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メールと電話。―雪乃

それから2日が経って、いよいよ私の誕生日。

「よーし、雪乃の誕生日、あーんど、新部長誕生にっ、乾杯っ!!」

「「「うぉー!!」」」

あちこちで乾杯が上がる。………………はぁ、だから誕生日は嫌いなのよ。私のことでこんなにバカ騒ぎして、「おめでとう」の雨を浴びて、………………まぁ、甘いケーキを食べられるからほんとに嫌いって訳じゃないけど。

ちょうど焼きあがった肉を鉄板からかすめ取ってタレに漬け込む。…………そういえば、このタレは辛くないのかしら?

小指の端に付けて舐めてみる。………………私はむせた。

「だ、大丈夫雪乃っ!?」

「へ、平気よ…………このタレ辛すぎない?」

「そう?けっこう美味しいけどなぁ………………?」

と、隣に座る文化は自分の器にタレを足す。

「………………あんた何枚食べてるのよ。………………って、私が並べたのまで食べてるじゃない!?」

「ふふーん、こういうのは早い者勝ちだよ?」

ニヤニヤと笑う文化にカチンとくる。

「………………そう、早い者勝ち、ね?」

そう言った途端、私は鉄板の上のお肉を片っ端から箸で掴んで口に運んでいく。

「ちょっ、まだ生焼けのまで!?」

驚くみんなを尻目に、口の中の肉を飲み込む。

「………………早い者勝ちなんでしょ?さぁ、次のお肉焼きましょ。」

心なしかみんなが引きつった顔で見てるけど、私は気にせず鉄板に肉を並べていく。

(こ、怖ぇ………………)

(白峰って食べ物のことになるとマジになるよな…………)

(頬張る雪乃かわいい)

………………みんな、考えてることがダダ漏れよ?

「ゆ、雪乃………………確かあっちに甘口ダレあったと思ったぞ?使うか?」

やっぱり引きつった顔の文化が提案してくる。

「…………そうね、それも欲しいけどまずご飯が欲しいわ。」

私の目は、カウンターの奥にある炊飯器に向けられたまま。

「わ、わかった…………オーダーしとく。………………えと、人数的に2つあれば足りると思うけど…………どうせ雪乃が一つ抱え込むんだろ?」

文化がため息混じりに言う。

「失礼ね、流石に私でも炊飯器一つ占領するような真似はしないわ。」

………………これがお櫃だったら即座に「頼んだわよ」って答えたけど。

「…………まぁ、来るまでに時間もかかりそうだしちょっとその辺ぶらついて来るわ。」

そう言い残して、バレー部の輪を離れる。……………………えっと、一人になれるところは……………あった。

柱の陰に隠れて、携帯を開く。未読メッセージがあるのを確かめて、開く。

(………………今年も、送ってくれたのね。)

去年とほとんど変わらないメッセージだけど、見るだけで心が暖かくなるメール。私が星花に入学してから毎年、12/6に送られてくるメール。

(………………ありがと、パパ。)

携帯を、そっと胸に抱く。すると突然、携帯が震える。驚いて落っことしそうになるのを慌てて堪えて、画面を見てすぐに通話ボタンを押す。

「も、もしもし望乃夏っ!?」

「も、もしもし………………雪乃、声大きい…………。」

「あっ、ご、ごめんなさい………………」

私が謝ると、電話口で望乃夏がフフッと笑うのが聞こえてくる。

「そ、それで用件は!?」

「……………………いや、実は今夜のうちに言っときたくてさ。………………雪乃、お誕生日おめでとう。」

望乃夏の声にキュンとする。………………ダメっ、あのメールの後に望乃夏からそんなこと言われたら………………

「………………ゆ、雪乃…………泣いてるの?」

電話口からは、慌てたような望乃夏の声。

「…………ち、違うの…………うれしいの。………………望乃夏に、そう言ってもらえて。」

震えそうな声をなんとか押さえつけて、望乃夏に答える。

「…………そう。なら、早く帰ってきてね。………………今度は電話越しじゃなく、きちんと顔を見ておめでとうって言いたいから。」

「………………わかった。終わったら全速力で帰るわ。」

弾む心を押さえながら、電話を切ってバレー部の輪の中に戻る。

「お、雪乃ー。遅いぞ、どこ行ってたんだよー。肉全部食っちゃうぞー?」

「ごめんなさい、遅くなったわね。…………………さぁ、どんどん焼くわっ!!」

焼きあがってた肉をタレへと投げ込んで、ごはんと合わせて食べる。

「文化、おかわり。」

「……………………やっぱり雪乃には炊飯器一個宛てがっとくべきだった…………。」

と、カラになった炊飯器を眺めながら文化が嘆いてたけど、そんなのは私の目に入らなかった。

さ、早く望乃夏の所に帰らないとっ♪


解散のあと、私は全速力で桜花寮へと舞い戻る。………………乱れまくった髪や息を整えて、思い切ってドアをノックする。

「はーい、どうぞ。」

待ち望んだその声に心が弾む。ノブを回すのすらもどかしく、部屋に飛び込んで中の人に抱きつく。

「ただいまっ、望乃夏っ。」

「………………もう、はしゃぎすぎ。………………おかえり、雪乃。」

わしゃわしゃと髪をなでつけられる。

「………………そして、お誕生日おめでとう、雪乃。」

「………………ありがと、望乃夏。」

そっと近寄ってくる望乃夏の顔。迷わず受け入れようと私も顔を上げて…………途中で止める。

「………………?」

不思議そうに眺める望乃夏を前に、私は洗面台に走る。……………………私のバカっ、なんで帰る前に歯を磨かなかったのっ………………

丁寧に磨いて望乃夏のところに戻る。

「………………おまたせ。ふ、雰囲気もへったくれもないけど………………や、やり直し、お願い………………」

「…………う、うん…………。」

段々と近づいてくる望乃夏の顔に、私もそっと顔を近づける。望乃夏の味が、私の唇に広がる。そのままずっと抱き合って、私の方から口を離す。

「…………誕生日プレゼント、ありがと。」

「…………何回もやってるからそんなに特別な感じしないけどね…………。それにしても、今日の雪乃は唐辛子とリンゴの味がする…………。」

「え゛っ!?」

慌てて口を覆う。………………そんな、磨き足りなかった!?

「………………ん、でも…………おいしい。」

ペロっと舌を出す望乃夏を前にして、私はみるみる赤くなる。

「………………今日はどっちで寝る?」

「………………望乃夏の方に、する…………。」

焼肉に行く前に着替えた私服を脱ぎ捨ててパジャマになる。そして、望乃夏が手招きするベッドへと潜り込んだ。

今夜の夢は、きっと楽しくなりそうね。

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