭上から追撃してきたアンノーンへと素早く剣の矛先を向ける。


____________が。


アンノーンは正希の攻撃を予測していたのか、体を仰け反らせてヒラリと躱すと、正希本人ではなく正希の剣に向かって攻撃を繰り出した。


「………………………ッッ!!!」


____________最後の矛を失った瞬間であった。


正希の金剣が、衝撃で飛ばされてフワリと宙を舞った。

刹那、正希は本当に死を覚悟した。眼前では、ブロンズの生命体が手を鋭利な形に変え、正希の顔面めがけて攻撃を繰り出していた。


「……………………………………」


正希は目を閉じ、二度と光を映さないであろう視覚を絶った。


________しかし、正希が目を閉じて、零コンマ数秒後に耳にこだました音は、顔を抉る音でもなく、骨を砕く音でもなく、絶え間なく続く爆発音と鈍い金属音だった。


『ドギャガダバババババドォーーッッッ!!!!』


正希はハッと目を見開いた。


 目の前に居たはずなアンノーンは姿を消し、夕暮れの空が広がって______否、視界の下方には、粉々に破裂したアンノーンが落下していく様子が映っていた。


「…………………よかった………間に合った!!!」


そして彼の視界上方には、美しい金髪をなびかせて、拳銃を両手に息を切らす少女の姿が映っていた。


「………どうして西条さんがここにいるの!?」

「それはこっちのセリフよ!!!パトロールどころか九州奪………って!!!次から次に!!」


新手の敵に襲いかかろうとするアンノーンに、千歳は数秒チャージした炎の銃弾を二発ぶっ放した。さらに駄目押しと言わんばかりに、ほんの一瞬チャージした銃弾六発をブロンズの群れへと撃ち放った。

銃弾はアンノーンを貫くと、群れの中で爆発した。爆音が鳴り響き、爆風が群れを吹き飛ばす。


「今のうち!!逃げるわよ!!!」

「えっ!?ちょっ!!!」


アンノーンが怯んでいるのを一瞥すると、千歳は正希の腕を銃と共に掴み、エアシューズのギアを全開にして爆走した。


「ねぇ!!どうせ奴ら追って来るって!!!」

「うるさいわね!!いいから正希も飛んでよね!!!」


千歳に手を引かれ、一瞬ひるんだ正希であったが、すぐさま体制を立て直すと、再びギアを上げて、言われるがままに千歳の横を並走した。


時速二百キロで飛行した二人は、数分と経たないうちに正希の張った結界内へとたどり着いた。


「…………………はぁ。もぅ……ほんとに危なかった………」

 「ふぅ」と軽く息を整えると、千歳は銃弾をリロードし、腰にかけた。正希をじっと見つめると、何やらウエストバックをゴソゴソと漁り始めた。

「西条さん…………どうして?それに、何やってるの??」

「何って、応急処置に決まってるじゃない!!ほら、じっとして!」


そう言うと、千歳は消毒液、ガーゼ、絆創膏、そして包帯を取り出して、手際よく正希の応急処置処置を始めた。切り傷にガーゼに馴染ませた消毒液を当てていく。


「………………っ!!!」


傷口に、ジワリと消毒液が沁みる。傷口に塩ならぬ、傷口に消毒液といったところだ。思わず歯を食いしばった正希に、千歳は呆れ顔で言った。


「それだけ傷ついておきながら、今更消毒液くらいで何痛がってるのよ………」

「いや、やっぱり別種の痛みだし…………って!!こんなことしてる暇ないって!!アンノーンは………」


と、そう言いながらに、正希はその気配がないことに気づいた。自分の来た方向に視線を向ける。数百メートル後方、結界外にて、アンノーンの動きは止まっていた。


「追って………来ない?」

「はぁ………………」


今度ばかりは本当に呆れた様子で、千歳は大きく溜息をついた。消毒液をウエストバックにしまうと、「そんなことも分からないのか」と言った目線を正希に送る。


「ねぇ、正希。あなたって余りに強すぎるからか知らないけど、自分の力を過小評価している節があるわよね。一人と言えど、あなたが作った結界よ?下等レベルなら触るだけでダメージを食らう程度には強力なの。それに、私が来たわけだし、戦力的にも深追いはまずいって判断したのよ。多分、もう追ってこないわよ」


そう言いながらに、千歳は治療を続けていく。傷口に絆創膏を貼り、骨折部分を固定するように包帯を巻いていく。


「それはそうと……どうして西条さんがここにいるの?」

「…………だから、それは本当にこっちのセリフなのよ!!あなた、一体どうしてこんなところにいるの!!そっちから答えてよね!!」


ムッとした表情で、千歳は正希を睨みつける。何一つとして言い返すことのできない正希は、ただしおらしく俯いた。


「それは…………その……………」


言葉が出てこない。否、言葉にしてしまったならば、それは特化班第二席として共に戦う彼女を侮辱してしまうことになりかねない。


__________君たちに戦わせないためだよ。


喉まで上がって来たその思いを、どうにか飲み込み消化する。


しかも、結局はこうして仲間に助けられ、迷惑をかけるザマだ。自分がどうしようもなく不甲斐ない。正希は鮮血が滴るほどに、強く唇を噛んだ。


「ふん…………どーせ総理からのメッセージでも読んで、奪還作戦が実行される前に自分一人でやろうとしたんでしょう?これ以上犠牲者を出したくないとか、特化班に戦わせなくないとか、そう思って」

「っっ!!…………いや、違う」


図星だ。その証拠に、体がピクリと反応する。どうにかお茶を濁したい正希であったが、その先の言葉は出てこなかった。


「はぁ………何年あなたと一緒にいると思ってるの?そりゃ、渡さんよりかは短いけど、あなたが何を考えてるかくらいは分からなくもないのよ?」

「……………その………ごめん」

「取り敢えずはもういいから………ほら、超高等アンノーンでも来ちゃう前に帰るわよ」

「うん……………」


千歳は正希に巻いた包帯を綺麗に結ぶと、「これでよし」と頷くと、小さく微笑んだ。


「さ、帰りましょ?貴方には聞きたいことや言いたい方が山ほどあるけど、それは明日、あなたが始末書書いだりだとか、そんなのが終わった後にするわ。取り敢えずは、黙って言うこと聞いてね?」


「…………………うん」


正希に拒否権はない。二人はエアシューズを移動モードに切り替えると、

本土に向かって夕焼けの空を飛び立って行った。


✳︎

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