十九話
______________時を同じく。
香川県上空にて作戦遂行中の渡本子は、例のごとく襲いかかってくるアンノーン達を次々に撃ち落としていた。
「……………………四国奪還も時間の問題ね。…………それにしても、順調すぎてちょっと不安になっちゃうわね」
次々にアンノーンの死体の山を築いていく。彼女の視界に映るアンノーンの討伐数を表す数字がみるみるうちに増加していく。現時点で、彼女の討伐数は『12.5万』。実に、四国に駐在していると思われるアンノーン総数の四分の一に当たる。
今回の作戦は特化班の一二席を除く全体が最初から全面に出動している。その状況下での彼女の功績は特出したものだった。
あまりにも、順調すぎる。死者も出ておらず、既に四国の九割方は占領済みだ。完璧なる作戦成功にも思えるこの状況が、本子はかえって不安だった。どれだけ敵を薙ぎ倒そうが、ただただ不安は募るばかりだ。
「うーん…………ハルカちゃんも鍋城君も橋代路君も、徳島で交戦中なのね…………わたしも向かおうかしらね………」
視界に映る残党が生き絶えたのを確認し、本子はアグリメントを使用して、三人の位置とその戦闘状況を確認する。ハルカは一人で、橋代路と鍋代は二人掛かりで各々残党狩りをしているようで、その殲滅には多少の時間を要するようだ。
状況を即座に介した本子は、視界に映るボタンをタップし、無線を本部へとつないだ。
「………………本部、渡です。こちらアンノーンの殲滅は完了しました。つきまして、益城三席の増援に向かいたいのですが、よろしいですか?」
答えるのは、首相の声だ。
『ああ。是非そうして…………………ん?何っ!?どういうことだ!!!何故い______』
____________プツリ。無線が切れる音がした。
「……………ちょっ、何!?ちょっと!?本部!!どうしました!?何か異常でも!?」
『……………………………………』
無線に反応はない。恐らく何かトラブルが発生したのだろう。そう判断した本子は、再び本部への回線ボタンをタップする。しかしなお、反応はない。
「ちょっと、どういう…………」
一瞬、頭が混乱する。増幅した不安が、今にも溢れそうだった。しかし、数多の死線をくぐり抜けてきた彼女は、数秒後には冷静さを取り戻し、思考を開始する。
(______________この状況で、私が次にすべきことは…………。)
そう考えながらに、彼女の体は無意識のうちに動いていた。
状況から察するに、本部との連絡ツールの何かに異常が発生したに違いない。ならば現状、情報を共有でき、かつ本部にいる六席の誰かにメッセージを送り、状況を確認するしかあるまい。
そう結論に達した彼女は、すぐさまメッセージ欄をフリックして、『綾本正希』のボタンをタップする。視界上のキーボードで、本部にいるはずの正希へのメッセージを打ち込もうとしたその刹那、脳を刺激するようなアラーム音が、彼女の聴覚を襲った。
『緊急事態発生、緊急事態発生。現在戦闘中の者は、直ちに結界の安全圏へと避難してください。繰り返します。緊急事態発生、緊急事態発生……』
「ちょっ!?何これ!!どういうこと!?」
慌てて詳細をタップする。しかし、メッセージを確認しようとしたその矢先、それを塗り替えるように新たなメッセージが視界に映し出された。
『高等がアンノーン二体、超高等アンノーンが二体高速で接近中。全隊員、直ちに本土の絶対安全圏にまで撤退してください』
「はぁ!?どうゆうこと!?何が起こってるの!??」
僅かに取り戻した冷静さが、再び消失した。刹那、そんな少女の背中を、絶望にも似た悪寒が走った。
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