第一話
『特別化学適応戦闘班』、通称『特化班』。
内閣府特別防衛庁に存在するその組織は、人類の最大の脅威であり、便宜上『アンノーン』と名付けられた地球外生命体から日本を守ることを主な活動目的とする。
彼らは、フォッサマグナを境界に東に位置する、日本国の国民からの、「かつての領土と繁栄を取り戻す」という期待を一身に背負って戦っている。
____________何故、彼ら『特化班』は生み出され、戦わざるを得ないのか。ことは今から十七年前へと遡る。
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__________西暦二千三十年九月十五日。米宇宙開発局、NASAは、全世界のジャーナリストや記者をホワイトハウスへと集め、緊急会見を行った。
開口一番、NASAの長官が発した言葉は、その後の世界に大きな変革をもたらすトリガーとなった。
『地球の僅か一光年先で、宇宙は完結していた』
その瞬間、会見場に、否、世界中にどよめきが走った。
「銀河は存在しないということですか!?」
「今までの定説は、何故覆されたのですか!?」
次々と、記者たちがこぞって質問を繰り返す。しかし、NASAの長官は、それらに見向きもせずに、さも当然のことのように理路整然と続けた。
『地球を中心とした半径一光年上の円周上に、核爆弾でも恐らくは壊せない謎の壁が存在した』
世界にさらなるどよめきが走る。あらゆる国の新聞記者が、号外作成のためにキーボードを打ち始めた。世界中の人々が、各地に同時中継された映像を、絶大なる衝撃とともに見守っている。それでもなお、長官は表情一つ崩さずに開口する。
『壁の外部に、生命体が確認された。中でも含有エネルギー量が著しい存在が七体。その他諸生命体が、確認されただけでも数億体』
______全人類が言葉を失う。無論、会見場の記者たちとて例外ではない。静寂。圧倒的静寂が、世界を包み込む。世界から音が消えること数十秒。会見の司会者の言葉により、間も無くその静寂は姿を消す。
「何か、質問のある方は挙手をお願いします」
その後、数十分と続いた質問時間は、NASA側の判断により強制的に打ち切られた。様々な質問が飛び交う中、「何故その事実を隠していたのか」という質問のみには、NASAからの具体的な返答がなかった。人々が首を傾げ、あらゆる組織がNASAの、ひいては米国の陰謀論を引き下げ、米大統領にさらなる情報の開示を迫った。
____________丁度一年後、その理由は、北米と欧州を除く全世界の領土と引き換えに明らかになることとなる。
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____________二千三十一年九月十五日。地球上を、謎の人型の宇宙外生命体が埋め尽くした。謎の宇宙外生命体____アンノーンは、次々に大国の領土を征服していくことになる。南半休は、僅か一日で完全制圧。このまま北進すると思われたアンノーンであったが、彼らの奇妙な行動が、世界にさらなる衝撃を与えることになる。
____________彼らは何故か欧州と北米を避け、西アジアから大陸への侵攻を繰り広げたのだ。米国や欧州と共に徹底抗戦に出ようとしていた諸国であったが、その計画は米国と欧州の残酷なる裏切りにより、叶わぬものとなってしまった。
アンノーンの侵攻から二日後、米国と欧州連合の両大統領は世界に向けて、ある宣言を行った。
『米国及び欧州両者は、他の方々との国交を断絶する』
刹那、世界の指導者たちは悟ることになる。NASAが何故、宇宙は今もなお膨張しているという虚構の事実を世界の理とし、アンノーンは欧州と北米を避けて侵攻を繰り広げ来たのかを。
両大統領の宣言からわずか数分後、当時の日本政府防衛大臣であった秋ノ丘誠二郎は、緊急記者会見を総理官邸にて執り行った。
『我々日本国政府は、既にアンノーンと和平条約を結び、友好国の防衛義務を放棄したアメリカと欧州連合に強く抗議し、かつ、臨時予算を編成し、自国防衛力を最大限にまで高めることを宣言する。さらに、内閣府直属の組織として、特別防衛庁を設立する』
____________この緊急記者会見から約十六年。
日本国はフォッサマグナから西の領土を失いながらも、世界で唯一のアンノーンへの抗戦国として、辛くも存立し続ける事となるのである。
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