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二人の朝。―望乃夏

朝日が登るよりも前に、私は目を覚ます。………………と、言うか…………昨日からあんまり寝れてない…………。

………………うう、いつでもどこでも寝られるのが自慢だったのに………………雪乃とのデートのことで頭がいっぱい…………。

もそもぞと布団の中で動くと、隣で寝る雪乃が小さく唸って寝返りを打つ。………………あれ、起こしちゃったかな?

そっと雪乃の顔を覗くと、すやすやと寝息を立てたまま。………………もう、相変わらず雪乃はかわいいんだから。

ふと枕元の時計を見ると、今はまだ5時半ぐらい。………………ほえー、こんな時間に起きたの生まれて初めて…………。

その時、私のお腹がくぅ、と鳴く。……………………何か食べるものあったっけ…………?

布団から這い出すと、寒さが私を襲う。慌てて布団に戻って雪乃で暖まる。………………うー、寒い…………。かと言って雪乃から布団を剥ぎ取るわけにも行かないし…………。

少し悩んだ末、雪乃のベッドから掛け布団を持ってきて包まることにする。………………えーと、エアコンのリモコンはっと………………あった。

エアコンを入れた後、私は電気ポットのスイッチを入れる。こう寒くっちゃやってらんないよ………………。そんな愚痴を言いながら、昨日のうちに用意しておいた服をクローゼットから出す。………………先週買ってきた黒ゴスモドキ。せっかくのデートだし、雪乃の選んでくれたやつだから………………こういう時に着ないとね。

パジャマを脱ぐと、感じる寒さが更に増した気がする。………………エアコン全然効いて来ないなぁ。

私は、雪乃の方をチラッと眺める。………………よ、よし、起きてないね? それを確認したあと、思い切って下着も脱ぐ。………………い、いや、そこまで着替える必要はないってのは分かってるんだけど…………そ、その、…………デートだから………………。

そんな言い訳をしながら、これもお気に入りの下着に穿きかえる。………………よし、お肌は大丈夫。髪だって昨日しっかり洗ったしバッチリ。一応チェックしてから、ワイシャツに袖を通す。ちょっともたつきながら全部着ると、ちょうど電気ポットのスイッチが跳ね上がる。

私のティーカップを取り出して、ティーバッグと共にお湯を注ぎ入れる。………………今日は私のアールグレイじゃなくて、雪乃のレモンティー。薄暗い部屋で、カップの中だけに色がある。

そっと口をつけて、すぐに離す。…………アチチ、沸かしたては流石に熱すぎたかぁ。カップを持ったまま手のひらを温めて、次は何しようかなぁ…………と考える。コンビニはまだ開いてないし、かと言ってすやすや寝てる雪乃をたたき起こして話し相手にするなんて無粋な真似は、したくない。キョロキョロと部屋の中を見渡すと、私はドレッサーで目が止まる。……………………そういえば、こないだは恥ずかしかったなぁ。雪乃にツインテールにされて。………………でも、雪乃とお揃いなのはドキドキした。………………髪型、か。

私はドレッサーの前に座って、長い髪を三等分する。………………えっと、確かここをこうやって、んでこっちをこうして………………あーん、どうやるんだっけ?

そんなこんなで苦戦してると、枕元の目覚ましがけたたましく鳴る。それと同時に、雪乃もむくり、と起き上がる。

「………………おはよ。」

「お、おはよ……………」

雪乃はとろーんとした目でこっちを見ている。…………ゆ、ゆきのー?

「……………………おはよう。もう着替えたのね。」

「う、うん。」

目が据わってきた雪乃を前に、私は毛束との戦いに戻る。

「…………ところで望乃夏は何がしたいのかしら?髪の毛をいじめる趣味でもあるの?」

雪乃が不思議そうな目で眺めてくる。

「み、三つ編みしようと思ったんだけど………………5年ぐらい自分でやってなかったから、やり方忘れちゃって。」

「…………貸してみなさい。」

と、雪乃はテキパキと私の髪を編んでいく。す、すごい………………。

「ほら、出来たわよ。」

「ありがと、雪乃。」

「別にいいわ……………………望乃夏がかわいくなるんならこんなこといくらでも………………」

「へ?」

「な、何でもないわっ………………それじゃあ私、朝ごはん買ってくるから。」

と、雪乃はパジャマの上からコートを羽織って慌てて出ていく。………………変な雪乃。

冷めかけたレモンティーを飲み干しながら、雪乃の帰りを待つことにした。


「………………はい、買ってきたわよ。」

「ありがと雪乃。…………じゃあボクはコーンスープ作ってくるから、その間に着替えてて。」

「わかったわ。」

そう言って給湯室に引っ込むと、コーンスープの素を探す。………………あれ、もう切れちゃってたか。給湯室から首だけ出して雪乃に聞く。

「雪乃ー、コーンスープもう無かった。だからアールグレイとレモンティーどっちにする?」

「わっ、まだ見ないでっ!?」

ん?とそっちを見て…………慌てて首を引っ込める。

………………ゆ、雪乃ってうっすら筋肉があって引き締まった感じだけど、その上にはちゃんと女の子らしい膨らみがあるから不思議なんだよね…………。

「………………あのー、雪乃?」

「れ、レモンティー、お願い…………。」

「う、うん……………………。」

………………お風呂でなら見慣れてるのに、なんでお部屋だとこんなに緊張するんだろ………………。


「………………はい、レモンティー。」

「あ、ありがと………………。」

どことなく気まずい空気の中、私達は雪乃の買ってきたおにぎりにかじりつく。………………あ、これツナマヨだ。

先に口を開いたのは雪乃だった。

「…………その…………望乃夏は、どこに行きたい?」

「ええっ、決まってなかったの?」

「お、大まかには決まってるけど………………望乃夏がこんなに早く起きるとは思わなかったから、時間が余ったのよ………………。」

「…………悪かったね、ねぼすけで。」

むすっとしながら言うけど、内心では雪乃とのデート時間が増えたことを喜んでる。

「………………それで、どうする?ケーキも買う?」

「………………そうね、2個だけ買って、帰って来たら2人でお祝いしましょっか。」

あれだけ「誕生日は嫌い」とか言ってたのに、どことなく楽しそうな様子の雪乃。………………そろそろ、ころあいかな?

「…………雪乃。遅れちゃったけど…………はい、誕生日おめでとう。」

と、小さな袋を手渡す。

「………………なぁに、これ。」

「………………開けてみて。」

雪乃が小袋を開けると、中から出てきたのは小さなぬいぐるみ。

「………………雪乃が部長になったって安栗さんから聞いて、雪乃が部活と打ち上げでいない間に作ったんだ。………………こんなことならもっと真面目に家庭科の授業聞いとけばよかった。」

小さくデフォルメした人形にユニフォームを着せて、背中に「ユキノ」って縫うのが精一杯だった。………………雪乃が帰ってくる前に全部剥がしたけど、全部の指に絆創膏を貼るハメになったし。

「………………ののか…………。」

雪乃はぎゅっと、マスコットを胸に抱く。

「………………ありがと。最高のプレゼントよ。」

「気に入ってくれてなにより。」

………………これで、針を刺しまくった指と折っちゃった針達も報われるね。

「…………さ、早く食べて行きましょ?」

「うんっ。」

その声は、2人とも弾んでいた。

┌(┌'ω')┐<次回、デート回

┌(┌'ω')┐<そして100話

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