ふかふかと。―望乃夏
理科室の鍵を締めると、私は軽い足取りで校舎を後にする。………………むっふふ、土曜日が待ち遠しい。
(………………そうだ、雪乃を迎えに行こうっと。)
うきうきした気分のまま体育館へと歩みを進めると、時折他とは違う重い音が聞こえてくる。………………それが何なのかなんて、聞かなくても想像がつく。
………………雪乃、バレー部に復帰できたみたいね。よかった………………。
体育館の入口の近くで、練習をそっと見守る。…………あっ、外した。
「………………そこで何やってんの?」
後ろからいきなり声をかけられる。
「あ、す、すいません………………」
「…………ん?確かキミは、一昨日の…………」
あれ、と首を傾げるその人は、雪乃と同じようなユニフォームを着てて………………そういえば一昨日見た気がする。
「あぁ思い出した。白峰の飼い主君だな。」
「か、飼い主………………」
「いやいや、あんな狂犬…………は言いすぎか。ともかく白峰にあんな顔させるやつが居るとは思わなかったぞ。………………ああ、そうそう。今日の練習は6時半頃には終わるから、良かったらそれまで見てくか?」
「いや、練習の邪魔になりそうなんでいいです。」
「………………そう、か………………。」
どこか残念そうな顔をする。
「………………雪乃の気を散らすわけにもいかないですし。」
「そうか………………。ところでキミ、バレーに興味はないかい?身長もあるし………………」
「い、いえ、遠慮しときますっ」
慌ててその場から立ち去る。………………や、やってもいいけど、雪乃に無様な姿は見られたくないし………………そもそも、朝の6時なんて人間の起きる時間じゃないし…………。
と、みんなから怒られそうなことを考えながら私は寮の部屋へと戻る。
(………………ふぃー、さっむ…………)
部屋に入った途端、寒さが私を襲う。慌てずにエアコンを入れると、コートを脱いで雪乃の布団に潜り込む……………………いや、自分の布団でもいいんだけど、雪乃の使ってる枕の方がふかふかしてて寝心地がいいから。………………それに、顔を埋めるとほんのりと雪乃の匂いがして……、なぜか身体がぽかぽかするから………………
「………………うー………………制服…………靴下………………いいや、もう。」
少しぬるくなってきた室温を感じながら、私は意識を手放した。
「………………の、か、………………ののか、起きなさい…………」
んっ………………もう、あさ…………?
重たいまぶたを開けると、まず雪乃の顔が目に飛び込んでくる。
「………………あ、雪乃…………おはよ…………」
「おはようって………………今何時だと思ってるのよ。しかも制服着たまま私の布団に包まって………………。」
雪乃が呆れ顔で私を眺める。………………あ、そうだ。帰ってきて寒かったから雪乃の布団にくるまってたんだっけ………………。
「…………あー、ごめん。部屋が暖かくなるまで借りてた。」
「…………自分の布団行きなさいよ…………。」
「…………だって、このおふとんの方がいい匂いするんだもん…………」
「なっ!?」
雪乃が一瞬で赤くなる。
「の、ののかの、へ、ヘンタイ!!」
「ひどいなぁ………………」
もはや恒例行事なそんなやり取りをしつつ、私は話を切り出す。
「………………で、どようびのことだけど。」
雪乃がピクリと反応する。
「………………そ、その事なんだけど…………土曜日は、一日中練習で、その後打ち上げになっちゃったの………………」
「………………へ?」
私の身体に衝撃が走る。
「………………私の部長就任兼誕生祝い、そして安栗副部長就任祝いの打ち上げだそうよ。」
………………へぇ、安栗さんが副部長、ねぇ…………
「…………何を考えてるのかは想像がつくけど、敢えて聞かないでおくわ。」
雪乃がため息をつく。
「…………それで、その代わりと言ってはなんだけど………………日曜日がオフになったの。…………それで埋め合わせは、ダメ?」
「ボ、ボクは全然構わないよ。」
慌てて肯定する。
「………………ごめんなさいね。」
「い、いやいや、全然構わないから、うん。」
そう言って取り繕うけど、私の心の中は複雑な心境で。
(………………雪乃との誕生日デート、楽しみだったのに………………)
雪乃に着替えやお風呂を促されても、私は素直に従えなかった。