十六話
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__________約一時間半後、支払いを済ませた二人は、喫茶店を後にして、浅草の街中を歩いていた。二人の間の距離は肩が触れ合うほどに近く、それは再び縮まった二人の心の距離を現しているかのようだった。
「ふふ♪正くんに奢られちゃったな〜。ごめんね♪いっぱい食べちゃって」
「ホントだよ……高いのばっかり選んでさ……」
二人の食事代は計六千二百円であった。内、本子が食べたのは五千円弱だ。アイスコーヒーと、やけに高いランチとパフェ、そしてエスプレッソを一杯頼んだ彼女は、伝票を正希に見せ、「お願い!」とばかりにはにかんでみせた。彼女の目論見通り、お代を正希が持ったからか、喫茶店を出てからというもの、本子はかなり上機嫌であった。
「まあ、いいじゃない。私は好きな男の子に奢られて、すっごく嬉しいわよ?」
「また、そんことを言って………」
呆れたようにため息を吐く正希であるが、顔を少し紅潮させていた。そんな正希に、本子は覗き込むように顔をグッと近づけると、
「もう、本当に鈍感!………それと、これは私の気持ちと、お礼の気持ち……」
そう言って、ほんの少し背伸びをして、自分の桜色の唇を、正希の唇へと重ねた。
「……………………っっっ!!!!!」
数秒間、その状態を保った後、本子はにっこりと微笑んだ。
「ファーストキスは、お姉ちゃんがもらっちゃったからっ!」
少し照れ気味に放った言葉は、正希の顔を極限にまで紅く染めたのであった。
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